無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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103.英雄試練祭8

リゼ達とレイン・クロインとの戦闘は、当初の想定以上に凄まじい規模のものとなっていた。

 

 

「こっの!!」

 

 

キィィィイイイイイ!!!!!!!

 

 

「くそっ!また防がれた!!……クリア!!」

 

「任せて、【水弾】からの【氷弾】」

 

 

 

「……これも駄目か!!」

 

 

レイン・クロインの周囲を渦巻く異様に蒼い水流。

重力に逆らって動くそれは、当然ただの水ではない。

レイン・クロインの全身から絞られるように滲み出て来た粘性を帯びた液体が海水に混じったものであり、リゼの大銃による射撃の威力を接触と同時に大きく軽減させ、液体を排出したことによって更に肉体を硬化させて完全に攻撃を防ぐという、凄まじい防御能力を持った専用の防具でもあった。

クリアが水弾を自身のスキルで凍らせることによって放つ【氷魂】による物理攻撃。それを更に水圧を持って射撃させてみるものの、やはり粘性を帯びた液体の壁に阻まれ威力を落とされる。

 

「考えろ、考えろ私……あの水流は今のところ防御にしか使っていない。そもそも操作に意識を割く必要がある以上、防御にも限度がある。雑に操作すればするほど広く薄く展開させることになるから、つまりこちらの攻撃が通りやすくなるということでもある。だから今こうしてクリアと射撃し続けていること自体は決して間違いではない。とにかく今は射撃を続けてレイナとラフォーレの支援を……」

 

思考を口に出して必死に目を動かしながら頭を回す。4発目の弾丸を装填し、熱を排出しながら次の射撃に備える。

レイナとラフォーレは主にラフォーレの指示によって今のところは現状維持を成功させており、ラフォーレの【炎弾】以外にダメージを与えることは出来てはいないものの、適度な距離をもって敵の攻撃を避け続けていた。……しかし、だからこそ十分に意識を割けていないというのもある。先ずはラフォーレ達が攻め込める隙を作るのが先か。あの攻撃力だ、一撃でもモロに食らってしまえばラフォーレであっても致命傷になりかねない。

 

「とは言え、あの水流がある以上は最大威力の射撃でなければ……だが今の状態でそれは」

 

この切り札があるからこそ、レイン・クロインも容易く攻め込めないという停滞を作ることが出来ている事実がある。ならばこの停滞を利用して、あの水流について分析を進めるべきなのか。

しかしリゼにはそんな頭は無く……

 

「ラフォーレ!!地面の砂を吹き飛ばしてあの水流に当てて!!」

 

「!……いいだろう」

 

スズハが突然、あの小さな身体の可能な限り大きな声でそう叫ぶ。それが確かにラフォーレに伝わったのかは微妙なところだが、しかし朧げながらに聞こえた単語でもラフォーレは言われたことを理解したのだろう。

 

「?………っ、こうか!!」

 

「そうだ愚図、【炎弾】!」

 

ラフォーレが一瞬自分に目配せをしたことに気付き、咄嗟にまだ射撃の出来ない筈の大銃を構えて敵に照準を定める。そしてそんな自分に気付き水流を再び展開したレイン・クロイン。

それを見たラフォーレは炎弾で地面を吹き飛ばし、スズハの指示通りに展開された水流に向けて大量の砂を被せた。

 

「これは……」

 

「次よ!クリア!水弾をあの水流に当てて!可能な限り大きめで!」

 

「え?いいの?」

 

「いいから!」

 

「了解、【大水弾】」

 

今度は逆にクリアに水弾を要求したスズハ。クリアの放った大きめの水弾はレイン・クロインに向けて直進し、展開された水流ごと巻き込んで爆破した。大量の水を浴びて不機嫌そうな顔をするラフォーレ、当然ながらレイン・クロインにはそれほどダメージはない。そもそも深海すらも縄張りにしているような相手だ、水属性による攻撃はあまり意味をなさないだろう。……それでも。

 

「スズハ!?水流の勢いと規模が増したんだが!?」

 

「予想通りよ!」

 

「駄目じゃないのか!?」

 

「問題ないわ!リゼ!クリア!同時に撃ちなさい!狙いは敵の身体よ!ちゃんとフェイクは入れて撃ちなさいよ!」

 

「わ、わかった!……クリア!射撃のタイミングを合わせるから好きに撃ってくれ!」

 

「おっけーい」

 

スズハに言われた通り、リゼは目を細めて自分の目だけで照準を定める。狙う先はスズハの言われた通り敵の身体、そしてその中でも特に水流が浮遊していない尾に近い部分。加えて……

 

「いくぜーい、【尖氷弾】」

 

「っ……今だ!!」

 

クリアが氷弾を射撃した直後、それと軌道がクロスするような位置取りになるようリゼも遅れて射撃する。それはもちろん最小威力故に、銃口を蹴り上げた照準時間ゼロの抜き射ちだ。

弾丸のサイズは氷弾の方が遥かに大きい、しかし弾丸の速度はリゼの大銃の方が遥かに早い。それを氷弾を追うようにして撃ち込み、軌道の途中でクロスさせた。これを完全に避けるとするのであれば、相当な思考を要求される。

 

「【炎弾】」

 

「っ、流石ラフォーレ……!」

 

そして視界を隠すように、ラフォーレが炎弾をレイン・クロインの顔面に向けて回避行動中の半ば無理矢理な体勢から打ち当てる。

そこまでしてスズハが確かめたかったこと、それは……

 

 

――――――ギィィアイィィィァァィイィィイ!?!?!?!?!?!?

 

 

「当たった!?水流を貫通出来た!?」

 

「それもあるけど……やっぱり、そもそもの水流の操作すらままならないみたいね」

 

「ど、どういうことだい?スズハ」

 

「そもそもの使用用途が違うのよ。あの能力は決して、戦闘で使うようなものじゃない」

 

リゼの弾丸は水流を貫通し、クリアの氷弾もまた水流の防壁が追い付かずにレイン・クロインの腹部に直撃する。

明らかに先程までの妨害力がなくなっている。

リゼの射撃がダメージになっている。

規模の割に、質が悪くなっている。

 

「元々あれは水中での移動をスムーズに行うために使う能力ってことよ。特殊な体液で水の抵抗を減らすことで、あの巨体もある程度自由に動かしてる。……高速移動の際には体液を広く薄く散布して大量の水を高速で動して、一方で細かな動きをする際には濃度を上げて少量の水を強引に動かす。あれはそれの応用に過ぎないわ」

 

「そうか!つまり体液の濃度を薄くするほど質は水に近くなって、大まかにしか動かせなくなると!」

 

「それと恐らく体液の操作が可能な範囲はそれほど広くないわ!そこまで広かったらむしろ移動中に不便だもの!」

 

「流石だスズハ!!」

 

そこまで分かったのなら、もう十分。

あとは水弾で防御性能を減らして、そこをリゼの射撃で撃ち抜けば……

 

「避けろ愚図!!!」

 

「え?………ぬわぁああっっ!?!?回避ぃっ!?!?」

 

瞬間、レイン・クロインの口内から凄まじい勢いの水流が放たれた。まるで砂浜を真っ二つに切り刻むかのように放たれたそれは、一瞬にしてリゼの元へと到達し、間一髪、その脅威的な動体視力と【回避のスフィア】を使用することでなんとか避けることは出来た。

 

……しかし、ここに来てまだ隠し球。

果たして他にもまだどれほどの隠し球を持っているのか。そうでなくとも堅牢な肉体、巨大な図体。

少なくとも今の水流はリゼだからこそ避けられたものの、これをクリアやスズハに撃たれていたら間違いなく死んでいた。リゼの脅威を敵が既に知っており、今もそれを定期的にチラつかせて敵の気を引いているからこその結果だ。ラフォーレが最初に敵の気を引けといっていた理由は、正しくこれ。リゼにしか対処出来ない攻撃というものもあり、基本的に初見殺しの攻撃は目の良いリゼが受けるべきと言える。

 

「これは……もしかして、長期戦になりそうかな?」

 

既に初撃の顎の破損部分からは体液が漏れ出ておらず塞がっており、リゼが脚に撃ち込んだ銃弾による損傷箇所からも徐々に流れる血の量が減り始めている。……小規模ながらも再生能力持ちということだ。まだまだ体力も有り余っているように見え、敵の能力の一つを把握したとは言え、まだまだ底は見えてこない。

 

「……本当に、砂浜は体力を持っていかれるから苦しいのだけれどね」

 

しかも海水に濡れて一面ドロドロで。

ここから先、すごく泥臭い戦いになりそうだ。

体力を減らして、損傷を増やして、動きを弱らせて、トドメの一撃を刺す……その役割を担うレイナを明らかに温存させているラフォーレの考え。リゼに任された役割は、馬車馬の如く走り回り、残り7発となった弾丸を確実に敵の身体に叩き込むこと。

まだなんとかなるとも。

まだリゼでも対応出来る範囲、絶望に浸りはしない。

 

 

 

 

 

 

「そんな訳、あるかぁ!!」

 

「ふっ」

 

「っ、早い……!」

 

2人の少女が巧みな連携によって仕掛けた槍による攻撃を、黒い外套に身を包んだ少年が軽やかに跳んで避ける。彼の両手は未だに衣嚢の中、武器すらその手に出してはいない。しかしそれでも2人の少女が次々に繰り出す双槍による苛烈な攻撃を、少年は容易く避け、捌き、息一つ乱すことなく飄々と受け流していた。

 

オルテミス入口の大門にて、既に数人の門番達が意識を失っている。ここを守っているのは2人の少女達で、そして攻め込もうとしているのがその少年でもあった。

……もちろん、この余裕な様子からしても本当に攻め込む気は無いのかもしれないが。仮にそうであったとしても、ここを明け渡す訳にはいかないということは馬鹿でも分かる。少女達は奇しくもグリンラルでもそうであったように、再び都市の入口を死守する最重要な役割を担っていた。

 

「っ……この人、強い。強いっていうか、早い!」

 

「ん、単純にステータスが高過ぎる」

 

「ああもう!早くリゼちゃん達を助けに行かなきゃいけないのに!あんな怪物、絶対変な力持ってるに決まってるもん!!」

 

「同感、だけど……」

 

 

 

「あぁ?ンなことさせる訳ねぇだろうがバカ女共」

 

 

 

「……口の悪い人は苦手かなぁ」

 

「それも同感」

 

分かるとも、敵は明らかに格上だ。そのステータスだけで想定するのであれば、この街の上位探索者に匹敵する。一体どこにこんな逸材が隠れていたのかと思うほどで、少なくとも現在の2人:ブローディア姉妹では正面からやり合えばまず間違いなく負ける。そもそもマドカ・アナスタシアの最初の弟子である2人の少女は、その評判に反してレベル自体はそれほど高くない。両人ともLv.25、この街に於いては大凡平均的と言っていいだろう。……しかしそれでも、2人の目には特に絶望の色は混じっていない。焦りはあっても、それは自分達にではなく、リゼ達の身を心配してのもの。

 

「……よし、さっさとやっちゃおう。リエラ」

 

「うん……そんな大した相手じゃない、ステラ」

 

 

「あぁ?」

 

 

「「【水斬】………!!」」

 

「!?」

 

ブローディア姉妹は元々揃ってSPDの値が高い傾向を示していたステータス傾向を持っていた。現在はレベルが上がるにつれてその傾向も改善してはいたが、それ故の怪我というものが当初は本当に絶えなかった。……故にこれを身に付けられたというのは、彼等にとっては正に報われたと言っても良いのかもしれない。

 

「早ぇっ!?」

 

「早いだけじゃ!」「ない」

 

「っ!!」

 

激しい水流を伴った二本の槍を交互に凄まじい速度で穿ち放つ……だけではない。彼等2人の真骨頂は双子として培って来た互いの信頼と理解度により実現する、異次元的なコンビネーションである。その身体能力もあり、まるで曲芸のように二身一体となって次々と放たれる予想不可能な乱撃。そして何より苦しいのが。

 

「おりゃぁあああ!!!」

 

「こっ、のっ!クソ女ァ!!」

 

「リエラのことを悪く言わないで」

 

「グッ!?………クソがぁ!!」

 

その異次元的な動きを、高速戦闘による3次元的な動きにまで発展させることが出来ること。

例え壁や天井などのない広々とした空間であっても、彼等は互いの身体を使うことでそれを成すことが出来る。それこそが彼等だけの特別であり、彼等だけにしか許されない特権でもあった。

相手の槍を掴み、槍と槍を重ね合い、空と地上の両方から完全に同時に突き付けられる攻撃。迎撃を行おうとすれば反対側から妨害が入り、それは致命的な隙となって襲いかかる。

 

「調子に……!」

 

「のってるのは!!」「そっち」

 

「ぶっ!?」

 

蹴りによる攻撃を受ける直前、ステラはリエラを上空へと蹴り上げ、そのままの姿勢から槍による足払いを仕掛ける。そうして体勢を崩した所にリエラは槍を振り下ろし、間一髪でそれを捌かれた直後、まるでその行動すらも読んでいたかのように下から投げられたステラの槍を掴み取り、男の顔面に石突の部分を全力で叩き込んだ。

 

「もう一丁!!」「任せて」

 

「なっ……ごっ!?」

 

更に吹き飛んだ男に対し、ステラは背面で槍を受け取ると、その場から前方へ大きく跳躍し、互いの槍の石塚の部分を異様にピッタリと接着させた。そうしてリエラが全身の力を込めて彼女を射出すると、凄まじい速度でぶっ飛んでいったステラの蹴りが男の腹部に追い討ちをかけて直撃する。

このような追撃が来るとは少しも想定していなかった男はその一撃をモロに受けてしまい、ゴロゴロと門から遠く離れた位置まで吹き飛ばされてしまう。

 

……姉妹が時々見せる、スフィアを使っていないにも関わらず生じている明らかな物理現象の無視。例えば急に姉の方が空中で落下速度を早めたり、今のように槍同士を石突で奇妙なほどにピッタリと合わせたり、完全に不可能だと思われるような挙動すら実現して攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

(こいつ等……)

 

彼とて戦闘経験は豊富にある、そのレベル相応の物は。しかしそれであっても、数の不利があったとしても、この2人は明らかに中位の探索者などという生優しい存在ではない。

 

「……やっぱり、対人戦闘には慣れてないんだね」

 

「………あぁ?」

 

「ステータスは高い……でも、活かせてない」

 

「勝ち目は無いよ、投降して」

 

 

 

『…………ア"ァ"!?』

 

 

 

「「っ」」

 

 

……さて、ならばここからだ。

別に互いに分かりきっていたことだ。

互いに見せているのが全てではないと、こんなものはただの小手先の探り合いでしかないと。……その程度で終わるような相手がここに来る訳がないと、そんな相手ではないと。

それは彼が外套を取り払い、晒した素顔と共に放たれた強烈な威圧感に対して、少女達もまた顔を歪ませただけで、それほどに驚いていないことからもそうだ。

 

ガリガリガリ……と、男はその奇妙な金属が取り付けられた靴を地面に擦り付け火花を散らせながら立ち上がる。発火する金属部、生じた炎は未だに地表を揺らめいている。そして異様なのは、あれほどにブローディア姉妹の水斬を受けたと言うのに、全くと言って良いほどにダメージを受けていないその衣服。

まるで怒り狂った獣のような形相をしたその少年は、ブローディア姉妹からすれば、むしろそちらの方が驚いたくらいだった。まさかこれほどのステータスを持っている人間が、顔を隠していた時から分かってはいたものの、本当にこんな少年だったなどと。それもその少年には顔面に酷く大きな切傷が刻み込まれていて、その眼から滲み出る濃厚な負の感情は、こうして対峙していても眉を顰めたくなるほどに研ぎ澄まされたもので。

 

「………君の名前を、聞いても良いかな?」

 

 

「………イプシロン」

 

 

「イプシロン……?」

 

もちろん聞いたことはない。

しかし名前の雰囲気的にも、やはりあのアルファという男の関係者であるということは確かだと思ってもいいのだろう。今回のこの騒動の全てがあのアルファの仕業だとして、やはりあの男には仲間が居る。そして厄介なのが、その仲間達はどうやったってステータスが高い、まさに目の前の人物を集めたような集団であるということ。

 

「何が目的?私達は引いて欲しいだけ」

 

「目的?………巫山戯んな、巫山戯んじゃねぇ!!!全部テメェ等のせいだろうがぁぁあ!!!!!!!!!」

 

「っ!?」「【回避】!!」

 

尋常ならざる初速と共にリエラに向けて放たれた炎を纏った蹴りを、ステラが咄嗟に『回避のスフィア』を使用して回避する。踵落としのように放たれたそれは地面に直撃した瞬間に小爆発と共に土砂を噴き上げ、強烈な火花を散らし、更に纏う炎の量を増した。

灼熱の炎を自らの足に纏いながら、それでもただ純粋な怒りをこちらにぶつけてくる彼。ステラはその威力に驚いていたが、リエラは少年のその様子に驚いていた。彼が単なる悪人ではなく、もしかすれば彼もまたアルファに利用されている犠牲者であるという可能性に。

 

「死ね!死ね!!死んじまえ!!テメェ等全員、この街のクソ野郎共も全員!!!!全員纏めて、ぐだばりやがれぇぇええええ!!!!!!!」

 

「っ!ま、待って!落ち着いて!!話を聞かせて!!そうじゃないと……!」

 

「ステラ!!駄目!!」

 

未熟な少年、怒りを撒き散らす力を持った子供。当たり散らす様にして街と陸地を繋ぐ橋を破壊し、街壁に穴を空け、門を吹き飛ばす。姉妹が必死にそれを押さえ込もうとするも、しかし彼がその足を振り下ろし、叩き付けるほどに、その両足から生じる獄炎は勢いを増していく。既に近づくだけで火傷してしまいそうなほどに燃え上がったその様子に、2人はただ距離を取ることしか出来はしない。

 

「あああああああああぁぁぁぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「〜〜〜っ!!ステラ!!」

 

「【水弾】」

 

ステラが腰から取り出した小杖を向けて、水弾のスフィアを発動する。しかしステラは確かにINTがある方ではあるが、クリアやラフォーレのような驚異的と言えるほどの魔法を扱える訳ですはない。それも小杖から射出される様な魔法規模ではその炎を一端を消すことすらも出来ず、ただただその少年の怒りを買ってしまっただけのように見えた。

 

「殺してやる………全員皆殺しにしてやる!!!!!!」

 

「これ以上したら!貴方も呼吸出来なくなっちゃうよ!!」

 

「ぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

ガン!ガン!と、彼がその場で床を地団駄するように蹴りつけるにつれて、凄まじい火花が飛び、靴に纏う熱量が増していく。彼自身もその顔面に火傷を負いながらも、少しずつ呼吸が出来ていないのか顔色を悪くさせながらも、そのステータスと怒りによって強引に意識をしがみ付かせ、離れた位置にいる姉妹も汗を流し始めるほどの凶悪な豪炎を発生させていた。

……不味い、と単純に妹のリエラはそう思う。あれほどの熱量というだけで不味いのは分かるが、そもそもその破壊力があまりにも未知数だった。先程までの段階であってもオルテミスの門や橋を破壊するには十分だったもの、それをここまで高めて爆破させれば、果たしてどれほどの被害が出るか。そうでなくとも彼の視線の先に居るのは自分達。SPDはそれほど変わらないとは言え、あんなものを近くで爆破させられてしまえば2人ともタダでは済まない。少なくともどちらかは死ぬ可能性が現実的に生じてくる。

 

「……リエラ、全部寄越して」

 

「ステラ!?何をする気!?」

 

「殺すしかない」

 

「殺すって……駄目だよ!それにそんなことしたらステラも!!」

 

「私は大丈夫」

 

水弾を放った直後、これではもう意味がないとリエラはスフィアの切り替えを行っていた。それはマドカから教わったことの一つでもあり、意味がないと判断した時点でスフィアの交換は行うという鉄則。そしてリエラがセットしていたのは、赤色、青色、黄色の3色のスフィア。本来ならばスフィアの発動条件に違反し、全ての効果が発動しないはずのその組合せ。しかしそれを見た瞬間に、リエラは顔を泣きそうなほどに歪めて俯く。

 

「…………使うの?」

 

「うん、だから全部寄越して」

 

「………………………分かった」

 

「ん、ありがと」

 

「……ううん、ごめんね。情けないお姉ちゃんで」

 

「そんなことない」

 

リエラは自身の槍をステラに手渡し、ステラは腰のスフィアに手を添える。既に灼熱は周囲の石材を溶かし始めるほどにまで膨れ上がっており、炎というより光ではないかと思うほどの状態へと変化していた。

……それでも少したりとも変形していない彼のその黒色の衣服。分かるとも、彼の持っている全てが今のオルテミスの技術を遥かに上回る物であると。そしてその力に対抗するには、今のオルテミスでもそれほど広まっていない、そもそも使用出来る者自体がそもそも限られる、この隠し玉を使うしかないと。

故に覚悟は決まっている。そもそもステラ・ブローディアはそれほど覚悟を決めて物事に臨むことは少ない。だからこういう場合は、姉のリエラよりも自分の方が適任だと考えている。……姉には姉の適した場所があると、そう思っている。今更1人2人人間を叩き斬ろうとも、自分はどうも思わない。

 

「……ん、それじゃあ」

 

 

 

 

『【水斬】【水斬】【水斬】』

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

 

『消火調整版【滝水斬】』

 

 

それは正しく、ステラが腰の3つのスフィアを同時に触れようとした瞬間の出来事であった。

聞いたことのある台詞、聞いたことのある技名。そして直後、生じたのは街の壁面上部から突き込まれた2人がよく見慣れた消火用に調整された超大規模の水斬。それは灼熱を纏う少年に彼にダメージを与えない程度の流速で並々と大量の水を叩き込むと、熱量も炎も全てを圧倒的な質量で抑え込み、彼の身体ごと破損した橋の下の海面へと叩き付けた。

弾け飛ぶ水飛沫と、周囲を覆う水蒸気。街と陸地を繋いでいた大橋は完全に破壊されてしまい、ステラはリエラを抱えて物陰に隠れてその衝撃から身を守る。

 

「マドカ………さん……?」

 

晴れていく蒸気の中、海面から飛び上がり肩に気絶した少年を担いだ1人の女性の姿。彼女もまた少年の様に黒い衣服で身を隠しているが、一度海に飛び込んでしまったからか、真っ白な長い髪が外套の中から外へと流れていた。その美しい白髪は2人がよく知っている彼女のものと瓜二つで、けれどどう見ても2人の慕う彼女よりも背丈が小さくて。

 

「待って」

 

「っ、ステラ……」

 

そのまま何事もなかったかの様にして2人の目の前を通ろうとする彼女に、ステラは立ち塞がる。

何が何だか分からない、しかしそれでも目の前の人物をこのまま行かせることだけは違うと、それだけは分かる。それに少なくとも目の前の人物はマドカではない、それは単なる勘ではあったが、常に彼女を目指して努力して来た2人だからこそ分かることだ。

 

「あの、貴女は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【退ケ】

 

 

 

 

 

 

 

「「………………………ーーーーーーーーッッッッツツツツ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」」

 

紅の瞳が2人を貫く。

瞬間、過ぎったのは2人の首が引き裂かれるあまりに明確で明瞭な殺気によるイメージ。首の8割ほどまで剣によって切り裂かれ、その命が終わる瞬間を現実と見紛うほどにまで研ぎ澄まされ突き付けられた、死の幻想。

全身から活力を奪われ、足がすくみ、尻餅をつき、首を確かめる。バクバクと鳴る心臓と荒れた息の中、滲み出る涙によって滲む視界のなかでも自信と周囲、つまり現実を再確認する。必死になって自らの首を触り、それよりもと同時に互いに顔を向き合わせて、相手の生死を確認する。

 

「ぁ」

 

……生きている。

自分はいい、それよりも相手が生きている。

片割れが生きている。

 

女はそんな2人を置いて離れていくが、最早そんなことはどうでも良かった。

 

2人は互いに抱き合い、ただ涙を流しながら蹲ることしか出来ない。けれどそれで良かった。だって彼等にとって大切なのは、何より互いでしかないのだから。2人で生きて来たからこそ、もう1人で生きていくなんてことは絶対に出来ないのだから。

 

 

 

 

圧倒的な力の差?

 

あれはそんな生優しいものではない。

 

あれはバケモノだ。

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