2本の剣を持つ非常に攻撃的なその戦闘法は、意外と実践している人間というのはそれほど多くはない。理由としてはあまりに扱い辛いからだ。それこそ初心のうちはそういった探索者を見掛けることもあるが、そんな彼等も次第に片手剣にしたり、片手を小楯に変えたりしている。……ぶっちゃけ、このスフィアというシステムと双剣というスタイルが全くと言って良いほどに噛み合っていない。スフィアを叩く必要がある以上、片手は可能な限り自由に出来ていた方がいい。特にスフィアの交換が必要になってくる中級以上の探索者となれば、それはより必要な要素になってくる。
「こっ、のっ……!」
「ハァッ!!」
だからこそ、そもそも双剣を相手にした立ち回りというのはあまり確立されてはいない。そして同時に、その条件下においても双剣を使っているような物好きは、総じて異様に実力が高い。例えばそもそもスフィアを最低限しか使わなかったりとか、逆にスフィアの扱いが変態染みているとか、例えば戦闘の組み立て時点からその欠点を補っているとか……
「全部お前のことだよマドカぁ!!」
「突然何の話です……かっ!!」
「ぐぅっ!!」
押されている。
スフィアをまだ一度も使用していないマドカに。
この英雄試練祭の最中でもアルファはマドカと手合わせをし、ほとんど互角程度の攻防を繰り広げた。最後に敗北はしてしまったとは言え、ステータスの差を考慮せればそれも補える。しかし今回違うのは、アルファが既にマドカから手傷を与えられているということ。腕を切られ、腹部を蹴り飛ばされ、叩き付けられて。明確に劣勢な状態から戦闘が始まった。
これがレンド・ハルマントンのような真正面から経験と技術で圧殺してくるような正統派であればまだいい。アルファとて百戦錬磨、いくらでもやりようがある。だが目の前の女は間違いなく自分と同じタイプの人間であり、むしろその上位互換。つまり。
「っ……!」
「これも避けんのかよっ、どんだけ俺の思考読んでんだっかはぁっ……!?」
「読めているということは、そこから追い詰めることも可能ということです!!」
「ごぁっ!?」
レンドから聞いていたアルファの武器である手足の武装、それは単純に爆発を引き起こすグローブや靴のようだと考えていい。そして当然それらは耐久性も高い。素手戦闘の要領で敵を追い詰めていくものなのだから。
だがその一方で、それは剣や槍のようなリーチの長さをどうにか出来る技術が無ければ成り立たない。これに対してマドカが行ったのは、剣撃の揺れだ。通常、速度と切れ味を優先させるために一閃を描くようにして振るう剣を、全身を上手く使って決して振り切らず。直撃する瞬間に軌道を変え、剣舞のように無軌道な軌跡を描く。それを両手の剣で、超高速。単純な突きですらも波を描くようなそれは、単なる素人がすれば大した脅威ではないだろう。だが目の前の人間は素人などでは到底ない。
(マッジで1秒で何手先まで予測してんだよコイツ……!!その精度の突きをエサにして裏で逆手に持ち替えてんじゃねぇよ!!)
一先ず距離を置くためにアルファは回避のスフィアを使用してそれを避ける。……これまで隠していたスフィアの1つを、こちらが先にバラす羽目になってしまった。こちらは未だ1つすらマドカのスフィアの内容を把握出来ていないというのに。
「やっぱ先ずは高速戦闘を封じねぇとなぁ!!」
「っ!?」
「『水刃』!!」
「っ、アルファさんにしてはまた珍しく正統派なスフィアを……!」
『水刃のスフィア』、それは斬撃武器がなくとも属性による斬撃を飛ばすことの出来るスフィアだ。そしてその斬撃は通常の斬撃よりも妨害には弱いが、範囲が広いという特徴があった。
アルファは一度マドカを木の上へと弾き返すと、姿勢を低くしながらそのスフィアを使用した。自身の腕を剣のように振るい、水による斬撃を3方向へ向けて放つ。つまりは周囲の木々を薙ぎ倒すためにそのスフィアを使用したのだ。
倒れ始めた木々に、マドカはアルファと目線を合わせながら大人しく地上へと降りる。そんなマドカをアルファもまた特に動くことなく笑みを浮かべて見つめていた。
……もちろん、ここで姿を隠して奇襲を狙うことは出来る。しかしそれは相手も同じだ。そうなってしまえば互いにとって非常にやり難い勝負になる。
マドカとしては時間のかかる戦闘になることを嫌い、アルファとしては慣れない隠密戦闘なんかでマドカに勝てるイメージが全く浮かばなかった。故に互いに見つめ合い、周囲が高速戦闘の出来ない地形になったこの場所で向かい合う。
手傷はアルファの方が多い、しかし高速戦闘さえ封じてしまえばアルファの方が有利だ。アルファとて高速戦闘は出来るが、練度が違い過ぎる。単純な正面衝突が、最も勝率が高い。
「……これで2つ」
「あん?……ああ、俺のスフィアの話か。確かにもう2つも晒しちまったな、まだこっちは1つも見てないってのに」
「あとの1つは、『拘束のスフィア』とかでしょうか」
「…………なんで分かんだよ」
「レンドさんと戦っていた時にも使っていたようですし、戦闘中も何度か使うタイミングを測っていましたから。スフィアを予想するために何度か余裕を見ては隙を作ってみたんですが、あの反応では『拘束のスフィア』を持っている可能性が1番高いかなと」
「……マジでスフィアの扱いと知識に関してはバケモノだな」
「ええ。そこだけは私が1番だと、謙虚にならずに言えるところですから」
「あ〜ちっくしょう、どうしたもんかなコレ」
しかしそうは言いつつも、アルファの笑みは益々深まるばかり。楽しくて楽しくて仕方がない。左腕の傷のハンデなど、むしろ喜ばしいくらいだ。
どれほど策を立てても、どれほど抗っても、それを自分が想像も付かなかい方法で、想像していても本当にやるとは思わなかった方法で取り返してくる。
ならば何処までやればいいのか、何処まで対応してくるのか。策を考えて、打つけて、覆されて、それを繰り返して頭を必死になって回している現状が、どうしようもなく楽しい。どうしようもなく面白い。
「さて……アルファさん、恐らく今はスキルでINTの値を私に合わせていますよね。それまでは多分SPDだったと思うんですけど」
「ああ、それがどうしたよ」
「SPDに戻しておくことをおすすめします」
「?」
「私の3つのスフィアの正体、お教えします」
「!!」
アルファは咄嗟に身構える。
それはマドカの雰囲気が変わったからとか、そういう理由ではない。それは単純に彼女が左手の剣を仕舞い込み、片手剣のスタイルに変えたからだ。
……他のどんな変化よりも、今はその変化の方が恐ろしい。これまで隠していた3つのスフィア、しかもそれが全て赤色の炎属性のスフィアである。彼女を知っている者からすればあまりにも珍しいスフィアの組み合わせ。いくら高速戦闘を封じたからと言っても、この女ならばどれだけでも奥の手を隠していても不思議ではない。
「アルファさん、私のセットしたこのスフィア。なんだと思いますか?」
「……母親習って【炎弾】3つって事はないだろうよ。【炎壁】で囲って【炎刃】で八裂きって感じか?まさか【魔砲】3つなんてバカみたいなことやるんじゃねぇだろうな」
「『バリアのスフィア☆1』が3つです」
「………………は?」
「これ全部バリアのスフィアです。初心者探索者でも持っているような、☆1のスフィアです」
「………………待て、お前が何を考えてるのか全く分かんねぇ」
「大丈夫ですよ、安心して下さい。これからがその答え合わせの時間ですから」
「っ!!」
マドカが何の工夫もすることなく突っ込んで来る。それに対してアルファが取ったのは周囲への警戒だ。つまりはバリアのスフィアによる、逃げ道の妨害。または疑似的な拘束、それを警戒した形になる。
龍種との戦闘においても、バリアのスフィアは一時的な拘束や妨害に使われ、敵の隙を一瞬であっても生むという方策があるからだ。故にアルファがそれを警戒し、警戒してしまったのは仕方がない。
……バリアの使い方は、それだけではないのに。むしろ集団戦闘においては、こちらの方が汎用的に使われている方法だというのに。
「残念、不正解です」
「……!!足場かっ!!」
「そうです。そしてこれを利用すると……?」
「しまっ……!!」
「開けた空間でも、高速戦闘が可能になります」
反応が遅れたアルファの身体に、マドカによる斬撃が叩き込まれる。左足、背中、そして右腕。回避のスフィアを使用して4撃目を避け、バリアを足場として仕掛けて来た追撃の5撃目を右足で足場を爆破させることで相殺し、しかしそれでも払い切ることが出来ず6撃目の追撃が迫る。
……通常、高速戦闘というのは床や天井、壁を利用して縦横無尽に飛び回りながら敵の死界に潜り込み翻弄し致命的な攻撃を与えるものだ。だが逆に言えばそれは、必要な足場さえあれば何処でも出来るということ。
そこでうってつけなのが『バリアのスフィア☆1』、これは自身の前方に強度小のバリアを展開するものである。強度自体は弱くとも、足場にする程度ならば何の問題もない。そして☆1故に使用間隔は5秒。杖が無ければ使えないという制限はあるが、マドカはその左手に小杖を常に隠し持っている。
☆1のスフィアと言えば『回避のスフィア』ばかりが注目されてしまうが、この『バリアのスフィア』もまた非常に汎用性の高いスフィアなのだ。魔法使いなら誰でも、このスフィアを使いたがる。仮にそれで炎属性のスフィア制限が掛かってしまっても、それでも。
「けどなぁマドカ!!所詮は5秒だろうと制限はあんだろうが!!」
「!」
「時間制限のせいで攻めが単純なんだよ!!舐めてんじゃねぇ!!『拘束』!!」
「っ」
斬り付けられた傷の痛みなど全く無視して、アルファは残った全ての力を振り絞って『拘束のスフィア』を使用し、迫ってくるマドカに対して蹴りを叩き込んだ。
回避すら捨てた渾身の一撃。
そしてそれはマドカがこちらを殺す事など絶対出来ず、故に防御を捨てても良いというあまりに打算的な思考の元に放たれた一撃でもあった。
拘束のスフィアに防御は関係ない。スフィアを発動した直後の肉体攻撃が敵に接触した時点で、それは発動する。敵にノックバック効果を与えた後、そのまま問答無用で敵を拘束するのだ。拘束時の強度はINT対抗で行われるとは言え、アルファには自身のステータスの1つを敵と同値+1にするというスキルが存在する。故に拘束は確実に成功するし、一度捉えてしまえばマドカの筋力では破ることは困難になる。そこまで含めてこのスフィアを選んだのだ。
故にこれさえ成功してしまえば、後はもう……
「いえ、貴方の負けです。アルファさん」
「っ!?」
「言った筈ですよ。……私は、他の誰よりもスフィアを知っていると」
「なぁっ!?」
「そもそも私は最初から、『拘束のスフィア』を警戒したことなんて一度もありません」
ノックバック後に発動した拘束のスフィアが、破られる。完全に拘束が完成する直前に、爆ぜ、砕け散る。マドカはそれを分かっていたように再び足場を発生させると、驚き呆然としていたアルファに迫った。
……アルファにもう手はない、これ以上の策など存在しない。そもそもこんなもの、あまりにも天晴れで、あまりにも驚き甲斐があって。
そしてあまりにも、満足が過ぎる。
「………ハハッ、やっぱすげぇわ」
「アルファ!!」
「っ……!」
間一髪だった。
マドカの剣が腹の部分で峰打ち気味アルファに叩き込まれるその瞬間に、増援は間に合った。本当ならばベインと対していた筈の女性、その彼女がアルファの劣勢を察知して割り込んで来たのだ。
彼女は自身の剣でマドカの一撃を阻むと、その場で3撃ほど互いに剣を交わらせてから距離を取る。
……アルファとは違う類の強者、単純に対人戦闘の凄まじい経験値を感じる剣術。その太刀筋1つであっても、驚くほどに無駄が無い。
「これは……迂闊には攻め込めませんね」
「あっぶねぇ、助かったぜ"ガンマ"」
「………その名前は慣れない」
「慣れろよ、もう本名を名乗れる立場じゃねぇんだからな」
ベータと呼ばれたその女性は、外套で顔を隠した姿はそのままに、鞄から取り出したポーションを雑にアルファに振り掛ける。それに対してマドカは特に反応する事なく、スフィアの取り替えを行った。
……正直この2人を相手にして勝てる自信はマドカにはない、このままでは逃げるしか道はないのだが。
「さてと?いや悪いな、気持ち良くトドメを刺させてやれなかったわ。負けは認めるから勘弁してくれ」
「まあ、仕方ないですね」
「だがようマドカ、これだけは教えてくれよ。さっきのやつはどういうことだ?どうして俺の拘束のスフィアは効かなかった?何をどうやりゃあそこから拘束を破れるんだ?」
「……………………まず、前提として。拘束のスフィアには欠陥があります」
「ほう?そりゃ初耳だ」
「具体的には拘束の順番です。拘束は両手足から行われますが、この順番が決まっているんです。……右手、右足、左足、左手。この順番で4箇所を固定させてから、そこを起点に全身を縫い合わせます」
「それで?話が見えないんだが」
「その最初の固定の強度には、INT対抗との関係がないんです。常にその相手の体格に依存した一定の強度で働きます。INT対抗による拘束の強度は、あくまで両手足を固定後から発生するものが対象となる。つまり……」
「……最初の手足の固定さえ破壊すれば、拘束は完了しない?」
「そういうことです」
それは本当にアルファですら知らなかった事実。だがしかし、その理論であればおかしな場所も出て来る。それだけでは説明出来ないこともある。
「だがその場合、常に全身に力を入れていればそもそも拘束をされないということにならないか?」
「そうですね。だから順番が大切なんです」
「………?」
「この欠陥を隠すために発動するのが強制的なノックバック効果です。このノックバック中に手足の固定は始まり、体に自由が戻る頃には固定は完了しています。そして固定は途中で破壊されても他の固定箇所が作用していれば、時計回りに再度の固定が始まるんです」
「ああ……もういい、分かった」
「…………」
「つまりは、ノックバック中にも冷静になって、両手足の動きを止める事なく固定を破壊し続ける。だが固定が完了するまでの猶予は、実際のところアホみたいに短い」
「そうですね。両手で防御なんかをして浮かされてしまえば、拘束はまず免れません。ただしあくまで4箇所の固定が拘束の条件なので、さっきのように両手で防御をしてしまっても、両足の固定を破壊し続ければ猶予を保つ事は出来ます。……簡単なのは『拘束のスフィア』を使用された瞬間から吹き飛ばされながらでも常に両手足を思いっきり全力で動かし続けることです。これでも変に判定が残って拘束されてしまうことはありますが、まあ基本はこれで対策できます」
「なんだその馬鹿みたいな抜穴は……間抜け過ぎるだろ」
「そもそも拘束なんて強力な術が、肉体の接触なんて簡単な方法で実現する方がおかしいんです。こんなものは強力な龍種相手には殆ど成功しません。それが強力だと分かっているからこそ、アルファさんも好んでいるんでしょう?」
「………ああ、そうだ、その通りだよ。ちっくしょう、完敗だな」
「マドカ!!」
背後から掛かる青年の声。
どうやら解説による時間稼ぎも成功したらしい。
ガンマという女性を追いかけて来たベインは流石に速度では敵わなかったらしく時間が掛かってしまったが、しかしこれなら十分に間に合ったと言えるだろう。
……これで2対2。
戦力的には、治療中とは言え、それでもアルファの傷が深い分を考えれば然程差はないと言えるだろう。それはどちらも分かること。
しかしそれよりも何よりも大切なのは、ベインがここに来ても来なくても、これ以上に戦い合う理由も余裕もやる気も無くなってしまっているということ。アルファは既に満足しているし、これ以上の余裕もないし、ある程度マドカという戦力をこの場に縫い合わすことが出来たために理由もなくなった。よってアルファが選ぶ方策は1つ。
「ああ、満足したぜマドカ・アナスタシア。そういうことだから俺はもう帰るわ」
「なっ!貴様待て!逃すと思うのか!!」
「あん?別に逃してくれなんて言うつもりもねぇよ。逃したくないなら好きに追いかけてくればいい」
「巫山戯るな!!貴様ルミナに何をした!!」
「……なんだ、お前ら知り合いだったのかよ」
「…………」
女性は何も話さない。
ここに駆け付けた時には声を出していたが、ベインがここに来てからはジッと口を瞑ったままだ。だからこそベインもイラついているし、モヤついている。そして当然彼の怒りの矛先が向くのはアルファであり、アルファもまたそういう状況は楽しむような人間だ。つまりはまあ、マドカはなんとも言えない顔になる。
「なあオイ、お前等もしかして恋仲だったりしたのかよ?うん?」
「っ、そいつに触れるな!!」
「はっはっは、こりゃあいい。……いやなに、これでも俺はお前のこと評価してんだぜ?『武士のスフィア』を使ったとは言え、あそこまでの破壊力はなかなか出せねぇ。間違いなく逸材だ。……なぁ?お前もそう思うよなぁ?」
「貴ッ様ァ!!」
ベインの前でわざとらしく彼女の肩を抱き、見せ付けるようにして顔を近づけるアルファ。彼女はそれに対して顔を背けるだけで特に反応を示すことなく、ベインが大剣を構えてもアルファはそのニヤケ面を崩すことはない。
「いやぁ、最高だな………で?どうするんだ?こいつにボコボコにされた程度の奴が、俺になら勝てるとでも思ってんのか?」
「っ」
「怒って喚くだけならガキでも出来んだよ、自分の女取られてその様子じゃ酒の肴にしかなれねぇぜ?マドカに頼らなきゃ何にも出来ねぇのか?本当にチ○コ付いてんのか?」
「っ……!!」
どれだけ挑発されても、しかしベインとて分かっている。自分の不足を。自分の弱さを。
あの時に仲間達を失ってから鍛錬すらもろくにせず引きこもって来たその身は、ステータスは変わっていなくとも当時より遥かに弱くなっている。それに現状が2対2でようやく膠着状態になっているのも理解している。これは敵の挑発だと。そうして膠着状態を打ち破ろうとしているのだと、ベインとて分かっている。
……だが、それでも。
「………………………はぁ。やれやれ、仕方ねぇな」
「?」
「なぁ、お前ももういいだろ?あんな粗チン野郎。だからよ、帰ったらまた"いつもみたいに"楽しませてくれよ。むしろこいつのこの顔を思い出せば……クク、いつも以上に渋りそうだなぁ?」
「っ!?……お前、ルミナに何を!!」
「あぁん?おいおい、頭の中までガキンチョのままかぁ?男が女従えてんだぜぇ?そんなもんやる事は1つしかねぇだろ?……まあ俺の場合は当然、そこに愛も加減もサラサラねぇけどなぁ?はっはぁ!!マドカ以外の女なんざ俺にとっちゃあ使い捨ての道具みたいなもんだ!!」
『……ァァァアルファァァァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
そこが我慢の限界だった。
ベインは大剣を自身の力で破壊してしまわん程の勢いで握り締め、激怒の表情で障害物の全てを巻き込みながら突貫する。スキルもスフィアも技術も何もかもをかなぐり捨てて、ただ力だけで直線上に存在するその全てを薙ぎ払う。あまりにも凄まじい鬼神の一撃、だがしかしそれに対してアルファが選択したのは同様に突貫である。浮かべた笑みを益々に深くして、その暴力の嵐に彼は突っ込んだ。
『ギィィッイィィィイイイイ!!!!!!!!』
「思考飛ばして勝てる様な相手だと思われてたんなら、そいつぁ素直に悲しいもんだなぁ!?『拘束』!!」
『ガァッ………ァァァアアアアッアアアア!!アルファァァァア!!!!!!!」
「はっはぁ!正に鎖に繋がれた獣じゃねぇか!こりゃ良い見せ物になるなぁオイ!」
拘束のスフィア。
マドカには通用しなかったそれも、そんな欠陥のことなど露程も知らないベインではどうすることも出来はしない。一度当たってしまえば、マドカのINTをコピーしているアルファに、ベインの低いINTでは太刀打ち出来ない。いくらSTRが高くとも、INTの差が大き過ぎて拘束の強度が強過ぎる。
ベインが何度も何度も身体を動かそうと暴れても、拘束はビクともしない。どれほどアルファに目の前で煽られたところで、それは無意味に彼の体力を奪う結果しか齎す事はない。
「……アルファさん、そこまでにして貰えますか?流石に悪趣味が過ぎます」
そんな2人の間に、マドカは割り込んだ。
剣をアルファの首元に突きつけ、それと同時に彼は回避のスフィアを使って後ろに跳ぶ。マドカの顔は険しい。流石に一連の流れに不快感を感じたらしい。
スフィアを変えてから既に数分、やろうと思えば彼女はやれるだろう。一応そういうことを想定したスフィア構成にもしてあるし、そんなことはアルファとて分かっている。
「おっと、そんな怒った顔しないでくれよマドカ。俺が本当に愛してるのはお前だけだぜ?」
「そんなことは聞いてません。……それより、ここは引いてくれるんですか?それとも、まだ続けるんですか?」
「ッ!?マドカ!?何を言っているんだ!!」
「いいや?流石に今日はもう満足だ、このまま帰るぜ。想定していた以上に楽しませて貰った。最高の1日だった。……他の場所もまあ、後は好きにしろよ。手を出すつもりもない」
「そうですか、分かりました」
「待て!!マドカ!!追ってくれ!!それともこの拘束を!!マドカ!!頼む!!」
「いえ、追いません。というか、追えません。……アルファさんは逃走系のスキルを持っているみたいですから、本気で逃げられたらどうしようもありません」
「ま、そういうことだ。……じゃあな雑魚、精々自分の無力に嘆いて引き篭もってろよ。こいつはもう少し借りてくからよぉ」
「待て!ふざけるなァ!!ルミナ!!ルミナァァァア!!!!!」
「………」
ベインのそんな叫びも虚しく、アルファもガンマもその場を去っていく。マドカはそんな2人のことを追うことはしないし、彼等が本当にここから離れた場所に走って行ったことを確認してから、ベインの拘束を外すために2本の剣を組み合わせて大剣にした。
拘束のスフィアは使用者が遠く離れた所へ行けば自動的に解除される。しかし単純に第三者から攻撃を受ければそれは容易く瓦解する。それもまたこのスフィアの弱点でもある。基本的に多対一で使用するものではない。
「頼む……頼むマドカ、今からでも追いかければ、君なら……」
「……いえ、追い掛けません。仮に追い付けたところで、私1人ではあの2人には勝てません。それよりもリゼさん達のところへ行く方が先です」
「………………」
「ベインさんは、どうしますか?それでもまだアルファさん達を追い掛けたいと言うのなら、私は止めません。追い付ける可能性はありますし、ルミナさんを取り戻せる可能性もあるかもしれません。……その選択をしたとして、決して無駄にはならないでしょう」
「………………」
分かっている、分かっているとも。
マドカの言っていることは何もかもその通りで、自分のこれは全て自分の我儘なのだと。そもそも自分がああして飛び出して拘束された時点で、自分にはそれ以上の何かを他人に求められる権利など無かったのだと。
アルファ達がこの場を去ったことすら、単に見逃されただけだ。マドカとの戦闘で既に満足していたアルファが、そのまま去って行っただけだと。自分は何もしていないし、むしろ自分がルミナを役割通りに足止め出来ていたなら、今頃はマドカがアルファを捉えることが出来ていたかもしれないということも。
……ああ、そうだ。
全て、自分の無力が原因だ。
自分にもっと力があれば、自分がただ腐っておらず努力を続けていれば。こんなにも弱くなってしまった自分に、何かを選ぶ権利など、ないに決まっている。