新ZOIDS伝説ー獅子皇の章ー   作:ドラギオン

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いよいよ、獅子皇と海皇の決戦が始まる。


海皇

 

 ヤハとの決闘の時間。それまでの時間をセオリとアインは、以前戦闘し惨敗を起したジェノリセッターを思い出していた。もしかしたらハッタリかもしれないが、あの絶対的な強者をヤハが上回る実力者だった場合、勝ち目は極めて薄い。

 

 だが、ヤハに対する作戦も海に入らないように戦う意外に思いつかないまま、灯台にたどり着いた。幸いヤハはまだ来ておらず、周囲に人の気配も無い。

 

オウドライガーからギリギリ見える位置で、ユース団も戦闘準備を整え見護っている。正直相手の誘いに、しかも海賊の誘いに乗る事自体危険である。

 

 もう太陽も傾き、後少しで沈みこもうとした時、突然それは起こった。

「セオリさん、来るっす!」

 

 水中の僅かな音に、ハットンが気付き叫ぶ。だが、その声がセオリに届いたのと同時に海から8本のアームが飛び出しオウドライガーに迫る。その速度も反応出来るものでは無くオウドライガーの四肢に巻き付き、抵抗すら緩さぬまま水中に引きずり込んだ。

 

「セオリ! ハットン、どの位置に撃てばいい?」

「遠方射撃なんて選ぶんじゃなったっす。どんどんオウドライガーが海中に連れて行かれてる。僕らの火器じゃ海中に攻撃できないっすよ」

「沈黙。私の共感覚では、オウドライガーの闘志を感じるであります。まだ大丈夫」

 

 突然オウドライガーを連れ去られ手も足も出ないユース団。だが、アインは忍者装束を可能な限り脱ぎ、コックピットのハッチを開け空気に肌をさらす。すると彼女の肌にオウドライガーを通して通じるセオリの感情が伝わる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 一方水中では、謎のアームによって身動きの取れないオウドライガーがもがいていた。だが、アームの正体すら目視できぬ内に海底に叩き付けられた。

 

「うわっ」

『グルル』

 

 幸い海底に叩き付ける攻撃は威力が薄く、オウドライガーにダメージは無かった。そして、海底で起き上った時、正面に見た事のないゾイドがいた。

 

「あれが、もう一機の帝王」

『グルウルル』

 

 オウドライガーの正面に巨大なエイのようなゾイドが居た。カジノで見たビジョンと同じシルエットであり、今回はその姿がハッキリ見えた。ワインレッドを基調にし、全体的に刺々しい装甲のゾイド。その青い瞳はビジョンと同じくこちらを睨みつけているようだった。

 そのプレッシャーは、ジェノリセッターにも劣らず、存在するだけで迂闊に身動きが取れない。

 

「よ、いきなり奇襲し掛けて悪かったな。だけどよ海賊の俺が正攻法な訳ないよな」

「だと思ってたよ。それがアンタの帝王か」

「あぁ、最強のゾイド。ジェノリセッターの次にオウドライガーを打倒すれば、俺は実質世界最強になる」

「あなたの帝王で望む物は何?」

「……全部だ。欲しいものは全部根こそぎ手に入れる」

「なら、私はその帝王を破壊する。欲望や争いに帝王は利用させない! オウドライガー!」

「は、俺の欲望は無限大だ。お前には止められないぜ、クイン!」

 

『ガォオオ』

『キューン』

 水中にて、会話を終えた二人が相棒の名を呼び操縦桿を構える。水中にて搭乗者の声に反応した二機が、声上げる。そのせいで周囲の水が震え、周囲の魚全てが逃げ出す。

 先に飛び出したのは、オウドライガーだった。いつもの定石どおりに、相手に跳びかかり優位に立とうとしたのだが、いつもより動きが鈍く相手に回避される。

 

「な、動きが」

「此処は水中だぞ。水圧で水没しないだけ感謝するんだな」

 

 逆に水中戦用のクインと呼ばれた赤いエイは、素早い動きで水圧を気にせず移動し遠くから射撃を仕掛けてくる。頭部の隠し砲塔から放たれる、弾丸がオウドライガーに命中すると、着弾地点から泡が発生する。

 それと同時にコックピット内のコンソールにアラートが表示される。

「こ、これは、溶解弾?」

「へぇ知ってたのか。今はあまり見ない兵器だがよ、どんな頑強なゾイドでも気化溶解物質を打ち込めば倒せる。こいつは、水中でも問題なく使える兵器でね」

 

 ヤハの説明により、攻撃を受け続けるのはオウドライガーを持ってしても危険と感じるセオリ。すぐにその場から移動しようとするが、水圧で身動きが制限される。

 

「卑怯な戦法で悪いがな。相手も未知数なんだ、手段は選べねぇのよ。女の子だから特別に降参したらやめてやるよ」

 

 そう言いながら、気化溶解弾を打ち続けるヤハ。殆ど全ての弾丸が命中し、オウドライガーのボディ表面が気体に変わり泡を発生させる。

 

「ふざけるな! T-シールド」

『ガォオオ』

 

 セオリの怒りと同調したオウドライガーが、粒子噴出口を開く。だが、そこから水が浸水し、粒子が放出できない上に更に動きを鈍くするライガー。

 

「しまった」

(もしかしてTシールドを使うつもりだったのか? やっぱ海で戦って正解だな)

「水中で地上と同じ戦闘が出来る筈ないだろ。まだ降参しないか?」

「く」

 

徐々に距離を積めながら、執拗に気化溶解弾を撃つクイン。その攻撃によりオウドライガーの装甲が危険なレベルまで破壊される。

 

(このままじゃ不味い……他に何か武器は?)

 

 身動きがとれず、ガードすらできない状況下にて、セオリはオウドライガーの武装を探す。何か少しでも有効な手段はないかとコンソールを操作する。

 すると、一つだけ可能性を見出だした。

 

「オウドライガー、スーパーサラウンドブラスター発射だ」

 

 セオリが引き金を引き、オウドライガーがクイン目掛けて口を大きく開く。その様子にヤハも(何かするつもりか?)と勘繰る。しかし、何が起こるか分からず迂闊に動けない。

 

『ガォオオ-------!!!!!!!!!!!!!!!!!』

「ぬわった」

『キョーン』

 口を大きく開けたオウドライガーの口内に存在する巨大なスピーカーから、通常の何万倍にも増幅された咆哮が発せられた。咆哮と同時に海底に踏ん張っていたオウドライガーのボディも20M程反動で後退する。

 もはやその規模は、振動ではなく衝撃波として水中に伝わる。発せられた咆哮は、真っ直ぐに進み振動の壁としてクインの撃つ気化溶解弾を破壊しながら、クインに命中する。エイ型のため、的が大きくもろに喰らっていた。

 

 その威力は凄まじく、クインのボディを吹き飛ばし、海底の岩山に激突させた。コントロールを失ったクインは、抵抗できずに山に衝突しダメージを受ける。その余波は、周囲の海全てを揺らし、その海域にいる生き物の殆どを気絶させた。

 

「す、すごい。でも」

『ガォオ』

「そうだよね、相手も帝王だ。あれくらいやらないと」

 

 思いもよらない必殺技を手に入れ、恐怖感に呑み込まれそうになったセオリをオウドライガーが一喝する。今の兵器は、水中以外で使えば相手を確実に殺してしまう。しかし、そんな兵器あっても帝王のゾイドを倒せるかはわからなのだ。   

 今は恐怖に呑まれている場合ではない。むしろ、今使っておいて正解だったのだ。

 

「動かない? 死んだってことないよね?」

 

 水中で動きにくいながらも、身動きしないクインとヤハを心配し近づく。ギシギシとボディが水圧で圧迫される中、どうにか移動したオウドライガー。セオリ達の前には、岩山に激突し、海面の砂煙で姿が視認しにくい。

 

「おい、ヤハ。私の勝ちだ。なんだ」 

『グゥ』

 

 念のため、通信で相手に連絡を取るが返答がない。もしかすると、殺したのではないかと危惧した時、砂埃の煙幕から、オウドライガーの首目掛けて巨大なハサミが飛び出す。

 

 砂煙から飛び出したそれを見切っていたセオリ。だが、例に習い、動けず首を巨大なハサミに捕獲される。ギリギリとハサミで首を締めあげられ、苦しむオウドライガー。 

 すると、此処でヤハから通信がある。

 

「あぶねー。クインの持ち味が無類の防御力じゃなけりゃ死んでたなアレ。まぁ首締めあげてれば音波攻撃も出来ないだろうな」

 彼がそう言うと、砂煙が海流の流れで晴れ、驚くべきものがセオリの目に入る。

 

「な、か、蟹!?」

 

 そう、セオリが見た物はエイ型のゾイド絵ではなく、ボディはワインレッドで共通だが、どう見ても蟹の形をしたゾイドだった。急にゾイドが変わったりするのだろうか? 確かに装甲を変更したり、エヴォルトで全く違った性能を発揮するゾイドは存在する。だが、別物になるゾイドなど存在しない。

 

「驚いてるところ悪いが、今度はこっちの番だ」

『キューン』

「きゃ」

『グォオオ』

 

 巨大なハサミでオウドライガーを捕獲したクインは、その腕を動かしライガーを海底に叩きつける。そのパワーも一級品で大型のオウドライガーを片腕で何度も叩きつける。先程の気化溶解弾の後での激しい衝撃で、オウドライガーの至る所に亀裂が発生する。コンソールでは、既に警報が発生しセオリ自身も不味いと悟り始める。

(さっきまで、エイ型で今は蟹、何なんだこのゾイド)

 

 

「降参してくれないと、死んじまうぜ?」

「くっ誰が」

 

 中々我慢強いセオリに業を煮やしたヤハ。叩きつけるだけでなく、もう片方のハサミで殴打を始める。だが、それを待っていたとばかりにセオリがオウドライガーの操縦桿を押し出す。

 

「なんだと」

「はぁ!」

 

 首を掴んでいたハサミを逆にオウドライガーの牙で捉え、殴打しようと振り上げたハサミを尻尾で捕獲。まさかの逆ホールドに焦るヤハを尻目に、必殺のストライクレーザークローを水中内で使用したセオリ。爪が超高温になったせいで爆発のような水蒸気が発生するが、クインとホールドする事で吹き飛ばされず、その一撃をクインの胴体に振るう。

 

「それは不味いなクイ~ン」

『キューン』

 

 目前にストライクレーザークローが迫ると危機を察知したのかヤハが手元のコンソールを操作した。 すると、クインの胴体部分が分岐、細長いアームとなり攻撃を直前で回避した。

 更にオウドライガーに捕まっていたハサミも変形し、最初にオウドライガーを引き摺り込んだアームになる。

 

 突然理解不能な動きをするクインにセオリの思考が停止。その隙をついてなのか4本の長いアームが連結し、一本の尻尾となりオウドライガーの身体に巻き付く。

 

 完全に捕まえられ、長い尻尾でギリギリ締め上げられる。そして、唯一動く頭部の前には、大きく口を開けた蛇型ゾイドの頭部があった。

(へ、蛇!? もう訳がわからない)

「さすがに混乱してきた頃だろうな。このまま潰しちまえば俺の勝ちかな」

「ふざけんな‼」

『ガォオオガォオオ』

 

 挑発するヤハにキレたセオリ。勢いよくオウドライガーの操縦桿をフルスロットルに入れる。其に伴いオウドライガーがクインとパワー対決を始める。

 

「パワー負けした」

「うがぁ!!」

「ぶちギレてやがる」

 

 ギシギシと締め上げるクインに、拘束を力ずくで解いたオウドライガー。闘争本能を高めるセオリの心に同調したオウドライガーのパワーは凄まじく。

 先程までパワーで負けていたクインを圧倒し、その蛇型の頭部に噛みつき、顎の力で押し潰す。

 

「これ以上やるなら、コックピットを破壊する」

「まじか、それは困る。けど、俺はソコに乗ってないんだな」

 

 大抵のゾイドが頭部に搭乗するのに対し、ヤハは頭部に搭乗していないと言う。なら何処に? とセオリが余所見した瞬間、蛇型クインのボディから黒い墨が放出される。

 

 それに触れた瞬間、オウドライガーのボディが気化し始め、気化溶解弾と同じ成分だと判断したセオリが慌てて逃げる。

 

 後ろに跳ぶことで気化溶解墨から逃れたセオリ。彼女に対しヤハが通信で言い放った。

 

「仕方ないから見せてやるよ。コイツが俺の相棒、海皇スキュラクイーンだ」

『キューーン!』

 

 気化溶解墨の煙幕から飛び出した100mは在ろうかと言う8本のアーム。それらがビジョンで見たような激しい動きで煙を薙ぎ払い姿を表す。

 

「今度はイカ?」

「タコだ。見たことねぇのかよ」

 

 ヤハの操る帝王、その正体はタコ型ゾイドだった。ワインレッドは共通だが、巨大な頭部に青い瞳、全身の至るところに小規模のブレードや火器、規格外なほど長く間接の多い8本のアーム。これが海賊団船長の機体だった。

 

「言っておくが、この姿はお前を殺しちまうかもしれないぜ」

「私もオウドライガーも負けない! またぶっ倒すから喋ってないで掛かってこい」

 

 遠回しに降参を勧めるヤハだったが、強気なセオリに溜め息を吐いてから、目が据わる。

 彼の眼帯の中から光が漏れ出すと同時に、スキュラクイーンのアームが動いた。

 

「きゃああああ」

『ガゴ』

 

 水中とは、思えない速さで繰り出されたアーム。それは、セオリの目でどうにか捉える事が出来る速度で鞭のように撓りながらオウドライガーを打ち据えた。

 水中を揺さぶるような衝撃が発生する打撃を受けたオウドライガーが吹っ飛ぶ。何度も海底に衝突を繰り返し、水中を砂で覆う。漸く止まった頃には、巻き上がった砂で視界がゼロだった。

 

「悪いが、圧倒するぜ」

「うわっ」

 

 砂の煙幕を再び8本アームの高速稼働により薙ぎ払うクイン。視界が一瞬でクリーンになる。だが、そこでクインを捉えても遅かった。

 再び振るわれたアームがオウドライガーに強烈なダメージを与える。しかも、今回は吹っ飛ばさずに器用に脚を利用して何度も連続で殴っていく。

 

 その一撃の重さは、ゴジュラスギガのテイル攻撃の30倍にも匹敵する。それが8本で執拗にオウドライガーを襲う。既にボロボロだったオウドライガーにその攻撃は耐えられず、一撃ごとに亀裂が入り、装甲が剥がれる。

 

(駄目だ。強すぎる……このままじゃオウドライガーが)

『グゥ』

(せめて……水中でも地上みたいに動けたら……)

 

 もう駄目だとセオリが諦めかけた時、オウドライガーのコアが不思議な輝きを発する。セオリの胸元にある、ゼロの形見も同時に輝きセオリを包み込んでいく。

 

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(ここは? さっきの変な映像?)

 

 急に世界が暗転。気がつけばセオリはカジノで見た帝王同士の戦いの場面に立っていた。丁度途切れた部分からの再開で、二機のコアによる波動が全てを吹き飛ばした所だ。

 

 やはりエイ型のスキュラクイーンが、ヤハと同じくオウドライガーをアームで捕獲して海中に引きずり込む。

 

(やっぱりこの戦法、これじゃオウドライガーが負ける)

 

 現に今も敗北寸前のセオリは、謎の映像内のオウドライガーも負けてしまうと予期した。

だが、星屑しの女王と呼ばれた人物は、焦りもしていなかった。目は凍ったままで、表情も変わらない。

 

「海で戦うことは、想定範囲。オウドライガー……」

 

 心の籠らない声でオウドライガーを呼ぶと、オウドライガーが突然水色に発光。海中を全てを照らすような光を放つ。

 

「な、なんじゃ?」

 

 その光を警戒し、スキュラクイーンを本来のタコの姿に戻したヤハではない男。8本のアームを素早く鞭のように振るい攻撃した。

 

(馬鹿な‼)

「なんと?」

 

 青く輝くオウドライガーは、水中最強とも言える攻撃を回避したのだ。

 

(オウドライガーの姿が……)

 

 光が収まると、中から……。

「これが……オウドライガーの真価 です」

 

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 再び景色が暗転、セオリはスキュラクイーンの連打を受けている現実に帰ってきた。

 

(今の光景、もしかして……いや、そうだ)

セオリの操縦桿を握る手に力が籠る。それは、オウドライガーにも通じ瞳に光が戻る。

 

「早く認めな、お前の敗けだ」

「オウドライガー!! エヴォルト!!」

 

 ヤハの声を遮って、セオリが大声で叫ぶ。セオリの頭には、イメージがあった。それは、奇跡のような偶然で垣間見た相棒のもう一つの姿。

 

 セオリの声に応えるように、オウドライガーの全身が青く輝く。それは、先程の光景と差異はなく、ビジョンによって見た可能性の具現。

 

 縦横無尽に振るわれたクインのアーム。止めの一撃であるそれだが、青く輝いたオウドライガーが命中する直前に消える。

 

「消えた?」

『キューン』

的が無くなった一撃は、空振りに終わる。相手が消えたことで周囲を見渡そうとしたその時。

 

 ガァンという衝撃と共に、クインの胴体が大きく後ろに飛ばされる。寸是でアームを海底に突き刺すことで、その場に止まったヤハ。状況が飲み込めないまま、衝撃の発生源に目を向け、目を大きく開く。

「進化したのか、クインみたいに擬態ではなく」

 

 ヤハの前には、アクアブルーとイエローが基調で、鬣が小さく四肢に鰭のような突起物が生え、爪の形状が鋭利になったライガー型ゾイドが彼を睨んでいた。先程までの損壊部分も綺麗になり

 オウドライガーとは、かなり違った造形で別のゾイドにすら見えた。

 

「どれほどの性能か、見極めさせてもらうぜクイン!」 

『キューン!』

 

 突然変貌したオウドライガーにクインは、今まで以上に素早く8本の伸縮自在のアームを振るう。全方向からランダムに振るわれる乱舞は、通常のゾイドでは回避不可能。

 だが、オウドライガーに攻撃は命中せず、いつの間にか距離を取られていた。さらに執拗にアームを伸ばすがまるで泡を掴もうとしているかのように、空ぶる。

 

 アームが届かない位置まで後退したセオリ。彼女は進化したオウドライガーを見る。

「これが、オウドライガーの新たな力」

「何なんだそれはよ」

 

 アームを折りたたんで、エイの形に変形したクインが猛スピードで向かってくる。その変形場面を見て漸くセオリも理解した。ヤハのゾイドは、通常のゾイドと違い、色々な形態に形を変えるのだ。エヴォルトでも換装でもなく、ユニゾンですらない新たな機能だ。

 

 しなやかで関節の多いタコ型ゾイドだからこそ可能な擬態機能なのだ。もう突進しながら気化融解弾を頭部の砲塔から発射するクイン。

 それに対して、オウドライガーは口を大きく開く。

 

「またそれか! クイン」

 再び音波での攻撃をすると考えたヤハ。彼は、クインの形態を蟹型に変え、防御体形を取る。巨大なハサミをクロスして衝撃に備える。

 だが、音波での攻撃は来ず、オウドライガーの口からは、白い光線が発射された。それを見てヤハは、コックピットの中でほくそ笑む。

 

(クインの防御力は、何者ですらも突破できない。さらにクラブ形態なら防御力は更に向上、ビームなんかじゃ……え)

 

 クインのハサミに命中したレーザー。本来ならレーザー兵器は熱で相手を焼き尽くす兵器である。それが海で発射され、あろうことか海水が蒸発しないだろうか? ヤハの勘は正しく、命中した個所がパキパキと凍り始める。最初に発射した気化溶解弾も白い光線が凍りだしたために、その場で凍り付き固まる。レーザーが命中したクインのボディが急速に凍って行く。

 

「な、冷凍兵器だ? やば」

 

 気がつけば、40m程ある巨大なクインの半分が凍った。こうなれば身動きもとり難く、巨大な氷塊と

なっていく。さすがに危機を感じたのかヤハが全力で氷を割ろうとする。だが、氷の密度も厚く周囲の海水も凍ってしまうため、上手くいかない。

 

 

「水中でも地上と変わらない水圧や抵抗を無視するボディ。水中戦用の数多くの兵器、そして相手を完全に無力化する冷凍兵器。これがオウドライガー・ミラージュムーン」

「ミラージュムーンだ?」

「エヴォルトしたオウドライガーは、月の映った水面を揺らすことなき、静寂を齎す」

 

 エヴォルトするゾイドは有名である。世界中で確認されたエヴォルト対応機は、指の数にも満たない。だが、どれも時代を変革する程強大な力を持っていた。300年前、世界を救った英雄の愛機もその機能を持っていた。

 

「エヴォルトを帝王が持っているとか、反則だろ」

「擬態能力のある帝王も相当だと思うけど?」

 

 ほぼ全身を凍らされ、身動きが一切取れなくなったクイン。クラブ形態以外で戦えば、これ程酷い状態に陥らなかったなと後悔するヤハ。そこでようやくビーム照射を止めたセオリ。

 

「どうする?」

「いやー、正直一本取られたな。クインの性能を過信し過ぎていた……。本来なら負けてるくらい、無様な有様だな」

「なら」

「だから、手加減はやめた、お前は闘うに値するぜ。クイン、お前も遊びは終わりだ」

 

 ヤハの雰囲気が豹変する。しかも、凍り付けにされていたクインが、強引に氷を割ながらオウドライガーに向かってアームを伸ばす。  

 

「っ? しつこいな!」

「海賊はそんなもんだ。海で戦う事において、海賊は負けられないんだよ! ついでに言うとしつこさならお前の方が上だ」

 

 再びタコ形態のまま、アームでオウドライガーを捕えようとする。水中戦可能となったオウドライガーで海中を地面を駆けるように進むセオリ。目前に迫る攻撃を、ビジョンで見たオウドライガーのように回避しつつ距離を詰める。 

 

 海底の土を踏まずに、足の先から特殊な力場で水を蹴りながら縦横無尽に移動する。既にオウドライガーに水の中でのデメリットが存在しない。

 

「海の中でその速度は、反則じゃないか」

 

 瞬きした頃には、目前で水掻きが増えた爪で頭部を狙ってきた。正面からしか来ないセオリの動きを読んでいたヤハは、クインのアームでそれを防ぐ。

 地上で発動するストライクレーザークローと違い、青白く輝くクローは、防御した部分を瞬間冷凍し衝撃にて砕いた。ビームだけでなく、格闘攻撃にも絶対零度の効果を付属したセオリは水中では部類の強さを誇る。

 

「これでどうだ?」

「それは、卑怯だろ!」

 

 追撃を仕掛けるオウドライガーに対して、ヤハの取った策は一つ。最も効果的に防御と攻撃を両立するため、気化溶解成分の墨を全身の噴出口から放出した。そのせいで周囲一帯が墨だらけで、セオリもすぐに後ろに距離を取った。

 

「ちょっと、なんで砕いたボディが再生してるんだよ」 

 

 ほんの寸前で破壊したアームが、信じられないスピードで再生する。オウドライガーも再生能力は備わっているが、一瞬で生え換わる様子は常軌を異している。

 

「クインの持ち味は、防御力と再生能力なんだよ。ジェノリセッターが火力、オウドライガーが速度みたいにな。もう一機の帝王は何が特徴なんだろうな?」

「知るか!」

 

 墨の防御から、一方的にアームでの攻撃を仕掛けるヤハ。接近されない限り、オウドライガーには冷凍光線しか遠距離兵器は無い。なら、100m程も射程距離のある格闘戦が可能なスキュラクイーンに死角はない。

 一方的に攻め続けるヤハは、冷凍光線の発射すら許さない。回避する事で精一杯のオウドライガーは、攻めあぐねる。

 

(これじゃ、攻撃に打って出れない……どうにか、クインを海の外に追い出す戦法を考えないと、あれをもう一度)

(墨の残量も余裕が無くなってきたな、何か一撃技を……あれをやるか) 

 

 二名の思考が同じ結論に出たのは同時だった。先に動いたのはクインだった。脚での攻撃を放棄し、ボディーを動かしながら頭下でアームの付け根の部分をセオリに向ける。そこから、巨大な砲塔が姿を現す。

 それは、スキュラクイーンの最終兵器の一つ、凝縮荷電粒子砲であった。クインの頭部にあるゾイドコアが精製する濃密度荷電粒子を砲塔にチャージしそれを放った。

 

 8本のアーム全てがレールガンの砲身となり、発射された荷電粒子砲を更に加速させながら、オウドライガーに撃ったヤハ。海中でも威力が減少する事なく放たれた一撃は、オウドライガーを呑み込んだ。

 

「あ、やばい! やりすぎた」

 

 セオリを殺すつもりがなかったヤハ。だが、相手がしぶとく倒れない様子に、ヤハの方が先に限界が来たのだ。その弾みで、オーバーキルの大技を撃ってしまった事を後悔した。

 仮にも女性に対して、殺傷兵器を向けそれを撃ってしまった事がショックだった。

 

「やべぇ、おーい、生きてるか?」

 

 思わず通信でセオリに呼び掛ける。本来、生きている筈がないと頭で理解しながらも声をかけずにいられなかった。これでセオリが死ねば、勝負には勝っても、ヤハは大敗を起したのである。

 

(くそ)

 

 もう駄目だと頭を伏せたヤハ。前髪を掻きながら顔を歪める。

 

「貰った‼」

「え?」

 

 顔を伏せた瞬間にクインの体が謎の海流に飲み込まれる。完全に油断していたヤハは状況が理解できない。その間もクインは、グルグルと流される。

 

 少しして意識が覚醒したヤハは、海流の中心で佇むオウドライガー・ミラージュムーンを発見する。クインが飲み込まれている海流は、オウドライガーが発生させているのだ。

 

(この姿なら使えると思ってた)

 

 濃縮荷電粒子砲が発射されるより前に、水中にてTシールドを起動したセオリ。予想通り水中で粒子の放出と操作が可能なため、オウドライガーを中心に竜巻が発生した。

 周囲の水を飲み込み、ヤハの撃った一撃と拮抗した結果、濃縮荷電粒子砲を少しずつ吸収し無効かしたのだ。

 

 その勢いは、荷電粒子砲が止んだ後も止まらず威力を増し、最終的にはクインのボディが飲み込まれた。

 

「いくぞ!!」

『ガォオオ』

 

クインを飲み込んだまま、オウドライガーが海底から水面目掛けて飛び上がる。竜巻の中心が動けば竜巻も水面に飛び上がるのは必然。

 

「ぬわああああああ、くそおう」

『キューンキューン』

 

 文字通りオウドライガーに絡め取られたクインは、そのボディをホームグラウンドである水中から空に打ち上げられる。

 

「喰らえ‼ ブレイクメーサークロー」

 

 空中で身動きが取れていないヤハ。それを目掛けて、オウドライガーが新技ブレイクメーサークローをお見舞いした。

 

 命中した頭部は、地上でも凍りつき、クローの衝撃で砕け散った。幸いコックピットを外し表面のみの破壊で終わった。

 必殺の一撃を受けたクインは、吹っ飛び海岸に墜落した。それを追うようにオウドライガーもかいがんに着地する。

 

 再びヤハが動き出す事も覚悟して、すぐさまクインの上に圧し掛かり、頭部に爪を構える。セオリもこれ以上の戦闘は限界で、もし抵抗されたらな一撃でクインのゾイドコアを破壊する算段だった。

 

「俺の敗けだわ」

「はぁ、はぁ、つかれたー~~」

『ガゥガゥ』

 

 今宵の帝王同士の争い、勝者はセオリとオウドライガーだった。性能や技術以前にセオリの負けない心に勝てないと踏んだヤハの敗北宣言だった。

 コックピットの中で眠るように気を失ったセオリ。戦闘による疲労がピークに達し、勝利した事で緊張の糸が切れたのだ。コックピットですやすや寝むる主にオウドライガーは困惑の声を上げる。

 

 





オウドライガー・ミラージュムーン
番号announce
所属トライデント
分類ライオン型
全長34.5m
全高15.56m0
重量90t
最高速度705km/h
乗員人数1名
武装
ブレイクメーサークロー×4
アブソリュートゼロ×1
タキオン粒子流動シールド発生機(水中専用)×4
ドレインファング×1
ショックカノン×3

姿
アクアブルーとイエローが基調で、鬣が小さく四肢に鰭のような突起物が生え、爪の形状が鋭利になったライガー型ゾイド。水中の中を地上と同じように移動する事が出来るエヴォルトした姿。足の裏から特殊なフィールドを発生させ疑似的な足場を水中で形成しそれを踏む事で移動する。水中における水圧と抵抗は、ほぼ0になるボディを持ち、相手を瞬時に氷結させる兵器を用いる。搭乗するセオリは、水の流れが読めるようになる。


スキュラクイーン
番号announce
所属 海賊団
分類 ミミックオクトパス型
全長120.5m
全高40.56m0
重量620t
最高速度300km/h
乗員人数1名
武装
ビームマシンガン×2頭部
デストロイアーム×8 8本の脚で、脚を用いた打撃は、リーオ製の装甲すら破壊する威力を誇り自由自在に動かせる。
気化溶解酵素製造機 触れた物質を酸素に変換する特殊酵素を生産する。
気化溶解弾発射砲×10 気化溶解酵素を仕込んだ弾丸を発射る。
気化溶解酵素噴射口×1 弾丸ではなく墨のように噴射する範囲攻撃。
濃密度荷電粒子 デストロイアームを砲塔に発射される荷電粒子砲。発射される粒子をデストロイアームに備わるレールガン機能で加速する兵器。
レーザーブレード(デストロイアームや頭部の突起部分)
T-シールド発生装置 オウドライガーと同じ。
トランスモード変換機構

姿
 全身ワインレッドに、巨大な頭部、青い瞳、全身の至るところに小規模のブレードや火器、規格外なほど長く間接の多い8本のアームが特徴のゾイド。他の帝王二機に比べ巨大でパワーに優れている。ボディのいたる個所に隠し兵器を備えている。特徴的なのが8本のアームでのリーチの長い格闘能力、相手の装甲を無効化する気化溶解兵器、あらゆる攻撃に耐える防御力、目にも止まらぬ速度で損傷を回復する生命力などがある。高水準で製造されている本機の最大の特徴は、長いアームを用いた擬態機能である。タコ型ゾイドである本機だが、他にも蟹やエイ、海蛇など他にも無数のバリエーションの変形が残されている。変形する事により状況に応じた戦闘や相手の撹乱など非常に強力。


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