界境防衛防衛機関“ボーダー”
水面下で活動を続けていたのが、四年半前に発生した“
その“ボーダー本部”にて、
「このままだと、三門市どころか、連鎖的に世界中が火の海になります」
最高幹部が集った会議で、迅悠一が言い放った“予知”は、彼らに激震を与えるに易かった。
「大規模侵攻など目じゃないぞ……!それをたった一体の人型が!?この場で貴様がくだらん嘘を言うとは思えんが……!」
この会議室に於いて、最もトリガー技術に長けた、トリガー技術開発室室長――
「その予知は、確定した未来なのか?」
戦術面での司令塔にして、ボーダー最高戦力の一角でもある男――
「そこが肝でしてね……」
冷え切った空気の中、一度全体を見回した迅は、静かに口を開いた。
「二つに一つ。人型に良いようにされるか、人型をこっちに
「「「「「「……!」」」」」」
真っ先に声を上げたのは、眉間に峭刻な皺を寄せた鬼怒田である。
「引き込むだと!?……ええい、この際どうでもいい、我々はどうすれば良い!」
彼らの代弁をした鬼怒田の言に、迅は思わず、口元に薄い弧を描いて、投げやりかのように言った。
「そうですね……ま、“寛容になる”ことなんじゃないですか?」
「明確な方策を示せ!!」
狂犬が如く唸りを上げる鬼怒田を差し置いて、迅の青い瞳が向けられていたのは、左目の側から頬にかけ、切り裂かれた傷跡が残る男。
「……」
その睨み合いを、忍田は静かに見守っているのだった。
ボーダー本部。
警戒区域の中央に座す、巨大な箱のような建造物は、その立地上、陸路で行くのは自殺行為である。そのため、三門市各所には、本部直通の通路が幾重にも引かれている。
迅に連れられ、少女――ゼットンは、通路に足音を響かせていた。そして、不気味な電子音もである。
その存在感を背中でひしひしと受け止めている迅は、一瞬彼女の冷淡な表情を一瞥した後、軽い調子で、
「君は
「
食い気味な返答が返ってきたことの動揺を隠しながら、迅は
「ま、宇宙人ってところかな」
「宇宙人……私は“兵器”に区分されると考えられます。詳細は“光の星”の秘匿条項に抵触するため、答えることができません」
「光の星……それが君の故郷、ということかな?」
「その解釈で相違ありません」
「へぇ〜……光の星ってどんな場所?」
「お答えできません」
一度会話を切った迅は、現在自身が知り得ている“
しかし、迅の表情は良くなるどころか、うっすらと眉に皺がよるばかりであった。
(……ボーダーが知っている情報では、この子の正体を探るのは不可能、だな)
重いため息を吐いた迅の視界に、本部司令室直通のエレベーターの扉が映った。
「……最後に聞きたいんだけどさ、君は何をしにここに来たの?」
「
エレベーターの密室の中に、二人でいる時特有の、居た堪れない雰囲気が流れ出す。しばらくすると、ガクン、と重力が数倍に膨れ上がったような感覚が走る。
虚空を眺めている迅を他所に、ゼットンは少し俯き、
「故に、私に目的は存在していません」
しかし、とゼットンは付け加え、
「今は、人という生命に興味があります」
ぴくり、と迅の肩が一瞬震えたのが、ゼットンの透き通る瞳に映ることはなかった。
「……」
閉じられた扉の先へ消えたゼットンを幻視していた迅は、サングラスをかけ直し、
「さて……暗躍開始、かね」
と、無表情に呟いた。
扉の向こう側、その場所には、界境防衛機関ボーダーの最高幹部が机を囲む、いっそ壮観な風景が広がっていた。
ある者は険しく、あるものは恐れを込めた表情で、ゼットンの異質な風貌に釘付けとなっている中
「御足労いただき、感謝する。ゼットン殿。……私がボーダー最高司令官、“城戸正宗”だ」
端を切ったのは、ボーダーの最高司令官にして、
彼の目に映るゼットンは、やはり、人形のように静かな様相を呈しているのだった。