天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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第二話 界境防衛機関(ボーダー)

 界境防衛防衛機関“ボーダー”

 水面下で活動を続けていたのが、四年半前に発生した“近界民(ネイバー)”による大規模侵攻時に満を辞して現れ、現在は、大規模侵攻時に破壊された地域、一部地域を“警戒区域”と定め、その中心に本部、警戒区域外縁部に六つの支部を構え、三門市、ひいては日本、世界を守っている組織である。

 その“ボーダー本部”にて、

 

 「このままだと、三門市どころか、連鎖的に世界中が火の海になります」

 

 最高幹部が集った会議で、迅悠一が言い放った“予知”は、彼らに激震を与えるに易かった。

 

 「大規模侵攻など目じゃないぞ……!それをたった一体の人型が!?この場で貴様がくだらん嘘を言うとは思えんが……!」

 

 この会議室に於いて、最もトリガー技術に長けた、トリガー技術開発室室長――鬼怒田本吉(きぬた もときち)の焦りようは、事態の重大さを克明に物語っていた。

 

 「その予知は、確定した未来なのか?」

 

 戦術面での司令塔にして、ボーダー最高戦力の一角でもある男――忍田真史(しのだ まさふみ)の疑問に、迅はやんわりと首を横に振る。

 

 「そこが肝でしてね……」

 

 冷え切った空気の中、一度全体を見回した迅は、静かに口を開いた。

 

 「二つに一つ。人型に良いようにされるか、人型をこっちに引き込む(・・・・)か」

 「「「「「「……!」」」」」」

 

 真っ先に声を上げたのは、眉間に峭刻な皺を寄せた鬼怒田である。

 

 「引き込むだと!?……ええい、この際どうでもいい、我々はどうすれば良い!」

 

 彼らの代弁をした鬼怒田の言に、迅は思わず、口元に薄い弧を描いて、投げやりかのように言った。

 

 「そうですね……ま、“寛容になる”ことなんじゃないですか?」

 「明確な方策を示せ!!」

 

 狂犬が如く唸りを上げる鬼怒田を差し置いて、迅の青い瞳が向けられていたのは、左目の側から頬にかけ、切り裂かれた傷跡が残る男。

 

 「……」

 

 その睨み合いを、忍田は静かに見守っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボーダー本部。

 警戒区域の中央に座す、巨大な箱のような建造物は、その立地上、陸路で行くのは自殺行為である。そのため、三門市各所には、本部直通の通路が幾重にも引かれている。

 迅に連れられ、少女――ゼットンは、通路に足音を響かせていた。そして、不気味な電子音もである。

 その存在感を背中でひしひしと受け止めている迅は、一瞬彼女の冷淡な表情を一瞥した後、軽い調子で、

 

 「君は近界民(ネイバー)なのかい?」

 「近界民(ネイバー)という存在を知らないため、答えることができません」

 

 食い気味な返答が返ってきたことの動揺を隠しながら、迅は世間話(・・・)を継続する。

 

 「ま、宇宙人ってところかな」

 「宇宙人……私は“兵器”に区分されると考えられます。詳細は“光の星”の秘匿条項に抵触するため、答えることができません」

 「光の星……それが君の故郷、ということかな?」

 「その解釈で相違ありません」

 「へぇ〜……光の星ってどんな場所?」

 「お答えできません」

 

 一度会話を切った迅は、現在自身が知り得ている“近界(ネイバーフッド)”の情報と、この世間話で得られた情報を擦り合わせる。

 しかし、迅の表情は良くなるどころか、うっすらと眉に皺がよるばかりであった。

 

 (……ボーダーが知っている情報では、この子の正体を探るのは不可能、だな)

 

 重いため息を吐いた迅の視界に、本部司令室直通のエレベーターの扉が映った。

 

 「……最後に聞きたいんだけどさ、君は何をしにここに来たの?」

 「廃棄処分(・・・・)を受けた直後、この世界に転送されていました」

 

 エレベーターの密室の中に、二人でいる時特有の、居た堪れない雰囲気が流れ出す。しばらくすると、ガクン、と重力が数倍に膨れ上がったような感覚が走る。

 虚空を眺めている迅を他所に、ゼットンは少し俯き、

 

 「故に、私に目的は存在していません」

 

 しかし、とゼットンは付け加え、

 

 「今は、人という生命に興味があります」

 

 ぴくり、と迅の肩が一瞬震えたのが、ゼットンの透き通る瞳に映ることはなかった。

 

 「……」

 

 閉じられた扉の先へ消えたゼットンを幻視していた迅は、サングラスをかけ直し、

 

 「さて……暗躍開始、かね」

 

 と、無表情に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉の向こう側、その場所には、界境防衛機関ボーダーの最高幹部が机を囲む、いっそ壮観な風景が広がっていた。

 ある者は険しく、あるものは恐れを込めた表情で、ゼットンの異質な風貌に釘付けとなっている中

 

 「御足労いただき、感謝する。ゼットン殿。……私がボーダー最高司令官、“城戸正宗”だ」

 

 端を切ったのは、ボーダーの最高司令官にして、近界民(ネイバー)排斥派閥の筆頭――城戸正宗(きど まさむね)であった。

 彼の目に映るゼットンは、やはり、人形のように静かな様相を呈しているのだった。




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