「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……くく、全員ズタボロだな」
「あ、あはは……流石に、疲れたよ」
ヘトヘトになって砂浜に座り込む彼等を、ラフォーレは楽しそうに見下ろす。灰に変わり始めたレイン・クロインの死骸。それを改めて見上げてしまえば、本当にとんでもない化け物だったと強く思わされてしまう。自分達の怪我がこの程度で済んでいるのは、間違いなくこのラフォーレのおかげであって。
「だが、まあ……良くやった。合格点をやろう」
「あ、あはは……」
「そりゃどうも……」
初めての戦闘、しかもこれほどの規模のものを前にしてスズハはよく頑張った。混乱する頭でも、しっかりと考えて指示が出せた。それほど大きく動いてはいないが、しかし精神的な疲労感はとんでもない。
そしてクリアもまた、十分によく頑張った。回復薬を使っても精神力が枯渇するほどに魔法を乱射し、スズハを守ることまでしたのだから。この水辺で"水神のスフィア"を使いたくないという彼女の個人的な縛りもあった中で、精一杯にやった。
加えてレイナもラフォーレと共によく敵を引きつけていたし、最後の一撃は見事なものだったと素直に褒められる。自分自身を傷付けるほどの雷の中、最後まで冷静にやり通した彼女をラフォーレは素直に認めている。
最後に……リゼもまた、よくやっていた。何発もの射撃、彼女の身体は内部からズタボロだろう。それでも敵の狙撃を引きつけ続けた彼女の働きはあまりにも大きい。なんなら1番最初から見ているだけあって、彼女の成長はラフォーレが1番よく知っている。あの未熟な娘が、本当によく戦えるようになったと思う。頭も回せるようになった。覚悟も出来るようになった。……使い物になるようになった。それだけで十分だ。未だ愚かなところはあるが、ラフォーレにとってはそれで十分だった。
「まあいい、暫くはここで休んでいろ。無理に動く必要はない」
「で、でも……」
「街の方は問題ない、アレを見ろ」
「あれは……あ、狙撃兵」
「あれを配備出来る程度には余裕が出来たということだ。むしろ遅いと文句を言ってやりたいくらいだな」
「さ、流石にそれは……」
「それにダンジョンの方は……まあ、お前達にはまだ早過ぎる」
「っ」
「行ったところで足手纏いにしかならん、大人しくここで寝ていろ。次がある可能性に備え、予備戦力として休息を取るのもまた必要なことだ」
「……分かった」
投影のスフィアを使い、ダンジョンの中の様子を見ているラフォーレ。恐らく中継をしている探索者が階層間を繋ぐ階段から撮影しているのだろうが、状況はかなりとんでもないことになっている。階層を縦に2階層分貫き、暴れ狂っている巨大な龍種の姿。それに対して凄まじい威力の攻撃が次々と放たれているが、しかしそれでも全く怯むことのないその巨体。
「はっ、まあこいつらのことは良い。向こうに任せておけ。………それより」
「?」
「おい、小娘共」
投影のスフィアを切り、ラフォーレは近くで槍を研いでいたブローディア姉妹に声を掛ける。彼女達はこれからダンジョンに向かう気満々だったのだろう。流石に好戦的というかなんというか。しかしそれでも、ラフォーレはこのまま彼女達を行かせるつもりはなかったらしく。
「なになに〜?」「聞きたいこと……?」
「お前達、どこで何をしていた」
「「う」」
「マドカの指示通りに動いていたのなら、もっと早くに合流が出来ていた筈だ。何をしていた?」
「それは……」
そこから彼女達が話し始めた内容は、何も知らないリゼ達にとっては、正直あまりにも信じ難い話であった。
突如門から侵入して来たイプシロンという少年、そうして暴れ始めた彼を助けた奇妙な少女の存在。そしてそんな彼女が放った、凄まじい威圧感……
「……お前達が、身を竦ませるほどの存在だと?」
「うん。身を竦ませるっていうか、本当に殺されたかと思った。……ただ目を合わせただけなのに」
「やばかった……」
「それに、その、白い髪っていうのは……」
「うん、一瞬マドカさんかと思ったもん。【滝水斬】とか使ってたし」
「けど眼は赤かった」
「顔はあんまり似てなかったよね。別人だって直ぐに分かったくらい」
「うん」
「………」
ブローディア姉妹は、それこそ今の戦闘でも本気は出していなかった。彼女達が本気を出せば、龍殺団の団長であるアルカ・マーフィンを倒せるほどになる。有名な話だ。
けれどそんな彼女達が本気で死を錯覚し、そのまま動けなくなるほどの殺気を出したというのだ。……つまりはそこには、確実に覆せないほどの実力差がある訳で。
知っている限りでは、あのアルファでさえも。そこまで恐ろしい力は持っていない筈だ。
「……その女こそが、敵の最大戦力なのかもしれんな」
「「!!」」
「アルファを含めたその集団は、まず間違いなく龍神教とは別物だ。その集団の中で最も強い力を持っているのが、その女かもしれん」
「……それより強い敵が居る可能性は?」
「十分にある。その女の行動から考えるに、首謀者はアルファであり、その女は尻拭いをしているだけのようにも思えるからな。……アルファが実質的な集団の頭であり、その女は本当に戦力だけを貸している人間という可能性もあるが」
「ある、が……?」
「……私にはどうも、あのアルファという男にそれほどの人望があるようには思えん」
「……」
「……」
それはまあ、確かにと。
言わざるを得ない。
仮にあのアルファという男の他に何人か仲間がいることは確定したとしても、しかしそれを従わせられるほど彼が慕われている光景が思い浮かばないのだ。もちろん何かしらの弱みを握って無理矢理動かしているということも考えられるが、どちらにしても……彼は集団を率いる器は持っていない。例えそれが悪人の集まりだとしても、微妙なところだ。
「まあ、これについては後でマドカと擦り合わせる。一先ずお前達はこのままダンジョンに向かえ。それと、これも飲んでいけ」
「お〜、ありがとうラフォーレさん!」「ありがと」
「お前達はあと5分休憩をしたら私に着いて来い。このまま街の奴等と合流し、壁内と周辺一帯の探索を行う。……流石にこれ以上は無いと思うが、この機に乗じて何かしらを企む輩が居るやもしれん。警戒だけは怠るな」
「「「は、はい」」」
緊急時におけるラフォーレ・アナスタシアはここまで頼もしいものなのかと、きっと多くの者がそれに驚くことだろう。だが彼女がこんな姿を見せるのは、そこに居るのが使える人間であると判断したからに過ぎない。これが最善であると判断しているからだ。もし使えない人間であれば、容易く使い捨てる様な真似もしただろう。
……彼女は使える人間であると判断すれば、その人間をそれなりに大切にはする。それこそリゼの大銃やレイナの雷散月華がダンジョンの方に出現した龍種に効果的である可能性が僅かにあったとしても、こうして温存するくらいには。
ラフォーレは恐らく邪龍候補と思われるアレの元に、未だ経験の浅い彼等を連れて行くつもりなど毛頭なかった。そんなことをすれば最悪心が折れる。アレと向き合わせるのは、次の機会であっても遅くは無い。
「やれやれ、なぜ私がこんなことを……」
本来はマドカの教え子であった筈なのに。こうして教官役をするのもこれきりにして欲しいものだ。……そう考えていても今日こうしてこの役割に着いてしまったのだから、もしかしてマドカは意図的にそうしているのではないだろうか?母親というのは大変なものである。
「とんでもない……ですね」
「ああ、まだ戦闘が続いている」
街の壁の上で火を焚きながら、リゼとレイナは投影のスフィアで映したその光景を見る。もう夜も深まった。2人は外壁の見張り台の近くで、こうして街の中と外の見張りを任されている。
……ダンジョン内での戦闘が始まって、既に8時間。けれど未だに戦闘が終わることはない。既にラフォーレもカナディアもダンジョンの方に向かっており、マドカも含めて長期戦の姿勢を取っていた。
……それほどに、恐ろしい硬さと体力を持った龍種だった。
疲労した探索者はどんどん撤退しており、今は最上位の探索者達だけで徹底抗戦している。聖の丘や龍殺団、風雨の誓いの団員であっても、それほどの長期戦について来られる人間は多くない。延々と戦い続けている英雄アタラクシア・ジ・エクリプスと都市最強レンド・ハルマントン、リゼも少し前に会ったラフォーレの同僚であるクロノス・マーフィンは流石のものである。一切の休憩を取らずに最前線に立ち続けているのはこの3人だ。それこそ、今まさにこうして映像の中に映っているのが、実質的なこの都市の最高戦力になるのだろう。そしてその戦闘というのは、本当にあまりにもというレベルのもので……
「……マドカ」
もちろん、その中には彼女の姿もある。
今はその凄まじい硬度を持つ身体に一点集中で攻撃を与えることで突破口を作ろうとしているらしく、彼女は支援役として支援魔法や回復魔法を凄まじい規模で展開しながら立ち回っていた。……どうやら彼女はそういうことも出来るらしい。
見ている限りでも分かるが、魔法による攻撃は効力が薄いらしく、しかし物理による攻撃も未だに傷跡が殆ど付けられていないほどに完全な装甲を持っている。ブレス攻撃はガスによる大爆発を引き起こしており、ラフォーレはブレスを出そうとした瞬間に口元に炎弾を打ち込むことで体内からの破壊を試しているが、それも未だに功をなしていない。
……本当に、突破口を探るために各々が多くのことを試している。その堅牢な攻殻を破るために。アタラクシアでさえダメージを与えられない、その防御を突破するために。
「あれが……邪龍、なんでしょうか」
「そう、なのかな……邪龍候補、というものかもしれない」
「なるほど……」
そもそもダメージが通らないという、あまりにも規格外な敵。アルファはそんなものをどうやって連れて来たというのか。どうやってダンジョンに干渉しているのだろうか。不思議に思うことはいくらでもある。
しかしこうして見ると改めて、自分達が行ったところで何の役にも立てないと思い知らされる。そもそも最上位の探索者達と自分とでは、ステータスという地力が違う。そして経験も違う。何の役にも立てないどころか、邪魔にしかならないだろう。
……もちろん、レベルが足りなくともマドカのように役に立つ人間は居る。しかしそうするには何もかもが足りない。魔法も剣も使えて、何もかもが出来るから、彼女は何処でも活躍出来る。やはり出来ることの多さというのは大切なのだ。まだ銃士としての自分の役割を極めることも出来ていない現状では、それこそラフォーレが言っていたように、他のことに手を出すことは烏滸がましいけれど。
「……レイナ」
「はい?」
「ええと、だね……その、今日は本当にありがとう」
「っ……」
レイナは背筋を伸ばす。
焚火に照らされた顔を赤くしながら。
目と目を合わせた、リゼに微笑まれて。
「君のおかげで、勝つことが出来た」
「そ、そんなことは!」
「いや、もちろんレイナだけのおかげじゃない。……けど、君のおかげで私がここまで来れたのは事実だ。私が今も生きているのもね」
「リゼさん……」
「君が居なかったら、君と出会えなかったら。もしかしたら私はまだ1人でワイアームを相手に燻っていたかもしれない」
「……そんなの。私だってリゼさんと出会えて良かったと思っています。最初に私を見つけてくれたのが貴女で、きっとそれが何よりの幸福だったんだと、確信しています」
「ふふ、そこまで言われてしまうと少し自信がないのだけれど」
「それくらいに今が幸福だということです」
「……私もそうさ。君がいつも私の側に居て、支えてくれるからこそ、私も歩くことが出来る。君がいつだって私を信じてくれるからこそ、私も君を信じられる」
自分がマドカに対して感じている感情を、きっとレイナは自分に対して感じてくれている。それがなんとなく居辛くて、気恥ずかしくはあったけれど。だからこそ救われていることも多い。
彼女なら常に自分の隣に居てくれる。彼女は何より自分を優先してくれる。彼女は誰より自分と一緒に居たいと言ってくれる。家族が居ないリゼにとって、マドカと離れてしまったリゼにとって、レイナは自分の支えになってくれた。それにどれだけ救われたことか。自分を信じてくれる人間が側に居るということで、リゼがどれだけ勇気付けられたことか。
「……次はダンジョン11階層、水辺地帯。正直に言うと私は全然自信が無いし、クリアもあまり得意ではないらしい」
「ええ、分かってます」
「きっとレイナの負担が増してしまうだろう」
「ふふ、でもリゼさんがそれで全部押し付けてくれる訳ないじゃないですか」
「ああ、そうだね。どんな手段を使っても、その負担を取り除くつもりだよ」
「なら気にしなくても大丈夫です」
「……ありがとう」
リゼのパーティは、あらゆる状況を突破する打開力を持っている。属性も偏っている。しかし逆に言ってしまえば、大抵の場合で1人は機能不全に陥ってしまう。まだまだ器用な立ち回りが出来ない若さ故の欠点と言ってもいい。
だからこそ、それを補うための工夫と技術を身に付けていかなければならないのだ。こうして少しずつダンジョンを攻略しながら、出来ることを増やしていかなければならない。何も出来ないからと立ち尽くすのでは無く、それでも何かをし続ける。そうして、遥かな高みに向けて歩み続けるのだ。今はまだ手の届かない、その場所に。少しずつ、少しずつ、足を踏み締めながら。
『甘イ』
「「っ!?!?」」
突如として背後から聞こえたその声に、勢い良く振り向く。レイナは気付かなかった、リゼだって分からなかった。リゼの背後に、レイナの視界の中に、いつの間にか居たその人物に。こうして声を掛けられるまで、2人は一切気付くことが出来なかった。
2人は武器を構える、アルファの手のものではないかと。しかしそんな2人に対して、その全身を真っ黒な衣服や何やらで隠した人物は、特に何かをしようとする訳でもなく、武器を向けられても動揺もしない。ただ外壁から見える世界に顔を向け、立ち尽くすだけ。警戒どころか、脅威とも思われていないような姿で。
『久シブリダナ、リゼ・フォルテシア』
「え?」
「リゼさんの、知り合いですか……?」
「い、いや、そんなことは……」
『最初ニ会ッタノハ、マドカノ紹介ダッタカ』
「マドカの、紹介…………………あっ!!」
リゼは思い出す。
自分がこの街に来た、本当に最初の最初の頃。マドカに街を案内して貰いながら、プレイやガンゼンを含めた多くの商人達を紹介して貰っていた。彼女は正しくその中の1人。レイナとの話の中でも出したことがある。
「スフィア売りのデルタ……どうして貴女が」
「デルタって……あの?」
「うん、間違いない」
スフィアの売人:デルタ。
彼女はギルドから商業許可を取らずにスフィアを売っている違法な売人であり、そんな立場でありながらもマドカと懇意にしているという不思議な人物だ。エルザから聞いた話では、彼女は普段は全くと言って良いほどにスフィアを売らない癖に、本当に必要な人物の前に現れては安価で売ってくれるという、奇妙な行動をしているらしい。それ故にギルドも積極的に取り締まってはいないらしいのだが、本当にそんな彼女がどうしてここに居るというのか。
『………話ヲ、聞イテイタ』
「「!」」
『オ前達ノ考エハ、甘過ギル』
「どういう、ことだろう……?」
『………』
『時間ガ無イ』
「時間……?」
『目覚メノ時ハ、近イ』
「目覚めというのは、一体何の……?」
『邪悪ナル龍達ノ』
「「!?」」
果たしてこれは、リゼが初めて彼女に会った時にも語られた意味の分からない言葉の羅列の一部であるのか。それとも、現実に沿った確実な忠告であるのか。その辺りは判断に困るところである。
それでも、邪悪なる龍。その言葉の意味が理解出来ないほどにリゼだって愚かではない。
「邪龍が、まだ生まれて来るのか……?」
『ソウダ』
「どうして貴女が、それを……?」
『………』
「言うつもりは、無いと……」
そうして彼女はようやく顔を自分達の方へと向ける。
ポケットを探り、取り出したのは黄色のスフィアと、青色のスフィア。スフィア売りの彼女が取り出した、2つのスフィア。それが意味するところは勿論……
「……いくらで、売って貰えるのだろうか」
『依頼ヲ出ス、報酬ハ前渡シデ良イ』
「依頼?一体どんな……?」
『……ダンジョン14階層、コノ地図ノ場所ニ。未発見ノ通路ガ有ル』
「なっ!?未発見の通路!?」
「14階層って、そんな浅いところにですか!?」
『ソウダ、オ前達ニ調査シテ貰イタイ』
「調査って……」
「……それはまあ、構わないけれど。その、どうして私達に?単に調査するだけなら、別に私達で無くても」
『………』
『"マドカ・アナスタシア"ニ、知ラレテハイケナイ』
「「え……」」
「オ前達ニハ今後も、彼女ニ知ラレテハナラナイ依頼ヲ頼ミタイ」
「「………」」
それは正直、想像すらしていない提案であった。そして自分達では正しい判断が下せなさそうな、そんな話。
『私ガ頼ンダ事モ、接触シタコトモ、話シテハナラナイ』
「ど、どうして……」
『都合ガ悪イカラダ』
「……もしかして、私たちを嵌めようとしていませんか?スフィアを餌に、私達にマドカさんを陥れる片棒を担がせる気なのでは」
「な、なんだって!?」
『ソレハナイ』
「……どうしてそう言い切れますか?」
『私ハ彼女ノ味方ダカラダ』
「……味方なのに、隠すんですか?」
『味方ダカラコソ、隠シタイ』
「………」
『………」
「………」
「え、ええと……」
こういう駆け引きが如何にも苦手そうなリゼの代わりに、レイナが前に立ってデルタと言葉を交わす。そうは言っても顔が見えないのがキツイ、相手の思いがわからない。何処からどこまでが本気で、どういうつもりでこんなことを言っているのか、想像が付かない。
ただリゼの話を聞く限り、マドカがこのデルタを信用しているのは本当で。他でもないマドカが信用しているような人物であるのなら、どれほど見た目が怪しくても信用出来ないことはなくて。
「……調査して、中に何があるのか見て来るだけでいいんだね?」
『構ワナイ』
「……本当に、マドカに害にはならないんだね?」
『全テ彼女ヲ救ウタメノ行動ダト言イ切ロウ』
「……分かった」
「良いんですか?リゼさん」
「良いも悪いも、判断できるものがない。ただマドカが彼女のことを私に紹介するくらい信用していたのは確かだ、私としてはそれだけで信用出来る」
「……分かりました」
もちろん、危険はある。
何が起きるかも分からないし、14階層は水辺地帯。しかもパターンが変わっていないなら強化種が居るであろう階層だ。簡単にはいかないだろう。けれどそのために手渡されるスフィアであるとも言えるのかもしれない。それにもしこの依頼が彼女の言う通りであるのなら、リゼは断ることなど決して出来ない。それがマドカを何かしらから救えるというのなら、それをしないという選択など存在しない。
『私カラノ要求ハ2ツ。コノ依頼ニツイテハ他言無用ニスルコト』
「ああ、私達のパーティの中だけで完結させる。それで良いんだね」
『ソレデ良イ。……ソシテ2ツ目、ソノ通路デ見タコトハ全テ"ギルド"ニ報告シテ欲シイ』
「え、いいんですか……?」
『偶然見ツケタ、ト言ウ形デ広メテ欲シイ。真ノ目的ハソコニアル』
「……あくまで、そこまで含めて貴女の狙いということですね」
『ソウダ』
「……分かったよ、その依頼を正式に受けよう」
一先ず帰って来れるということを前提とした依頼であると聞いて、レイナも少しは警戒が解けたらしい。リゼがそう言うと同時に、彼女は2つのスフィアをそれぞれに手渡して来る。
青色のスフィアはリゼに、黄色のスフィアはレイナに。
「………え、どっちも星3!?」
『盗賊ノスフィア☆3、武士ノスフィア☆3。内容ハ鑑定士ニデモ聞ケ、私カラ貰ッタ事ハ言ッテ構ワナイ。ソレデハナ』
彼女は言葉をそれきりにして、その場から闇に溶けるようにして姿を消した。こうして見ると、彼女が本当に何者なのか分からなくてなってしまうけれど。それでも……
なんとなく、アルファとは別口でまた厄介なことに巻き込まれたのではないかという勘だけは、2人の中にあった。