天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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 茶野隊はやられ役ってそれ一


第十四話 防衛任務

 加古望は、初めてゼットンに関する情報、マニュアルを貰ってから、ずっと彼女のことを気にかけていた。

 かつての同輩である三輪を一方的に痛ぶったというのだから、興味が湧かない訳がないのである(敵討ちという発想は持っていない)。

 ただそれだけの理由であった。

 

____ズズン……!

 

 眼がほじくられた様に無くなったトリオン兵(バムスター)の綺麗な骸が、瓦礫に麗しく腰掛ける加古の前に投げ込まれ、重い振動を発生させる。

 その先に居たのは、虚となり砕けた眼を片手に持つ、胸部と一房の前髪をオレンジ色に発光させる、黒い怪物。

 

 “ピポポポポポ……ピポポポポポ……”

 

 鉛色の空の切間から漏れ出る陽光に照らされる寒い廃墟群に、背筋に冷や汗が滲み出るような電子音が響き渡る。

 

 「伊達じゃないのねぇ、トリオン兵じゃ相手になってない」

 

 その時、彼女の脳内に直接語りかける声が。

 

 『この地区のトリオン兵の反応は消失しました。ただ、東部方面が少し手こずっているようです』

 

 そう言い、トリオン兵の死骸に背を預けたのは、幼さ残る表情の中に鋭利な視線を湛える、ブロンド調の髪を二つ結びにした少女。

 

 「そう、報告ありがとう双葉。私とゼットンで直掩に回るわ、真衣と一緒にここはお願い」

 『了解』

 

 加古が見る先に居るのは、金色の瞳でじっとこちらを見つめていた異形――ゼットン。

 少女――黒江双葉(くろえ ふたば)の朱色の瞳は、まるで霞の中にあるものを見るようであった。

 

 「……近界民(ネイバー)、どうですか」

 『そうねー、今のところは上からもらった情報から逸脱した行動は取らないわね。当たり屋まがいの方法で制約をすり抜けて、効率よくやってる』

 

 瓦礫の上に立ち上がり、5メートルは離れていようかという地面に飛び降り、容易く着地した加古は、乱れた髪を流麗な動作で整え、

 

 「瀬戸ちゃーん!次は警戒区域東部に向かうわよー!!」

 

 と、口元に手を当てた加古の口からこだました命令が伝わったのか、ブンブンと手を振りかえしたゼットンは、瞬きの合間に姿を消した。

 

 「……通信機能が使えないってのが不愉快ねぇ」

 

 ゼットンを見失ったというのに、加古の表情に焦りの色はなかった。何故ならば、ゼットンの持つトリガーの反応が、脳内に広がる警戒区域全域の地図に反映されているからである。

 

 『律儀な子よ。あの子から約束を反故にしてくることはないんじゃないかしら』

 「……」

 

 ゼットンが既に東部方面の一角に降り立っていることは、当然黒江にも伝わっているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くっ……!」

 

 緑のダブルジャケットの隊服を身につけ、左目にかかるようにしている茶髪に、自作の缶バッジをつけたニット帽を被った男――茶野真(ちゃの まこと)は、廃墟の崩れかかった壁を背にして、自らの窮地に歯噛みしていた。

 彼を取り囲むようにしているのは、紫色の体躯からブレードを出したモールモッド三体。

 拳銃型トリガーをちらつかせるも、知性のかけらもないトリオン兵にはまるで意味はなし。

 

 (藤沢では距離が遠すぎる……!どう乗り切るこの局面……!!)

 

 その時、

 

 『こちら加古、今そちらの応援に向かってるわ。既に一人到着しているはずよ』

 

 あっけに取られた茶野の頭へ、モールモッドの凶刃が振り下ろされ____

 

____キイィイイン!!!

 

 耳鳴りのごとく甲高い、聞いたことのない音が、思わず目を伏せていた茶野に届いた。

 

 「どう……なった……?」

 

 ゆっくりと目を開いた茶野の目の前のモールモッドが、いきなり真っ二つに爆ぜた。

 

 「はっ……!?」

 

 続け様に、狼狽えたモールモッドの横腹に、黒い槍のような脚が穿たれ、三つ目の光が瞬時に停止。

 

 『ギギギ!!』

 

 あっという間に最後の一匹と化したモールモッドは、汚らしい雄叫びをあげ、2本の角を携えた少女へ特攻。

 そして、それが見た最後の光景は、たった一人の少女の指先であった。

 

____ザシュッ。

 

 翠色の濁流が、少女――ゼットンの細い腕が引き抜かれ、瞳に空いた穴からとめどなく溢れ出し、自動車ほどの大きさの体躯は、脱力して大地を揺るがし地に臥した。

 茶野は、完全に腰がひけてしまっていることに気づいていなかった。

 

 「……っ!」

 

 茶野は、思わず拳銃型トリガーを構え、目の前の黒い、腰まで伸ばした艶やかな髪を靡かせる頭へ向けた。

 直立不動であったゼットンの瞳が、ピクリと動き、茶野に向いた。

 

 「わっ!?」

 

 思わず、引き金を引いてしまっていた。

 その瞬間、破裂音の後に淡い弾が軌道を描いて、正確にゼットンの頭部目掛け直進。

 

 「……」

 

____ガキィンッ!

 

 動く必要もなかった。無謀に挑んだ弾は、ゼットンの眼前数センチで、長方形のガラスが折り重なったようなシールドが受け止め、粉々に破砕したのである。

 前髪一本すらそよぐことはなかったのである。

 

 “ピポポポポポ……ピポポポポポ……”

 

 見下ろして来ていた金の瞳が、一歩前進する。

 

 「な、なんなんだお前……?近界民(ネイバー)じゃないのか……?」

 「……?連絡は行き届いていると思いますが。私は援護のためにきました」

 

 焦燥に駆られていたのが、首を傾げたゼットンの言葉を聞いた瞬間、疑念の表情へ変化する。

 

 『十倉、どうだ……?』

 『データバンクには該当なし、今時防衛任務の人員にも、彼女の情報は無いです……』

 

 オペレーターの声色にも、煮え切らない感覚が乗せられていた。

 

 『ただ……“噂”に聞いてる姿とは酷似しているように思えます』

 『噂……あぁ、警戒区域外で老人を助けたというあれか……?』

 

 刹那、ゼットンの顔がピクリと上向いた。

 

____ズンッ!!

 

 身震いしたかのように地が揺れる。

 それは、油断しきっていた茶野のバランスを崩すに易かった。

 

 「おっとと……!」

 

 そうして身体のバランスを崩して、ゼットンの方へよろけかかったのが、彼の幸運であった。

 その瞬間、

 

 『……!!!』

 

 茶野の後ろの壁が吹き飛び、鉄筋コンクリートの破片が二人に降り注いだ。

 埃の中から悠然と現れたのは、純白の装甲で全身を包んだトリオン兵。

 

 「バムスター……!」

 

 焦った手つきで銃型トリガーを引き抜いた茶野は、堅い動きで構え、唸りを上げながら重厚な足取りで迫るバムスターの一つ目を照準に合わせる。

 そして____

 

____ヒュガッッ!!!

 

 雨のような閃光の連続が、バムスターの装甲を貫徹し、一瞬にしてその機能を停止させた。

 彼の指は、引き金に添えられていただけであった。

 

 「えっ」

 

 再度あっけに取られている合間に、

 

 「あっ……ごめんなさいね、点取っちゃって」

 

 軽薄なようで、胸の奥を優しく包むような声であった。

 振り向いた茶野の視線の先に居たのは、この防衛任務における最強の隊員。

 明るい紫色基調の、ボーダーの基本的な隊服を一体服としてアレンジした独自の隊服を身につけた麗しき女性、加古望である。

 

 「あっ……いえ、援護ありがとうございます!」

 

 加古の目は、興味を失ったかのように茶野から離れ、無造作に打ち捨てられた三体の物言わぬモールモッド、そして、黙って立つだけのゼットンへ向けられた。

 

 「お手柄じゃない瀬戸ちゃん、お疲れ様」

 「……?」

 

 その仲睦まじげな雰囲気が、彼の不完全燃焼を再燃させたのである。

 

 「そ、そうだっ!彼女は一体何者なんです……?一瞬でモールモッドを倒してくれたんですが……」

 

 胸に手を当て心ここに在らずといった様子のゼットンを指差し、訝しげな表情でそう言った茶野を見ずに、加古はゼットンのそばへ赴きながら、

 

 「現在開発中の新型トリガーを使ってるのよ、この子は。まだ実用評価中で正式な登録が済んでいないから、レーダーとか諸々に映らないのよねー」

 

 ゼットンの頭部の角を鷲掴みにした加古があっさりと口走った言葉に、茶野はサッと顔を青くした。

 つまり、自身は味方を撃ったということになるのである。

 流れるように、彼は腰を90度に折り曲げ、風を切って頭を下げた。

 そして、加古の両手首をやんわりと握り、ささやかな抵抗を試みていたゼットンへ、

 

 「さ、先程は撃ってしまい申し訳ない……!!!助けてくれてありがとう……!!!」

 

 眼前でなった音に、加古は気づかなかった。

 

 「すぐそこまで藤沢くんが来てるわ、合流して、比較的手薄で他の隊もいる南東地区のトリオン兵の処理をお願い。ここはこの子と二人で済ますわ」

 「了解!」

 

 加古の鶴の一声を聞いた途端に、茶野は緊張した面持ちで言い、少し耳に手を当て、通信のやりとりをした後、小さく一礼してその場を走り去っていく。

 それに目もくれずに、しかし、十分に距離が離れたことを確認した加古は、

 

 (……心配になるくらい信じきったわね)

 

 荒唐無稽なぐらいが信じやすい嘘になるものなのか、と、少し口を引き攣らせて言外に思った彼女は、ふと、視線を下のゼットンへ落とした。

 

 「……」

 

 ゼットンは、先ほどからオレンジの豊満な胸元を手で押さえたままなのである。

 覗き込んでみれば、少し眉を顰めて、まるで戸惑っているかのようなのであった。

 

 「あらあら瀬戸ちゃん、どうしたの?」

 「……」

 

 『ありがとう』

 それが感謝を示す言葉だということを、ゼットンは理解していた。

 しかし、その言葉を受けたのは、実を言えば、肉屋の店主を助けた時、そして、今この瞬間だけだったのである。

 その点、彼女はやはり、その瞳のように純粋極まりなかったのである。

 

 「感謝を受けると、胸が熱くなります。これが嬉しいということですか?」

 (何ぃ?)

 

 上目遣いで向けられたのは、あまりにも眩い幼さの光であった。

 

 「そうね〜、人のために何かをして、それが返ってくる。それほど嬉しいことってないかもね」

 「……与えたら返ってくる。それがこんなに“嬉しい”とは。実感して初めてわかりました。もっと、もっと欲しいです。この感覚」

 

 手を握り、開き、握り締めるを繰り返し、まるで噛み締めるかのように言うゼットンを見て、加古はピースが当てはまっていくような感覚を覚えた。

 

 (そうか、知識があっても、全てにおいて実感が無いのね……)

 

 あ、と加古は声を漏らした。

 

 (考えてみれば、この子はまだこっちにきて数週間程度しか経ってないって言うし……銃撃されてもこの割り切りの良さ、あー、なるほど……)

 

 信用するしない以前の問題であったと悟れば、加古にはゼットンを不審がる理由もなくなるのである。

 加古が感じているのは、かつて忍田本部長によって結成させられた部隊の末っ子を相手している時のような気分であった。

 

 「……あなた、今からでも苗字変えなさいよ、イニシャルがKのやつに」

 「それは……私の名前は、寺島がつけてくれたのです。変えたくないです」

 「……」

 

 なんでそんなこと躊躇せずに言えてしまうんだろう。

 加古望、20歳。経験を積んで、いつしか素直に出せなくなったものを惜しげもなく全開にしてくる目の前の存在に、彼女の“お姉さん力”は刺激されっぱなしであった。

 

 「この防衛任務が終わったら、私が炒飯作ってあげましょう」

 「嬉しいです。楽しみにしています」

 

 劇物扱いしてくる輩と違って、ゼットンの言葉に裏表は無いと断言できた。




 戦闘描写が迷子

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