転生したらネコちゃんだったから自由に生きていきます。 作:田中滅
第一話 溺れて、死んで、転生したら猫になりました
「う〜む……何処かに良いバイトは転がってないもんかにゃぁ………」
茜色に染まる夕焼け空の下、河川敷を歩く一人の女性。猫耳を彷彿とさせる髪型を風に揺らし、手に持つのは求人募集雑誌、何を隠そう彼女は職探し中なのである
「接客業、サービス業、営業、受付嬢、アパレル関係、調理関係………駄目だわ。どれもこれも前に極めたヤツしかない……はぁ…」
彼女は高校卒業後から二十代後半となる今までに数々の職を経験し、技術を身に付けてきた。然しながら元来の性格が熱しやすく、冷めやすい彼女は如何なる職業も長続きしない、金を貯めれば辞め、無くなれば働くという無限に続くループを何度も経験しているのだ
「そう言えば、最近はネット小説が売れる傾向にあるのよね……小説家とかありか?いやいや待て待て、あたしに文才は皆無。国語は毎回最下位だったわ。あっ、でも漫画なら………駄目だ、絵も描けないわ」
湧き上がる意欲は即座に自らの持たざる力である為に諦め、再び求人募集雑誌に視線を落とす
「ヘルプ!ヘルプ!」
「ケンちゃん!?」
「大変だ!ケンちゃんが!誰か助けてェェェ!」
「ん………何事?」
突如、聞こえた騒がしい声。視界を巡らせ、彼女は辺りを見回す。すると川岸で叫ぶ数人の子どもが視界に入る
「おいおい、溺れてない?まさかだけど…近くに誰も居ないのかな?うーむ……困りましたな、これは」
(誰かを助ける為に理由なんかいらないさ。父さんはレスキュー隊員だからな!)
(人を救うのが医者である母さんの役目よ)
ふと、浮かぶのは十年前に事故死した両親の言葉。本当は見て見ぬ振りをするつもりだった、他の誰かが助けるだろうと思っていた、なのに。彼女は走り出していた
自分でも理解が追いつかないくらいに、何故かも分からず、無我夢中で走っていた
「退きなさい!子どもたちっ!」
「「誰っ!?」」
騒いでいた子どもたちは、突然現れた女性に驚きを示す
「スーパーヒーローよっ!あっ、この場合はスーパーヒロインか?」
見た目は御世辞にも助けに来たとは言い難い残念な事を口走る彼女であるが、溺れる子どもには救世主に見えた
「ヘルプ!」
「捕まれっ!少年!」
差し出された手を、子どもが掴み、岸に引き上げようと踏み込んだ時だった。足を滑らせ、彼女は子どもと入れ替わるように川に放り出された
「わぷっ!?ちょっ!泳げない!助けてェェェ!ヘルプ!」
「「「アンタが溺れるんかィィィ!!!」」」
唐突な展開に突っ込みが放たれたのも束の間、彼女は意識が薄れゆくのを感じる。思えば、碌な人生ではなかった
男に振られ続け、動物にも好かれず、友人さえも居ない、花のある人生など送ってこなかった
だからこそ、彼女は願った
(もしも………来世があるなら……誰にも……ううん……全てに縛られない……自由になりたい……猫とかいいなぁ……)
《確認しました。ユニークスキル
この日、彼女は、
『起きろ』
「ん………日曜くらい、ゆっくりと寝かせてよぉ〜。母さん」
自分を呼ぶ声に気付き、彼女は目をゆっくりと開ける。周囲を見回し、その声の主を探す
『我は貴様の母ではない。それとニチヨウとは何だ?よく解らんことを言うヤツだ』
「いや日曜は日曜でしょ、月火水木金土日の日曜…………って、誰ェェェ!?」
『喧しいヤツだ。我が名は暴風竜“ヴェルドラ”。この世界に4体のみ存在する竜種が一体である。貴様は何という?小さき獣よ』
ドラゴン、そう名乗ったヴェルドラの言葉に暫くの間、沈黙していた彼女はうん?と首を傾げ、獣という単語が気になった。近くを見回し、僅かに光る水面を見付け、ゆっくりと近付く
「あら、可愛いネコちゃん………はい?」
水面に映る姿、ぴこぴこと動く猫耳、ふりふりと揺れる鍵尻尾、くりくりと動くアーモンド型の猫目。まごう事なき黒猫が其処には佇んでいた
彼女は、ゆっくりと目を閉じ、息を吸うと、「せーの!」と心の中で呟き、口を開く
「何じゃこりゃァァァ!!!」
(…………声を掛ける者を間違えたか)
可愛いネコちゃんに転生した亜結さん、彼女は謎の固形物質と出会う
NEXTヒント 喋るゼラチン
えっ?ヒロイン?なんですか、其れは。強いて言えば亜結さんがヒロインですな