無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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131.教え子達の冒険

「……ということで、ブルードラゴンも倒したから次の階層に行こうと思うのだけれど。その前に何かしておいた方が良いことなんかはあるだろうか」

 

「ふむふむ、そういうことですか」

 

 

 アルファと会った次の日の昼頃。リゼは早速シアンを連れてマドカの元にやって来ていた。

 ……ちなみに、当然ながら昨日のことはラフォーレからマドカに伝えられているし、そのことについてリゼが話せることも特にない。話せることは、変わらず自分のことだけ。余計なことも、今は聞かずに黙っておく。

 

 

「一先ずは、おめでとうございます。そして、よく頑張りましたね。まさかこの短期間でキャラタクト・ホエールまで倒せるようになるなんて、私もすごく驚きましたよ」

 

「あ、あはは。みんなのおかげだよ。シアンも入ったばかりなのに頑張ってくれて、すごく助かってるんだ」

 

「ううん、リゼもすごいよ。銃を使ってると、別人みたいにカッコよくなるし」

 

「ふふ、仲良くやれているようで何よりです」

 

 

 少なくともリゼとシアンはこうして、一緒にマドカのところにルンルン気分でやって来るくらいにはすっかり馴染んでいる。他のメンバーも年下のシアンを可愛がっているし、上手くやっているのはその通りだろう。

 なにより誰もが他人には言えないような妙な事情を抱えているというのも大きい。密かに抱いてしまっていた孤独感を感じずに済んでいるというのが、リゼのクランに居る誰もが感じていることだ。

 

 

「さてさて、次にすべきことでしたか。……そうですね、実は1つ都市外から依頼が来ていまして」

 

「え?都市外から?」

 

「ええ、定期的にあるんです。これまではそういった案件は主に私が引き受けていたんですけど、最近はリエラさんとステラさんにお任せしています」

 

「……誰?」

 

「ああ、私の先輩だよ。マドカの最初の教え子の2人さ」

 

「最初の……そうなんだ……」

 

「ところで、それを何故私達に?彼等は今は忙しかったりするのかい?」

 

「いえいえ、この件は既にお二人にお願い済みです。……ただせっかくの機会ですから、リゼさん達も試しに参加してみては如何でしょうか?」

 

「「!」」

 

 

 それは思いも寄らない、意外な提案。

 

 相変わらず詳細な意図は読めないけれど、そこに何の意味もないということはないと知っている。それにこれが良い機会であるというのは、実際その通りだ。

 少なくともこれまで最低限の付き合いしか出来なかったブローディア姉妹と、話を出来る機会が貰えるのだから。リゼにとってはそれだけで十分な価値がある。

 

 

「何をすれば良いの……?」

 

「そうですね……実はオルテミスからグリンラルへの中継地点として、キネシスという小さな町が栄えています。ただ、どうも最近、その辺りで奇妙なモンスターが発生しているそうなんです」

 

「奇妙なモンスター?」

 

「ええ、翼の生えた人型のモンスターです。一見すると"天使"のようなのですが、どうも正体は二足歩行をする竜……強いていうのであれば、龍人なのだとか」

 

「……それは、竜人族じゃなくて?」

 

「別物です、その町に住む竜人族の方々が証言しています。そのモンスター達に人の要素はなく、意思もなく、単に二足歩行をしているだけに過ぎないと。しかし過去に目撃例もなく、出所を探すどころか、対処に手一杯になってしまっているそうです」

 

「つまり、今回の目的は……」

 

「そのモンスターに関する調査と、可能な限りの殲滅。問題解決にはリエラさんとステラさんだけでも十分かもしれませんが、より被害を抑えるためには人員が必要なのです」

 

「なるほど、そういうことか……」

 

 

 話は簡単、被害を抑えるためになるべく多くのモンスターを倒すこと。そして自分達よりも先輩が側に居て、彼等から多くを学ぶこともまた望まれていることの1つなのか。

 

 一旦ダンジョンから離れることにはなってしまうけれど、それも恐らくはマドカの狙いだ。このままダンジョンにばかり通っていても、きっと感覚が偏ってしまう。リゼ達が本来相対しなければならない敵は、ダンジョンの外に居るのだから。そうでなくとも色々な経験をさせたいというのも、マドカの中にはあるのかもしれない。

 

 

「今のリゼさん達なら、油断さえしなければ問題なく達成出来る依頼だと考えています。……ただ、この件には多分に未知の要素が含まれていることだけは忠告しておきましょう。その背後に潜んでいる何かがより強大な場合は、撤退を選ぶことも視野に入れておく必要があります」

 

「っ……確かに、龍というだけで良い予感はしないね」

 

「武装はしっかりと。それに地理についても軽くで良いので頭に入れておいて下さい。場合によっては、住民を率いてグリンラルへ避難する必要もあるかもしれませんので。最悪の最悪を想定することも忘れずに」

 

「わ、分かった」

 

 

「それとシアンさん」

 

「ん……?」

 

「過去の"天域"による記録に、何度か【天使】という言葉が出ていたのですが。何かご存知ありませんか?」

 

「!?」

 

「天域の……」

 

 

 天域が壊滅したのは、ほんの数十年前。しかしそんな記録が僅かしか残らないほどに、当時のオルテミスの状態は酷いことになっていた。生き残っている老人達も、天域が従事していたような難度の高い依頼については知らない。当時のギルド長も既に自殺していた。

 故にこれについて知っていそうなのは、確かにもうシアンだけという事情があるのだが……

 

 

「ちなみに、その記録というのは……」

 

「辛うじて読み取れた情報としては、"天域"の探索者の1人が"龍の飛翔"対処中にオルテミス近海で"天使"を見たという情報。またこれはギルドの記録にも軽く記載があったのですが、この"天使"と思われる存在について"天域"による調査が1度行われています」

 

「そ、その結果は……?」

 

「記録にありませんでした。しかしこれ以降の調査が行われていないことから、大きな問題はなかったのかと思われます。……基本的にギルドが不自然なほど意図的に記録に残していないということは、"知るべきではない"と同等の意味を持ちますので」

 

「っ、忘れた方が身のためということか……そして、それは忘れても良いことだと」

 

「そういうことです」

 

 

 それは正しくリゼがラフォーレと共に見つけて来た、ダンジョンの管理装置と同じ。余計な被害を生じさせるくらいなら、見つからなかったかのように振る舞うのが一番だと。そう判断されたということ。後世に残すことはしないと、ギルドが決めたこと。

 

 

「……ごめん。何も知らない」

 

「そうですか……いえ、問題はありませんよ。まだ幼かったシアンさんに情報を制限していた可能性は元から予想出来ていたことではありますので」

 

「けどマドカ、そうなるとこれは……」

 

「可能性の話です。今回の件との関連は不明ですが、しかし仮に何かを見つけてしまった場合、その情報の扱いについても考えなければなりません。……情報統制も、時には必要でしょう」

 

「そこまでいくと、流石に私達では……」

 

 

 無理がある。

 

 仮に忙しいスズハを連れていくにしても、彼女は政治的なことはサッパリだ。調査以外でリーダーシップを取るような人間でもないし、情報統制なんか出来るかと言われれば『無理、嫌』と突き返すだろう。

 

 そしてもちろん、リゼにだってそんなことは出来ない。他のメンバーだってそうだ。後はブローディア姉妹の手腕次第になってしまうのだが、一度言葉を交わした感覚だと、彼女達にそういう才覚があるようにも見えず……

 

 

 

「なるほど、だから私達が呼ばれたってわけね。マドカ」

 

 

 

「!!エルザ!ユイも!久しぶりだね!」

 

 

「あら、そんなに久しぶりだったかしら?」

 

「私はお久しぶりですね、元気そうで何よりです」

 

 

 相変わらず少し眠そうにしながらも、それでも休息が取れたのか、以前に見た時よりはそれなりに元気になったエルザの姿。そんな彼女の側に控えるユイも、リゼは言葉通り久しぶりに見た。

 そして彼女達の口振りから2人も今回の件に参加してくれるということは、もう言うまでもないだろう。

 

 

「けど、もう大丈夫なのかい?エルザは特に色々と忙しそうだったけれど……」

 

「ギルドはまだ忙しそうだけど、私は別にギルドの人間じゃないし。時期を見計らって抜けさせて貰ったわ。そろそろ距離置かないと本格的にギルド長の秘書にされそうだし」

 

「な、なるほど」

 

「ユイも暫くは治療院に通い詰めてたから、気分転換には良さそうなのよね。まあもう今は私達よりリゼ達の方がずっと強いでしょうし、後輩に甘えさせて貰うとするわ」

 

「ええ、頼りにしています」

 

「あ、あはは……うん、頑張らせて貰うよ」

 

 

 エルザ達と一緒に行動するのも、本当に久しぶりの話だ。龍神教の襲撃を受けた時以来だろうか。

 そして偶然にも、若しくはマドカによる必然か、こうして先輩後輩全員で1つの依頼に向かうことになった。ふれあい大好きなリゼにとっては、これは非常に嬉しいこと。急にワクワクが大きくなるのだから、そしてそれが側から見ていても分かるのだから、可愛げがある。

 

 

「さてさて。多少人数は多くなってしまいますが、これなら何の不安も無いでしょう。というより、とてもバランスの良いパーティに思えます。大抵の"もしも"には対応出来るでしょうし、私も安心です」

 

「ま、防御については本当に無振りなんだけどね」

 

「エルザ様のスキルと、クリアさんの魔法くらいでしょうか」

 

「……いや、その、なかなか私達も縁が無くてね。必要なら私が盾でも持つよ」

 

「別に良いわよ、私が"バリアのスフィア☆1"を使うだけだから。リゼの感覚がおかしくなってるだけだと思うけど、私は属性縛りも何もない優秀な魔法使いよ?」

 

「え?あ………そ、そうか!!そうじゃないか!!すごい!属性縛りが無いなんて!!なんて頼もしい魔法使いなんだ!すごいよエルザ!!」

 

「……ユイ、どうしたらいいと思う?想像してた3倍くらい後輩の感覚がおかしくなってたんだけど」

 

「致し方ない部分はあるとは言え、お労しいです」

 

「あはは……そういった部分もリゼさんに教えてあげて下さいね」

 

 

 本来なら属性縛りなんて無いはずなのに、例外ばかり集まってしまった弊害なのだろう。リゼの冒険者としての感覚が完全に壊れてしまっていることを見て、流石のエルザもツッコミを入れづらかった。

 なぜ彼女は縛りを付けながらダンジョン攻略をしているのだろう。マドカの言う通り、その辺りの感覚も治してあげないといけないと。先輩としてまだやるべき事があることを、安堵すればいいのか、悲しめばいいのか。

 

 しかしどちらにせよ、それが楽しみなことには違いない。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「……で、ここまでは分かったのよ。ここから先がどうしても分からない。だから知恵を貸して貰えないかしら」

 

「貸してぇ」

 

 

「おい……おいおいおいおい!これマジで言ってんのか嬢ちゃん!?」

 

「天才天才とは言われていたが、まさかここまで解明するとはな……」

 

 

 以前はリゼも銃を作ったこのガンゼンの鍛冶屋に、しかし今日は似つかわしくない3人がそこに集まっている。それは彼等をここに集めたスズハと錬金術師のフィーナ、呼ばれたのは当然ガンゼンとカナディアである。

 若き才人の2人が解明したそれを、熟練の2人にも見てもらいたい。そんな思惑で開かれた今日この日だが、しかしそれにしても出て来た内容が凄まじい。

 

 

「どう?必要なら解説するけど」

 

「ふむ……発想は突飛なものばかりだが、魔力回路の流れ自体は理解出来る。そこで行き詰まった理由もな。確かにこれは難解な問題だ」

 

「だよねぇ」

 

「技術的な面ではどうかしら?」

 

「……正直、やりたい事だけは分かるんだが、1から10まで相当厄介だぞ。最先端の技術がてんこ盛り。机上の空論もわんさか。そもそもこんな繊細で複雑な回路を組むなんざ、今の技術でやろうとすれば武器になんか到底転用出来ねぇ。どんだけ頑張った所で最終的にデカい箱みたいなのが出来上がるだろうよ」

 

「うん〜、それも問題かなぁ。私でもあの大きさに収めるのは絶対無理ぃ」

 

 

 レイナと共にリゼが拾ってきた、スフィアを嵌め込み使用することが出来るという不思議な槍。その技術を解明するためにスズハとフィーナはこれでもかと試行錯誤を積み重ねてきたが、しかし最終的な結論はそれだった。

 全く同じものの複製は、少なくとも現在の技術では不可能。やろうとすると、大きな箱のようなものになってしまう。そんなものを背負って戦闘しろなどと、不可能にも程がある。当初想定されていたような役には立てない。

 

 

「けど個人用の武器じゃなくて、大砲なんかには使えないかしら?なんか前に話あったんでしょ?リゼの大銃を参考にした物理兵器の開発みたいな」

 

「ああ、それがあったか」

 

「なるほどな……実のところ、あれからリゼの嬢ちゃんの助言もあってそれなりに形にはなって来たとこなんだ。試してみねぇと分からねぇが、そっちがある程度完成したら試してみるのも良いかもな」

 

「すごいねぇ、オルテミスの戦力増強だぁ」

 

「ああ、これが実現すれば龍種への対応策が増える。もちろん簡単な話ではないだろうが」

 

「……兵器の発展なんて喜ばしいものじゃないって私のこの考え方も、この世界の実情を考えると馬鹿馬鹿しいものよね。こんな兵器が出来たところで、邪龍討伐なんて夢のまた夢だもの」

 

「まあ、そう言うんじゃねぇよ。邪龍には効かなくとも、適当な龍種には有効だ。なによりそれをリゼの嬢ちゃんが証明してくれてんだ。少なくともレイン・クロインの幼体程度にはそこそこ効くだろ」

 

「つまりリゼはその大砲を常日頃持ち歩いてるってこと?改めて考えると頭おかしいわね」

 

 

 なお、リゼの大銃の方が最大威力は大きく、射撃の精密性など話にもならないほどに優れていることを考えると、その上で最近は連射までし始めたことを考えると、彼女という人材は本当に唯一無二だ。その射撃がどの相手まで効くのか、実のところそれをガンゼンを含めた者達は何よりも気になっている。

 

 

「魔力回路についてであれば、少しは力になれる。それにフィーナという優秀な技術者も居ることだ、多少無茶な組み方をしても形にはしてくれるだろう」

 

「いいよぉ、任せてぇ」

 

「流石にその辺りは武器屋より優秀だろうな。それ以外なら力になれる、前にリゼの嬢ちゃんが使ってた工房を使っていいぞ。素材もある程度なら融通してやる、まあ投資だな」

 

「助かるわ。ぶっちゃけまだ魔力関係の知識に不安があるのよね、爆発でもされたら困るし。フィーナもその辺りかなり感覚派だから」

 

「なるほど、そういう事情か」

 

「それと、これを公表する時の面倒そうなアレコレも頼みたいわ。政治的なものは専門外だから」

 

「安心しろ、こんなものを発表すれば確実に面倒なことになる」

 

「うげ」

 

「我々も協力者としてなら名前を貸すが、メインは君の名前だ。それこそマドカの思惑通り、君の所属するクランの名前と共に公表されるべきものだ。クランのためにも、逃げるべきではないな」

 

「……はぁ。まあ付きものよね、仕方ないか」

 

 

 これが自分だけの名声であればスズハもフィーナを巻き込んででも逃げていたかもしれないが、リゼ達にまで影響するものとなれば、流石に逃げる訳にはいかない。

 今の自分の生活を保証してくれているのは彼等であり、同じように命を賭けてはいないのに、それでも仲間として受け入れてくれているのは彼等だ。こうして研究に打ち込める環境を作ってくれているのも。故に、ここで受けられる名声を断るのは違う。それを受けるのは自分だけではないのだから、それを最大値にして返すのが責務でもある。

 

 

「もしかして、あの女そういう私の性格を知っててリゼのクランに入れたんじゃ……流石に考え過ぎかしら」

 

 

 思っていた形にはなりそうにないけれど、何とか割いて貰っていたリソース分の働きは出来そうなのか。結局この槍もレイナからは『研究がひと段落するまではいいですよ』と言われて返しそびれているし、そもそもリゼ達の装備の整備など、直接的な支援は出来そうにないのが悲しいところだが。

 

 

「さて、実際に形にできるまでどれくらい掛かるかしら。半年以内に試作品が出来れば早過ぎるくらいね」

 

 

 その早過ぎるくらいを実現するのが、彼等が命を賭けて戦っている間に自分が出来る唯一ではあるのだが。

 

 彼等が必死になってダンジョンを攻略している間にも、スズハは必死になって研究を進めていた。その成果が少しずつ形になりつつある。そしてそれはきっと、この世界の技術を確かに一歩進めるものだ。もっと言ってしまえば、行き詰まっていた世界を切り拓くもの。

 世界を変えるのはいつだって、馬鹿か天才である。

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