天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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第十八話 白い少年、メガネの少年

 残留したトリオンの反応により、グズグズに焼き崩れていく近界民(ネイバー)から、少し西日となっていた青空へ濛々と煙が立ち込めている。

 その側で、この状況を生み出した二人組は、突如として現れた謎の女性に釘付けとなっていた。

 

 「……あ、申し遅れました。私は“瀬戸めぐり”。ボーダーの者です」

 

 不可思議な電子音が、埃っぽい周囲に鳴り響く。

 

 「同時に、この世界での定義上、近界民(ネイバー)でもあります。危害を加える気はありません」

 「えっ……!?」

 

 声を上げたのは、学生服姿の三雲。

 “新開発されたトリガーの試験者(テスター)”として噂されていたのが記憶に新しい彼にとって、彼女の暴露は青天の霹靂であった。

 冷や汗が頬を伝う彼へ、金色の瞳がジロリと向く。

 しかし、その瞳はすぐに、近界民(ネイバー)のすぐ近くに立っていた、三雲と同じ学生服姿の白髪の少年――空閑へ向けられ、

 

 「あなたが、この世界に来訪した近界民(ネイバー)ですね」

 (バレた……!)

 

 肩を震わせた三雲の目に、頭に両手をやって歩いて来ている空閑が入る。

 しかし、彼の動揺とは裏腹に、

 

 「うん。おれが近界民(ネイバー)。空閑だ。よろしくなー」

 

 と、あっけらかんと言い放ったのである。

 

 「空閑……!」

 「大丈夫、ウソついてない(・・・・・・・)し、どっちにしろ見られてたっぽいしな」

 

 駆け寄ってきた三雲を軽くいなした空閑は、佇むだけのゼットン(瀬戸)へ、赤い瞳を向け、

 

 「で、おれにボーダーがなんの用?」

 

 空閑についで、三雲の視線も、ゼットンと交差する。

 

 「……」

 「……」

 「……」

 

 “ピポポポポ……ピポポポポ……”

 

 電子音だけが響く不気味な静けさが張り詰め、周囲の気温を下げる。三雲は一人、蛇に睨まれるような圧迫感を感じていた。

 

 (一体、何を隠してる……?)

 

 小さな嚥下音が、空間に溶け、消える。

 そして、ついにゼットンは、閉じられていた口を解錠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すみません。私でもよくわかりません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は?」

 

 風船が破裂したかのように、緊張感は消え去り、気の抜けた雰囲気が入れ替わっていく。

 散々引っ張って、帰ってきたのはふざけた解答。真っ先に声を漏らしたのは三雲である。

 雰囲気の破壊者たるゼットンは、片肘を手で支え、片手で顎を撫で、

 

 「私も急に会いに行けと遣わされたものですから、ふむ……」

 

 と、ゼットンは一人うんうんと唸ってしまうのであった。

 

 「なぁオサム、こいつなんなんだ?」

 「いや、僕に聞かないでくれ……」

 

 一人で悩み始めてしまったゼットンを指差す空閑に、三雲は有効な返しを持っていなかった。いや、おそらく、この状況なら誰も何も言えないと、彼は断言できた。

 その時、空閑の制服の首元の裾から、黒く目の無い頭のついた管が伸びてくる。

 

 「ユウマ、ここから確認できる範囲で対象を解析してみた」

 「ん……?」

 

 そして、黒い頭は、空閑へ静かに耳打ちした。

 

 「解析の結果、彼女からトリオンの反応を検出できないどころか、我々が今まで探索した近界(ネイバーフッド)でも観測したことのない、全く未知の物質で構成されていることがわかった」

 「ほう」

 

 相槌を打ったはいいものの、空閑の頭からは黒煙が上がり、眉は八の字を描いていた。

 無論、付き合いの長い黒い頭――レプリカが、そのことを把握していない訳はないのである。

 

 「彼女は我々が知るところの近界民(ネイバー)とも言えない。つまり、私でもよくわからない存在ということだ」

 「レプリカでもわからないのか!ますますなんなんだアイツ」

 「お前は何と喋っているんだ……?」

 

 と、側からみればぶつぶつと独り言をしているように見える空閑へ、三雲は冷や汗を掻きながら言った。

 

 「あ、そうでした」

 

 その時、ゼットンは思い出したかのように顔をあげ、空閑の方へ向き直った。

 そして、

 

 「うお、なんですか?」

 

 ズンズンと歩み寄り、お互い一歩分しか無いところまで詰め寄った彼女は、ずいと手を差し出した。

 

 「仲良くしましょう」

 

 ゼットンは、人付き合いが浅かった。

 こんなふうに手を差し出されても、出された方はますます困惑を深めるだけなのである。

 

 「あなたも」

 「え?僕も?」

 

 その矛先は、蚊帳の外だと思っていた三雲にも向けられるのだった。

 

 「いえ」

 

 しかし、なぜか急にゼットンは手を引っ込める。

 

 「待ってください……仲良くなるとは、具体的に何をすれば良いのでしょう……」

 「おまえめんどくさいやつだな〜」

 「空閑っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……!」

 

 その時、ゼットンと空閑だけが、驚いたように顔をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……三輪隊、現着した」

 

 震えた、まるで怒りを堪えているかのような声であった。

 ジャリ、と地面を踏み締める音が、三人の耳に入った。

 その音の方向にいたのは、濃い紫を基調とした隊服を身につけた二人組。一人は槍状の武器を肩に載せた、ニヤニヤと笑みを湛える男。

 そして、もう一人は、ゼットンに対して親の仇のような視線を突き刺している、黒髪の男。

 腹に大穴を空けた近界民(ネイバー)の死骸を一瞥した彼は、ゼットンへ戻す。

 

 「……貴様がやったのか」

 「うっひょー、流石に秀次をボコボコにしただけ……睨むなってごめんって」

 

 ゼットンの陰で、空閑は隣の三雲を突く。

 空閑の方を見て察した彼は屈み、空閑は三雲の耳に顔を近づける。

 

 「アレもボーダー?」

 「あぁ……それに、あのエンブレム、A級隊員だ……!」

 

 すると、三輪の視線は、顔を近づけている二人組に切り替わる。

 

 「その学生達はなんだ」

 「近界民(ネイバー)に襲われていたところを保護しました。警戒区域に侵入して遊んでいたみたいなので」

 

 ちらり、と向けられたゼットンの無表情を見た三雲は、

 

 (行けってことか……!)

 

 余計な口を挟まない内に空閑の手を引き、

 

 「え、オイ」

 「本当に反省してます!!今日はありがとうございました!」

 

 そして、踵を返すことなく駆け出した。

 そそくさと逃げ出していった二人組をしばらく見つめていた三輪は、

 

 「……今日のお前の見張りは誰だ」

 「迅です。何か問題が」

 「……!チィ……!」

 

 しかし、その返答を聞いた瞬間、三輪は不機嫌さを増大させて踵を返す。

 

 「大人しく首輪に繋がれてろ……!」

 

 そして、怨念を込めて、ゼットンの方を見ずに言った三輪は、廃墟の屋根を伝い、あっという間に警戒区域の奥へ消える。

 

 「あぁおーい!……オイ近界民(ネイバー)!今度俺とも()ろうぜ〜!」

 

 颯爽と飛び去ってしまった相方に続き、瓦礫の町へ消えていった槍使いを見届けたゼットンは、こてんと首を傾げる。

 

 (信用できないのなら、私を本部に連れて行けばいいでしょうに)

 

 空は、夕景色と青、そして灰に染まった雲のコントラストが美しく、西の空には小さな太陽が覗いていた。




 あれ?何か忘れてるような……なんだっけ?(すっとぼけ)

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