執務室で、セオリは獅子王の村での出来事とオウドライガーの事を話した。話を脇に控え聞いていたアンナ、アイン、ハットンと正面の椅子に座るペンウッド軍曹。
(本当は、共和国でも軍人の人に話したくないんだけどな……戦争に利用されるのもオウドライガーを取られるのも御免)
正直に全貌を話しながらも、彼女の足はすぐに逃げ出せるように準備されていた。もし、目の前の軍曹が自分やオウドライガーを捕えるような素振りを見せれば、一発蹴りを入れた後に窓からでも逃げ出す積りだった。
「なるほど、帝王のゾイド……古より目覚めたゾイドか」
「ッ……」
今すぐにでも逃げようかと、走る準備をしたセオリをペンウッドが止める。それも凄く和やかに。
「安心してくれたまえ、私は君とライガーを如何にかしようとは、考えていない。まぁ帝王のゾイドという存在は信じがたいが、先程の超回復……そして、搭乗者である君に起こった現象。それが、通常のゾイドと一線を置いた存在であると物語っている。そうだ、喋ったから喉が渇いただろう」
そう言い終えると軍曹は、執務室のコーヒーメーカーで新たなコーヒーをセオリに淹れる。すっと差し出された。「どうも」
「君が真実を話してくれた礼に、私も情報を話そう。あ、情報漏洩とかは気にしないでいいよ。悪くて除隊になるだけだからね。元々は科学者なのに家が軍人の一家ってだけで……話が逸れたすまない」
「あ、うん」
(なんか、性格変わってないっすか?)
(あたいも思ってた。急にフレンドリーになった)
(変身。変わった人もいるものだ)
急にキリッとした雰囲気から、へなっとした雰囲気に変わった軍曹。軽い口調で話し始める彼にユース団がコソコソと話す。最後のアインのセリフに((アンタだけは言わないであげて))と二人が同時に思った事は、アインは知らない。
「三日前、君達が戦った恐竜型ゾイド。ジェノリセッターは間違いなく帝王のゾイドというカテゴリーに位置している。そもそも、帝王のゾイドの代表が、シオンという青年の乗るジェノリセッターだからね」
「シオン……」
軍曹の言葉で気になる単語を小さな声で、呟く。
「一年前に、突如現れたシオンとジェノリセッターが、当時最前線であったオルコス草原に現れ帝国軍と共和国軍の双方を壊滅させたのが始まりだ」
「双方を壊滅?」
「うん。しかも、一撃で何もかも焼き払ったらしい。その破壊力と戦闘力を望まない訳ないだろ? そこで帝国と共和国がジェノリセッターを求め争った。だが、シオンは誰にも属さず全てを薙ぎ払った。
この段階でリスクが大きすぎると、別の帝王のゾイドを探したんだ。古代文明の遺産にジェノリセッターが『滅却せし竜皇』として残されていた。他にも3機のゾイドの情報が残っていたよ」
「村長も言ってた」
「かなり状態の良い遺跡だったんだね。というか『支配せし獣帝』のオウドライガー本体が眠る神殿だったね。この話だけでも帝王のゾイドは遺跡に眠っているっていう情報になるね」
「……一個あたいからも良いかい?」
嬉しげに話す軍曹に、横からアンナが口を出す。どうぞっと軍曹が許可すると、アンナが真剣な表情で話す。
「4機のゾイドだけで世界を滅ぼす何て事が可能なのかい? こう言っちゃなんだけど、オウドライガーとジェノリセッターじゃ性能差が有りすぎる気がしたんだよ。ジェノリセッターが4機もいれば全世界との戦争もできそうだけど……所詮は兵器であって文明を滅ぼすなんてできそうにないよ」
「ほう。そう言えば一方的な戦闘になったと聞きましたね」
「確かにあたい達よりは、オウドライガーは強いけど、ジェノリセッターの性能はセオリが一番解ってるだろ?」
アンナがセオリに申し訳なさそうに確認する。セオリも、初めて戦った帝王の強さに恐怖を覚えた。自分ではどうやっても勝てる気がしない程に。
「うーん。実は遺跡の研究仲間が言っていたんですが、遺跡の文献に面白い事が書いてあったらしい」
「文献?」
「うん。野生型ベースのゾイド……今はクローンが多くて更に希少価値が上がった種類だけど、搭乗者の精神状態で機体の性能が左右される時があるらしいんだ」
「ライガーゼロは、確か野生型だったはず……確かに私の機嫌が悪いと動きが少し悪かった」
「成程。セオリ様、ライガーゼロにも乗っていたんでしたね」
セオリが首飾りを握りながらライガーゼロを思い出していると、軍曹が手元のスイッチでモニターに古代遺跡の壁画が映し出される。
「この古代文字を解読するとね。
汝、帝王の座に座りし者。汝の欲望、憎悪、正義、愛、ありとあらゆる魂の鼓動が玉座を統べる。強大な魂にこそ玉座は応え、森羅万象の力を与えるだろう。玉座に座りし者の意思一つで、世界は終焉と再生を繰り返す。前回は、終焉が始まった。
って書かれてるらしい。かなり解読者の脚色が入ってるけどね」
「どういうことなんっすか?」
「あくまで僕の考えだけど、帝王のゾイドの性能は、ほぼ100%搭乗者の意思の力で決まっている。野生型以上に搭乗者とゾイドの共感性が高いんだ。物理現象すら超越し、ゾイドだけでなく搭乗者も回復させたりね。文献から予想するに、過去の帝王乗りは、全員が凶悪または強力な意思の持ち主で、帝王のゾイドの性能を無限に増幅させたんじゃないかな」
「性能が上がるっていたって限度があるんじゃないかい?」
アンナの意見はもっともでセオリも、幾らなんでも言い過ぎではないかと思った。だが、軍曹はふふんと得意げにモニターを操作する。
「300年前、実際に操縦者の意思に従って進化するゾイドが、世界を救っているんだ。現在の反帝国国家ファミロンの象徴ムラサメライガーがいい例だ」
「エヴォルトするっていうライガー?」
「そう、詳しく研究された訳じゃないけどエヴォルトに似た装置、というよりエヴォルトよりも永続的に搭乗者の望んだ性能を引き出せるのがオウドライガーだと思うよ」
軍曹の仮説の内容が凄まじく言葉を失う一同。
「まぁ、此処までは仮説。真実は研究しないと分からないが、正直帝王のゾイドを軍に渡してはいけない。戦争に帝王が使われれば、再び神々の怒りが起こり世界が滅亡する可能性がある」
「そんなバカな」
「いや、これはそういう兵器なんだ。だからこそ、戦争なんかに利用させちゃいけない。本来なら封印して置きたいんだけど、ジェノリセッターとオウドライガー、帝王のニ機が稼働しているのは、偶然じゃない。君の村長の予想通り、急に世界中に猛威を振るいだした帝国に何かあるんだと思うよ」
軍曹はそう言いながら、モニターの電源を落としセオリに向き直る。
「恐らく残りの二機も機動しているか、近い内に機動するだろう」
「アンタの目的は何んだ?」
通常軍人なら、力づくでも、それこそセオリを殺してでもオウドライガーを手に入れる。なのに目の前の男は、オウドライガーやセオリに危害を加えるつもりはないという。
「歴史の目撃者になること……かな」
「目撃者?」
「そうだよ、こうして帝王のゾイドの所有者であるセオリ君と出会った。その瞬間に私の使命はそれだと思ったんだ。変わった人間だと自覚しているが、人に合わせていたら自分を失う。だから私は人とは違う事をしたいのさ。オウドライガーは、整備不要だから君達の3機を修復したら、君達の自由にしていい」
「本当によかったんっすか?」
「かまわないよ。この基地にいる他の兵士も同類でね。正直辺境の地だから私みたいな異端分子を集めてるんだよ。だから、情報漏洩なんかないし、珍しいゾイド見てテンション上がってるくらいだな、そうだ困った事があればまた戻ってくるがいいさ、出来うる限り協力しよう」
軍曹はそう言って執務室を後にした。残されたセオリとユース団3人もしばらく無言が続いたが、アインがセオリに「約束。例えオウドライガーが帝王であっても、セオリ様がセオリ様である限り……仲間」という一言で納得した。
「取り敢えず、あたい達のゾイドが修復しないと薬草取りにも行けないからね。時間を潰すなら街の観光でもするかい?」
「そうっすね。セオリ嬢もお疲れみたいなんで温泉でもどうっすか?」
「……そうだな。私も少し観光と情報収集したかったからそうするね」
年長者二人の気を利かせたお誘いにセオリも、少し考える時間が必要だと了承した。
「よっしゃわかったよ。最近美容にいい温泉が沸いたって聞いたから行きたかったんだよ」
「美肌。アンナは、エステマニア、終始美容の事しか考えてない」
「あんた達と違うんだよ。あたいは今から始めておかないと後で後悔したくないんだよ」
「降参。頭が割れる!」
「あはは……」
温泉が決定するとアンナが張り切り、アインがやれやれと言った態度をとると頭部にアイアンクローをかけていた。細腕のアンナからは想像もつかない握力に、アインがタップしセオリが苦笑いを浮かべる。
「なら、早めに行かないとっすね。宿が満杯になる前に行きましょう」
「でも、オウドライガーに乗れるのは、2人迄だよ。残りはどうすんの?」
既に出発モードだが、足となるゾイドがオウドライガー一機だと足りない。しかし、そんな疑問にハットンが答える。
「非武装のコマンドーウルフをペンウッド軍曹が貸してくれるって行ってたっす。アンナと俺はそっちに乗るっすよ」
「そういうことさね」
「相席。ご無礼お許しを」
「なんで、手をわきわきさせてる訳?」
ハットンの回答。アンナが腰に手を当てて、説明するとセオリの前で掌を怪しく動かすアインがいた。
「アインは、セクハラ好きだから相乗りしてる最中、襲われないようにね」
「げっ!?」
「貴様。先に言ってしまっては楽しめない!」
「アインだけ、走ってくる?」
冷たい目をしたセオリの提案に、アインは彼女の足にすがりながら首を横に振る。
しばらく戦闘シーンは無いかもしれない。