無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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130.アルファの通達

 その日、アルカ・マーフィンは1人暗い闇夜の中を歩いていた。

 

 ここ最近、何もかもがうまくいかない。

 

 この前の遠征の最中であっても、自分は肝心のところで活躍することが出来なかったし。結局それをマドカに尻拭いされてしまった。強くなる強くなると足掻いてみても劇的な変化は起きないし、最近になってレベルの上がる速度が落ちていることも自覚している。

 そしてこういう時に限って新しいスフィアが手に入ることはなく、遠征の最中に手に入った階層主討伐報酬のスフィアもまた、特に珍しくもない何とも言い難いものばかりだった。

 

 

「武士のスフィアさえあれば……」

 

 

 英雄試練祭の時も、鋼龍レイゼルダインに対して自分が出来たことは何もない。武器も防具も今以上のものは難しいと言われた。けれどマドカの力も借りたくない。

 

 ……最近になって聞こえてくる、"リゼ・フォルテシア"の噂。

 マドカの新しい弟子として記憶にあるが、最初に見た時は大きな銃を背負っているだけのデカい女という印象だったのに、幼体とは言えレイン・クロインを倒しただとか、凄まじい勢いで階層を更新してるだとか、あのラフォーレ・アナスタシアも認めているだとか、色々と聞こえてくる。

 

 

「羨ましい……」

 

 

 嫉妬する。

 自分の方がまだ遥かに強くはあるけれど、まだ弱い筈の彼女は自分にないものを持っている。やはりマドカ・アナスタシアの教え子というのは、特別なのだろうか。その括りの人間達に対して、アルカは凄まじいコンプレックスを抱えていた。それこそ、自分よりもレベルの低いマドカに負けるだけでなく、アルカはブローディア姉妹にも負けているから。

 

 

「よう、元気ねぇなぁ。そんなんじゃ幸せが逃げていっちまうぜ?」

 

「何だおま……っ、お前は!?」

 

「お、覚えてたか。アルファってんだ、よろしくな」

 

 

 馴れ馴れしく、軽薄で、胡散臭い。そんな男のことを、アルカもまた知っていた。マドカと戦っていたその姿を、アルカもまた喰らいつく様に見ていたから。

 

 

「っ、あたしになんか用かよ!」

 

「用が無いなら話しかけねぇよ」

 

「……!」

 

「おいおい、だからそう構えんなって。今日は本当に話に来ただけだっつぅの。これだからガキは困る」

 

「……」

 

「おう、利口だな。それでこそだ」

 

 

 子供扱いされたくないから、武器を下ろした。そんなアルカの考えはむしろ非常に子供らしくはあるけれど、それにアルファは気を良くする。

 アルカはまだまだ子供だ。けれど大人になりたい子供である。きっとそんな彼女の性格は、アルファでなくとも見抜くことが出来る。

 

 

「ほら、やるよ」

 

「っ、なんだよこれ……」

 

 

「【武士のスフィア☆3】」

 

 

「!?」

 

 

「欲しかったんだろ?そのスフィアが。だから少しは珍しい奴を持って来たんだぜ?まあ元々は"天域"の持ち物だったみたいだがな」

 

「天域って……」

 

「ま、そんなこたぁどうでもいいんだ。俺が言いたいのは、ならお前はそのスフィアさえ手に入れば本当に強くなれんのか?って事だからな」

 

「っ」

 

「さっき言ってただろ?武士のスフィアさえあれば、ってな。なら、これでお前は滅茶苦茶強くなった。そういうことだよな?」

 

「……」

 

 

 こうして投げ渡されたそれが、本当に武士のスフィアなのかは分からない。確かに星3つ入った黄色のスフィアではあるけれど、それだけなら他にもいくらだってある。

 

 ……そうでなくとも、何かおかしい。だってこうして本当に武士のスフィアを手に入れたのなら、男の言う通りもっと自信が湧き上がる筈だ。これからもっとたくさん活躍出来ると、もっと有名になって、マドカも認めざるを得なくなると、そう思える筈だ。

 

 それなのに……

 

 

「お前、マドカをライバルって言ってんだろ?」

 

「っ……」

 

「強いスフィアさえありゃあ、マドカ・アナスタシアに勝てんのか?」

 

「……」

 

 

 それはとても意地の悪い問いかけ。

 誰もがその問いに対して同じ答えを持っているというのに、この男はそんな問いをわざわざ未熟なアルカに投げ付けてきた。故に黙り込んだ彼女を、相変わらずニヤニヤとした顔で嘲笑う。そんな状態でも武士のスフィアを手放せないアルカのことが、それほど面白いのだろうか。

 

 

「本当の強さ、欲しくないか?」

 

「!!」

 

「俺ならお前をマドカに勝たせてやれる、その手段がある。当然、楽な話じゃねぇよ?それでも絶対に勝てるって保証してやる」

 

「あ、たしは……お前の言葉なんかに……」

 

「俺はお前の才能を見込んでる」

 

「っ……!」

 

「お前ならマドカに勝てると思ったから声かけてんだ。その方法を知りたくないのか?」

 

「それは……」

 

 

 知りたい、知りたいに決まっている。マドカに勝てるほど強くなる方法、欲しいに決まっている。そんな才能が自分にあるのなら、喉から手が出るくらいに欲しい。

 

 

「けど……あたしは……」

 

 

 もう、夜も遅い。

 そろそろ帰らなければ、カナディアに叱られてしまう。そしてそんなカナディアの顔が脳裏にチラつく。

 

 もし自分がここでこの男に着いていけば、この男の話を聞こうとすれば、彼女は間違いなく悲しむだろう。それが分かるからこそ、自分の足元には線がある。これ以上先に進んではいけないと、そう示す線が。

 

 

「お前なら都市最強にだってなれる、全部俺に任せとけ。どんなやつでも敵わないような最強にしてやるよ。なんならスフィアだって幾らでも……」

 

 

 

 

 【大炎弾】

 

 

 

 

「「っ!?!?」」

 

 

 夜の暗闇が一瞬で照らされるほどの、巨大な炎の球体。突如として現れたそれは、今正しくアルカに近寄ろうとしていたアルファに向けて上空から襲い掛かった。

 

 街の中であろうと、問答無用で大爆発を引き起こしたそれは、灼熱と共に一帯を焼き尽くす。そこが広場でなく路地であったのなら、果たしてどれほどの被害が出ていたか分からないほどだ。

 

 ……そんな情け容赦のない一撃を放つことが出来る倫理観のない人間など、この街には1人しかいない。この街というかそもそも、そんな非常識な人間はそうそう居ない。

 

 

「まぁたお前かよ、ラフォーレ・アナスタシア……イチイチ突っかかって来やがって」

 

 

「ほう?生きていたか。……なるほど、それがダンジョンの入口を塞いでいた【岩壁のスフィア】か。やはりスキルを元に戻すべきではなかったな」

 

 

「ラフォーレ……」

 

 

 炎弾による爆発を岩壁によって防いだアルファ。そんな光景に呆然とするアルカの前に、建物の上からラフォーレ・アナスタシアが降り立つ。

 やはりどんな時であっても、少しイカれた人間の方が怖いものだ。こんな街中で地形を変えるような攻撃はして来ない、という思い込みは実際誰の中にでもあるもの。もしアルカがアルファの立場であったら、今の襲撃を防ぐことは出来なかっただろう。

 

 ただ、今重要なのはそんなことではなく……

 

 

「おいクソガキ」

 

「っ……なん、だよ」

 

「何を話していたのかは知らんが、まさかあんなゴミクズの言葉を間に受けた訳ではあるまいな」

 

「うっ……」

 

「馬鹿が。今時『怪しい男に着いて行かない』程度のこと5歳児でも出来るぞ。ガキ扱いされたくないのであれば、ガキのようなことを考えるな」

 

「……」

 

「自分しか見えていないからそうなる。より多くに目を向けん限り、貴様は100年経とうがそのままだ」

 

「っ……」

 

 

 相変わらずズカズカと他人の心を踏み荒らすこの女は、口でさえも容赦というものはない。助けに来た筈なのに攻撃して来る。こんな女とリゼ・フォルテシアはよくもまあ良い関係を築けているものだと誰もがそう思うが、彼女はどちらかと言えばサンドバッグに近いので話は違う。

 もちろん、アルカが更に落ち込んだところで慰めもしない。何なら興味さえない。

 

 

「酷い奴も居たもんだ、同情するぜ。少しは褒めてやってもいいじゃねぇか」

 

「優しい言葉を吐く人間など、コイツの周りには幾らでも居る。自分が恵まれていることにさえ気付いていないガキに掛ける言葉など罵倒で十分だろう」

 

「ひっでぇ」

 

「そんなことはどうでも良い。……漸くこうして対面出来たんだ、まさかこのまま逃げるなどと寒いことは言うまい」

 

「……ハッ、ガキの面倒より力比べかよ。これだからクズは救いようがねぇ」

 

「クズがクズを語る姿は滑稽だな」

 

「同感だよ。だったらもう、言葉なんか要らねぇよなぁ!」

 

 

「っ」

 

 

 一瞬、アルカが身震いするほどの空気感の移り変わり。同じ程度にはレベルがある筈なのに、それだけでは説明出来ないこの2人の異常性。

 ……それこそがつまり、彼等が強者と呼ばれる所以。

 

 

「来いよクソ女!!その綺麗なツラ歪ませろ!屈辱塗り付けて這い蹲らせてやるからよォ!!」

 

「逃げ惑えよ凡夫!!強者気取りのその顔面、少しはマシに整えてやろう!」

 

 

 

「おっ、おい!?いくらなんでもこんなところで!?」

 

 

 空に浮かび上がる巨大な炎弾の群勢。

 それに対するは、肌を撫でる程に迸り空気を揺らす咆哮を上げる豪雷の拳。

 

 どちらも確実に街中で放って良いようなものではないし、けれどどちらもアルカが止められるような雰囲気では既にない。このままでは周辺一体が吹き飛びそうな勢いで彼等は満面の笑みを浮かべているし、かと言ってアルカが割り込んだところで更に怒りを増してしまうような気もして……

 

 

「カ、カナディア!助け……!」

 

 

 

 

 

『そこまでだ!!』

 

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

 燃え盛る炎の音も、迸る雷の音も、喧しい程にアルカの耳を焼け焦がしていたそれら一切を塗り潰すような、凄まじい爆音が周囲に小玉する。

 アルファとラフォーレの間を凄まじい速度で通って行った、殆ど視認することも出来なかった何か。突如として生じたそんな明らかな脅威を前に、2人もまたそれまでの空気を変えて目を細める。

 

 

「すご、リゼほんとに行った……」

 

「ひぃん、リゼさん生きて帰って来てくださいぃ」

 

「が、がんばれ」

 

 

 "彼女"の後ろの方から聞こえて来る、そんなやり取り。けれど肝心のその"彼女"は、こんな状況を前にしても一切揺らぐことなく背筋を伸ばして立っている。確かな怒りの表情をそこに宿して。けれど慣れていないからか、右頬を膨らませるという、あまりにも可愛らしい怒り方をしながら。

 

 

「……何のつもりだ、愚図」

 

 

「ラフォーレ!いくらなんでもこれはやり過ぎだ!こんなことをしたらまたマドカの仕事が増えるじゃないか!!彼女は今でさえまともに眠れない状況なんだぞ!」

 

 

「ぅ……」

 

 

「アルファ!君もそろそろいい加減にしてくれ!!何を企んでいるのかは知らないが、やるなら正々堂々とやらないか!!一般の人達に迷惑をかけるなんて言語道断だぞ!」

 

 

「……なんか普通に怒られたな」

 

 

 今日ばかりは本当に怒っているのか、リゼ・フォルテシアは少しの恐れも見せることなく街を破壊しかけていた2人に対してプンスカと叱っていく。

 

 何より彼女が右手に持っている、その大銃。普通に考えてこの距離であれば、まあ彼女は人に向けたりはしないけれど、それでももし向けられたら、アルファもラフォーレも問答無用で撃ち抜かれる。

 

 彼女の目と銃士としての実力は、高速戦闘を得意とするハウンド・ハンターさえも照準無しで撃ち抜いた程だ。本人は分かっていないであろうが、今この場所には三竦みさえ成り立っていない。圧倒的なリゼの有利である。今この場で彼女の言葉を聞き入れないという選択肢は人柄を知っているラフォーレしか居らず、そのラフォーレもマドカを引き合いに出されて黙らざるを得ない。

 

 

「……はぁ、分かった分かった。これ以上はやめとくぜ。お前もそれでいいよなぁ?"灰被姫"」

 

「……チッ」

 

 

 マドカ・アナスタシア大好き人間であるリゼは、当然ながらその怒りの中にマドカに対する心配が多分に含まれている。そんな彼女の言葉は当然ながら同じマドカ大好き人間達にはそれなりに効くということが、ここに証明された。

 

 

「まったく!せっかくブルー・ドラゴンを苦労して倒して来たかと思えば!これじゃあ帰れないじゃないか!私だって今日くらいゆっくり休みたかったのに!」

 

 

「ん?おお、なんだよもう青竜倒したのか。順調で良いじゃねぇの。なら次はキャラタクト・ホエールだな」

 

 

「……コイツは既に倒している。というか私が倒させた」

 

 

「え?ん?は?……お、おいおい!すげぇなマジかよ!!あれだろ?単独っつぅか、そこのパーティでだよなあ!?ラフォーレ・アナスタシアは当然参加してねぇんだろ!?なんだよやるじゃねぇか!レイン・クロインぶっ殺したのはやっぱ偶然じゃなかったか!!」

 

 

「っ……?」

 

 

 素直に褒められる、というより称賛される。そんな光景にアルカもリゼも驚いてしまうが、アルファのそういう思想についてはラフォーレも知っていた。そしてそれが真実であることが、ここで漸く確認出来た。

 アルファはマドカの目的を、やり方はどうあれ応援していて、探索者達の力量の向上を望んでいる。故にリゼが順調に成長していることを、彼は喜ぶ。

 

 

「っかぁ、やっぱ当たりはこっちかぁ!俺は人を見る目ってのが無いんだよなぁ!そこでマドカに勝つのは流石に無理か!」

 

「……アルファ、君が何をしたいのかは分からないけど。1つ私からも聞きたいことがある」

 

「おん?いいぜいいぜ、今日は気分が良いからなぁ。1つくらいなら答えてやろうじゃねぇか」

 

「デルタとはどういう関係なのだろう」

 

「……あん?デルタ?」

 

 

 リゼには世界を守るだとか、そういう大きな話はまだよく分からない。聞くべきことは他にも沢山あったのかもしれないが、それでもこの話についてはリゼ達しか知らないことだ。

 故にリゼはこの方面からアルファに対して切り込んでみた。他の方向については、自分よりもっと優秀な人達が考えてくれるからと。自分に出来ることを、やろうとしてみたのだ。

 

 

「デルタってお前…………ああ、スフィア売りのデルタな」

 

「?そうだ」

 

「どういう関係かって言われたら……んー、回答に困る質問だな。まあ中立って言っときゃ丸いか?意見合わねぇ時も多いが、アイツが居ないとどうにもならねぇ事の方が多いからな」

 

「……協力関係にあると?」

 

「必要な時はな。反りの合わねぇ奴と好きで付き合ったりするかよ。敵に回したくねぇってのはそうだが」

 

「そもそも、彼女はどういう人物なんだろう?」

 

「……さあな、そりゃ本人から聞いてくれ。ま、そのうち分かるだろ。嫌でもな」

 

「……?」

 

 

 意味深な言い方ばかりして、ハッキリとした回答を出さないのは如何にもというところではあるけれど、結局分かったのは彼とデルタは本当に必要な時に手を組む程度の関係ということだけ。そこから両者の詳細については見えて来ないし、理解が深まることもない。

 

 

「……おい、待て。貴様はここに何をしに来た、せめて帰る前にそれだけ告げていけ」

 

「ん?おお、そりゃそうだ。忘れてた忘れてた」

 

「チッ、それで?ここに何をしに来た」

 

 

 わざとらしく、嫌味ったらしく、口元をニヤつかせながら飄々と立ち振る舞うアルファに対して、どうやらラフォーレは本当に気が合わないのだろう。明らかに機嫌が悪そうな彼女であるが、しかしそれでも目の前の情報だけでも抜き取るつもりなのだ。

 マドカ曰く、アルファには逃走用のスキルがある。アルファを追うことは不可能と判断しているのだろう。

 

 

「そろそろ、また龍神教が来るぜ?」

 

 

「「っ」」

 

 

「目的は当然マドカ・アナスタシア。そんでこれは俺からの忠告だが、マドカとあいつ等を引き合わせない方が良い」

 

「……なぜだ」

 

「展開が進んじまうからだ」

 

「?」

 

 

「お前等だって、まだマドカとサヨナラしたくないだろ?」

 

 

「なっ!?」

 

「……」

 

「ま、俺もそれはゴメンだからな。それだけ言いに来たってことだ。これマジで親切だぜ?」

 

「……お前とて罪のスキルを持っている、元龍神教の人間だろう」

 

「まあな。だから当然、奴等の目的の中には俺の存在もあるが……ま、それはどうでもいい。俺はあいつ等とも反りが合わなかったんだ。戻る気はないとでも伝えといてくれよ」

 

「じゃあ誰となら反りが合うんだ……」

 

「マドカとか?」

 

「私の娘を愚弄するのはやめて貰おう」

 

「してねぇよ、されてんのは俺だ」

 

 

 どうやら龍神教ともあまり良い関係を築けていなかったらしい彼は、しかしそれも特に気にしてはいないのか、用は済んだとばかりに手を振りながら背中を向ける。

 ……そんな彼に対して、ラフォーレも追撃の姿勢は見せない。そんなことが通用するような相手ではないと分かっているからだ。別に藪を突いても良いが、流石にこれ以上マドカに対して迷惑をかけたくもなかったのだろう。

 

 

「ああ、ラフォーレ・アナスタシア。ついでにマドカに伝えといてくれよ」

 

 

「……なんだ」

 

 

「若い芽を育てるのも良いが、"想定通り"、もう限界だ」

 

 

「っ」

 

 

「アバズドルが暴れた原因はジントスだが、そのジントスが暴れた原因はやっぱ別にあった。……どうもどっかに怪しい動きしてる邪龍がいやがる。俺は今からそれを調べに行くって伝えといてくれ」

 

 

「……いいだろう」

 

 

「よし、じゃあな」

 

 

 いつもの飄々とした雰囲気を一変させて、真剣な顔付きで話したその内容は、当然ながら無視出来るものではなかった。そしてそれと同時に、彼という人間が、というより彼等が普段から何をやっているのか少しだけ分かった気もした。

 ……そして、どうしてそんな彼とマドカが決して険悪な仲にはなっていないのかも。結局、彼等は仲間ではなくとも、共通の目的を持った同志ではあるということなのだろう。だからきっとマドカは、本気でアルファを捕まえたりはしない。なにより自身の目的のために。そこだけは、不平等に。

 

 

「……ラフォーレ、今の話は」

 

「気にするな、貴様のような雑魚が関わるような話ではない。関わりたいのなら力を付けろ」

 

「……」

 

「逃げ癖を付けるな。私から言えるのはそこまでだ」

 

「……分かった」

 

 

 ダンジョンの中でも言われたその言葉が、今は妙に重く感じる。けれどきっと、それはラフォーレからしてみれば変わらない重さの言葉だったのだろう。

 いつまでも逃げていられる話ではない。マドカの力になりたいと望んでいるのなら、それは尚更。決してリゼにとっても無縁の話ではないのだ。……そんなことを、本当に今更になって実感させられる。

 

 

「さて……クソガキ、お前はいつまで黙っている」

 

「うっ」

 

「そもそも、私はお前を探すためにわざわざこんな時間まで歩かされていたんだ。余計な手間をかけさせるな」

 

「え……?」

 

 

「50階層を再度攻略する、手伝え」

 

 

「「っ!!」」

 

 

 そして一方で隣で黙って俯いていたアルカにも、ラフォーレは前へ進むための方針を示す。変わらず前へ前へと、彼女は進み続けている。

 

 

「何処のクランも話にならん、あれでは51階層以降の探索は半年は先になる。それまで待っているつもりもない。ならば残りの戦力を掻き集めて早々に突破した方が早いと判断した」

 

「……本気、なのか?」

 

「ならばお前は黒龍の初撃で潰された事を永遠に引き摺るつもりか?マドカに対する劣等感を永久に抱えて生きていくつもりか?」

 

「っ、そんなの嫌だ!!」

 

「どうする」

 

「やる!!やるに決まってる!!そのために作ったクランだ!!マドカの姉ちゃんにだって負けねぇ!!誰にも負けたくなんかない!!」

 

「ふっ……ならば2週間やろう、万全の状態を作って来い。分かってはいるだろうが、手の内が分かっていたとしても容易い相手ではない。貴様等の持ち得る全てを惜しむ事なく吐き出せ」

 

「それも分かってる!!いつもやってることだ!」

 

 

「それと……」

 

 

「……?」

 

 

「明日から1週間の間、私は"青葉"のところのガキ2人を最低限まで鍛え上げるつもりだ」

 

「……!」

 

「貴様が望むのならば、地獄を見せてやろう」

 

「っ、絶対にやる!!」

 

「……その恐れ知らずだけは褒めてやる」

 

 

 身を乗り出してそう口にしたアルカに対して、ラフォーレは口角を上げながら額をこづく。

 ……実は意外と他者に指導をすることを楽しく思い始めたのではないだろうか。まあ元より彼女は強引過ぎる所を除けば意外と指導は上手かったのだけれど。

 

 

 

「……あれ?私は?」

 

「知らん、マドカにでも聞いて来い」

 

「やったぁあ!!!」

 

「……」

 

 

 この後普通に殴られた。

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