天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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第十九話 奇人、変人

 夕焼けに道路照明灯の淡い輝きの下、白い息を吐き出しながら走り、警戒区域からほど近いが、人通りの多い通りにでた三雲は、握っていた小さな手を離し、再び大きなため息をついた。

 後方を見てみれば、黙々と行き交う人々の頭の上に、まだ近界民(ネイバー)の死骸から、暗くたなびく煙が昇っているのがうっすらと見えた。

 その側で、息一つ乱さず、すまし顔な白髪の少年、空閑は呟く。

 

 「ふいー……ボーダーにも近界民(ネイバー)が所属してんだなー、それにしては随分敵意を向けられてたもんだけど」

 「僕は知らされていなかった……ボーダーが意図的に、彼女の立場を隠しているってことなのか……?何より、なんで近界民(ネイバー)なのに、ボーダーに所属できてるんだ……」

 

 転校生の空閑が近界民(ネイバー)だったり、いきなり現れた謎の女性が近界民(ネイバー)と名乗り、仲良くしようと迫ってきたり。三雲は頭を抱えるしか無かった。

 そんな時。

 

 “ぐぅぅ〜……”

 

 「……」

 「おっ、はらへったなー……」

 

 ぐるぐると主張するお腹をさすり、困った表情を浮かべる空閑をみた三雲は、急にどっと疲れが湧いて出てきた気がした。

 

 「……コンビニでも行くか、ついてこい」

 「ほいほい」

 

 二人組は、人混みの中を進み始める。

 

 (一度、頭を休めたい……)

 

 夕闇に沈む街を彩るネオンの瞬きすら、今の三雲には鬱陶しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……もしもし」

 『よっ、近界民(ネイバー)君とメガネ君とは仲良くなれた?』

 「いえ、数回言葉を交わしただけです。途中で三輪がきてしまったので、その場から立ち去らせました」

 

 ゼットンは、トリオンバッテリーの内蔵トリオン量の関係上、トリオン体の再構築がもう出来ないため、この際だからと冷え込み強まる警戒区域に入り込み、適当なトリオン兵を撲殺して回っていた。その時、迅からの着信があったのである。

 携帯電話を耳に当てるゼットンの前で、一つ目を翠色に輝かせるバムスターが、棒立ちの彼女へ猛進。

 しかし、バムスターの巨体は、ゼットンの前面に張られたシールドに衝突、耳にツンとくる音を、吸い込まれそうな夜空に震撼させる。

 

 『あー、そっかぁ……結局避けられそうにも無いな』

 「何がです」

 『いやいや、こっちの話』

 

 相変わらず、人を煙に巻くような喋り方をする男である。しかし、そんな彼が相手にしている少女は、そういった概念がよくわかっていない。

 回し蹴りでバムスターの眼だけを吹き飛ばしたゼットンは、彼の言い回しにケチをつけることはなかった。

 

 『ありがとね、門限もあれだろうから、もう本部に戻りな』

 「……そうします。では」

 

 そう言い、ピッと電話を切った彼女は、携帯電話に表示されている時刻、5時52分を確認し、電源を切った。

 

 「____」

 

 そして、視界が瞬いた時には、すでに彼女の見ているものは、薄気味悪く、汚れた廃墟から、清潔な白の壁面に変わっていた。

 

 「あ、おかえり」

 「ただいま」

 

 彼女がテレポートしたすぐ側のデスクには、ふとましい身体に更なる糖分を取り込ませていた寺島がいた。

 

 「バッテリーが切れました。充電しておいてください」

 「はいはい。迅さんとは楽しかった?」

 「楽しかったです。沢山のゲームをしました」

 「……壊してないよね?」

 

 と、仲睦まじげに話す姿は、最近の開発室では当たり前の光景と化していた。

 しかし、

 

 「あぁそうそう、君が外に出てる間に、技術者(エンジニア)として新しく____」

 

 その瞬間、彼の言葉が切れた。

 

 「これがゼットン、感触は普通の人間、装甲部分と思われる部位はゴム質状……頭髪は____」

 「?」

 

 いつのまにか、ゼットンはなされるがままになっていた。

 首を傾げたゼットンが見たのは、熱心に自身の体を見つめて、握ったり引っ張ったりする、黒スーツを身につけた、目つきの悪い女。

 

 「あー、その、その人が____」

 「山田バカっ!!!何女の子の身体ベタベタ触ってんだ!!ここにきてから奇行に拍車かけるのマジでいい加減にしろ!!」

 「女の子ではありません分類上彼女は生物兵器であると鬼怒田さんから聞いています」

 「????」

 

 再び、寺島の言葉は斬り飛ばされた。

 割り込んできたのは、まっさらなワイシャツ姿の、清潔感ある短髪の痩せた男。

 垂れた目が吊り上がるほど頭に血を上らせた様子の彼は、ゼットンにしがみつく女性を引き剥がそうと、細い腕を彼女の肩へ伸ばす。

 寺島は、面倒くさそうにジュースを啜り、大きく、大きくため息を吐いた。

 

 「……彼らが、新しくここにきた新人。鬼怒田さんが直接スカウトしてきたね」

 「そうなんですね。非常に邪魔です」

 「失礼しました」

 

 「どわあっ!?」という悲鳴と共に、急に力がかからなくなった男は尻餅をつき、女は男を避けて数歩後ずさった。

 そんな彼らに向けられていたのは、生暖かい歓迎の視線である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「“対ゼットン特設対策部署”?」

 

 空いたデスクから椅子を引っ張り出し、寺島の隣に腰掛けていたゼットンは、寺島が発した言葉を反芻する。

 小さく頷いた寺島は、目を細めて、当事者であるゼットンに説明を始める。

 

 「イレギュラー(ゲート)の原因究明も目下の課題だけど、君の詳細な情報分析が進んでいないことを危惧した鬼怒田室長が作ったんだ。設立目的は君に対する抑止力の開発、君の身体構造を活かした新たなトリガー技術の模索」

 「成程、彼らはその補充要員ということですね」

 「そういうこと」

 

 そう言い、寺島は席を回転させて後ろを振り向く。それに釣られてゼットンも同じ方を見ると、ごちゃついたデスク周りで、互いに違うそぶりを見せている二人が目に入る。

 

 「あの謝罪行脚中の男性が“岩谷聡希(いわたに としき)”。理研所属の素粒子物理学者。昔鬼怒田さんと仕事してたらしい」

 

 寺島は、慄いたように身を引く技術者(エンジニア)のデスクトップへ体を乗り出し、鬼のように質問攻めをしている女性を指差し、

 

 「……あの人が“山田恵理(やまだ えり)”。地方の研究施設からきた生物学者だ。あの人も鬼怒田さんと仕事してたらしい」

 

 女性――山田をじっと見つめるゼットンを一瞥した寺島は、変わらない調子で続ける。

 

 「彼ら二人と僕、後二人の技術者(エンジニア)を鬼怒田さんがまとめ上げて、君を本格的に調査していくって感じだ」

 

 ゼットンは、山田から目を離そうとしなかった。

 

 「……ゼットン?」

 

 寺島が声をかけると、彼女はゆっくりと首を回し、寺島に顔を合わせた。

 その表情は、いつもの無表情ではなかった。

 

 「楽しく、なりそうですね」

 「うん、うん……」

 

 尻すぼみしていく彼の言葉と比べて、ゼットンの言葉は、ゴム毬のように弾んでいた。




・岩谷聡希(いわたに としき)
 性別→男
 年齢→27歳
 身長→172cm
 体重→54kg
 容姿→清潔感ある短髪。垂れ目。ヒョロガリ
 概要→第一次大規模侵攻前、防災庁で秘密裏に組織されていた組織【巨大不明生物特設災害対策本部】に出向し、鬼怒田や山田と共にネイバーの研究を行っていた理研所属の素粒子物理学者。山田と同期。ボーダーが設立されてからは、巨災対が解散したことで理研に戻っていたが、鬼怒田に誘われボーダーへ就職、【対ゼットン特設対策部署】に所属する。

・山田恵理(やまだ えり)
 性別→女
 年齢→29歳
 身長→163cm
 体重→46kg
 容姿→伸ばし放題の髪を後ろでまとめている。目つきが悪い。痩せ型。
 概要→ボーダーのスポンサーを務める企業所属の生物学者。岩谷と同期。その他経歴は岩谷と同文。

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