天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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第七話 格子状の空

 『君には大変無礼な行動をとってしまった……すまない……!』

 『気にしていません。早くトリガーをください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界において、トリガー技術の最先端をいく研究室の一角に、静かな打鍵音と、包装紙が擦れ合う音が混ざり合う。

 

 「忍田本部長が頭下げていたのも驚きだけどさ……まさか君にワープ機能がついているなんて」

 

 脳裏に、デスクにて作業中の寺島の目の前に、音もなく突然現れたゼットンに仰天した過去が思い起こされ、彼はため息を吐いた。

 そんなドッキリ番組のような状況を作り出した本人はというと、ちょこんとソファに腰を下ろし、寺島が買い込んでいたお菓子類を机に広げているのであった。

 脳と手は仕事へ向けられつつも、彼の口は回り続ける。

 

 「それに……先に仕掛けたのは俺らなのに、よくここに戻ってきたね」

 「約束は約束です」

 

 数ある菓子類の中から、チョコパイの包装を破き、中から小袋の一つを取り出したゼットンは、興味深げに掲げてみたり、鼻に近づけたりする。

 

 「それに、先の戦闘で私とあなた方の戦闘能力の差が大きいことがよく分かりました。譲歩をしなければならないのは私なのでしょう」

 

 ピリリ、と包装を破けば、なめらかな茶色の輝きを示す、円盤状のチョコパイが顔を出す。記憶に基づき、んが、と口を開いた彼女は、一口でチョコパイを口の中へ詰め込んだ。

 

 「怒らないの?」

 「んぐっ……怒る理由が見当たりません。忍田も謝っていたのですから、もう互いに気にするいわれもないのでは」

 

 寺島の純然な疑問に、唇を少し茶色に染めた口で静かに答えた彼女は、再び瞳を忙しなく動かし、机の上の未開拓地(菓子類)の探索を始めたのだった。

 

 「ふーん……」

 

 寺島もまた、全意識をパソコンの方へ向ける。

 彼の目の前のモニターには、ゼットンが三輪に対して行った攻撃の映像が映し出されているのだった。

 

 (トリオンを融解させる熱量……本当に意味不明な奴だなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼットンがこの世界で意識を取り戻してから、一週間の時が流れた。

 彼女は再び、会議室に出頭していた。

 

 「……」

 

 ゼットンの目の前の机に置かれたのは、灰色のグリップ状の物体。そして、一枚の紙である。

 五人の多様な視線をひしひしと受けながらも、徐にトリガーを手に取ったゼットンは、先日の三輪との戦いを想起する。

 

 “トリガー、起動(オン)

 

 そう念じた瞬間、彼女の身体に変化が生じた。

 スパークが彼女の足から昇って、スパークが通り過ぎていった後の彼女の脚は、健常者の肌色と化していたのである。

 

 “トリオン体、換装完了”

 

 毛髪の一本までスパークに覆われた頃には、人からかけ離れていた彼女の部位は全て立ち消え、白い中にオレンジのラインが入った隊服――C級隊員の服装を身につけた姿となってたのであった。

 

 「……?」

 

 不思議な電子音が響くこともなく、角や砲口も消えてしまった頭を触る彼女は、さしものゼットンと言えども、形容し難い感情を抱くものである。

 

 「貴様の身体データを限りなく投影して作成したトリオン体だ、文句があるなら後で言え」

 

 そうぶっきらぼうに告げたのは鬼怒田である。

 

 「本来の私の出力と比べ、随分と抑えられているのですね」

 「当たり前だ!」

 「すまない、しかし、君がこの世界にいるために必要な“縛り”だ。受け入れてほしい」

 

 と、最近堪忍袋の尾の強度に難のある鬼怒田に割り込んだ忍田の言の後、ゼットンは、机に置かれた一枚の紙を、丁寧に両手で取り上げる。

 

 「……行動範囲を三門市に限定、門限あり、外出にはA級隊員以上……つまり、ボーダーの精鋭の同伴が必須、ですか」

 

 ゼットンは、視線を上にずらし、自身の対角にて座す男に向ける。

 

 「そうだ。それが、我々が君に認められる最大限の自由だ」

 

 手を組み、肘を立てて顔の前へおく男――城戸の、あくまでも冷徹さを崩さないのを見届けた彼女は、

 

 「理解しました。早速外出して構いませんか?」

 

 と、トリオン体となってしても変わらない表情で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綿のような雲が大海を漂っているかのような、乾燥した青空の下、ボーダー本部が見守る三門市の警戒区域外縁には、すぐそこが戦場であるにも関わらず、人の往来が絶えず富んでいる。

 その落ち着いた宅地の道路を、一台の車が通り過ぎていく。

 

 「悪いねー、野郎二人に囲まれるなんて……あ、ぼんち揚げ、食う?」

 

 後部座席でうつろう車窓に没頭していた、白い隊服に身を包む黒髪の少女――ゼットンは、軽い調子の声に反応する。

 その音源は、彼女の隣に腰掛けた、青い瞳の男、迅悠一であった。

 迅が差し出した、ぽんち揚げなるスナック菓子の袋の口に、疑うことなく手を突っ込み、出てきた一口サイズのそれを口に放り込んだ彼女は、

 

 「あの人は?」

 

 ゼットンが指し示したのは、車の運転を行う、スーツ姿の伊達男。

 

 「俺は“林藤”、“玉狛支部”の支部長をやってる。よろしくな」

 

 ルームミラーをチラリと見た男――林藤匠(りんどう たくみ)は、片手をハンドルから離して、風格ある渋い声で軽い自己紹介を終えた。

 

 「これから行く“玉狛支部”は、近界民(ネイバー)に対して友好的な人間しかいない。心配しなくていいよ」

 「……」

 

 流れゆく車窓が、雄大な川を跨いで、奥に住宅が広がっていくものに切り替わる。

 ゼットンは、徐に口を開いた。

 

 「……城戸達は、近界民(ネイバー)へ敵意を向けている。しかし、忍田のようにそうでない者も存在し、双方は対立していた。同じ人間なのに、何故なのでしょう」

 

 独り言のように呟かれたそれは、彼らにはあまりにも耳が痛い質問。ある意味で、ゼットンだからこそ投げかけることができる問いかけであった。

 シンと静まり返った車の中で、この問いかけの回答に挑んだのは、この中で唯一の大人。

 

 「……人は、享受してきた環境や、経験した出来事で、確固たる考え方を持ち合わせていく。自分では根拠のある“正しい”考え方だ。だから、真っ向から異なる考え方にぶつかると、どうしても相容れないことがあるのさ、残念ながらな」

 

 迅は、ルームミラーに映る林藤の表情を一瞥した後、再び車窓に顔を戻し、ぽんち揚げの袋に手を突っ込んだ。

 

 「ボーダーは正にそうだ。近界民(ネイバー)排斥派の“城戸派”、三門市防衛が最優先の“忍田派”、そして、我らが近界民(ネイバー)とも友好を深めよう、という“玉狛派”。この三つが水面下でせめぎ合っている。同じ人間、同じ組織なのにな」

 

 「三輪と()ったお前なら、なんとなくわかるんじゃないか?」と締めくくった林藤の言葉は、質量のない重さを宿していた。

 

 「……」

 

 しかし、ゼットンにとって、それははじめての“不可解”であった。




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 素晴らしきファンアートをもらってしもうた
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