無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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128.錬金術師

 "錬金術師"

 

 その言葉は実のところ、この世界においてそれほど有名な訳ではない。というよりはむしろ、嘲笑される対象であると言ってもいい。何故なら既に錬金術師達のやっていた事は技術の進歩によって他の誰にでも出来るようなことに成り下がり、錬金術師と言いながらも結局のところ金を生み出すことなど出来なかったのだから。もちろん永遠の命を作り出すこともまた叶わなかった。

 

 故に錬金術師とは時代遅れの職業であり、職業とも言えない過去の遺物。現代研究者達にとっては既に興味の対象にさえならず、錬金術師を名乗るような頭のおかしい人間を保護することなど金をドブに捨てるようなものだ……とさえ言うだろう。

 

 

「つまりつまり、錬金術っていうのは物質に魔力を加えることで変化を起こす……っていうのが全ての基本になるのさぁ」

 

「……それは、ええと、今や回復薬作りにも使われているような基礎的な技術なのでは」

 

「そうだよぉ」

 

「そ、そうなのかぁ……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 目の前でニコニコと笑っている小さな少女に、リゼもまた反応に困りながら、しかしその可愛らしさに少しの癒しを提供して貰う。

 

 ……錬金術師、つまりは今や基礎技術となったものを使う人達。現代における価値はゼロに等しい。もちろん金など作れない。だから言ってしまえば彼女は、錬金術師とは言いつつも単なる技術者で研究者でしかないと言えるだろう。

 

 

「フィーナさんは、ええと、なぜ錬金術師を名乗って……?」

 

「かっこいいからねぇ、昔から憧れだったんだぁ」

 

「憧れ、か……それなら少し分かるかもしれない。私も探索者が憧れだったんだ」

 

「わかるぅ?確かに金はまだ作れないけどぉ、諦めた訳じゃないからさぁ。期待してて欲しいなぁ」

 

「なるほど、それは楽しみだ」

 

 

 

 

「……それで、実際にはどういう人なんですか?」

 

「バチクソ優秀な技術者、オルテミスに来て2年で魔力と物質の未発見現象を20以上見つけてる」

 

「すごっ!?」

 

「マジでバチクソ優秀じゃない!!」

 

 

「ふふん!そうよ!フィーナはすごいんだから!」

 

 

「……リコさん、この人は?」

 

「幼馴染目的に地元を出奔した元地方貴族のクソレズ」

 

「クソレズ……」

 

「本当に多いわね、同性愛者……」

 

 

「ち、違うから!私は別にそんな……!」

 

 

「ユメ〜、ケーキ来たから一緒に食べよぅ?」

 

「え?あ、うん……食べる」

 

 

「って感じ?」

 

「なるほど推しに弱いのね」

 

「ベタ惚れじゃないですか、完全に女の顔してましたよ」

 

「登場人物みんな女だけど」

 

「クソレズの集まり♡」

 

「私は違うから」

 

 

 リコがここに居るせいで、なんだかいつもより会話の方向性が酷いことになっている気がするが。取り敢えずリゼは気にすることなく聞いた情報をまとめる。

 

 ……ようは、目の前の彼女は優秀な技術者。錬金術師を名乗っているのは単なる趣味。隣の少女はその錬金術師の幼馴染で、彼女のために家を出て来たほどにゾッコンだと。

 

 

 (うん……なんだろう、割と普通な感じがする)

 

 

 言っては悪いが、期待を下回っている。

 マドカから"錬金術師"が居ると聞いて、リゼは物語の中に出てくる魔法のような奇跡を起こす存在をイメージしていた。けれど実際には彼女はただの技術者、確かに優秀ではあるけれど、それだけだ。正直、どうしてマドカがわざわざ彼女を自分に紹介しようとしたのか、あまり話が見えて来ない。リコもその辺りは知らないようだし、一体どういう反応を示せばいいのだろうか。

 

 

「その……フィーナさんとユメさんでしたよね。お二人はマドカさんとはどういう?」

 

「んっとねぇ、オルテミスの研究区画って若者と部外者に厳しくてねぇ。助けて貰ったんだぁ」

 

「……?」

 

「も、もう。それじゃあ分からないでしょ」

 

「ユメ説明してぇ」

 

「う……し、仕方ないな」

 

「ありがとぉ」

 

「えっと……何処から話せば良いのかしら。先ず、ユメがオルテミスの研究区画に来た時は、まだ年功序列の意識が強かったのよ。ユメはこんな性格だから、全然馴染めなかったのよね」

 

「うん〜」

 

「……まあ、それはなんとなく分かるわ」

 

 

 ユメの言う通り、確かにこのオルテミスの研究区画には昔ながらの凝り固まった意識が根付いている。最近はかなり改善しては来たが、実際にそれについて早期の改善が難しいからこそ、マドカはこうしてスズハをリゼ達のクランに入れた訳なのだから。

 スズハ自身も偶に研究区画に行くこともあるが、その度にマドカやカナディアの名前を借りていても、若いからと言って妙な反応をされることがある。目の前の彼女なら尚更だろう。特に街に来たばかりで金のない若者など、下働きから始める以外に選択肢などない。

 

 

「それで、途方に暮れて彷徨っていたこの子をマドカさんが拾ってくれたのよ」

 

「拾って……」

 

「ご飯もらったぁ」

 

「ほんとに拾われてた……」

 

 

 元より、マドカが研究区画の是正に精を出し始めたのは実はこの件が根底にあったりもする。フィーナという若い才能を潰しかねなかった研究区画の在り方に、明確に危機意識を持ったのだ。そしてそれはマドカからそれを知らされたエリーナやカナディアもまた同様だった。

 

 

「それから工房貰ってねぇ、本とかもくれてぇ、お金も貸してくれてぇ……」

 

 

「滅茶苦茶に支援されてる……」

 

「相変わらずだなぁマドカは……」

 

 

「次の学会にカナディア様と出たんだぁ」

 

 

「いきなりとんでもないことしてる!!」

 

「次って何ですか!?直近ってことですか!?」

 

 

「それでねぇ、借金返済〜」

 

 

「また話が飛んだ!?」

 

「急展開過ぎる!!」

 

 

「魔銀が作れるようになったんだよぉ」

 

 

「もう何も分からない!!」

 

「誰かちゃんと説明して!」

 

 

 通訳が居ないと本当に話がポンポンと飛んでいってしまって何が何だか分からなくなるが。しかし確かに分かったのは、この少女もまたとんでもない天才であるということ。相変わらずマドカ・アナスタシアの才能を見抜く目というのは確からしく、なんだかすごいものが出来たらしい。

 

 

「あー、えっと……魔銀っていう魔力の伝導効率が凄く高い物質を作る方法をフィーナが見つけて、それをカナディアさんと発表したのよね。その技術をなんやかんやして、お金が手に入ったみたいな」

 

「なんやかんや……」

 

「これはアレね、その辺りの処理は全部マドカ・アナスタシアに任せてたんでしょ」

 

「うん〜」

 

「それにしても、魔銀ねぇ……新しい技術過ぎてまだ勉強しきれてなかったわ。魔力の伝導効率の高い金属ってなると……………………ん?」

 

「スズハ……?」

 

 

 スズハの動きが止まる。

 そして口元に手を当てると、リゼの言葉も気にすることなく何かを考え始める。

 

 リゼは知っている。これはスズハが何かに気付いた時、そして頭を回す必要がある時の状態だ。まあつまりはなんか色々考えてるから邪魔すんじゃねぇぞ、という時の状態だ。もちろんそれはレイナ達も知っている。直ぐにそれを察知すると、取り敢えず一旦口を閉じて彼女の反応を待ち……

 

 

「フィーナ・ルリア、ちょっと相談なんだけど」

 

「うん、いいよぉ」

 

「例えばなんだけど、こういう魔力回路を作るとして……この4点のこういう規則性を再現したいのね」

 

「うんうん」

 

「……で、この部分とこの部分を繋いでる物質が分からないのよ。魔力の波長っていうか、一定の動きに反応して性質が変わってて」

 

「それは魔銀じゃ無理かなぁ……けどこれなら蝋泥石を変質したもので出来るかも?これに瑠璃光石を特定の条件下で変質させれば粘性を持つようになるから〜」

 

「は?錬金術ってこんなこと出来るの?」

 

「こっちの変化は私もよく分からないんだけどぉ、なんかこうなるんだぁ」

 

「……いや、多分これは魔力関係ないわ。単なる化学変化。魔力がなくても高温多湿の条件下でなら再現可能よ」

 

「えぇ?そうなのぉ?んぅ、ってことはぁ……」

 

「ああいや、そうね、これは使えないか。……ん?でもこれって、こういう規則性よね?ってことは鉛と煮沸すれば」

 

「出来るよぉ?でもまだ再現性がねぇ」

 

「真空状態でこいつとこいつ掛け合わせたら?」

 

「……あぁ!すごいねぇ!それならそれならぁ!」

 

 

 互いにノートを取り出して、ああだこうだから始まり、そのままよく分からない世界に没頭していく2人。その辺りのことが全く分からない人間からすればリゼだって苦笑いをしながら首を傾げるしかないし、けどやっぱり邪魔をしてはならないと少し離れて別の席に座る。

 

 

「そ、そういえばスズハさんもマドカさんが直接スカウトして来た天才でしたね……」

 

「うん、しかも異世界人のね。スズハはすごいよ」

 

「な、なにこれ、なんか悔しい……」

 

「はいはい。クソレズ、クソレズ」

 

 

 難しい話はよく分からないと、元よりその席で一緒にデザートを食べていたシアンとクリアにも笑みを向けながら、一先ずは彼等2人の会話を待つ。

 もしかしたらマドカの狙いは彼女達を引き合わせることだったのではないかと、リゼは思った。

 

 元より異世界の知識があり、その上でこっちの世界の勉強も始めたスズハ。そこにこっちの世界における天才であるフィーナを引き合わせる。人間的な噛み合わせの相性はあるかもしれないが、そこは2人の性格を知っているマドカなら判断も出来ただろう。

 実際、2人はこうして研究のこととなると妙に良い相性を見せた。このタイミングで錬金術師を紹介するなんて話が出て来たのも、もしかすれば……

 

 

「リゼ!!レイナ!!あの槍の機構、再現出来るかもしれないわ!!」

 

「はっやい!?いつの間にそんなはなしに!?」

 

「また急展開な!!」

 

 

「ユメ〜!魔金作れるかもぉ!」

 

「なんで!?嘘でしょ!?」

 

「こっちも急展開過ぎる!!」

 

「天才が本当に天才じゃないですか!!」

 

 

 ……とは言え、やっぱり直ぐにどうこうできるという話でもないらしく。その後2人は一度スズハの資料を取りに戻った後、フィーナの工房へと向かっていった。互いに互いの知識や才能が利用出来ると知ったからだろう、きっとこれから気が済むまで議論を交わす筈だ。

 

 

「フィーナ取られちゃった……」

 

「あ、あはは……」

 

 

 まあその、可哀想な子も1人生まれてしまったが。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 静かな執務室の中で、漸く一先ずの書類を作り終えた男が、椅子にもたれ掛かりながら額を解す。

 ……しかしこれも、一先ずの作成に過ぎない。連邦上層部も一筋縄ではいかない。優秀な若造を気に食わないと、必ず一度は突き返されることが目に見えている。それでも、そこに壁があったとしても進まなければ何も変わらない。

 

 

「お疲れ様です、リロイズさん」

 

「……マドカさん、そっちの書類も出来たのか」

 

「ええ、なんとか。エッセルさんという優秀な職員さんが居るんです。彼女が大半を仕上げてくれていました」

 

「なるほど……こういう時に思い知らされる。やはり優秀な人材というのは、優秀な人間のもとに集まるのだと」

 

「ふふ、エリーナさんも支え甲斐のある方ですからね。……よければ少し話しませんか、リロイズさん」

 

「いいよ。君との会話は有意義だ」

 

 

 温かな湯で濡らした手拭いを手渡され、それで顔を拭きながら、灯りを少し暗くされた部屋の中で2人は話す。彼はギルド長用の椅子に、マドカは来客用の小さな椅子に座って、目線を合わせることなく言葉だけを交わす。

 

 

「超龍アバズドルの封じ込めは、もう限界のようですね」

 

「……彼の龍の封じ込め対策については、連邦内での秘匿情報の筈だ」

 

「邪龍についてなら、私の方が連邦よりよっぽど知っていますよ」

 

「……そうだろうな、君ほど本気で邪龍を討伐しようとしている人間は居ない。英雄は人類の救済を、軍長は連邦国の防衛を。そして君は何より、邪龍の討伐を望んでいる。君達は共通して世界を守ろうとはしているが、そのやり方、主目的が異なっている」

 

 

 どうやって世界を守るのか。

 なんのために世界を守るのか。

 なにをしたくて世界を守るのか。

 

 そして、マドカ・アナスタシアという人間について、彼女が求めている本質は正しく"邪龍討伐"それに尽きる。オルテミスのための献身も、探索者達への貢献も、結局のところはそこに収束する。リロイズはそれを知っている。……彼女がそれほどに邪龍に対して拘っていることを、知っている。

 

 

「超龍アバズドルをこれ以上抑え込むことは、不可能だ」

 

「……」

 

「元よりアバズドルは、好戦的で攻撃性の高い邪龍だった。それを火山地帯に封じ込めることが出来ていたのは、アバズドルの住みやすい環境作りに注力して来たからだ。そのために連邦内でも徹底的な調査を続けて来たし、事実としてそれは功をなしていた」

 

「それが失敗した理由は分かったんですか?」

 

「ああ、天龍ジントスが火山地帯を荒らした」

 

「……またジントスですか」

 

「本当に厄介な邪龍だ。奴は過去にもアバズドルと衝突して龍族の里を破壊しているが、今回はアバズドルの棲家を荒らしてそのまま去っていった。……アバズドルが怒り狂うのも当然だ。その怒りを受けるのは人類だが」

 

 

 邪龍同士の衝突というのは、稀にだがある。

 しかしその大半は縄張りを持たない天龍ジントスによるものであり、元より天龍ジントスというのはそういう厄介な性質を持つ。たとえ敵が邪龍であろうと喧嘩を売り、嫌がらせをし、人類に対しても気分次第で襲撃する。知性が高く、それこそラフォーレ達のように気に入った人間を見逃すこともある。

 

 

「聞かせてくれ。……君の見込みで、現在の総戦力で超龍アバズドルの討伐は可能かどうか」

 

 

「無理です」

 

 

「……即答か」

 

「超龍アバズドルの討伐のためには、十分な冷却能力が必要です。しかし現状、アバズドルを冷却出来るほどの技術も力もこの世界にはありません。それがない限り、仮にアタラクシアさんが100人居ても一方的に焼き払われるだけです」

 

「……だが、君のことだ。解決策はあるんじゃないかい?」

 

「個人的にアイアントと、オルテミスの研究区画に技術開発をお願いしています。しかし実現のためには未だ困難が多過ぎて、もう少し時間がかかるでしょう。……ですが確かに1つだけ、現実的な解決策を握ってはいます」

 

「良ければ、聞かせて欲しい」

 

「クリアスター・シングルベリア、今はリゼさんのパーティに居る精霊族の少女です」

 

「!!」

 

 

 想定外の人物の名前が出て来たことに、リロイズは驚く。リゼのパーティに居た精霊族の少女、彼女のことはダンジョン内でも見た。体力をつけるためなのか1人だけ走っているところを見たが、一見しただけでは本当に中位の探索者という感じだった。少なくともリゼほどの将来性は感じられなかったが……

 

 

「彼女はその特殊な性質だけでなく、水属性を氷属性に変えるという非常に稀少なスキルを持っています。そして水神の加護を受けている。これから順当に成長していくのであれば、彼女の冷却能力はアバズドルに対して有効な筈です」

 

「……それまでは、打つ手なしか」

 

「ええ、アバズドルは攻略法さえ確立してしまえば容易く倒せますが。それを用意するのが大変な邪龍です」

 

「逆に聞かせてくれ。現状で倒せそうな邪龍は存在するのだろうか」

 

「凄まじい規模の犠牲を覚悟すれば、絶龍ロバルドは倒せるかと」

 

「……滅龍デベルグは?」

 

「未だに居場所が掴めてないです。恐らく好戦的ではないのでしょう。正直この龍にはあまり手を出すべきではないと考えています。……それよりかは、異龍ルブタニア・アルセルクの動向の方が気になります。監視は不可能に近いですが」

 

「本当に、邪龍というのは……」

 

 

 大龍ギガジゼル

 超龍アバズドル

 絶龍ロバルド

 天龍ジントス

 滅龍デベルグ

 異龍ルブタニア・アルセルク

 

 現在確認されているこの6体の邪龍について、マドカの見立てでは討伐出来そうなのは絶龍ロバルドだけ。そしてそのロバルドでさえ、多くの犠牲を覚悟しなければならない。……ようやく50階層を突破したというのに、そんな今でさえ邪龍討伐には困難が付き纏う。どころか邪龍は増えてしまった。

 

 陽龍シナスタン

 六龍ゲゼルアイン

 鋼龍レイゼルダイン

 

 これまで討伐した邪龍と邪龍候補は、結局のところまだ倒せる範疇だったのだ。陽龍シナスタンとて、他の邪龍と比べれば討伐は現実的だった。邪龍という括りは意外にもかなり大きなものであり、その中での上下も幅広い。大龍ギガジゼルを頂点に、どの龍も討伐には困難を極める。

 

 

「行方不明のデベルグ、現状では討伐方法のないルブタニア・アルセルク、討伐が極めて困難なギガジゼル。少なくともこの3体以外は倒したい」

 

「……最優先は言うまでもなくジントス、だが」

 

「ジントスを倒すためには、あれほどの巨体を地上に縛り付ける方法か、若しくは地上に叩き落とす手段が必要です」

 

「……今の連邦にそんなものはないな」

 

「私もワイアームを使って色々と考えてはいるのですが、ジントスほどの邪龍に生半可なことをすれば多くの街に被害が出ます。飛行能力を奪うのも難しい。……何より、ジントスは逃げます。追い掛けることは不可能に近い」

 

「……」

 

「もしギガジゼルが再び起き上がり、このオルテミス近海から離れた場所に移動してしまったら。再びジントスはオルテミスを襲うようになるでしょう。皮肉にも私達はギガジゼルに守られている」

 

「リミットはそこか……」

 

「ギガジゼルの心拍数などから、こちらもそれほど余裕はありません。表面上の平穏とは裏腹に、刻一刻と災厄の日は近付いています」

 

「……なるほど、どうやら俺が思っていた以上に。いや、連邦が想定している以上に状況は悪いらしい。早急にアイアントでもダンジョン攻略を進めて何かしらの打開策を見つけなければ、間に合わないな」

 

 

 きっと雪崩のように、この平穏は一度崩れ始めたら止まらない。邪龍による被害は確かに近年では減ったものの、それは本当に今だけだ。マドカ・アナスタシアがそれを最優先事項として捉えるのも当然。

 

 一般人どころか探索者でさえ、たとえばリゼのように邪龍討伐については現実感がなく、絶対に無理だと思ってしまっているが。それが出来なければこの世界は滅ぶのだ。そうでなくとも、壊滅する。

 "龍の飛翔"や"怪荒進"を食い止めているのも精一杯の今、現状維持もいつまで続けられるのか。前回のように2連続で生じるような事が続けば、本当に世界の危機は増えるだけ。

 

 

「マドカさん、君の次の目標は?もちろん直近の、それこそダンジョンの階層数なんかで」

 

「さて、どうでしょう。あとはタイミングと努力次第ですから。……もしこのまま停滞するようであればお尻を叩かないといけませんけど。私がせずともお母さんがしてくれそうなので」

 

「君の母親も苛烈な人だ」

 

「ダンジョン攻略は暫くお母さんに任せるつもりです。その間に私は邪龍の対策について本腰を入れます。……報告書も作っている最中なので、完成したらギルド経由で連邦にも上げます。連邦として取り組んで欲しいこともあるので」

 

「……配信業のおかげで君の評判は上層部にも良い。俺ではなく彼等宛に送ると良いと思うよ」

 

「分かりました。別口でリロイズさんにもお送りしますね」

 

「助かるよ、ありがとう」

 

 

 連邦、都市、龍神教。

 実際のところ、既に人類同士で争っていられる余裕など何処にもない。それはアルファ達も同じであり、彼等もきっと理解はしているはずだ。

 

 ……そういう部分でも、腹を括る必要は出て来るだろう。あらゆる感情を飲み込んで、どこまで譲歩して手を組む事が出来るのか。少なくともギルド長が変わる変わらないで争っていられる暇など、当然にない。

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