天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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第二十二話 外星人

 「……!」

 

 迷いなく、瀬戸はコートのポケットからトリガーを取り出し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……失礼。それは、ご遠慮いただきたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしい。そんな言葉で脳内が埋め尽くされる。

 彼女は、脳内で強く“トリガー解除”と願ったはずなのに、しかし、彼女の身体は、見目麗しき漆黒の異形に戻ることは無い。

 代わりに、トリガーを握り、前方に掲げられた腕を、しなやかな男の手が掴んでいる。

 

 「君のトリガーをハッキングした。そのトリオン体の換装を解くことは、今日の内は不可能だ」

 

 隣を見ると、そこに立っていたのは、黒いスーツを身につけ、穏やかな表情を浮かべた伊達男であった。

 しかし、瀬戸は彼の目を見た瞬間、不愉快そうに顔を顰めたのである。

 男の黒々とした虹彩の奥は、何も見えない深淵であった。

 

 「君の同伴者には眠ってもらっている」

 

 瀬戸は思わず、自身の背後、反対車線の路肩に止まっている紫色の軽自動車に振り向いた。

 男は、淡々と続ける。

 

 「“警戒区域外では同伴者の承諾を得なければトリガーの解除を原則禁止”している特殊隊務規定に縛られた君は、ルールという面でも実力を発揮することはできない。違うか?」

 

 そうあやすように言い、薄い笑みを浮かべた彼は、瀬戸の腕から手を離し、腰の後ろで手を組んだ。

 

 「今、彼等(・・)に君の実力を知られるのは厄介なのだよ、ゼットン」

 

 その時、瀬戸の目に、校舎の壁を突き破り、侵入していくモールモッドの姿が目に入る。思わず、彼女は息を飲んだ。

 

 「そんなに心配しなくても問題ないさゼットン。これを見たまえ」

 

 その瞬間、瀬戸の目の前に、半透明のパネルが浮かび上がった。

 そこには、崩落した瓦礫と刺々しいガラスの破片が散らばる廊下にて、モールモッドの威容に立ち向かう、身の丈ほどある半透明の近未来的な剣を持った、白い隊服の男が映っていた。

 

 「君の友達が、うまくやってくれるだろうさ。何せ、片われは戦闘経験豊富な近界民(ネイバー)だ」

 「……」

 

 ジロリ、と瀬戸の金色の瞳が、空洞な黒い瞳に向けられる。

 

 「おっと、失敬」

 

 男は、徐にスーツの内側を弄ると、一枚の小さな紙を引き抜き、流麗な動作で、瀬戸へそれを差し出した。

 それは、彼の立場を表す名刺である。

 

 「私の名前は“メフィラス”。今後とも(・・・・)、よろしく頼むよ」

 

 そうして彼――メフィラスが浮かべる笑みは、やはり中身のないものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寒空の下に、破砕音のような轟音が響き、それが大気を揺らす毎に、小鳥達が焦って逃げ去って行く。

 ついに、トリオン兵との戦いの火蓋が切って落とされたのである。

 その最中、瀬戸とメフィラス両名は、歩道の中で対峙していた。

 

 「……あなたの目的は、一体なんなのですか」

 

 底冷えするような声で言った瀬戸に、手摺の上に腰掛け、片足を膝に乗せて寛いでいたメフィラスは、君の悪い笑みを貼り付けて答える。

 

 「今は、プレゼンテーションの準備をしている。程なくして行う予定だ」

 「内容を、ここで言うことはできないのですか」

 「とんでもない。是非、君達には本番で見て、知ってもらいたい」

 

 足を組み替えたメフィラスは、今度は、と言わんばかりに、少し笑い交じりに口を開く。

 

 「しかし、君のような発達を遂げるものもあるのだな。かつての光の星の大量殺戮兵器が人との共存を選ぶとは」

 「……」

 「何故だ?」

 

 瀬戸は、少しも目を逸らさずに、

 

 「私は、友達と仲良く暮らしたいだけです」

 

 メフィラスは、納得したように笑った。

 彼は知っていた。

 一人の地球人と禁じられし融合を果たし、その仲間のために戦った銀色の巨人。

 自身と拳を交え、ある意味で勝利した巨人を。

 

 (成程。()となんら変わらない訳か)

 

 戦いの音が不意に消失する。

 

 (……面倒なことだ)

 

 しかし、不敵で不気味な笑みを絶やすことなく、彼は手摺から腰を離した。

 目の前の瀬戸も、中学校の方を振り返り、内情を確認しようとしている様子である。

 

 「勝ったのは彼等だ。……後は、自由にするといい」

 

 そう言い、メフィラスは踵を返し、

 思い出したかのように振り返って、

 

 「また会おう、ゼットン」

 

 その瞬間、彼の足元がドットのようになって、削れて行くように消え、それが全身へ波及した。

 そして、彼の姿は、初めから何も存在していなかったかのように消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __こ。

 かこ。

 加古!

 

 「はっ!?」

 

 目を覚ますと、灰色の天井が目の前に広がった。加古は、ぼんやりとした頭で、何が起こったのかを再確認しようとした。

 しかし、今か今かと校門の前で待ち構えていた瀬戸を眺めていた辺りから、まるで霞掛かっているかのように、記憶を引き出すことができない。

 ふと、彼女は左肩に重みを感じた。

 

 「わっ!って瀬戸ちゃんか……」

 

 振り向けば、鼻が擦れ合いそうな位置に、瀬戸の顔面が置かれていた。

 

 「良かった。問題なさそうですね」

 「……その口ぶり、色々知ってそうな口ね?説明してくれるかしら」

 

 こくり、と頷いた彼女は、顔を突き出して助手席に四つ這いになったそのままの状態で、ことの顛末を説明した。

 そして、最後にメフィラスの名刺を加古へ手渡す。

 

 「これまた一筋縄じゃいかなそうな相手ね……」

 

 名刺を眺めている中、垂れてきたサイドの髪を手で押さえながら、加古は珍しく、人前で緊迫した表情となる。

 

 「んー、流石に報告に戻らなくちゃいけないわね」

 (でも……)

 

 そっと瀬戸へ目をやると、露骨に俯いていた。それが何を表しているのかは、火を見るより明らかであった。

 

 (どうしたものか……)

 

 時刻を確認すると、既に放課後に入っているだろう時間である。そもそもがトリオン兵に学校が襲われたのだから、学生はさっさと家に帰されてしまうだろう。

 

 

 (ま、市民に敵対しない近界民(ネイバー)よりも、メフィラスとやらの方が明らかに____)

 

 と、ボーダー隊員としての理屈をこねくっている時であった。

 加古は、赤い隊服が目につく三人組が、学校の敷地を飛び跳ねて行くのを確かに見た。

 

 「……あ」




 カッコいい戦闘シーンはお預けなのです

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