新ZOIDS伝説ー獅子皇の章ー   作:ドラギオン

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酒場

温泉街から少し離れた裏路地。裏路地を少し進むと見えてくる100人程座れそうな大型の酒場『牙獣の恵み』では、大勢の柄の悪い男達と女達が犇めいていた。ギルドの集会場のような役割と居酒屋を合わせた施設である。

 

「うむ、良い酒じゃないか」

「本当っすね。マスター、おかわりくださいっす」

「要求。我も酒を飲んでみたい」

「未成年だから駄目だぞ。それよりこれ食べていいよ」

 カウンター席に着きながら、ハットンとアンナが蒸留酒に満足している。その横でミルクを前に置かれたアインが恨めしそうな表情をしていた。それをタンの煮込みを頬張っているセオリが嗜める。

 セオリが勧めたタンの煮込みを食べたアインは、感激しながらガツガツと残りのタンも食べていく。舌にあったのか皿にあった煮込みが無くなると追加注文していた。

 

そして、アイン達より早くセオリは情報収集を開始した。集める情報は、帝国の意向と帝王のゾイドである。まず、隣で飲んでいるおじさんに声をかける。

「あのさ、オジサン帝国の動きとか帝王のゾイドとかについて何か知ってない?」

「なんだお嬢ちゃん。帝国なんてあっちこっちで悪さしてるさ、ついこの間だってこの街に攻めてきてたらしいしな。……ん? 帝王のゾイドって事は、お嬢ちゃん賞金稼ぎかなんかか?」

「いや、違うよ」

「あんなおっかないゾイドと関わらない方が懸命だ。パイロットのシオンって男も頭がイカれてる。半年前にオジサンの知り合いもハントに行ったが死にかけて帰ってきたよ」

 

お酒で饒舌になったオジサンは、ペラペラと話してくれ、セオリも其をメモしていた。

「シオンは、目につく街や国に手当たり次第攻撃してる。あいつを手配してるのは帝国だけじゃないさ。一人で戦争してる気分なのかね~、殊更に悪いこと……一人で戦争出来る力を持ってるから始末が悪い。お嬢ちゃんもシオンみたいな奴に興味持つ年頃だろうけど、やめときな」

 

グビグビとグラスに注がれた酒を飲み話をやめるオジサン。セオリは、話の合間に入る彼女に対する注意と警告からオジサンはいい人だなと思い、追加のウィスキーを注文した。

 

「これ奢るね」

「おっとすまねぇな。俺もこんな酒場でべっぴんなお嬢さんと酒飲めて感激だよ」

 

 上機嫌に笑うオジサンに「ありがとう」と告げ他の席にいる客にも声をかけた。それ以降だが、目ぼしい情報はなく、オジサンの話と似たり寄ったりで変化が少なかった。

 この街に届いている情報は、これが限界かと諦め席に帰ろうとする。

 するとガチャーンと机や椅子が倒れ、皿が割れる音がする。

 

「畜生。何をする筋肉ダルマ!」

「大人しく従わねぇからだろうが、女だから下手に出てりゃよ」

 

 セオリから机二つを跨いだところで、アインが彼女の二倍はある巨漢と睨みあっていた。アインの周りには、倒れた机と割れた皿などがあった。

 大男に突っかかるアインだが、男が腕を振るい彼女の頬を打った。小柄のアインが床に倒れる。

 

「つっ」

「ふん、俺様に逆らうからだ」

 

 地面に散らばった破片で手を怪我したらしいアインを男が見下ろす。肝心のハットンのアンナは、久々の酒で完全に泥酔しており、役に立たない。右腕から血を流すアインを男があろうことか踏みつけようとした時、セオリが動いた。

 

「なんだその反抗的な目はぐぶっ」

「大丈夫かアイン。すぐに手当てしないと」

 

 セオリは、完全に意識をアインに向けている男の背後から、全体重を乗せた渾身のストレートを御見舞した。顔面にクリーンヒットした大男は、大きくのけ反りながら隣の席の料理に顔面から突っ込む。そんな男を無視してアインに駆け寄り背中のバックから包帯を出すセオリ。

 

「ぐっう……てめぇ」

 勢いよく机に突っ込んだ男は、顔や服を料理や酒で汚し憤怒の表情でズンズンとセオリに向かってくる。

 アインの手に包帯を巻き付け、一安心したセオリは立ち上がり男に正面から向かい合う。男は、右頬が腫れ上がり、服も料理と酒でベタベタだった。

「何だよオッサン。ん? さっきまでのダサイ格好より随分と見れるようになったな」

「このアマ!」

 

 挑発的な笑みと言葉を向けたセオリに男が丸太のような腕を振り上げ、拳を振り下ろす。本来であればセオリのような少女では大怪我をする一撃を、彼女は正面から受け止めた。

「なっ」

「オッサン、力自慢みたいだけど。こんなバカ力、女に振るったら死ぬだろうが!」

「うぐぉお、くぅう」

 

 なんと、大男の巨大な拳を、すらりと細い方腕で受け止めたセオリ。渾身の一撃を受け止められ、うろたえる男にセオリが怒りの声を上げ腕を捻る。ギリギリと細身の少女に腕をひねられている大男の姿は、先程までガヤガヤと騒がしかった酒場の空気を凍らせた。

 大男も腕に精一杯の力を込めるが、セオリの腕力がそれを優に上回り男の身体を地面にひれ伏せさせる。既に男の腕は限界まで捻られていた。

 

「は、はなせ」

「ふん」

 

 セオリは、男の腕を離す。男は自分の腕を押さえながら、セオリを睨みつける。その視線を凍るような冷たい目で見降ろすセオリ。

 

「お前、此処いらじゃ見ない顔だな……表のライガーはお前のか?」

「そうだったどうだっていうんだよ」

 

 腕を押さえながら、男が立ちあがり得意気に言った。

「後一時間後に開かれるゾイドコロシアムに参加して俺と戦え」

「ゾイドコロシアム? 違法賭博のあれ? でも、私が参加するメリットないだろ?」

「さっきからお前、帝王のゾイドと帝国について聞いて回ってただろ? 俺様は、そこいらの奴より情報を握ってるぞ」

 

 男がそう挑戦的な笑みを向けてくる。確かに此処での情報は出尽くし、他に望みも無い。其処で突如提案された情報収集のチャンス。だが、何故そのような事を男が提案するのかわからない。それに、男が情報を持っている確証がない。

「なんでコロシアムへの参加を求めるんだ?」

「俺様に恥をかかせたお前を、叩きのめす為だ。俺が勝ったら土下座して謝罪して貰おうか、仮にお前が勝てたら、情報をやろう」

 

 セオリは、とりあえず情報の信頼性があるか酒場の店主に問いかける。

「ねぇ、あいつの情報って価値があると思う?」 

 突然問いかけられた店主は、セオリと男を目で行ったり来たりした後、一息ついて答えた。

「ダーザは、この街のコロシアムチャンピオンだ。裏稼業の中でも顔が広いし、信頼性はあると思う。だが、止めておきなさいお譲さんダーザと戦って無事なゾイド乗りは」

「おっと、バーテン其処までにしろよ。で、勝負に乗るか? 後、乗らないって言うんなら……」

 

 何かを企みを孕んだ目で、セオリを見るダーザ。

「いいよ。やってやる! 一時間後に何処に行けばいい」

「お譲ちゃん!」

「お前は黙ってろ! 此処から北に2キロの所に、巨大な山がある。其処の入口で俺様の名前を出せば地下闘獣場に入れる。遅れるんじゃねぇぞ」

 

 勝負の約束が纏まった所で急に上機嫌になったダーザが「ガハハ」と笑いながら酒場の外に出た。堕座が去った後も、店はしばらくシンっとしていたが次第に騒がしさを取り戻していった。

 

「御免。我のせいで……セオリ様があんなのと闘うことに」

 シュンっと凹みながら、セオリに頭を下げるアイン。

「いいよ、アインが謝ることない」

「危険。もし負けたらセオリ様が」

 

 問題ないと言うセオリにアインが言い募る。だが、セオリは笑顔で「あんな奴に、負けるようじゃ旅は続けられない。今回は私を信じて欲しい」と良いカウンター席に着いた。

 そして、じっとお客さんの相手をしているバーテン見つめ、目線に気が付いた彼が「なんでしょうか?」とセオリに問うた。

 

「バーテンさん。ぶっちゃけコロシアムのルールって何なのかな?」

 その一言に、バーテン、アイン、周囲の席に座っていた客達がずっこけた。

「お譲ちゃん! ルールも知らないのに挑戦を受けたのかい!」

「無謀。無謀で無茶で阿呆であります! 私の信頼を返してほしいです!」とバーテンと顔布を外し、天使のような素顔でアインが言い放った。

 てへっと頭を掻きながら、申し訳なさそうに正座するセオリ。正直ダーザに足して頭に血が上っていたので、冷静な判断が出来なかったのだ。

「全く君は……」

 

 その後、呆れながらもコロシアムル-ルの『火器武装の禁止』と『相手を死亡させてはいけない』の二つを聞いた。だが、元来火器とは無縁のオウドライガーと引き金が引けないセオリである。コロシアムのルールはむしろ彼女にいい意味で作用したと言える。

(アイツはムカつく。この怒りがあれば戦える)

 

 拳を握り、ダーザに対する明確な怒りの確認と決意を胸に、残り時間を待ちに待っていると泥酔から戻ったアンナとハットンの役立たずな保護者ペアに、説教されたセオリである。

 

(納得いかない。凄く納得いかない)

 

 

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