無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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26.狂気の作品

ラフォーレが時間を稼ぎに走り待っている頃、最初に精神汚染から立ち直ったのはやはりエルザの方だった。身体の震えも収まり、意識も明確になり、未だに顔を青くして2体の巨人から目を背けながらも、彼女はユイに寄り掛かりながら思考を巡らせる。全ては感情と精神状態を状況と理屈で強引に捩じ伏せ、精神汚染の効果から少しでも早く解放されるため。エルザはそれが出来る人間だ。

 

「ゆい……」

 

「エルザ様、もう大丈夫なのですか?」

 

「……ラフォーレに、あんな大口叩いたのに……いつまでもこんなじゃ、格好、付かないでしょう?」

 

「心配しなくとも、リゼさんもまだ起きられる状態ではありませんよ」

 

「だからこそ、よ。この子が起きた時に、こんな姿、見せたくないもの……ふぅ」

 

震える足で無理矢理に立ち上がる。

未だ精神汚染の効果は解けていない。

けれど少しくらい見栄を張れる程度には回復した、エルザにとっては今はもうそれだけでいい。リゼを起こす事が出来て、起こす為の頭が回って、起こした時にいつも通りの顔を取り繕えるのなら。それ以上の事は別に必要無い。

 

「リゼを、起こす必要があるんでしょう?ユイ、今のリゼに必要な物はなに?」

 

「……強いていうのであれば、精神的な柱か刺激でしょうか。このまま放っておいても何れは起きますが、それをより早めるとするならば、自身の精神を保ったままで縋り付ける何かか、泥水に浸った心を跳ね上がらせる様な刺激が必要です」

 

「……殴っても意味無いのよね?」

 

「そういった物理的な刺激では意味が無いかと、痛覚すら鈍くなっている筈ですから。とは言っても各種感覚器官や、そもそもの思考の動きも阻害されています。それすら乗り越えて精神に影響出来る様な何かが無ければ……」

 

そうは言っても、リゼの心にそこまで影響を与える様な物まで2人は知らない。そもそもまだ、リゼの好きな食べ物とか趣味とか、そういった所まで踏み込んでいない間柄でしかないのだ。リゼの心を動かす物と言われても返答に困るのが現状だ。もし強いて言うのであれば……

 

「……ユイ、ラフォーレと同じことをしろって言われたら出来るかしら?」

 

「それは……私では難しいです。純粋な戦闘経験が違います、地形に関する知識も不足しています。間違いなく失敗すると言いきれるくらいには」

 

「そう、それなら仕方ないわ。恐らく周辺の探索者達も精神汚染の効果で気を失っている筈よね、ギルド長はどうかしら?」

 

「ギルド本部はここからかなり距離が離れていますから、ある程度のPOW(精神力)か何かしらの対策が施されていれば問題はないかと思われます」

 

「よし、それなら今直ぐにギルド長を含めた使えそうな職員を引っ張って来なさい。その後はラフォーレと一緒にここに戻って来ること。出来るわね?」

 

「承知しました、行って参ります」

 

正直に言えばユイはエルザが何を企んでいるのかは分からない。しかし彼女の考えではラフォーレには時間稼ぎよりも別にすべき事があるという。その為ならば多少街の守りを緩めてもギルド長を引っ張って来なければならない。

……いや、実質的には街の守りは既に殆ど崩壊していると言ってもいい。あの精神汚染効果のある叫び声によって周囲の大半の探索者は意識を失い、虫型のモンスター達もそれ等を全く無視して巨人達の周囲を徘徊している。もう探し物はどうでもいいのか、それとも何より目の前のラフォーレという存在を早くに処理しておきたいのか。

そんな思考すらも今は放り出してユイはとにかくエルザに言われるがままに走る。彼がエルザの言葉を絶対に疑う事など無いのでだから。それがもし間違っていたとしても、ユイはエルザと共に心中出来る。勿論、明らかに間違っていたならば命を賭けてでも引き戻すのも従者の役目ではあるが。

 

「エリーナさん」

 

「ユイ!無事だったか!他の奴等は!?」

 

「今はエルザ様がリゼさんを看て下さっています。ラフォーレさんは時間稼ぎを、他の方々は恐らく精神汚染に……」

 

「チッ、やはりか!厄介なバケモノを呼び出してくれたな!」

 

そして存外、ユイがエリーナを発見するまでにかかった時間はそう多くは無かった。

エリーナと2人のギルド職員。

ギルド長の秘書である寡黙なドワーフの男性エルキッド・レディアンと、リゼがよく世話になっていた鑑定士の猫獣人のヒルコ・ターレンタルを引き連れて、エリーナも丁度戦場に向けて走って来ていたのだった。

大剣を背負ったエリーナに、基本素手の戦闘を好むエルキッド、そして魔法使いのヒルコ。彼等の練度はギルド職員の中でもトップクラス。彼等3人が出張って来たと言うよりは、この状況でも精神汚染に対抗して動ける様な人間が彼等くらいしか居なかったと言う方が正しいのかもしれない。

 

「な〜んか、あんま面白くなさそうな相手っすよね。全体的に」

 

「?どういうことでしょう、ヒルコさん」

 

「手札は奇妙なのに、その切り方が全くもって面白味がないって事っすよ。素人ってよりは常識人的というか、ある程度手札が割れて来ればこれまでの行動の辻褄合わせが簡単過ぎる」

 

「それはつまり、手札を用意した人間とそれを行使している人間。それが別物である可能性が高いという事か?」

 

「それは明らかだと思うっすよ。その手札が龍神教なら誰でも使える様な存在で無いことは祈りたいとこっすけど」

 

「敵は龍神教で確定なんですね、その口振りでは……」

 

「十中八九な。……それで、私達はどうすればいい?どうせエルザから指示を出されて動ける人間を探していたんだろう?動きも当然受け取っているな?」

 

「はい、今からお伝えします」

 

ユイは3人にエルザからの指示を伝える。

秘書のエルキッドも最初から一度も言葉を発してはいないが、彼は投げ掛けられた言葉に対しては必ず頷きを返す。エリーナがギルド長を続けていられるのも彼のおかげであるというくらいにはコミュニケーション能力以外は超一流の男である。果たして状況説明とエルザの言葉を伝えただけでどこまで理解したのかは分からないが、少なくとも困惑しているエリーナとヒルコとは違い、彼だけはその判断に納得して拳と首を回し始めた。他のドワーフ族とは違い比較的細めの肉体をしている彼も、その筋肉量は凄まじい。そして普段から掛けているサングラスと少し色黒の肌は、そうして敵に向かって立っているだけでも不思議なカリスマの様なものを感じさせる。

 

「……なるほど、まあいい。エルザが指示を出し、エルキッドが納得しているのならばそれは正しい判断なのだろう。分かった、私達はラフォーレの代わりに時間稼ぎに入る」

 

「お願いします、私はまたエルザ様の元に戻りますので」

 

「は〜ぁ、早くリゼさん起こして下さいっすよ。あの人の大銃の威力を間近で観れるくらいの報酬が無きゃ、こんなんやってらんないんすから」

 

「ええ、それは必ず」

 

そうしてヒルコはその場で『筋力上昇のスフィア』をエリーナに使用する。非常に珍しい無属性☆3のスフィアだ。

そして今度はエリーナが自身に『筋力上昇のスフィア』を使用する。こちらは無属性☆2のスフィアだ。

☆3のスフィアが杖という縛りがある代わりに他者にも付与出来るのならば、☆2のスフィアは武器の縛りが無いが自分にしか付与する事が出来ない。上昇度合いは同じであるが、継続時間も☆3の方が長かったりする。つまり現状のエリーナは元のステータスから2段階+2段階=4段階上昇しているという事になるが、こんな場所でそんな事をして一体どうすると言うのか。

そんな疑問はエルキッドがエリーナの大剣の上に乗り蹲み込んだ瞬間に氷解する事となった。

 

「エルキッド!先に行ってラフォーレを逃してこい!『エルザが呼んでいる』と言えば十分だ!それくらい言えよ!!」

 

「了解」

 

「せぇぇぇえええのっ!!!」

 

エリーナが凄まじい勢いでエルキッドを射出する。

元々筋力特化のステータスを持ったエリーナが更に筋力上昇を受け、そこに高速戦闘を得意とするエルキッドが合わさった事で可能になる吹き飛ばし移動。彼が思惑通りの場所に飛んで行った事を確認すると、エリーナもヒルコも慣れた様に追って走り出すのだからユイも流石に困惑した。

それでもなんとかエルザの方に報告の為に身体を動かし始めただけユイも偉いだろう。

実は割りかし付き合いの長い3人のギルド職員達は、確かに高位の探索者達には敵わないが、それでもやはり十分な力と経験を保持していた。スフィアの理解と解釈が実力を左右すると言ってもいい現代の戦闘、しかし実際にはスフィアだけではなくステータスに関する理解も大きくパフォーマンスに直結して来るという事を忘れてはならない。

 

 

 

……さて、諸々の流れはあったものの、問題なのはリゼを起こす方法である。

現在リゼの精神状態は非常によろしくない物になっており、具体的には感情の動きが鈍くなっていると言うよりは、泥水の中に浸ってピクリとも動いていない状態である。加えてエルザはそれでも微かに自分で起き上がろうとする意思自体はあったのだが、周囲の環境や動向に精神状態が流されやすい傾向のあるリゼではそう上手くも行かない。ラフォーレにボコボコにされて罵倒されれば『その通りだ』とそれはもう大いに凹み、一方で直後にマドカから励ましの手紙を受けただけで晴れ晴れ元気になる彼女。勿論今はその泥水の中でされるがままに呆然と浮かんでいるだけであり、周囲からの声など殆ど聴こえて居らず、言ってしまえばユイのポーションを摂取したにも関わらず、それでもポーションを飲んでいない一般人並みの影響という状態であった。

元々POW(精神力)が低い上に精神的にも未熟というのもあるのだが、今回付与された精神汚染というのがあまりにも彼女の精神とマッチし過ぎている。きっと普段の彼女にその解決方法を聞いてみても、自分自身ですらそれを思い付く事は難しいだろう。もしこの街に来る前の彼女がユイのポーション無しに同じ攻撃を受けてしまっていたら、生涯その状態になってしまっていたと言ってもいい。

 

「そうそう、ユイはそうやってリゼを後ろから抱き締めていなさい。ラフォーレはこっち、リゼの事をマドカを見ている様な気持ちで見なさい?」

 

「無理に決まっているだろ、こんなゴミを」

 

「貴方が出来ないと困るのだけど、マドカが」

 

「くっ……」

 

「目を瞑っていてもいいから、取り敢えず笑ってなさい。あとはこれも着て、その辺の民家から持って来た奴だけれど」

 

「殺す……!私にここまでさせておいて何の成果も上げられなければ、この場に居る人間全員を絶対に殺す……!」

 

「平気平気、私を信じなさいってば?それで私がこうしてラフォーレの後ろ側に回って……」

 

目を開けたままボンヤリと虚空を見つめて動かないリゼの前で、エルザが中心となって好き勝手に場を構築していく。なるべく被害を抑えて巨人を倒し、マドカに余計な負担を掛けないため、ラフォーレすらもそれに従い強烈な殺気を放ちながらも動いていた。

少し離れた場所でギルド職員の3人がなんとか時間を稼いでいるが、それもいつまで続けられるか分からない。ラフォーレが時間を稼いでいた時よりも虫型のモンスターの数も増えて来ており、巨人の動きも身体に慣れて来たのかスムーズになっている様な気すらした。巨人を一体でも倒せれば間違いなく事態は好転する。その為には絶対にリゼの力が必要なのだ。ここまで彼等が動くのも、リゼ以外に事態を好転させられる人間がここに居ないからこそ。

 

「……よし、準備はいいわね?ラフォーレ、少し殺気を抑えなさい、少しの間でいいから」

 

「チィッ!!」

 

「ユイ、もう少しリゼを深めに抱き寄せなさい。今だけは許すから」

 

「は、はい……」

 

「さて……あー、あー、あー……これくらいかしら」

 

リゼを背後から抱き締めるユイ、リゼの目の前で白い上着を羽織って血管がブチギレそうになりながらもニコニコと笑みを浮かべているラフォーレ、そしてそんなラフォーレの後ろで声を整えるエルザ。これこそがエルザの考えた、リゼを起き上がらせるのに必要な布陣であった。

 

 

 

 

 

『リゼさん、大好きですよ……♪』

 

 

 

 

 

「ぶはっ!?マ、ママ、マドカ!?そ、そそそそそんないきなりなななななにを!?!?!?」

 

 

「「「……………」」」

 

 

「…………え?」

 

視線は冷たい。

流れる空気も肌寒い。

エルザだって予想していた、これが最も効果のある手段であると。しかし予想すらしていなかった、まさかここまで簡単に飛び起きてくるとは。

 

五感が弱くなり、視界すらも朧げな彼女にならば目の前の灰髪のラフォーレもマドカに見間違えるかもしれない。胸の乏しいマドカ、代わりに(男性であり当然胸などないが詰物はしている)ユイに抱き締めさせていれば感じ間違えるかもしれない。元々声真似が得意なエルザ、少し粗はあっても本当にマドカの声と聞き間違えてくれるかもしれない。悉く感覚が麻痺しているからこそ効果が出ると踏んで練った作戦。

とは言え、それでも暫くは呼びかけ続ける必要はあるのだろうな……とエルザは予想していた。それをたった一言、たった一言で飛び起きるのだからもう本当に呆れてしまう。呆れてしまうし、驚いてもしまう。まさかこの女は出会って数日しか経っていないマドカに対して、ここまで心酔していたのかと。『大好き』と言われただけで精神汚染すら跳ね除けてここまで焦り出すものなのかと。思春期の男児であってももう少し違うだろう。彼女がマドカに抱いている好意の幅が少しばかり心配になってしまうくらいには、簡単過ぎた。

 

「あ、あれ……?ラ、ラフォーレ・アナスタシア!?そ、そそそそれにユイも!この状況は一体……ぶふっ!?」

 

「待ちなさいラフォーレ」

 

「離せ、マドカの為にもこいつは早急に殺しておかなければならない……」

 

「そこは、うん、私達がちゃんと見張っているから。とにかく今は止めて頂戴、お願いだから、本当に」

 

頬をぶっ叩かれて目を白黒とさせながら困惑しているリゼを他所に、エルザはなんとかラフォーレを食い止める。ギルド長達も最早限界なのだ、遊んでいられる暇もそれほどない。

 

「ええと、リゼさん?今その大銃を撃つ事は可能ですか?」

 

「こ、これをかい?それはまあ、可能だけれど……ってうわ!?なんだあの巨人!?」

 

「記憶がぶっ飛んでるわね……リゼ、貴方があの巨人を倒すのよ」

 

「わ、私が!?」

 

「魔法が通用しないのよ、そして物理攻撃で腹部にあると思われる核まで攻撃を通すにも難しい。貴方の大銃ならそれが出来るでしょう?片方さえ倒せば魔法への干渉力も弱まる筈、そうなればラフォーレでも倒せる様になる」

 

「リゼさんだけが頼りなのです、お願いします」

 

「わ、私が……そんな……」

 

周りの者達に言われるがままに巨人の方へと目を向けると、途端に動悸が激しくなる。精神汚染の効果が今もまだリゼの中に残っているのだ、それはこの場に居るラフォーレを含めた探索者達だって変わらない。今もあの怪物の精神汚染の効果は続いている。

 

「や、やれと言うのならやるが……本当に私で……ぶはっ!?」

 

「世迷言はいい、やれ。嫌だと言うのであれば首を頷かせるまで殴り続ける。ここで私に殺されるか、あれを殺してその後に私に殺されるか、選べ」

 

「どちらにしても私は殺されるのか!?」

 

「いいからやれ」

 

「わ、分かった!分かったから……!」

 

言われるがままに大銃を片手にリゼは準備を始める。背後から掛けられるラフォーレの圧、そして何となく冷たい周囲の空気。それに気を取られながらも準備をしているリゼの様子はエルザからして見れば至極頼りないものに見えたが、逆にラフォーレが居てくれたからこそ話が早く進んだと言う事もあって何も言わない。言ってしまえば期待しているのはリゼではなく、リゼの持つ大銃の方なのだから。最悪本人から使い方を教わり、ラフォーレかユイが直接至近距離からぶっ放してもいい。残酷な話ではあるが、エルザはそう思ってすら居た。

……少なくとも、リゼが大銃で敵を狙い始める、その瞬間までは。

 

 

 

―――ッ

 

 

 

「っ」

 

「……ほう」

 

「……そう。探索者としては素人でも、狙撃手としては一流という事ね」

 

さっきまで漂っていた少し締まりのない冷えた空気が、一瞬にして単なる無に塗り替えられる。

見ずとも分かる桁違いの集中力。

困惑した雰囲気や乱れた感情、それまで感じていたはずの恐怖心から何もかもが一切合切に消失し、あれだけ未熟であった女の姿が突然この場から消えてしまった様にすら感じられた。感情の制御が下手で、他人の行動に流され易く、世間知らずで何もかもが足りていない様なリゼ・フォルテシアという弱い女。

しかし目の前で大銃を構えて巨人に狙いを定めている人間がそんな未熟な女と同一人物であると、果たして誰が信じるだろうか。

 

殺気の一つも感じない。

感情の動き一つも感知出来ない。

生物が目の前で突然無機物に変わったとでも言うべきか。

動きは全て必要最低限。

自身の呼吸すら殆ど殺している。

音の一つすら殆ど聞こえず、自身の中にある全ての情動を完璧に封じ込め、ただ取り出して装着したスコープに映るそれに弾丸を当てる事に全身全霊を注いでいる。

 

ユイは考える。

もし彼女に狙われた時、果たして自分はエルザを守り抜く事が出来るだろうかと。

 

ラフォーレは思考する。

もし彼女をダンジョンという狭い空間ではなく、地上での、それこそ龍の飛翔に連れて行った場合、一体どれほどの戦力になるのかと。

 

エルザはただ見直す。

彼女がただ未熟なだけの少女ではないという事を。そして恐らくこれを知っていたマドカが常々言っていた、リゼ・フォルテシアの高い評価についてを。

 

「全員耳を閉じて欲しい」

 

リゼが発した言葉はただそれ一つだった。

自身も耳に詰め物をし、持ち手に肘を回して膝と崩れ落ちた家屋の壁を利用して大銃を固定し、顎を乗せてスコープを覗き込んだ姿勢そのままに狙いを定め終えた彼女。スキルを使用した眼による補正を終え、エルザが言っていた巨人の中央を寸分違わずに撃ち抜く為の全ての軌道予測を終える。

それは先程の近接戦闘時に描いた未熟な線とは違う。それよりもより鮮明で、確実で、何より熟練した経験に基づく確固たる形を持った光の軌跡。

 

 

 

―――――――――ッ!!!!!!

 

 

 

それは最早熱量の無い爆発と言っても過言では無かった。

至近距離で扱う際には威力を最小限にしたモードで扱っていたそれを、今リゼは最大の威力で撃ち放つ。生じた衝撃波と風圧は近くに居たエルザを背後の壁に向けて突き放し、言われて指で閉じていた筈の3人の鼓膜どころか、内臓すら揺さぶりながら付近の廃屋を崩し落とす。

耳栓をしていたにも関わらず鼓膜にダメージが入ったことで片耳の聴覚を一時的に失い、支えていた肉体や腕が耐え切れず麻痺を起こし、大銃を落とすと共にダラリと両腕を垂らす。それでもリゼは最後の瞬間まで弾丸の行方を目で追っていた。自身が描いた軌跡通りに寸分違わず飛んでいくそれが、強化した視覚でも朧げにしか見えないそれが、確かに狙い通りに巨人の腹部を打ち貫き、その肉体には小さくとも、元の弾丸よりも遥かに大きな空穴を穿つその瞬間まで。

 

『カッ―――キキ、カ……ケ、クター、カカ……』

 

何かが破壊された。

 

何かが撃ち抜かれた。

 

震え、呟き、そして消える。

 

巨人が倒れる。

 

そしてその後は、もう2度と動く事は無かった。

 

リゼ・フォルテシアは間違いなく、核となる肉体部分を、あまりに正確に撃ち抜いていた。

その姿を見て、意識を朦朧とさせられていたエルザは、自分がとんだ思い違いをしていたのだと気が付かされた。何が大銃の使い方さえ分かればいい、最悪リゼは必要ない、だ。あんな馬鹿げた銃をここまで精密に扱える人間が他にいてたまるものか。あの大銃を最高威力で狙撃に扱える人間など、世界中を探しても確実にこの女以外に存在しない。それどころか、半端な人間が至近距離で取り敢えずぶっ放そうとすれば、間違いなく自分の肉体が破損する。

豊満な胸、普通より大きな背丈と十分なVIT(耐久力)、そして強い反動のある狙撃銃を撃ち慣れている経験と、銃に関する豊富な知識と習熟……

 

「『マーキュリー・イェーガー』」

 

それは正しくリゼの為に造られた物だった。

リゼが使う為に何もかもが詰め込まれた、あまりにも彼女の事しか考えていない傑作。その作品に秘められた狂気という何かに、エルザが恐怖すら抱いたという事実は、簡単に彼女に伝えられる事ではない。




精神汚染……強力なモンスターや龍種が扱うものであり、主に対象の精神に対して影響を与える攻撃のことを指す。咆哮による恐怖心の付与や、魔法による精神操作などが代表的であり、扱う敵が少ないことから未だに研究不足な分野になる。全く対抗策を持っていない場合、その一撃でパーティが丸ごと全滅してしまう可能性もあるため、上位の探索者は何かしらの手段を用意している。特に簡単であるのがユイやラフォーレが取った自傷という手段であり、2人はこれが精神汚染であると判断した瞬間にそれを成した。POW(精神力)のステータスが対抗に関係している。
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