鳥瑠さん、毎度誤字報告ありがとうございます!
後、前話のキャラクター設定に修正が入ってるので確認しといてください!
程なくして、開発室へ戻ってきた鬼怒田は、主要メンバー五人、そしてゼットンを、自身のごった返したデスクへ招き、大きく咳払いをする。
「では始めよう」
そう言うと、堆く積まれた書類から一種類の束を引っ張り出した彼は、隈の酷い三白眼を、各々自由にしている五人、ゼットンへ向ける。
「聞いての通りだ。外部からわしが招いた者も併せて、そこで突っ立っている
「鬼怒田室長、一つ質問が」
鬼怒田の話の腰を折ったのは、伸ばし放題の髪を適当に後ろでまとめた女性、山田である。
「ゼットンの調査研究をするにあたって、五人という少人数体制で挑むのは何か意図があってのことでしょうか」
「ゼットン案件は潜在的な危険性はあるが緊急性は薄い。目下の懸案はイレギュラー
「理解しました」と引き下がった彼女を横目に、ゼットンは鬼怒田を食い入るように見つめた。
無論気づかないわけでは無かったが、鬼怒田は事を先に進めることにした。
「これが今までの蓄積データだ。各自目を通しておくように」
ゼットン以外の各々が鬼怒田から直々に受け取ったのは一枚の紙。
真っ先に声を上げたのは、垂れ目を少年のように輝かせる岩谷。
「はぇ、意外と調べられてるんですね……へー、熱核エネルギー変換生体器官……?」
「具体的なデータが取れてない以上それは推論に近い。ゼットンの身体に常に電磁バリヤーのようなフィールドが張られているために身体構造の詳細なデータが採取できないのだからな」
と、一息に言い切って嘆息を漏らす鬼怒田は、徐に手を上げた、やる気のなさそうな風体の男――寺島に気がつく。
「そのことについてなのですが、多分解決してます」
その場にいる全員の視線が、でっぷりとした寺島の体へ向けられた。
「“
「あの莫大な予算申告はこれか……だが、早速一歩前進かもしれんな……!よくやった寺島……!」
ゼットンが寝転がった台座、その上を、物々しい雰囲気の身体スキャナーが唸りを上げ、ゆっくり舐め回すように、足先から頭部にかけて通過していく。
「……」
その様子を五人が覗き込んでくるのだから、さしものゼットンも、心の内に違和感を覚えるのは当然のことである。
スキャンが終了し、今度は寺島が座るデスクの周りに、所狭しとメンバーが密集。互いの息をかけ合いながら、データが送信されてくるのを今か今かと待ち構える。
「……解析が終わりました」
その瞬間、デスクトップのモニターに表示されたのは、3Dモデル化したゼットンの像であった。
そして、その像は、ゼットンの体内構造を克明に映し取っていたのである。
ぼうっとしていた寺島の頭を押し退けて顔を近寄らせた山田は、その鋭い目つきを限界までこじ開け、画面を食い破るように眺める。
「成程、身体構造は簡素、体液の流れが確認できますね」
「……」
自分の体の中を見るというはじめての経験に、ゼットンは再び首を傾げることになる。
次に、寺島を押し退け画面を占有していた山田をどかし、寺島からマウスを借りて画面を占有した岩谷は、ゼットンの胸部にマウスカーソルを動かし、画面をギリギリまで拡大させる。
すると、細胞のような物体の配列が鮮明に映し出される。
「随分高精細だな」
「元素の働きも確認できるようにしておきましたから」
鬼怒田と寺島の掛け合いを背に、岩谷は映し出された画面の推移を食いいるように見つめ、
「……これ、鬼怒田さんの提唱した仮説、当たってますね」
と、メンバー全員に聞こえるように呟いた。
____数分かけ、メンバー全員で身体データの確認を終えた彼らは、二人鬼怒田のデスク周りにて、気づいたことの共有を始めた。
有無を言わさず口を開いたのは、鼻息を荒くしている岩谷である。
「先ほど目測で確認した限りではありますが、熱核エネルギー変換生体器官仮説に準ずる働きをしている生体器官が観測できました。未知の放射線同位体の確認も併せて、ゼットンは体内で元素を別の元素へ変換可能であるという事実は確定していいと考えます。また……」
と、ここで小さく咳払いを交え、息を整えた彼は、頬の赤らめを隠さずに続ける。
「えぇ……もう興奮し過ぎてすいません。ええと、発生した未知の物質が、身体の至る所で対消滅を起こしていることも確認されています。このことから、ゼットンは熱核エネルギー変換生体器官により身体の維持、熱エネルギー変換によるエネルギーの生産を行うのと、対消滅器官のエネルギー生産を併用して活動していると考えられます」
その次に一歩前に踏み出したのは、毅然とした様子を崩さない山田。
「ほとんど核分裂反応に近い化学変化です。崩壊熱をエネルギー収支に当てているとしてもメルトダウン等の可能性を考慮して体内冷却システムが備わっていると考えられる。体液の対流が確認されていることから、体液の流動をメインとした冷却システムが存在すると考えられます」
「成程な……となると、体内冷却システムの強制停止、これがゼットンを止める一つの手段になりそうだな」
「はい、冷却システムが停止すれば熱核エネルギー変換生体器官の強制スクラムせざるを得なくなり死亡するかは不明ですが活動を停止させることは可能です。ただ強制スクラムの失敗等のリスクは付き纏うと考えます」
山田の早口な回答を受けた鬼怒田は、贅肉で弛んだ顎に手をやり項垂れる。
すると、すぐに顔を上げ、手をパンと合わせ、疲れ目にムチを打って見開かせる。
「そうか……!ゼットンの身体構造がトリオン体と酷似していること、対象の身体を覆うフィールドから推察したことだが、ゼットンの身体にはトリオン体と同じく定型を維持するための特殊な力場が働いている可能性がある。この可能性が事実であるならば、体内冷却システムの停止どころか、熱核エネルギー変換生体器官、対消滅器官の強制停止まで持っていける……!」
「相当大胆な仮説ですが____」
「あ、あの〜……」
止まらない問答が始まるかと思われたその時、おずおずと手を上げる者があった。それは、ボードを胸に抱えた、小柄でオドオドした態度の女。
一瞬で注目を集めた彼女は、思わず変な声を口から漏らした。
「え、えっと〜……
同調する様に、隣に立っていた気の強そうなガタイのいい男が一歩前に出る。その瞬間、発言者である女――
「俺も賛成ですね、トリオン体の稼働時間の大幅延長、トリガーセットの更なる充実化、トリオン体に再生機能を付加することも可能になるかもしれない」
男――
「鬼怒田さん」
その時、鬼怒田が自身を呼ぶ声に従って首を向けた先にいたのは、手を上げた寺島であった。
「俺はどちらの可能性も追求する価値があると考えます。そこで、現状の人員を二分し、“ゼットン対策チーム”と“新型トリガー開発チーム”に分け、各個ことに当たることを提案します」
寺島に向けられていた視線が、腕を組んで頭を捻っている様子の鬼怒田へ向けられる。
しばらく目を瞑っていた彼は、小さく息を吐いた後、重たい瞼を開く。
「……わかった。山田と岩谷はわしとゼットン対策を、残りで新型トリガーの開発を行うこととする。だがこれは専任する区分を明確にしただけだ。わかったことは互いに共有するように」
「……!」
この鬼怒田の判断に驚いたのは、意外にもゼットンであった。
「ええい、いちいちなんじゃい!」
再び、子供のような純粋な煌めきで見つめられていることに気がついた鬼怒田は、怒ったような口調で問いただす。
「いえ、はじめて会った時と比べ、信頼の度合いが高まっていると感じ、驚いただけです」
「……バカを言うな!貴様は
(嘘つけ)
それがあからさまな反応であるのは、人間をやっているなら誰もがわかることであった。