新ZOIDS伝説ー獅子皇の章ー   作:ドラギオン

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今回は二話同時投稿です。




見えざる刺客

 孤児院から、逃げるように飛び出したアイン。彼女は現在、セイバータイガーに乗りながら街から離れた位置にある湖を目指していた。自分の感情に整理がつかず、つい飛びだしてしまったアイン。

 

(薬は、置いて来たから大丈夫のはずです)

 

 セイバータイガーでほぼ最高速度を出しながら、アインは先ほどの事を思いかえしていた。

 彼女も、危険な事をした自覚があった。しかし、それは恩人である司祭のためであり、自分の周りの人間が死ぬと言うのに大人しくなどしていられなかった。

 礼を言われるとは思っていなかったが、叩かれるとは思いもしなかった。そんな感情が渦巻き、アインを走らせていた。

 

「……。やっぱり納得いかないで、おっと!」

『グゥルウ』

 

 考え込んでいたアインは、セイバータイガーが湖に突入する直前で停止する事に成功した。後少し気がつくのが遅ければ、セイバータイガーは湖に沈んでいたかもしれない。

 

「到着。考え込んでいる間に着いたでありますか」

 セイバータイガーを伏せの状態で待機させ、アインは湖に降り立つ。微かに吹く風が、湖の冷気を纏い爽やかな風を肌に感じさせた。彼女にとってここはお気に入りの場所なのだ。

 気持ちが安らぐ場所につき、彼女の表情も少しだけ明るくなる。

 

(どうしようかわからないであります)

 

 パチャパチャと、足袋を脱いで湖の水に足を浸す。少し水の冷たさを味わったら湖の縁に腰掛けて、再び先程の行いを後悔し始める。

 

「……。もう、薬草を飲んだでありましょうか? せめて、お医者様が来てから出ていくべきだたであります……」

 

 最悪のタイミングで飛び出し、司祭の安否がわからぬ事で不安になる。だが、なんと言って戻ればいいのか分からず、再び頭を抱える。

 

『グル』

「何故。セイバータイガー、お前も私が悪いと思うでありますか?」

 

 落ち込んでいると、隣で伏せていたセイバータイガーが静かに鳴いた。そして、顔だけを持ち上げアインを見つめる。表情は無いが、何処か彼女を嗜めるような雰囲気を感じた。

 

「……。うー、わかったであります。またアインが迎えに来る前に帰るであります」

『グァウ』

 

 大人しく頭部のハッチをセイバータイガーが開いた。すぐにでも乗れと言う意思表示なのだろうか。ガクリと肩を落とすアインが、セイバータイガーに乗り込もうとした時、彼女の背筋に悪感が走る。

 

(なんでありますか? この邪悪な気は)

 

 慌ててセイバータイガーに乗り込み、周囲を見渡す。だが、彼女の視界には何も映らない。しかし、アインはすぐ傍に邪悪な気配を現在進行形で感じており、レーダーを確認する。

 

「何奴。誰でありますか! いるのは分かっているでありますよ。」

 

 コックピットのマイクを使い、気配の正体に警告をかける。既に背部のビームガトリングを発射できるように引き金に手を当てる。

 しばらくの静粛の後、アインの言った通り誰も居ない筈の森から声が帰って来る。

 

「まさか、僕の隠密行動が見破れるなんて思ってませんでしたよ」

「……。光学迷彩でありますね」

 

 若い男の声だった。男の声と共に透明だったゾイドが姿を表す。光学迷彩を解除した事で、ライガータイプの高速戦闘用ゾイド、セオリの元相棒の強化型ライガーゼロイクスが現れる。黒と青のボディー、背部には強力な電撃兵器を装備したユニゾン機を除けば、ラガーゼロの最強機体である。

 

「何故バレタのかは、置いておき僕は敵ではないので、銃を向けるのはやめていただけませんか?」

 

 姿を現わすと同時に通信で、男の姿が映る。男は、黒い髪に黒い目、服装は黒一色のブレザーのようなものを着ており、アイン達と年はそう変わらないように見えた。彼は、優しげに微笑んでいる。しかし、アインは騙されなかった。

 

「戯言。あなたは私に殺意も悪意も持っている。もし、威嚇を止めろと言うなら其方こそ、主砲を向けるなであります」

「バレましたか。正直、目撃者は全員始末して置きたいんですよ」

 

 相変わらず優しい声と笑みを向けてくる男。だが、彼の乗るイクスは、何時でも飛び出せる戦闘態勢を取っている。それに対してセイバータイガーも臨戦態勢に入る。

 

「大変失礼ですが、死んでもらえないでしょうか。もちろん、痛みを感じないようにはしますので」

「っつ! きゃ」

 

 彼が言い終わるより早くにイクスが、背部の電磁剣スタンブレードから放たれる電撃砲

エレクトロンドライバーがセイバータイガーを襲う。本来、命中すればアインも即死する一撃必殺の攻撃、アインはイクスから感じ取った気配によって事前に回避していた。

 だが、余波だけでセイバータイガーが空中に手体勢を崩す。

 

「おや、回避されるとは予想外です」

「迎撃。先に撃ったのはそちらであります!」

 

 アインもすかさず、ビームガトリングの引き金を引く。激しく回転しながらビームガトリングがイクスを目掛けて飛ぶ。

 

「おっと」

「畜生。だが、私には何処にいるかがわかるであります」

 

 ビームガトリングの掃射を回避したイクス。回避と同時に駆けだし、光学迷彩によって姿を消す。攻撃を素早い動きで回避され、再び迷彩で隠れられたアイン。だが、彼女には気配によって相手の位置が分かるという明確な確信があった。

 

 音も無く姿も見えないイクスの気配を頼りに、ガトリングの銃芯を向けて発射する。完全に息を殺し、斜め横に隠れていたイクスにガトリングガ命中する。

 

 

「な、本当に僕の位置を!」

「愚者。私に対して隠れても無駄であります」

 

バババとビームガトリングがライガーゼロイクスの頭部や前足に命中する。着弾した部分で小規模な爆発が起こりイクスにダメージを与えていく。

少しづつだが、ダメージが蓄積していく中、ライガーゼロイクスのスタンブレードが横に開く。

 

「見つかるなら仕方ない。性能で圧倒させて頂きましょう。行きますよマモン」

『グォオ』

 

『ギュア』

「ぐわあああああ」

 

男がライガーゼロイクスでビーガトリングを無視しながら突撃する。素早い動きで瞬時に距離を積めたマモンによってセイバータイガーが湖に吹き飛ばされる。スタブレードには莫大な電力が背部のコンデンサーより供給され、必殺の攻撃力を得た一撃は、セイバータイガーの内部回路と搭乗席のアインを襲う。

電撃で神経回路を狂わされたセイバータイガーは、動くことができず電撃によりアインも深刻なダメージを負う。

 

「ふむ、白兵戦は苦手なんですが、白兵戦にしか相手を痛ぶる楽しみは味わえませんね」

「貴様。きゃあ」

 

機能が停止しているセイバータイガーの頭部を、マモンが前足でガシガシと何度も強打する。男は画面越しに微笑みながら、残酷にも無抵抗のアインとセイバータイガーをなぶる。

 

「うーん、気分が良いですね。でも、僕の仕事の時間も迫っていることですし……このまま電撃で中の貴女を焼き殺しましょうかね」

「……。くっ」

 

電撃によるダメージと殴打によるダメージから、アインの体力も限界だった。どうにか意識を保ち男を睨み付けるが、それでは男の加逆心を擽るだけだった。

 

「お嬢さん。もう少し貴女と戯れていたかったが……残念です。では、最後に貴女と言う女性を完成させてあげましょうBGMは、断末魔で」

 

ニッコリと微笑みながら、マモンのスタンブレードに電流を流し、それをアインの居る頭部のコックピットに向ける。

 

(駄目であります……)

 

目を瞑り、もう駄目だと諦めた。短い人生であり、やりたいことも沢山あった。まず最優先は、飛び出してきたことを司祭に謝り和解したかった。

走馬灯のように、後悔が浮かび涙が溢れる。

 

「いいですね。その涙は大変美しい。僕は貴女の悲鳴と涙を生涯忘れないでしょう。さようなら」

 

マモンがスタンブレードを勢いよく突き刺そうとした瞬間。

 

「私の友達に何してやがる!?」

『ガォオオオ』

 

耳を刺すような咆哮と聞き覚えのある怒鳴り声が、セイバータイガーに止めを指す寸前のマモンに激突する。

 

「うぉおああ」

『グォオ』

 

(セオリちゃんにオウドライガー……)

 

猛スピードで体当たりを仕掛けたのは、オウドライガーであった。自身より大型な上に高速でのタックルをまともに受けたマモンの機体は、宙を舞ながら地面に落下する。

どうにか受け身をとったようで、すぐに立ち上がるがダメージが大きかったのは一目瞭然だった。

 

「アイン、大丈夫か? 全く勝手に抜け出して、後でアンナからお説教覚悟しろよ」

「何故。どうして此処がわかったでありますか?」

「アンナに聞いたんだよ。それにしても派手にやられたな。此処からは、私が戦うから回復したら逃げろ」

 

セオリが通信でアインの無事を確認すると、すぐさま此方を睨み付けているマモンと向き合う。

グルルと威嚇しながら、様子をうかがうマモンと佇みながらマモンを見下ろすオウドライガーが互いに殺気を放っていた。

 

「感謝。ありがとうでございまする。正直死んでいたかもしれないであります。あのゾイドとパイロットは……」

 

アインがセオリに相手の情報を伝えるより早く、セオリが答えた。

 

「あれは、金獅子の騎士団のメンバーが一人、ハサン・リンドウと相棒のライガーゼロイクス・マモンだ」

「質問。知り合いでありますか?」

 

急に相手の素性をすらすらと語り出したセオリにアインが疑問を投げ掛ける。

 

「あの人は、私の村を裏切り帝国に寝返った奴らの一人だ。正直、加虐趣味がある人だから、アインが無事でよかった。……久しぶりと言ったところでしょうか、ハサンさん」

 

アインに説明と同時に、マモンのパイロットに通信をかけたセオリ。マモンのパイロットはすぐに通信を受理し姿を見せた。

 

「おやおや、セオリさんではありませんか。つい先日、クルーゼと一悶着あったと聞きましたが……それが原因の帝王のゾイドですか。一応確認ですが、我々が裏切った事と目的はご存知ですよね? 大人しく僕に着いて来ませんか?」

「寝言は寝て言え!」

「そうですかそうですか」

 

 画面越しに再開を喜ぶようなハサン。逆に画面越しから相手を睨みつけるセオリ。

笑顔なハサンの目は殺気立っており、オウドライガーとマモンがジリジリと対角線上にクルクルと回り始める。

お互いの隙を窺いながら、ハサンはスタンブレードに電力を供給し、セオリはストライクレーザークローにエネルギーを凝縮する。互いに狙うは一撃必殺。

 

(マモンが姿を現していて良かった。光学迷彩で隠れられたら一方的になぶられるだけだ)

 

セオリは、一瞬たりともマモンを見失わぬように目を凝らす。アインが解除させた光学迷彩を使われるより先に、倒したいセオリの操縦桿を握る手に力が籠る。

 

「いい殺気を出すようになりましたねセオリ。正直、クルーゼが帝王とはいえ、村で一番か弱いゾイド乗りである貴女に負けたと聞いたときは驚きましたよ。

でも、結構様になっていると思います。だからこそ、帝王のゾイドを奪うために、貴女を焼き殺さなければならないのは……残念です」

「っ!?(馬鹿な目を離してないのに、消えられた。何処だ)」

 

画面越しに聞こえるハサンの言葉を無視して凝視していたセオリ。しかし、気が付けばマモンの姿が消えており、オウドライガーも驚きからか周囲を慌ただしく見渡す。

 

「人間やゾイドの呼吸の中にある隙を見つける。それだけで君は僕を見失い、命を落とす」

 

周囲を警戒し、姿勢を低く構えたオウドライガー。だが、突然の見えない一撃が頭部を切り裂く。

 

『ガォオオオ!?』

「うわあああああ!」

 

高圧電流を纏った攻撃が、オウドライガーの右頬から鬣までを通過する。幸いリーオですら破壊が難しい未知の素材で出来ているオウドライガーを破壊はできなかったようだ。だが、電撃は中の回路とパイロットのセオリにダメージを与えた。

 

『ガォオルル』

「おっと、反撃してきますか。隠れろマモン」

『グォオアア』

「畜生!」

 

電撃を受けたオウドライガーだが、気合いで踏ん張りつつ攻撃と同時に光学迷彩を解除したマモンをストライクレーザークローで迎撃する。

マモンの頭部を狙ったカウンターだが、咄嗟の後ろに飛ぶ行動で避けられた。鬣を少し掠める程度のダメージしか受けない事に安心したハサンが再び姿を消す。

 

「オウドライガー、まだ耐えられるな」

『ガァオガァア』

 

セオリの確認に答えるように咆哮をあげるオウドライガー。戦闘続行が可能であるが、姿形、音や気配すら消す暗殺戦法にセオリは再び構えるしかない。

 

「今度は脇がお留守ですよ」

「きゃああああああ!」

 

再び警戒するオウドライガーを嘲笑うかのように、がら空きの横腹にスタンブレードを押し付けたハサン。再び強い電流がセオリとオウドライガーを襲う。

 

今度は反撃されまいと一瞬で距離を取りながら、こちらの隙を窺うハサン。冷静でいて冷酷な暗殺タイプのゾイド乗りである彼を相手する技量はセオリにはまだない。

 

「止まってたら、やられるばかりだ」

 

セオリは、受け身な姿勢をやめてオウドライガーで湖の周りを駆け出す。瞬時に加速を始めたオウドライガーは、時速400キロに到達していた。止まることなく見えない相手から距離を取り始める。

 

コックピットで背後を確認し、四肢で地面を捕まえながらドリフトで180度回転する。

これだけ距離をとれば、相手は少なからず前方にいることになる。方向がわかれば、攻撃の際に一瞬だけ姿を表す隙を突いて仕留める算段を立てた。

 

だが、いつまでたってもハサンは仕掛けてこない。なにも起きず右側の森を風が抜け、左側の湖の水面を揺らす静寂が訪れる。まるで戦闘など無かったかのように。

 

「回避。セオリちゃん湖から離れるであります!」

 

突然、アインから怒鳴り声にも似た通信が入る。それを見て、気を取られた瞬間、オウドライガーのすぐ側の湖の水面が爆発した。

バンバンと3回に渡る小規模の爆発で、湖の水が大きく空を舞いザーと雨のようにオウドライガーのボディに降り注ぐ。

 

「この爆発は……しまっ」

湖での爆発に、何処を狙っているのかと思い視線を元に戻す。すると遠方でマモンが、尻尾を地面に下ろしアース代わりにしながら、スタンブレードを背部に戻しコンデンサーから大量の電気をチャージしていた。それは最大規模のエレクトロンドライバーが発射寸前で構えられていた。その横では、アインのセイバータイガーも未だに動けないでいた。むしろ、セイバータイガーを盾にするかのような立ち位置で銃身をセオリに向ける。

 

「僕は、他の騎士や君達と違って暗殺者です。相手の挙げ足を取り、相手を殺す。さようならセオリ」

「セオリちゃーん!!」

 

無慈悲にも、ハサンが引き金を引いた。アインは口癖すら忘れ悲鳴じみた声でセオリを呼ぶ。

 

(絡め取られた……)

 

湖を恐らく胸部の三連式キャノンで撃ったのは、故意だ。外れたと見せかけセオリの一瞬の油断を生むために。真の狙いは、巻き上がった湖の水が雨のようにオウドライガーに降り注ぐこのタイミングである。

悪魔で電撃兵器であるエレクトロンドライバーは、電気の性質そのままであり、水を流れるのである。

 

(この辺り一面に降り注ぐ雨を回避できない。それはつまりエレクトロンドライバーを回避できない)

 

電撃を通す水の弾幕を張られた今。発射された電撃は確実にオウドライガーに命中する。点ではなく面での攻撃に瞬時に切り替えられたことでセオリには回避のチャンスが失われた。

最大限まで蓄電されたエレクトロンドライバーは、瞬時にオウドライガーを襲うだろう。オウドライガーの回路が耐えられたとしても、コックピットのセオリにはとても耐えきれる電力ではない。ハサンの言う通り、焼け死んでしまう。

極め付けは、セイバータイガーを盾にしたことだ。ハサンは、未知のゾイドであるオウドライガーが銃器を持っている可能性も考慮した上で、そのような行動に出たのだ。

全てハサンという暗殺者の手の上だった。

 

 

『ガォオオオ』

 

諦めかけたセオリ。彼女を奮い立たせるようにオウドライガーが鳴く。それは電撃の到達する直前だった。

 

オウドライガーの声に反応し、彼女の胸に下げられている形見のネックレスが光る。

 

(そうだ、負けないって……もう負けないって決めたんだ!)

「はぁああああ!?」

 

セオリの奮い立った闘志に共鳴し、更に光を増すネックレス。そして、彼女の心とシンクロしているオウドライガーのゾイドコアが活性化する。

活性化したゾイドコアから、大量のタキオン粒子が放出され、四肢の噴出口から吹き出す。それが一瞬で高速回転しながらオウドライガーを守るTシールドを発動した。

 

Tシールドは、その特性の持つ台風のような回転で機体にかかった水分すら巻き込みながら勢力を増す。

その直後に迫ってきた最大威力のエレクトロンドライバー、その膨大な電力すら吸収してしまったシールドは、巨大な竜巻そのものへと姿を変えた。

 

「なんだ……マモンの最大火力が封じられた。馬鹿な」

「流石。セオリちゃんは、やっぱり強いであります」

 

必殺の一撃を防がれたハサンが初めて、戦き慌て出す。その様子を見ていたアインが友の勇姿を目に焼き付けていた。

 

「ハサンさん……さっきは完全にしてやられた。あんたはやっぱり強い。私の憧れたゾイド乗りの一人だよ。でも、私は貴方達を許さない……これからも幾度と戦うことになるだろう。それでも、負けない……今度は私の番だ」

 

ズンズンと巨大なエネルギーの竜巻としてオウドライガーが迫る。流石にこの状態のオウドライガーを相手にできないと第六感で悟ったハサンは、エレクトロンドライバーの銃身を足元のセイバータイガーに向ける。

 

「うーん、この戦法はあまり好きじゃないんですが……人質をとらせていただきます。動かずにその訳の解らない兵器を停止してください」

「無視。私に構うことないであります! きゃあああ」

 

ハサンが人質を取ると、オウドライガーが歩みを止める。アインが構うなと言ったとき、ハサンは迷わず引き金を引いた。威力は今までで一番低い牽制用だったため、アインにダメージを与えるだけだった。

だが、人質を自分は殺すことを意図和ないと証明するだけで、相手の思考は一気に狭くなる。更に付け加えるなら、死に関わる決断にトラウマのあるセオリなら更に効果的だ。

 

「おや、震えているんですか? 覚悟を決めてもトラウマからは逃げられないようですね」

 

(助けなきゃ助けなきゃ……何でこんな時に、手が体が動かない)

 

意思とは無関係に言うことを聞かぬ身体。セオリの心奥深くに刻まれた傷が姿を表す。

操縦桿を握る手が自然と離れ、両腕を組み、自分を抱く。それと同時にTシールドも解除される。

 

「変わらぬセオリさんで良かったです。優しいのは貴女の美点です。貴女の優しさで、こちらのお嬢さんは楽に死ねるのですから」

 

逆転の切り札で、勝利を確信したハサン。迷うこと無しでエレクトロンドライバーの発射準備に掛かる。

目の前のモニターには、自分を抱いてから動かなくなったセオリとダメージが抜けきっていないアイン。周囲にも気配はなく勝利は揺るがなとほくそ笑む。

 

この時彼は、オウドライガーの中で起こった変化に気が付かなかった。彼女の中で、何かが再び目覚めたのだ。

 

 

(頼む、動いてくれ。動いてくれ私の体!)

{なら、私がやってあげるわ。お姉ちゃんがセオリの事を守ってあげる……アイツを殺してあげるわよ惨く悲惨な方法で}

(何この声……頭の中で)

{私よ。イオリお姉ちゃんを忘れたのかしら?}

(嘘だ、だってだってお姉ちゃんは……)

{黙ってみてなさい。ゾイドはこうやって乗りこなすの}

 

途端にセオリの意識が体から離れ、まるで映画を見ているかのような感覚になる。

 

「うふふふ、相変わらず窮屈な服の着方ね」

 

勝手に動いている自分は、後ろで結んだ髪をほどく。更に胸に巻き付けたサラシを服に手を突っ込むことで外し、解放されたかのようにほくそ笑む。

 

「見てなさい」

 

そう通信中のハサンに聞こえない声を出す。それと同時にペダルを踏み込み、操縦桿を前に押し出す。

 

セオリの魂から、イオリと名乗る魂へと入れ替わった結果。オウドライガーのゾイドコアに掛けられていた封印が解かれ、今まで以上に活性化し始める。

活性化したゾイドコアから盛れ出るタキオン粒子が、オウドライガーのボディに刻まれたラインを通り、白く発光する。光輝く刺青のようなそれは、徐々に輝きを増しながら全体を包み込む。そして、イオリとオウドライガーが一歩踏み出すと世界が一変した。

 

「な、え」

『gyleee』

 

一歩、たったの一歩踏み出すだけ。それだけでオウドライガーは、マモンの正面に佇み前肢のストライクレーザークローで敵の顎を粉砕した。認識すら遅れる速度での一撃に悶絶するマモン。

ハサンは、何が起こったのか理解できず動けない。

 

「うふふふ、良い声で泣いてくれるのね。後、普段クールな貴方の間抜け面も悪くないわ」

 

画面越しにハサンを嘲笑う、今まで見たことのない仕草のセオリ。今のセオリから感じる気配は、別人だった。

 

「追撃。セオリちゃん、私も手伝うであります」

『グルルル』

 

マモンがオウドライガーを恐れ、引き下がる時を見計らいセイバータイガーが起き上がる。

先程、セオリを脅す目的で電撃を浴びせたことが、機能停止していたセイバータイガーを復帰させる結果に至った。復活したセイバータイガーは、ビームガトリングを容赦なく破損した頭部に連謝する。

 

『ギャォオオ』

 

破損箇所に攻撃を受けては、ライガーゼロイクス・マモンでもたまったものじゃない。ハサンのモニターに損傷データーが蓄積されていく。

 

「必殺。今でありますセオリちゃん……セオリちゃん大丈夫でありますか? 返事をしてくださいであります」

(アインが呼んでる……応えなくちゃ)

「もう、終わりなのね……。……あ、ごめん。了解止めを刺すよ」

 

急に意識が戻ったセオリ。一瞬、自分の肌けた胸元などを見て「なんだこの格好、髪型も変だし!」と自分の装いが変化しており驚くが戦闘に向き合う。

アインは、一瞬だけオウドライガーから感じた気配と傷付いたマモンを見て舌舐めずりしていたセオリの様子に畏れと危機感を覚える。だが、呼び掛けに応じた時は、違和感はなくなっており気のせいかと納得した。

 

「そのままでお願い。ストライクレーザークロー!」

 

オウドライガーを駆け出させ、飛び上がると同時に必殺の一撃を振るうセオリ。アインがビームガトリングで押さえている隙を突いた連携である。

 

「僕としたことが……ふざけるな」

 

自身の危機に、混乱から戻ったハサンがエレクトロンドライバーでアイン牽制。アインは回避行動をとるが、そのせいでビームガトリングの照準が外れる。それを見計らいオウドライガーのストライクレーザークローを横に転がることで回避した。空かさず光学迷彩で姿を完全に消す。

 

「また消えた。アイン気を付けろ」

「感知。後ろであります!」

 

アインの指示にからだが自然と動き、横にステップを踏むと、オウドライガーのいた場所にスタンブレードを両脇に展開したマモンが現れる。

 

「どうやって僕の場所を察知してるんだ」

 

オウドライガーの反撃より先に姿を消すハサン。だが、アインがいる限り居場所を察知されるために、迂闊に近寄れない。

 

(アインは、光学迷彩を見破れるのか? 私も少しでも見えれば、どうにか)

(私じゃいくら感じ取れても勝てない。けど、口で伝えていては、セオリちゃんの反応速度でも間に合わない……せめて、セオリちゃんにも居場所が目で伝われば)

 

アインとセオリは同じような考えに浸っていた。だが、先に思い付いたのは、アインだった。

 

「作成。セオリちゃん、私を信じて構えるであります」

「お、おう」

 

確認と共に、セイバータイガーは、ビームガトリングを全て湖に発射した。激しい爆発と共にオウドライガーとセイバータイガーのいる周辺を広範囲で濡らしていく。それでも、ビームガトリングを止めず雨を降らせるアイン。

 

「馬鹿な。こんな水浸しじゃ電撃をモロに」

 

これでは、ハサンの有利な状況だと怒るセオリを視線だけで制す。意味ありげな目で見られ、言葉を失いながらストライクレーザークローに再びエネルギーを込めて構える。

 

「必勝。大丈夫であります。あいつは今電撃を使いたくても使えないであります」

 

アインには、確証があった。先程セオリを追い詰めた水浸し感電作戦、水牢電鎖網と言える、あれを何故もっと早くに使わなかったかが疑問だった。湖が真横にある地形で、常に有利で居られる筈なのに、オウドライガーが距離を取って初めて使用した。そして、ほんの20秒前は、オウドライガーが謎の速度で移動した事で痛手を負った。なら、再び水牢電鎖網で速度すらも無視した攻撃を仕掛ければ良いのに、使用しない。

 

これは、二つの理由からだ。ひとつは、水浸しになれば自滅する可能性だ。もし、自身の周囲を水浸しで電撃を使えば、マモンすらもダメージを負うのだろう。

 

そして、もう一つは。

「感知。セオリちゃん、横であります」

「見えた!」

『ガォオオオ!!』

 

シャワーのように降り注ぐ雨。それが光学迷彩の迷彩を歪ませ、姿を歪にだが目視出来るようにしていた。二つ目はステルス性の損失。

 

姿を目視したセオリが、もう加速でストライクレーザークローを繰り出した。

『ガュウ』「ぐわああああ」

 

不意を突いての一撃に、反応が遅れたハサン。破壊力の籠った一振りは、マモンの背部にあるコンデンサーを破壊した。

これにより、マモンの性能は大幅に削減される。

 

「今日は引きますか」

「ま、まて。ぐぅ」

 

破損が大きいマモンでは、先頭続行は不可能だと悟り、鬣から黒い煙幕を張りながら逃走した。後を追おうとしたセオリだが、此処に来て電撃のダメージが響きだす。そして、煙幕が晴れた時には、ハサンは消えていた 。

 

「無理。もう私も感知出来ない距離に逃げたであります」

「深追いは危険か……ふぅ。とりあえず、帰るぞアイン」

「承知。わかったであります。コッテリ絞られに帰るでありますよ」

 

戦闘状態から解放され、シートに延びる二人。彼女達は、痛む体に鞭を打ちながら協会へと帰った。

 

 

----------

オウドライガーとセイバータイガーに酷くやられたマモンとハサンは、森を光学迷彩で駆けながら考えていた。

 

(帝王のゾイド、恐るべき性能ですね。それにあのアインと呼ばれていた少女も何か特別な力をもってたみたいですし。でも、一番不思議なのが豹変したセオリ、クルーゼはイオリに負けたと言っていた……あれがイオリなのか。イオリの名を聞いた団長の様子も可笑しくなったようですし、イオリについて調べますか)

 

彼の中で豹変したセオリの顔が忘れられないでいた。大胆不敵にこちらを見下し、苦痛に歪む声を優しい目で見つめるイオリ。ハサンには、自分に通ずる何かをイオリに見出だしたのだ。

 





ライガーゼロイクス
番号 EZ-054
所属 金獅子の騎士団
分類 ライオン型
全長 24m
全高 9.8m
重量 115t
最高速度 315km/h
乗員人数 1名
武装
エレクトロンドライバー×2
ドラムコンデンサー
スタンブレード×2
対物ブレードセンサー×4
エレクトロンドライバー放熱フィン×4
アースユニット
スタスティックジェネレーター×2
カッターフェアリング×2
光学迷彩

 セオリの居た村で自警団を務めていたハサンの相棒。主に光学迷彩を用いた暗殺じみた戦闘を得意とし、相手を翻弄しつつ一方的に敵機を破壊する。しかし、直接戦闘も得意で、大型ゾイド相手にも一切引く事の無い。相手の装甲を無視して電撃で内部を破壊する。ハサンの特技である相手の意識の隙間を突く戦法にて、直視されながらも瞬時に姿を消し見失わせる事が可能。
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