新ZOIDS伝説ー獅子皇の章ー   作:ドラギオン

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英雄の闇

6年前ーーーーー

 

 大昔にディガルド武国の暴君ジーンを妥当したとしてアインの先祖ルージ・ファミロンが英雄となった。彼の仲間達と敵であったもの達ですら手を組み平和と自由を求め戦った。

 

 先祖は、戦いが終わると現ミロード公国の象徴である壊れたジェネレイターにミロードの守り神であるムラサメライガーを封印した。

 

 そこで、全てが終る筈だった。だがしかし、先祖や仲間達の冒険や功績を称え、募ってくる人々が大勢ミロード村に集まった。

 彼らは先祖達を英雄と崇め、世界に広めていった。信者達の数が増え続けたところで、ミロードは一つの国と同等の力を得た。

 国とは人であり、人が集まれば国ができるのだ。信者達は、英雄となった先祖を初代の王に担ぎ上げ 、正式なミロード公国としてミロード村を生まれ変わらせた。

 

 ミロード公国の誕生理念は、ディガルドのジーンのような政治や侵略を許さない平和を求めるものだった。当初は、ミロード公国が存在するだけで牽制になり、抑止力となっていた。

 

 初代の王は、正直国王の地位は望んでいなかった。ただ、自分達を信頼し期待を向けられる事を拒めなかった。それでも戦争を生き抜き、世界の本質を理解していた王の統治は上手く行き、ミロード公国は大きな国になった。

 

 だが、二代目ミロード王に代が変わってから、ミロード公国は激変した。王達は、産まれたときから周囲に先祖の英雄談を聞き育っていった。

 大きな期待と新たな英雄の誕生だと周囲は、持ち上げるが、国民はルージ・ファミロンのような英雄を望んだのだ。

 過去の華々しい伝説を愛し継承した国民は、ミロード王とは英雄であると決めつけたのだ。此処から国は歪んでいく。

 全ての王は、国民の願いの象徴でしかなかった。英雄の子は英雄でなければならぬ、その固定観念が王達を押し潰す期待となった。

 特に戦争もない治世で、英雄に成ろうとすれば戦争に介入するしかない。平和を謡う国家が積極的に戦争に赴き、敵を討ち取った。

 

 そのテロまがいの活躍をミロードの国民性は、自分達に聞えの良いように改変した 。そこで、加速していった英雄像の継承こそ悪政と言えた。此れによりミロード公国周辺諸国から謙遜される事となる。

 唯一の救いは、ミロード公国の守護神となったムラサメライガーを誰も動かせなかったことだ。

 

 もし、ムラサメライガーが歴代王達に応えていれば、その力とムラサメライガーを操る者こそが正義という馬鹿げた価値観が暴走し新たなディガルドとなっていたことだろう。

 

 そんな敬意のある国。その悪しき風習を受け継いできたミロード公国に好機が訪れた。

 

 シュセイン帝国がディガルド武国のような大侵攻を始めたのだ。此れに対抗する共和国もあったが、周辺諸国の頼ったのはミロード公国だ。平和を乱すシュセイン帝国は、まさに英雄の一族が戦うべき敵。

 

 周辺諸国から謙遜され、自分達の信仰を受け入れられなかった長き期間の鬱憤が爆発し、ミロード公国は瞬く間に権威を取り戻した。シュセイン帝国と戦うのは使命を負った自分達であり、他の反帝国国家はミロード公国に支援と忠誠を誓えば勝利を導くと公布した。

 

 更に悪いことに、現王子で先祖の生まれ変わりと言われるエージ・ファミロンがムラサメライガーに選ばれたのだ。

 其はもうお祭り騒ぎで、戦争を行う前から勝利宣言をしていた。

 

 だが、ムラサメライガーこそ最強だと考える国家の前に、英雄の象徴すら凌駕しかねないゾイドが居る事実が判明した。

 シュセイン帝国の基地を一撃で葬った帝王のゾイドである。その存在が明るみに出て8年。世界は帝王のゾイドを求め、探し回った。ミロード公国も幾つか遺跡を見つけ、ムラサメライガーこそが帝王を封じる存在だと知り、図々しく他国家に広めた。

 

 だが、帝王を手に入れムラサメライガーと組ませれば、天下無敵と考えた議会は、帝王の捜索も続けた。

 

 其処で利用されたのが……現国王と第二妃の娘であるアインスフィア・ファミロンであった。身体の弱い母から産まれたアインは、幼少から肌で気配を感じとる事に優れていた。

 ゾイドの敵意や悪意、人の考えから痛み。有りとあらゆる信号を肌で感じる王女は、古代遺跡を探す事にも特化していた。特殊な気配漂う遺跡を見つけ、良ければ帝王すら探し当てる事の出来る彼女を利用しない手はない。

 

 物心つく前から、軍事利用されたアインの共感覚は、確実に彼女の心を蝕んだ。激痛やゾイドの破損すら感知してしまう幼子は、日に日に弱っていった。

 

 彼女の母が、泣きながら娘を助けて欲しいと周囲に言うが、国民の指示は得られなかった。中には、特殊な能力のあるアインこそが真の英雄では? と男の英雄を求め、英雄は一人でいい市民から恨まれることもあった。

 

 そんな中、アインの実母が病気と心労から亡くなった。味方の居なくなったアイン当時10才、彼女を救ったのはハットンとアンナだった。

 

 当時アイアンロックの小さな集落で唯一の生き残りであるアンナ。アインの実母は、アンナの命の恩人であり、全てだった。実母の遺言「娘を助けて」を聞いた彼女は、実母が死去した当日にアインを誘拐した。

暗殺術や隠密の技術を持つアンナは、軽く警備を抜けて王宮の外に出て、愛機のディバイソンで逃げた。

 其処で王族親衛隊隊長のハットン・ド・ザルツに見つかり 、交戦するがアンナの意思と慕っていた第二妃の遺言、そして彼女の忘れ形見であるアインの衰弱を見て、彼はミロード公国を一緒に裏切った。

 

 王国軍のエースと専属侍女の裏切りによる誘拐。国中が騒いだが、アンナ達は、逃げ延びた。別の国で身分を偽り名を変えながら、アインを守り育てた。

 

 逃げる先で、孤児院の司祭の世話になり、彼に実の祖父のような愛情を与えられ、心が回復するアイン。

 彼に電磁波を遮断する衣服を与えられたアインは、ストレスが減少 。更にアンナの変装術を学んだ事から、顔布をつけると性格が変化、ハットンにゾイドの操縦を教わり成長したのだ。

アンナ達は、フリーのゾイド乗りを営みながら、王女を支えた。

そこからは、セオリと出会うまで仕事をしながら過ごしていた。追手に怯えながらも。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「以上。これが全てであります」

 

実は、アインの昔話は、四日間に渡って語られた。毎日面会として一時間ずつしか会えない故に、時間がかかったのだ。だが、時間稼ぎは十分に出来た。アインの話を聞かないときは、必死にエージを打倒する策を考えていた。

 

「この国、何処かおかしいと思ったけど、理由がハッキリしたね……それにアンナは悪人なんかじゃない。部外者の私だから言える、私もアンナと同じことをする」

「セオリ、あんた」

 

 残るは、ハットンが好機とやらを導いてくれるのを待つだけだった。実質、セオリの隣で鎖に繋がれているアンナは、体力の限界が近い。

 すると、檻に何やら地響きのような振動が伝わり水差しの水が揺れる。

 

「いいタイミングだね。セオリ、檻から逃げな」

 

 調度夜になり、脱走にもってこいの時間帯。何やら外で、聞き覚えないゾイドの雄叫びと爆音が聞こえる。

 

 急いで逃げようと、アインが鍵を牢に差し込み、セオリの檻を開けた。漸く檻から解放されたセオリが身体を伸ばす。

 

「さて、とりあえずオウドライガーを回収しなきゃ」

「何故! なぜアンナの牢だけ開かないでありますか‼」

「あたいの事は、放っておいて逃げなさい。直に衛兵が来る。捕まる前に逃げ、え?」

 

 牢で縛られたまま、アンナは二人に逃げろといった。自分の牢の鍵は、特別製で近衛隊長以外鍵を持っていないことを知っていたのだ。

 

 もう諦め自分の未来よりも、セオリとアインが無事に逃げることを選び覚悟を決めていた。

 だが、突然セオリの起こした行動に呆気にとられる。

 

「うぬ」

 

 セオリは、その細い両腕で鉄格子を掴むと、力任せに鉄格子を曲げだした。全身に力を入れながらギギギと鉄格子を粘土のように曲げ終えたセオリが中に入ってくる。

 

「なんだい、その馬鹿力」

「生まれつき怪力なんだよね実は。自分をおいて逃げろとか、格好つけてんじゃない。えいや!」

 

セオリがアンナに歩みより、彼女の手枷と足枷を握力で無理やり抉じ開け、縄をほどいた。

拘束から解放されたアンナが茫然とするが、セオリが彼女の手を持って立たせる。

 

「いくよ。私一人じゃアインは、守れない。アンナが守ってあげなよ」

 

 そう言って先に地下牢を飛び出したセオリ。階段の上で「ぐえ」という蛙が潰れたような声が聞こえた。

「脱出。逃げるでありますよ……この国と決別するために」

「……仕方ないね」

 

ドレスを翻し、颯爽とセオリを追いかけたアインをアンナも追っていく。

 

 


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