天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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第五話 反撃

 『万が一、対象を“破壊”してしまったとしても、状況によってはやむなし、と判断する』

 

 汚れひとつもなく、平然としたゼットンの美貌が視界に入った時、男――三輪秀次(みわ しゅうじ)の脳裏に浮かんだのは、城戸の冷ややかな一言であった。

 

 (言われなくとも……!)

 

 すかさず、銃型トリガーの銃口から三回閃光が走り、棒立ちのゼットンの顔面に突き刺さる。

 しかし、再び甲高い、何かに弾かれたような音の後、オレンジ色の一房の前髪を煌めかせる彼女の無垢な眼が露となるのである。

 

 (シールドか!)

 

 考える間に、彼の身体は行動を始めていた。

 

 「……!」

 

 腰の孤月に手を添え、三輪の身体は弾かれたようにゼットンへ突撃。

 

 「シッ……!」

 

 そして抜刀、床にヒビが入るほどに強く踏み込んだ彼の腕に無駄は無い。

 

 (……)

 

 淡い黄色を湛えた刀身が空気を切り裂き、ゼットンの喉元目掛け水平に振り抜かれる。

 後一センチ、ゼットンの柔らかい肌に、研ぎ澄まされたが滑り込むと思われた____

 その瞬間。

 

 「!?」

 

 三輪は遠くに見える壁を見ていた。

 静かに刀の方へ目を向けてみれば、確かに刀身は真横に振り抜かれている。

 しかし、それがからぶった(・・・・・)だけだというのは、どんな愚図でもわかることであった。

 

 「わざと、隙を大きくした攻撃を行なっているのですか」

 

 後方から、不愉快な電子音が鳴り響く。

 ゆっくりと踵を返せば、そこにはやはり、超然とした様子のゼットンがいた。

 

 「まるで、こちらの攻撃を誘っているように見えますが」

 

 返答は、黒々とした二発の弾丸であった。青白いそれとは違い、その弾丸は幾分かスピードが無い。

 無論、ゼットンが身を動かす素振りを見せることは無い。

 

 「……」

 

 その事実が、三輪の口元に湿った笑みを咲かせた。

 そして、爆発音とは違う、重苦しい着弾音が訓練室を満たす。

 

 「……?」

 

 刹那、崩れるようにして膝をついたゼットンは、ようやく表情を困惑に染めた。

 ゼットンの両腕には、赤黒い六角柱の物体が、突き刺さるようにしてへばりついていたのである。

 

 (コイツのシールドに対しても、“鉛弾(レッドバレット)”は有用だな)

 

 引き金が押される毎に、胴体、肩、大腿、と、ゼットンの身体に六角柱の錘が生える。

 

 「わっ」

 

 重みに耐えきれなくなった彼女の身体は、意に反してうつ伏せる。ただし、彼女の精神は、陽気な原っぱのそれであった。

 

 (シールドを透過している……?しかし、本体にダメージは無いようですね)

 

 再びゼットンが前を向くと、目の前に孤月の切っ先が向けられる。

 視線を見上げれば、憎しみと蔑みを練り固めたような目と重なった。

 

 「この程度か、近界民(ネイバー)

 

 ゆっくりと、まるで焦らすかのように刀身が起き上がっていく。

 しかし、ゼットンの脳裏に浮かんだのは、全く関係のない情景なのであった。

 

 (……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『自発的に攻撃を行う権限は与えられていません』

 『プロテクトにより、私の口からは情報提供を行えません。私の口からは』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、三輪の目の前で、六角柱の錘がごとごとと折り重なって落下した。

 ゼットンの姿は、その残穢すら残っていなかった。

 

 「あなたの身体データをスキャンしました」

 

 この世のものとは思えない無機質な声が、三輪の耳を撫でた。

 ゆっくりと振り返った三輪は、絶えず鳴っていた電子音に、まるで何かが回転するような、蝉の鳴き声とも取れる音が足されていることに気がついた。

 

 「条件を満たした為、これより攻撃を開始します」

 「……!」

 

 彼の目は大きく開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 烈火の如く憤った忍田が司令室の門を叩いたのは、上記の数刻前である。

 自動ドアを蹴り倒しそうな勢いで入ってきた忍田は、薄暗闇の中モニターに映し出された、三輪とゼットンが対峙した様子を一瞥した瞬間、虎のような表情をさらに険しくする。

 

 「何故このような強硬手段に出た!!戦闘データの取得ならば、鹵獲したトリオン兵で事足りた筈だ!」

 

 猛虎の咆哮をその身に受けども、彼を見下ろす三人もまた、このボーダーに於いては強者である。

 真っ先に言葉の槍を忍田へ向けたのは、腕を組んで座していた鬼怒田であった。

 

 「トリオン兵程度では、奴の能力を正確には計れんだろう!本部長や(ブラック)トリガー、玉狛の奴らに現在遠征中のトップチームはこちらの手札として明かせないが、それでいて奴と渡り合えるのは彼しかおるまい!!」

 「ならば何故嵐山を使わない!?もし、彼女が三輪に負ければ……」

 

 忍田は、峡谷のような皺をさらに深め、鬼怒田よりも高い位置から自身を見下す男を見る。

 “三輪秀次という男は、やれる時は確実にやる”

 忍田が言わんとしていることは、この場にいる人間ならば、誰もが察しつくことなのである。

 

 「今すぐに辞めさせ____」

 

 その時、忍田は、見上げた目の前の男達が、静かに身をひいたのを敏感に感じ取った。

 

 (なんだっ____!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が、暗闇に包まれる。

 あれほど昂っていた身体は、指先ひとつも動かせないほどに脱力していた。

 思考も定まらなかった。しかし、本能で感じ取れてはいたのである。

 

 “トリオン伝達脳、破損”

 

 三輪の身体は、ゼットンに持ち上げられていた。

 握り潰された(・・・・・・)頭部から下が、背骨のようなトリオン伝達系で辛うじて繋がった状態で。

 

 “ピポポポポポ……ピポポポポポ……”

 

 片手に握りつぶした頭部を携えるゼットンの瞳は、一点の翳りもない黄金色であった。

 蝉の鳴き声のような音が、飾り気のない訓練室を彩った。




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