ユース団との行動を共にすることにしたセオリ。ユース団が再び道案内をしてくれた。
彼らは、海岸線の街によく足を運んでいたので、安全な道を知っており、何事もなく辿り着いた。
水平線が見えるほど広々とした海。海から吹く風が潮気を帯びて、独特の香りとして流れる。
雲一つない空をカモメ達が飛び、お日様の光がセオリの肌をチリチリと焼いていく。
「おぉ~これが海」
オウドライガーのコックピットから、海を一望しているセオリ。目はキラキラと輝いており、初めて見た海に感動すらしていた。
四人は、先に宿を取るとゾイドを整備を兼ねた倉庫に預けて街に出た。
「青い! そして広い!」
「はしゃぎ過ぎっすよ。ちょっと声を下げて」
「恥ずかしいったらないよ。皆見てるじゃないか」
ゾイドを降りて、改めて海を眺めたセオリが、人目も憚らず大声で叫ぶ。
はしゃぐセオリは、街を行き来する人々の目線が集中する。傍にいる年長者二人は恥ずかしがっていた。
「だって、だってさ。海って今までお姉ちゃんに聞いてて、憧れてたんだ」
「質問。お姉ちゃんでありますか?」
ふと出てしまった言葉に突っ込まれ、セオリは言葉を失う。アインはただ純粋に聞いただけだが、セオリにとっては思い出したくない事柄だった。
「……」
「答えたくない事を聞くんじゃないよアイン」
「訂正。言わなくてもいいであります。だから、悲しそうな顔しないで欲しいでありますよ……」
一変して暗い表情になったセオリを見て、アンナがアインを止める。切なそうな表情のセオリに、慌てて前言撤回するアイン。だが、セオリは首を降りながら答えた。
「いいよ。隠すことでもないしね……」
そう言って、本来の目的である帝王の乗り手である海賊団船長ヤハの目撃されると言うカジノに向かいながらセオリは話した。
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3歳くらいが私の思い出せる最初の記憶。
私には、両親が居なかった。唯一いたのがお姉ちゃん……名前をイオリという。
お姉ちゃんの姿は、今の私と瓜二つと言っていい程似ている。違うのは髪型と服装くらいで、もし並べば双子疑われただろう。
私が物心着いた時、お姉ちゃんの背中をずっと追っていた気がする。彼女が少しでも離れれば心細くなり、泣きながら彼女の裾を掴んでは、困らせていた。
あの頃は、お姉ちゃんを本当の母親だと思い、お母さんではないと教えられて大泣きしたっけ……。
まぁ私が3才と言えば、姉さんは13歳くらいだから、当然と言えば当然。
本当の母や父はいないのかと聞けば、戦争で死に、姉が赤ん坊の私を連れて逃げたのだと言われた。
当時、10歳の姉が赤ん坊を連れ、一人で育てる苦労を思えば頭が上がらない。
お姉ちゃんは、喋り方がお上品で女性らしい言葉使いをしていた。けれど、酔っぱらったり、気が抜けたりすると一人称が「俺」になり乱暴な言葉使いになった。お姉ちゃんの過去を知るオジサンに聞いたら、私を育てる上で淑女として育てたかったそうだ。
だから、ガサツで乱暴な言葉使いを自分で治して、私に言葉を教えていたらしい。ただ、私は彼女の素の話し方を覚えてしまったので無駄な労力だった。
彼女は、何かあれば私の側に居てくれた。私が怖い夢を見れば、わざわざ起きて頭を撫でながら「怖いものからは、私が守ってあげる」と微笑み眠るまで宥めてくれた。
そのイオリ姉さんだが、彼女はライガーゼロに乗るフリーのゾイド乗りだった。私の相棒だったゼロは、元々姉さんの相棒だ。
姉さんは、類い希なる強さを持っていると、当時のギルドの面々が口を揃えて言っていた。
ギルドで野生のゾイドや盗賊の討伐などを生業とし、ライガーゼロで全てを蹴散らしていた。子供の頃の私にもライガーゼロに乗せてくれて、アクロバットな動きで遊んでくれた。
私が赤ん坊の時は、紐で私を胸に括り付けながら、仕事もしていたらしい。突然泣き出す私にアタフタしながら仕事をする姉さんは有名だったそうだ。
本当に申し訳ない。
優しくて、美人で、強い。私の憧れで、今も追いかけている背中は間違いなく姉なのだ。
姉は、留守番をする事が出来るようになった私に、仕事先での土産話をしてくれた。それは、空に浮かぶ街や、海が一面に広がる国など様々だった。彼女の冒険談と共に語られる見ず知らずの景色に強い憧れを抱いたことは今でも忘れない。
ただ一度、好奇心に負けた私は、姉の留守中に冒険を求めて勝手に出掛けたのだ。
スカイボードに乗りながら、勝手な行動に出た私は、運悪く野生のゾイドのテリトリーに入ってしまった。当時6歳であった私は危機感が欠如していた。
案の定、レドラプターの群れに追われ泣き喚きながら逃げた。でも、逃げ切れるわけもなく追い詰められた。絶体絶命かと思った時、突然現れたライガーゼロと複数のゾイドが助けてくれた。
その時のゼロは、恐ろしさすら感じる程暴れ、敵を蹂躙していた。
レブラプターを撃破すると、ゾイドからギルドのメンバーとイオリ姉さんが出てきた。仕事の帰りに、私が勝手に森へ向かったと聞いた姉が瞬時に追って来たらしい。
「お、おねえちゃーーーー!! こわかった~~~!」
恐怖が消えず、泣きじゃくりながら姉に泣き付こうと走る私。
だが、彼女にすがる直前、パンという音と共に私の体は大きく後ろに倒れた。
ジュクジュクと頬と口の中が痛み恐る恐る姉を見上げる。
「ひっ」
姉は、今まで見たことのない冷たい目と激情を示した表情で倒れた私の襟を掴み上げ、もう一度私の頬を殴った。
手加減はされたのだろうが、姉に初めて殴られた私は痛みから涙は出るが声がでない。
「勝手に外に出て……こんなところに一人で。お前は死にたいのか馬鹿‼ 俺がどんな気持ちで此処まで来たか……」
ギリギリ歯を噛み締めながら、姉は私に怒鳴りながら涙を流した。そして、震える私を抱き締めながら「良かった。良かった」と声を出して泣き出した。
初めて姉の本気の怒りと泣き顔を見て、私も感情に身を任せてわんわんと泣いていた。
姉妹二人で力尽きるまで泣き続けた私達は、一緒に来ていたギルドメンバーに見守られていたらしい。
彼女は、本当に私にとっての母であり父だった。姉は、イオリ姉さんは、私にとって最も大切な人だった。
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「良いお姉さんじゃないか」
「同意。本当であります。セオリちゃんと同じ信念が強く優しい人でありますよ」
「でも、過去形が多いってことはもしかして……」
姉の話を終えユース団がそれぞれ感想を述べる。だが、セオリの話し方に疑問を持ったハットンが申し訳なさそうに聞く。それにセオリは頷いて答えた。
「お姉ちゃんは、6年前に発掘都市イブシロンで突然地中から現れたゾイドに殺された」
「イブシロン……あの一夜にして滅んだと言われる場所っすね。セオリさんは、其処の生き残りなんすね」
「そう、あれは忘れない。一機の黒いゾイドが全てを焼き払った……お姉ちゃんもそれに巻き込まれた。目の前で死んだお姉ちゃんを見た後は覚えてない……気がつけば獅子皇の村に辿り着いてた」
思い出話が暗い結末で幕を閉じると全員がセオリを見ながら黙る。
「まぁ私のお姉ちゃんは、そんな感じだな。雰囲気悪くしてごめんな」
「失敬。こちらこそ、そんなことを聞いてしまってすまないであります」
かなりの長めの話を終え、カジノに辿り着いた一向。店の外観は、分かりやすい程デカデカとマーメオルカジノと看板を掲げ、中から騒がしい音が聞こえていた。
「なんかこの前みたいに絡まれなきゃ良いな」
「今回はあたい達も飲酒しないから大丈夫さ」
「え?」
前回、泥酔して全く役に立たなかった年長組。さすがに負い目を感じているのかそう言いきった。だが、カジノに入るとすぐ側にバーが構えておりそこに並ぶ酒に目が釘付けだった。
「うわー、もう決意揺らいでそう」
「同意。あの二人は禁酒なんて出来ないであります」
「バ、馬鹿言うんじゃないよ! 誘惑になんて負けるわけがないさ」
「あれ、アンナの好きな銘柄じゃないっすか? 港町だけあって品揃えが良いっすね」
自分の欲望に忠実なハットンと彼に吊られそうになるアンナ。
二人を置いてセオリとアインが奥に進んでいく。目的の人探しより先に、大勢の客が集まり騒いでいる場所に興味が湧き好奇心で行動していた。
(カジノって初めて来たけど、ワクワクするのはなんでだろう)
(金儲けの予感。私の金運センサーが反応を示しているであります)
実はこの日、後に伝説となろうギャンブルキング二名が初めてカジノに足を運んだ日だった。そんな後にキングと呼ばれる二名は人だかりの出来たルーレット代に注目する。
厳つい漁師風の男から、セレブリティなドレスを身に纏ったマダム、果ては杖をついた老人まで様々な人がいた。その中央に褐色肌の青髪で眼帯を付けた背の高い男がいた。
軟派そうだが、見目はかなりいい方で両腕に可憐な女性を抱きながら賭け事に勤しんでいた。彼の前にはたくさんのチップが山積みになっている。
「ハハハ、今日の俺はついてる。おら、お前らも早く勝負するか決めろって」
男は常勝に気を良くしたのか、華やかな女性の手からウィスキーを飲ませてもらい他の対戦者達を煽る。他の対戦者達は悔しそうに顔を歪めている。やがて、一人の男が意地になって全てのチップを賭け始め、周囲がさらに盛り上がる。
「娯楽。凄く興味あるであります。ん? セオリちゃんどうしたでありますか?」
アインが目をキラキラさせながら勝負を見守っていると、セオリが沢井の中心である男を見て固まっている事に気がつく。
セオリは、高らかに笑う男を見た時、何故か頭に謎のイメージが浮かび上がっていた。それと同時に彼女の服の中でライガーゼロの結晶も輝いていた。それと同時に男も眼帯を押さえていた。
(なんだこれ、これはオウドライガー?)
セオリは、突然知らない空間に立っており、周囲は海と砂地の海岸。そこはセオリにとって記憶にない場所であり、周囲を見渡すと彼女の前にオウドライガーと思わしきゾイドが海に向かい佇んでいた。
だが、彼女の知るオウドラガーとは雰囲気が違っていた。まるで殺意と悪意が漏れ出すような全力でその場から逃げだしたくなるような感覚が彼女襲う。
(ち、違う? なんだこれ!?)
オウドライガーの背後を見ると、辺り一面が火の海になっており、数百から数千を超えるゾイドの無残な残骸があった。炎の中には、人の焼死体らしきものが目に入った。それは眼を背けたくなるような光景でオウドライガーと思える機体を睨みつける。
(まさかオウドライガーがやったっていうのか?)
『グォオオオオオオオオオン』
すると、オウドライガーが今まで聞いた事の無いような咆哮を天に目掛けてあげる。その王者の声は海と大地と空を大きく振わせた。その後、グルルと威嚇しながら戦闘態勢を取る。
(海から何か来た!?)
咆哮の後に、海から8本の長い触手が飛びだし目にも止まらぬ速さでオウドライガーに襲いかかる。オウドライガーはそれを見切りながら閃光となって回避する。触手の動きも常軌を異した速度でオウドライガーを追いかけるため一振りで砂場の地形が変化する。それが高速で動きまわるオウドライガーを追い続けるため、地獄のような光景だった。
網の目を潜り抜けるように卓越した技術で回避しながら、何度もストライクレーザクローで触手にカウンターを決めるオウドライガー。
そして、一本の触手をオウドライガーが牙でホールドすると、素早く海中にいるソレを釣り上げた。
(でかい。それに何だこの威圧感)
海から強制的に引き上げられた触手の正体。それは触手を合わせれば全長100Mはありそうなゾイドだった。
何故か黒いシルエットしか見えず、細かい造形は解らないがエイのような姿をし2つの青い瞳だけが見える。
そのゾイドから全身に刺さるようなプレッシャーを感じていた。
只でさえ状況が理解できていないのに、謎のゾイドのハッチが開き、それに合わせてオウドライガーのハッチが開いた。
謎のゾイドからは、カジノで見た眼帯の男と何処か似た褐色肌で赤い髪をした野性味溢れる男性。オウドライガーからは、長い白髪、赤い目のセオリと同い年くらいの女性。女性に表情はなく目は絶対零度の冷たさを秘めていた。
両者の服装は、今の時代よりも進んだ文明人のような服でそれぞれが紋章を飾っていた。
「がははは、遂に此処まで来たのか……星崩しの女王」
「……殲王、あなたとソレを滅する」
「本当に人形のようだなお主。何故、この戦乱の世で聖女とまで呼ばれた貴様が200もの国を皆殺しにするに至ったかな」
「……人は必要ない」
「お主のせいで惑星ziの人口は8割も減っておる。お主ともう片方が争う日が来れば、正真正銘の絶滅じゃな」
豪快に笑いながらも、一切の隙を見せない男性。向かい合いながら一切の感情を表さない女性。
(誰なんだ? それに会話の内容が凄すぎて……)
「……御託はいい。どうせ皆私が殺す」
「がははは、良い。人類存亡を賭け、精々競うとしようか繁栄か絶滅かをな」
二人がゾイドに乗り込むと同時に、ジェノリセッターとオウドライガーとの間に起こった力場が二機に発生した。
全く動かずに周囲の地形を衝撃波で変えていく二機。そこでセオリの謎の体験が終了した。
「意識。大丈夫でありますか!?」
「え、あ、うん。あれ私どうしてた?」
体を揺すられて漸く意識が戻ったセオリ。動機が激しく呼吸が荒い。今起こったことを思い返してみるが、説明が付かない。アインが心配して背中を擦る。
「ありがとう。もう大丈夫……なんだよあんた」
呼吸も整ったため、アインに礼を良い前を向くと眼帯の男がルーレット台から立ち上がり、セオリのを見下ろしていた。
「おぉ、気が強そうな所も好印象だ。お前、俺の子供を産んでくれないか?」
「あえ? あ……は?」
急にセオリの手を取り、求婚じみた言葉を発する男。いまいち状況を理解できていないセオリが呆けていると横からアインが男に拳を突き出す。
「滅殺。止めを刺してやるです。セオリちゃんに手を出そうなど許さん」
「ちょ、危ない」
間一髪で鳩尾への拳を避けた眼帯の男。しかし、怒りのボルテージが上がったアインが格闘家も真っ青の連続攻撃を仕掛ける。
男もギリギリで見切りながら、交わす。カジノの客達は急に始まった乱闘紛いの騒ぎに注目していた。
唯一騒いでいないのは、チップ全てを失い沈み混んでいる男だけだ。セオリがチラッと眼帯の男の居た席を見れば大量のチップが追加されていた。
「お、よく見ればお前も可憐だな。よし、お前も俺の子供を産んでくれないうお!?」
「畜生。外したであります」
攻撃を避けながら、アインの顔を見て求婚しようとすると今までにない速度で股間目掛けて蹴りが出る。生命の危機を感じたのか全力で避けた男。両者が肩で息をしながら向かい合う。
「それは反則だぜ」
「相違。ナンパ野郎に人権と生存権はないであります」
何故か目の前の相手を滅さずに居られないアインが再び攻撃に出る前にセオリにホールドされる。
「アイン、さすがに暴れ過ぎ」
セオリがアインを止めるも、時既に遅し。店の奥から黒服の連中をつれた支配人が現れる。
「ヤハ様、そしてお客様。他のお客様方のご迷惑になりますのでお引き取りください」
と勧告されたためにセオリ達はカジノを追い出された。それに巻き込まれ眼帯の男も追い出されていた。
。だが、セオリとアインは、支配人が呼んだ男の名前を聞いて驚いていた。
(ヤハって言ってたよな? こいつが帝王の乗り手)
(同意。たぶんコイツでありますよ。根っからの悪人の気配であります……こいつが帝王の乗り手だと考えると)
二人は、ジト目で隣の男を見る。例によって年長組とははぐれているため、トラブルメイカーペアが引き当てた奇跡である。
目の前の男は、ポリポリと顎を指で掻きながらセオリを見る。その視線に気がついたアインがセオリの前に出て睨み返す。
「何故か敵認定されてることは置いておいて……お前がオウドライガー乗りのセオリって奴だな?」
「なんで私のことを」
「お前達が俺を知っているのと同じだ。情報なんてもの直ぐに広まるんだ。お前が俺を探していることも知ってたから、待ってたんだよ」
「何故?」
「単純に興味があったのと……俺の帝王とお前の帝王、どちらが上か試したくてな」
「そうかよ。私も同じ気持ちだ。あんたを突き出せば旅の費用も稼げるんじゃないのか?」
ヤハが挑発気味に笑いかける。明らかな挑発にムカついたセオリが前に出る。
相手を見上げながら、セオリも相手を煽る。二人の間で火花が散り始める。元々の性格からなのか、帝王のゾイド乗りに通ずる特殊な敵対意識なのかは定かではない。
「じゃ、決闘でもするか? お前もやる気みたいだし。そうだな、日が暮れてから船着き場から大きく離れた灯台で決闘でどうだ」
「いいぜ。指定した場所からして、お前の帝王水棲型みたいだな」
「まぁ驚かしてやるよ」
睨みあいから逸早く抜けたヤハ。彼の指定した決闘にセオリが乗る。彼はセオリの了承を確認するとニヤリと笑いながら帰ると言って去って行く。少し背が遠くなった所でヤハは振り返り、セオリを揺さぶる一言を残していく。
「そうだ、つい三日前だけど。俺はシオンとジェノリセッターを倒した。だから俺は、あいつより強いぞ」
「なっ」
衝撃の発言にセオリとアインが勢いよく振り向いた時には、ヤハの姿は完全に消えていた。物凄く後味の悪い捨てゼリフを残された二人はしばらく固まっていた。
次回、第三の帝王との戦い。