天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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第四話 不明生物・ゼットン

 ボーダー本部・トリガー技術研究開発室。

 ボーダーの基幹たる“トリガー”、そして、その動力源たる“トリオン”の研究を担当するこの部署には、無論頭脳面で飛び抜けた者が多い。あの鬼怒田も、開発室長を拝命しているだけあって、優秀なエンジニアの側面も持っているのである。

 しかし、そんな研究室でエンジニアチーフを務めている男――寺島雷蔵(てらしま らいぞう)は、黒煙をあげている頭を抱えてしまっていた。

 原因は、目の前のスキャン台に乗せられた、不可思議な電子音を発する少女――ゼットンである。

 

 『プロテクトにより、私の口からは情報提供を行えません。私の口からは』

 

 ゼットンの言い方は、つまり、“脳を暴くなり解体するなりし、自分達でどうにかしろ”ということであった。そこで、善は急げと寺島の元へ送られてきた彼女であったが、

 

 (全身が“未知の物質”で均一に構成されている……レントゲンでは体内構造を測れない……電磁バリアでも張ってあるのか?)

 

 「お前、何者なんだ?」

 「はて、私はゼットンです。自己紹介はしたはずです」

 

 あらゆる検査を行った結果、分かったことは二つ。

 “理由は全く不明だが、ゼットンは呼吸をして生きている”

 そして、“ゼットンからトリオン反応は一切無し”

 たったこれだけであった。

 彼は、事前準備無しでエベレストに挑戦させられるような気分を味合わされたのである。

 

 「ハァ〜……」

 

 デスクトップのモニターから目を離し、色々とわがままな身体を椅子の背もたれに沈め、ぐっと背伸びをした寺島の気だるげな視界が、無機質な天井ではなく、黒髪の少女の無表情で埋め尽くされる。

 

 「トリガーはまだ完成しないのですか?」

 

 金色の瞳をぱちくりとさせた少女――ゼットンの圧力を、寺島は全く意に介する様子は無い。

 

 「作れないってことはないだろうけど、ただ、トリガーサイズで長時間持続するトリオンバッテリーの製造やらなんやら、今までやってこなかったことが多々あるから、結構難航してるそうだよ」

 「トリガーが無ければ私は研究室から出られないのです。早急な開発を求めます」

 「簡単に言ってくれるねー」

 

 肉厚な自身の頬を、ゼットンの細い指で良いようにされながら、寺島は疲れ気味にそう言った。

 

 その時であった。

 

 「近界民(ネイバー)が、我が物顔だな」

 

 恐ろしく低い声が二人の耳に入った。

 声の方に同時に首を動かした二人の目線の先には、黒々とした瞳に、さらに昏い雰囲気を乗せた男が、白い壁の仕切りに寄りかかって立っていた。

 ぼさぼさの髪をそのままにした隈のひどい顔の男は、壁から幽鬼の様に身体を離し、ふらりとゼットンの目の前に立ちはだかった。

 

 「……ついて来い。貴様に用がある」

 

 有無を言わさぬ声色である。白を基調とした配色の研究室が、音を立てて灰色に染まっていく感覚を寺島は覚える。

 

 「現在、私は研究室以外の移動を禁止されています」

 「許可は貰っている。黙って俺に続け」

 「……」

 

 しばらく悩むような素振りを見せたゼットンは、踵を返した男の後を、小鴨のようについていく。

 出入り口の自動ドアを目前にした彼女は、ふと後ろを振り返り、寺島の方を見た。

 寺島は、デスクのモニターに釘付けで、両手はキーボードを忙しなく叩いていた。

 

 「……」

 

 ふるふる、と小さく手を振ったゼットンは、自動ドアを潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆらり、ゆらりと、一歩進むごとに、男の背中は大きく左右にブレる。

 無限に続くと思われる近未来的な通路を、二人分の足音、そして、夢心地な電子音が冷たく響き渡る。

 

 「私の名前はゼットンです。あなたの名前は?」

 「……」

 

 そこに、少女の透き通った声が加わるが、それは空しき音に変わるだけである。

 しかし、一房のオレンジ色の前髪を迸らせた彼女、ゼットンには、遠慮の二文字は存在していないと同義なのである。

 

 「どこに連れて行くのですか?」

 

 二人の間に不可視の壁が建っているかのように、目の前の男は一向に、舌打ちすらも打たずにいる。

 

 「何故、私に敵意を向けるのですか」

 

 その瞬間、彼の足が止まった。

 ぐるりと向けられた男の表情は、刀の持ち手に手をかけた剣客のそれである。

 そんな彼に向けて、ゼットンはこてんと首を傾げ、

 

 「私が、あなた方が言うところの近界民(ネイバー)だからでしょうか」

 

 有無を言わさず、ゼットンは続ける。

 

 「城戸は言っていました。人の関係は妥協で成り立っていると。ならば、あなたは近界民(ネイバー)に対して持っている敵意を抑えなければならないと、私は考えます」

 「……!」

 「私はあなたに対して不愉快さを覚えさせるような行動は努めて慎んでいるはずですが。仮に問題点があるのであれば、掲示していただければよろしいかと」

 

 雑巾を絞るような異音が鳴り響く。

 しかし、すぐに男の両手は力無く振り解かれた。

 

 「……貴様の存在自体が不愉快だ」

 

 それきり、男は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一訓練室。ボーダーの隊員達が、日夜トレーニングに使っている、広さそこそこの何もない角ばった空間にて、ゼットンと男は対峙した。

 男は、徐に学ランのポケットの中を弄り、グリップ状のグレーの物体を取り出した。

 

 「貴様をこの場所に呼び出した理由を教えてやる」

 

 ゆっくりと手のひらに収まったそれ――トリガーを眼前に掲げた男は、明確な激情を瞳に込め、

 

 “トリガー起動(オン)……!”

 

 その瞬間、足元から男の身体に、電磁波の嵐のようなエフェクトが走り、電撃のような音を轟かせながら、たちどころに全身を包んだ。

 

 「……」

 

 ゼットンの目の前で、彼の様相は大きく変化を見せた。

 紫と黒を基調とした、胸部にエンブレムが施された戦闘服、腰に機械的な刀を下げ、ヘッドホンを装着した姿は、まさしく“殺人者”

 

 「____」

 

 次の瞬間、青白い閃光が周囲を凶悪に染め上げた。

 そして、コンマのラグの後に、重い銃撃音が空気を浸透させたのである。

 

 「……」

 

 煙をたなびかせる銃の先には、頭部を煙に覆うゼットンがあった。




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