天体制圧用最終彼女   作:にわとり肉

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第八話 玉狛支部

 “玉狛支部”

 一部壁の漆喰がこぼれ、赤いレンガが剥き出しとなっている部分もあるなど、その歴史の長さ(・・・・・)が伺える、川岸に聳える巨大な建屋の駐車場に、ゼットンを乗せた車が入る。

 

 「そういえば、私を何故玉狛支部へ?」

 

 扉がスライドし、柔らかな風に靡く黒髪を抑えたゼットンは、ふと、頭に浮かび上がってきた疑問を呟く。

 彼女と車を隔てて向こう側へ降りた迅は、笑い混じりに、

 

 「その格好じゃあね」

 

 ゼットンは、自身の身につけている、白く武骨なC級隊員の白い隊服の裾を摘んで、こてん、と首を傾げ、頭の周囲にハテナを三つは回転させながら言った。

 

 「何か問題が?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「問題大有りよッ!?そんなダサいの!」

 

 玉狛支部の3階、キッチンやダイニングが揃った共同スペースに、驚懼の叫びが響き渡り、ベランダの手すりに止まっていた水鳥が逃げ去っていく。

 咆哮を正面から受け、目を細めたゼットンの前で、恐ろしいものを見るような表情を浮かべているのは、明るい茶髪の長髪の中に、鳥の羽のような毛束が飛び出た少女であった。

 苦笑いを浮かべながら、傍らの迅は手を合わせ、

 

 「そーいうことだからさ……小南、服貸してやってくれ」

 「ちょっと待ってて!!!」

 

 すると、どったんばたんとソファから飛び退きたと思えば、彼女――小南桐絵(こなみ きりえ)は、鼻息荒く扉の奥へ消え、なおも階段を駆け上がる音を残響させるのだった。

 その時、入れ違いで扉をくぐる者があった。

 

 「なんだ……?」

 

 と、困惑気味に後方を二度見した後、服越しでもわかる、筋骨隆々とした恵体を揺らして部屋に入ってきた男は、その理知的な瞳でゼットンを捉えた。

 ただ、彼は表情を毛ほども変えることもなかったのである。

 そんな彼の視線に、金色の瞳が重なる。

 

 「……お前がゼットンか。俺は“木崎”、よろしく」

 「改めて、ゼットンです。よろしく……」

 

 男――木崎(きざき)レイジは、ゴツゴツとした手を差し出した。

 しばらく、その手の指紋を数えていたゼットンは、ふと、思い出したように、自身の華奢な手で、彼の大きな手を握り返す。

 

 「レイジさんは任務上がり?」

 

 人懐っこい笑みを湛え、その間に割って入ってきた迅の方を見た木崎は、優しく握手を解き、腰を上げる。

 

 「あぁ、お前はこれからみたいだな」

 「いやいや、ただのデートですよ」

 

 と、世間話に花を咲かせる野郎二人、そして、それをじっと見つめて、ソファに綺麗な直角を描いて座るゼットンの耳に、忙しなく足音が近づき、

 

 「おらぁ!!!」

 

 瞬間、勢いよく扉が開け放たれ、その反動でバウンドし、

 

 「あだっ」

 

 ごちん、と痛々しい音が、三人の無感情な視線を誘った。

 ひぃー、とおでこを抑えて地団駄を踏むおてんば娘――小南は、即座に人差し指を振り上げ、

 

 「アンタ!ちょっと来て!!」

 

 と、我関せずとしていたゼットンを指名するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「迅、今時点での未来はどうなんだ」

 

 ゼットンが小南の着せ替え人形係として出張してから数刻。

 キッチンにて、薄く湯気を上げるホットコーヒーを二つ、片方をダイニングのカウンター席に腰掛ける迅へ渡した木崎は、兼ねてよりの懸念を切り出す。

 ふー、とホットコーヒーから立ち上る湯気を吹き飛ばした迅は、

 

 「正直、よくわからないです」

 

 そう呟いた迅の表情は、繕ったような笑みなのである。

 彼の隣で、どすん、と腰掛ける音がする。もう一度湯気を吹き、マグカップの黒々とした水面に唇をつけ、ずずーっと音を立てて啜った迅は、大人の味に顔を顰めつつ、

 

 「大規模侵攻は間違いなく起きる。ただ……ゼットンに関しての未来だけが、どうしても不明瞭で。可能な限り多人数分未来を見ましたが、見える光景は変わらない」

 「焼け野原に佇む彼女、か」

 

 と言い、一口コーヒーを口に含んだ木崎は、

 

 「お前はゼットンをどう思っている」

 

 凪いだ水面に映る、自身の表情を眺めていた迅は、少し項垂れ、

 

 「俺は、彼女が俺らと敵対することは無いと思います」

 

 水面に映るのは、迅の青い瞳だけであった。

 木崎は、虚空を見つめて沈黙を破らない。

 

 「彼女が三門市の焼け野原の中心に立っている未来が見えるのも事実ですが、彼女と心を通わせる未来も同時に見えている。例えるなら、テレビ画面2台にそれぞれ映し出された未来が同時に見えているような感覚なんです」

 「別の要因が絡んでいると言いたいのか?」

 

 迅は、静かに頷いた。

 

 「それに、……彼女は人を知りたいだけなんですよ。秀次との一件でも、ゼットンは1ミリも怒りの感情を抱いているようでは無かった、と思うし」

 

 微妙な沈黙が、二人の男の合間をすり抜けていく。

 迅は、普段からの風貌とは似合わない表情を浮かべ、

 

 「うーん……とにかく、ゼットンから攻勢に転じてくるようなことは絶対無いと、思うんだけどなぁ〜……具体的にそれがいつ起きるのか、なんてのも全く見えてこないし」

 

 まるで、それは言い訳を必死に擁立しようとする子供の姿である。

 木崎は、思わず仏頂面を崩し、弧を描いた口にマグカップを傾けた。

 

 「彼女は信頼できる相手ということだな」

 「えぇ、本当にあの子が三門市を燃やし尽くすのなら、原因はこっちにあるだろうと、俺は本気で思ってますよ」

 

 迅の言葉には、無視できない重みが伴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「迅!レイジ!おれのよめだぞ!」

 

 ゼットンは、泥臭さすら感じた隊服と比べ、天と地さ程の変貌を遂げ、木崎と迅の前へ現れた。

 緑のパーカーを羽織り、ダメージ加工の入ったジーンズ、グレーのニット帽を被った姿は、どこぞの雑誌の専属モデルか、と見紛う姿。

 心なしか、ゼットンの頑なな真一文字も緩まっているように感じられた。

 

 「さすがはおれのよめだ!何を着てもにあうぞ!」

 「ありがとうございます?」

 

 しかし、当事者を差し置いて威張り散らすのは、ヘルメットを被り、カピバラの上に跨る少年であった。

 わはは、とゼットンの手を引く姿は、可愛らしいような憎らしいような。

 その時、ぬっと背後から伸びてきた手が、陽太郎の服の首を掴んだ。

 

 「バカなこと言ってんじゃ無いわよ陽太郎!」

 「うわあぁぁぁあ!?」

 

 絶叫する林藤陽太郎(りんどう ようたろう)を持ち上げ、俵のように脇に担ぎあげたのは、その様相に反してほくほく顔な小南。

 暴れる陽太郎を片腕で制しつつ、ゼットンの背中をバシバシと叩きながら、

 

 「いや〜素材が整ってるとこっちもやりがいあるわよね〜、いやー可愛い。我ながら可愛いわ!」

 「よく、わかりません」

 

 小南の掛け値無しの賞賛を浴びれど、生まれて初めてまともな服を着たゼットンは、無表情ながら、そわそわとして立ち尽くすばかりである。

 

 「うん、それなら変に注目浴びることもないな」

 

 と、腕を組んで頷いた迅は、首に下げていたサングラスをかけ、

 

 「じゃ、一緒に回ろうか、三門市」

 

 名前を呼ばれた猫のように、ゼットンは顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「迅も隅におけないわね、いつのまに彼女を作っちゃうなんてさ」

 「いや、あれは近界民(ネイバー)だぞ」

 「え!?とりまるの奴が迅さんに彼女できたーって!」

 「……」

 「あんのっ……!ッ……!敬意がないやつ!」




 ゼットンの服装は、小南のアクリルスタンドの一つを参考にしました

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