まずは自分のクランに入ってくれる人物を探す。
マドカの治療が完了した翌日。そんな目的の為に街を歩いていたリゼであったが、結果はやはり芳しくは無かった。
「新人探索者も居ない、クラン未所属の扱いになっている探索者もマドカ以外には殆ど存在しない。……さて、こうなるといよいよ引き抜きしか無くなって来た訳だが」
ギルドの受付嬢に相談し、街で買い物をしながら聞き込みをし、そうしてもやはり良さそうな人物は全くと言っていい程に浮かんでは来ない。というかそもそも、良い知らせがほんの一つも迷い込んで来てくれない。
「そもそも、未だ正式なクランとして認められていない場所に入ってくれる様な探索者もそうそう居ないだろうし。入った所で何の利点もなく、むしろ不利益しか存在しない。……勧誘の為にはクランを作る必要がある、クランを作る為には勧誘が必要になる。なかなか容易い事では無いかな」
クランの勧誘をする前に、まず友人作りから始めた方が早いのでは無いかという様な話。しかし時間もいつまでもある訳ではない。マドカの教え子という形のない資格があれば基本的な活動には問題は無いが、その資格を長く振り翳しておくのも印象が悪い。その資格はとても便利で有益な物ではあっても、使い過ぎればマドカの寄生虫の様に見られてしまう。そうすればクラン勧誘は更に難しくなるだろう。
「それに他にもやる事は多い。書類の作り方を学び、10万L以上の資金をかき集め、その上で自分の新しい部屋を借りる。日々の生活費を稼ぐだけではなく、探索者として自分の実力を最低でも落とさない様にしないといけないし、どれ一つ取っても勧誘と同時進行で満足にこなせるほど容易い物ではない……考えると少し頭が痛いかな」
正直に言ってしまえば、現実的では無い。
そんな事は分かっている。
それでも、直ぐに出来ないと諦めるのも違う。
「……手持ちは3万L、これでは引っ越しをするにも物足りない。まずは纏まった金額が必要だ。部屋の期限は問題ないとしても、ある程度の稼ぎが認められればギルドからの契約は2週間の猶予の後に切れてしまう。それを考えるとあまり稼がない方がいいのかもしれないが、それではいつまで経っても10万Lなんて貯まらない。……いや、そもそも今以上に稼ぎを増やす事も現状では難しいのか。要らない心配だったかな」
依頼の数にもよるが、今のリゼの1日の稼ぎは大体8000L程度。そこから1日の食費の1500L(全てギルドの食堂を使った場合)と、武器や防具の整備費1500L、道具品の補充1000Lを差し引いて、多少の変動や諸々の出費を考えても毎日平均3000Lの貯金は出来るだろう。
それでも10万Lまではほど遠い。
急な出費も考えれば全然心もとない。
部屋を借りる事は出来ても、貯金に不安が残ってしまう。
ワイアームを倒して6階層以降に一人で潜れる様になればまた話は変わってくるだろうが、今もリゼの中にはワイアームに対する恐怖は確かに根付いていて、簡単にそこに辿り着く事は出来そうにない。
「……うん、取り敢えずは実力の保持と稼ぐ事を優先かな。ダンジョンに潜りながら、パーティを組んでくれる様な探索者が見つけられたら最高だ。夜には書類関係の勉強をして、部屋探しについても誰かに相談してみよう。それこそクラン関係ではなく、単なる部屋探しならばマドカに頼ってみてもいいかもしれない」
実のところ、他のクランには入らず、あくまで自分のクランを作ってみたいという事は既にマドカに伝えてあった。
それを聞いたマドカは、特に驚く事もなくすんなりとそれを受け入れ、ただ静かに微笑んで応援の言葉と『何でも力になる』という頼もしい言葉を伝えてくれた。
……とは言え、リゼの目的はあくまで自分の動きやすいクランを作り、マドカの側にいること。それを流石に本人に伝える事は出来ず、こんな不純な動機のために彼女に助力を頼む事も出来ず、この件に関しては彼女の力を借りないと決めていた。
……だが、家探しならば話は別だと考えていい。
そこが将来的なクランの本拠地になったとしても、それ以前に生きていく為に必要な事なのだから。家が無ければクランを作ってはならないという決まりもないため(滞在場所の書類提出は必要)、これくらいならマドカに相談しても問題は無いし、むしろ相談しなければ彼女が心配してしまうまである。
「よし、そうと決まれば昼食の時にマドカにそれを相談したら、午後からは早速ダンジョンに潜る事にしよう。運良くワイバーンがスフィアを落としてくれたりすると嬉しいのだが……」
またそんな都合の良い事を考えながらも、リゼはギルドの食堂に向けて歩き出した。それが本当にどれほど都合の良い考えであったのかは、それを彼女が実感するのはこの直ぐ後に分かった事であった。
「マドカ、こいつは借りていく。夕食までには返却する様に努めよう」
「え」
「あや、そうですか。ふふ、ちゃんと無事に返してくださいね?」
「努めよう」
「私の意見は考慮されないのか!?」
「努めない」
「マドカぁぁあああ!!」
「頑張って下さいね〜、リゼさ〜ん」
ズルズルと引き摺られていくリゼの姿を、いつも通り大量の皿を平らげていたマドカが小さく手を振ってニコニコ笑顔で見送る。
首元を引っ掴まれて子猫の様に抵抗すら許されず連れて行かれるリゼの姿は、それはもう哀れで、残念で、すれ違う探索者達もまた同情の目でその様子を見ていた。
「良い加減に自分で立てゴミ、いつまでそうしているつもりだ」
「いや、立てるものなら自分で立ちたかったというか……」
「口を動かす前に手を動かせ屑、防具くらい手早く付けろ」
「ほ、本当にダンジョンに潜るのか……いや、私としては助かるのだけれど」
取り出した宝箱から引っ張り出した防具を装着し、いつも通りの服装のまま防具などこれっぽっちも付けていないラフォーレ・アナスタシアに向き直る。
昼食を食べていたマドカとリゼの前に突然現れ、何の説明もなくリゼをここまで引き摺って来たのは、マドカの母親である彼女だった。
リゼの記憶が確かであれば、リゼはラフォーレにかなり嫌われていた筈だ。それこそ問答無用で殴り付けられる程度には。そんな彼女がどうして自分をダンジョンに潜らせようとするのか。事故に見せかけて殺すつもりなのだろうか?それならばマドカとあんな約束をする筈も無いし、こうして防具をつけさせる時間すら与える筈もなくて……
「っ、ワイバーン……!」
「邪魔だ」
『ピギィィイイッ!?!?!?』
「…………」
1階層の階層主であるワイバーンが、ただの1発の炎弾によって炭となって落下する。仮にも龍種であるそれを目を向けることすらせずに殺し、そのドロップ品にすら何の興味も見せない彼女。
しかし金のないリゼはそんな訳にもいかず、気を取り直して咄嗟に灰の中から魔晶を回収して小走りで彼女の後ろを着いて行くが、ラフォーレはリゼのそんな行動にすら何の興味も見せなかった。
モンスターの存在しない2階層を抜けて、3階層、4階層。ドリルドッグやグランドアリゲーターなど、彼女の道を塞ぐ存在は例えそれに敵意が無くとも問答無用で消炭にされていく。魔晶すらも焼かれてしまうのではないかという凄まじい火力の炎弾を、本当にどれだけ連発しようとも、彼女が疲労を見せる事は一切無かった。
そして……
「マ、マッチョエレファント……」
「退けデカブツ」
『ブァァアアアアアアアアアア!!!!!!!』
ワイアームと同等の強さを誇ると言われていたあのマッチョエレファントでさえも、彼女の前では単なる大きな的に過ぎず、2発の炎弾を受けて何の抵抗も許される事なく爆散した。
落ちる大きめの魔晶。
リゼはそれを拾いあげるが、その次元が違うとも表現できるラフォーレの魔法威力に少しの恐怖も抱いていた。
龍神教騒動の際に疲労した状態で見た彼女の実力。
意識の朦朧とした中で見たそれは半ば夢の様にも感じていたが、今こうして目の前で見せつけられれば、あの光景が全くの事実であったと思い知らされる。たった一人で街の一角を焼き払った彼女の実力、それが紛れもない本物であったと実感させられる。
「前を歩け」
「え?」
「前を歩け」
「それ、は……」
「ワイアームを殺せ、出来なければ私がお前を殺す」
「!?」
そして今、その炎弾が正に自分の身体に向けられていた。
彼女の青い瞳が真っ直ぐに自分を貫く。
近くに居るだけでも汗をかいてしまう程の凶悪な熱量が、明らかな敵意を持って浮遊している。
「ワイアームに殺されるか、私に殺されるか、それともお前が奴を食い殺すのか。お前に選べる道は3つしかない」
「だ、だが、私は……」
「ワイアーム程度に何を恐れている」
瞬間、リゼの背後の壁が爆発する。
跳ね飛ばされる身体、少しの火傷を負った足、そして這いつくばるリゼを見下ろすラフォーレ。
痛む全身に彼女は懐から取り出したポーションを乱暴に振り掛け、それでも蹲ったままのリゼの腹部を蹴り上げて無理矢理に体を起こさせる。
ラフォーレの背後には今度は2つの炎弾が浮かんでいた。発揮する圧力を更に強めて。
「ワイアームが恐ろしいか?この私より」
無理矢理に掴まれた首を強引に引き寄せられ、強者の両眼を問答無用で見せ付けられる。
ワイアームに対する恐怖。
ラフォーレに対する恐怖。
果たしてそのどちらの方が強いのか。
実際の話をしてしまえば、それでもワイアームであるというのがリゼの本音だ。それほどに強化種ワイアームによって植え付けられた恐怖は強い。
……しかし、目の前の女はそんな答えは求めていない。
そして、そんな答えを言った日には問答無用でその恐怖を上回る様な恐怖を植え付けてくる。この女はそれが出来る女だ、そこに躊躇はしない女だ。
何故彼女が自分にそんな事をするのかは理解出来なくとも、彼女が自分の目的のためならば簡単に他者を苦しめる事が出来る女であるということは、リゼはもうよく知っている。
「……倒せば、いいのだろう」
「そうだ、殺せ。惨たらしく殺せ、貴様に出来る最も残酷な方法で殺せ。敵に恐怖を植え付けろ、敵の尊厳を踏み躙れ。貴様の悪意の全てを打つけ、人間としての悪性を発揮しろ。ただ殺すだけでは足りない、決して認める事はない」
「っ」
何故彼女がそんな事を求めてくるのか、リゼは心の底から分からなかった。
ただ明確なのは一つ。彼女の要求を飲まなければ仮に殺される事は無くとも、ワイアームと戦うよりもよっぽど可能性のない地獄を見せられるということ。
「……分かった」
言われるがままに、リゼは足を踏み出しワイアームが潜む5階層へと進んでいく。
ここに足を踏み入れたのは少し前、その時には自覚させられたワイアームへの恐怖によって身体がまともに動かず、それは無様に敗北を期した。あれから少しの時間は経っているとは言え、リゼの実力自体はそう変わっていない。精神的にも克服しておらず、精神汚染を一度受けた影響か、元よりも精神的に弱くなっているとも言えるだろう。
『ゥゥゥウ……』
「ワイアーム……」
相変わらず階層内に風を撒き散らしながら自在に空を動き回るワイアーム。見ていれば分かる、今あれが警戒しているのは自分では無く後ろのラフォーレであると。しかしそれでも自分の身体の震えが止まらない。情けないことに、自分に向けられている訳でもない視線にリゼの身体は怯えている。
「やれ」
「わ、分かっている……」
大銃を構える。
スフィアの位置を確認する。
グッと秘石に手を掛ければ、そこだけはいつもと変わらぬ暖かさを纏っていて、少しの安堵を齎してくれた。
ワイアームとの戦績は1勝1敗。
エルザ達と経った時のことを考えればそこに1勝が追加されるが、それは野暮というもの。ワイアームの攻撃方法や行動については粗方頭の中に入っている。あとはそれをどこまで恐怖に負けることなく実行出来るかどうか。それを乗り越えるための要素は、それを更に超える背後からの威圧感以外はここにない。
「……っ、はぁぁぁっ!!!」
『オォォオッ!!!』
以前と変わらず、リゼが走り出したと同時にワイアームもまた突進を仕掛けてくる。
スレ違い様の一撃、振り下ろしたリゼの大銃が龍の顔を掠める。
「チッ」
人並外れた眼を持つリゼならば、普段の力をもってすれば今の一撃でワイアームに対して大きなダメージを与えられていた筈だった。その眼力を持ってすれば敵の攻撃を完璧に避けつつも、その顔面に一撃を叩き込むのは造作もないからだ。
しかし今こうして敵の顔を掠めるだけに結果に終わってしまったのは、迫り来るワイアームの圧にリゼが恐怖を隠すことが出来ず、冷静さを乱し、必要以上に回避する事に思考を割いてしまったからだ。
背後から聞こえて来た舌打ちに冷や汗を流しながらも、とにかく息をして思考を取り戻す。
振われた長く大きな身体から繰り出される体当たりを避け、必ず敵の頭から目を離さないようにし、前兆を察知すると同時にその場から大きく跳ね飛び、口から放射される空気弾から逃れる。
防戦一方……ではあるが、以前よりはまともに戦えている。
どうにもリゼはワイアームの突進に対して特に恐怖を抱いてしまう様で、逆に言えばそれ以外の時には頭を冷静に回す程度の余裕はあった。ならばもういっそのこと、突進に対しては全力回避に徹すればいい。幸いにも最初のスレ違い以降、カウンターを恐れてかワイアームが突進を仕掛けて来る事は殆ど無かった。
「っ、『回避』!『炎打』!」
『ガァッ!』
気付くのに遅れた頭上から振り下ろされる尾の一撃をスフィアの力で強引に避け、即座に反転して地に落ちた体部に向けて炎を纏った大銃を振り下ろす。
しかしこちらに回避のスフィアがある様に、敵には気穴を使った緊急回避手段がある。リゼの動きに気づくや否や、いくつもの気穴を噴射させて距離を取り、ワイアームは再び場を改める。
こうして対面する度にリゼは思う。
高位の探索者ならば一撃で始末してしまう様なこの龍も、根本的な能力が足りないだけで間違いなく強者であるのだと。
4階層のマッチョエレファントを見た、6階層ではパワーベアを倒した、そして地上では異形の怪物達と対峙した。そのどれもがリゼからしてみれば凶悪に見えたし、中には単純な能力だけで言えばワイアームを超えている者も存在していた。しかし戦闘経験というか、戦闘用の思考というか、強いて言うのであれば戦闘の巧さというものに関しては、目の前のワイアームが群を抜いている様に感じている。
リゼだって気付いている。
ワイアームと同等の位置付けをされているマッチョエレファント。しかし彼等にもステータスというものが存在しているとするならば、その合計値が優っているのはまず間違いなくマッチョエレファントの方であると。それでも、もし仮に彼等を直接ぶつけた場合、勝つのはワイアームの方になる。それだけは確信出来る。
(結局、それが全てなんだ。ステータスはあっても、それを活かせる頭と心が無ければ意味が無い)
ワイアームが突進を仕掛けて来る。
リゼはそれを必死になって避ける。
そして再び、ワイアームは突進を行う。
リゼはまたもやそれを必死に避ける。
……見抜かれた。
自分が敵の突進攻撃を苦手としているという事を、僅かこの少しの間に見抜いて来た。
突進の中で織り交ぜてくる体当たりや空気弾。
身体の大きさを活かした蹂躙戦法を捨てて、突進を中心とした削る意識の行動に切り替えた。そうして削られるのはリゼの体力だけでなく、精神力もまたそうだ。このまま続けていれば、必ずどちらかが限界を迎えて致命的な隙となる。
長引くこの戦いに、ワイアームは我慢比べを選んだのだ。到底モンスターが取るとは思えないそんな選択を、奴は選んだ。
(ならば私が我慢をするのは何に対してだ?体力か、精神力か、それとも……)
戦闘が長引く程に、着実に背後から感じる圧力は増して来ている。この程度の相手に何を時間を掛けているのかと、見ずとも分かる勢いだ。
ある意味では板挟み。
それでも、それこそマドカの教え子である自分がワイアーム程度に負ける様な姿を、マドカの母親である彼女に見せる訳にはいかない。この戦いに、負けるという選択肢は最初から存在してはいない。
(……我慢、しなければ。この恐怖から)
突進を避け続ける。
敵の衰弱を待つ。
それは一見我慢比べの様に見えて、実際にはただ逃げているだけに過ぎない。本当に今向き合うべきは、必要以上の力を使って避けてしまっている原因となる恐怖に対してだ。
……本来、リゼにとって突進という攻撃は、むしろチャンスでしか無いのだから。いくら敵が龍種と言えど、リゼの眼の性能に敵う相手などそうそう居ないのだから。
「おい」
「?」
「あと30秒以内に終わらせろ、さもなければこの空間ごと貴様を焼く」
「……っ、相変わらず容赦が無い。これはもう腹を括るしかないかな」
再び突進を仕掛けて来たワイアームを跳躍で躱し、その背中を踏み付けて着地する。
以前もそうだった。
リゼが敵を倒す時、それは自分の眼に頼り切ったカウンター。それしかない。正面から敵に向き合い、叩き潰す。敵を恐れる事なく、目を合わせて、冷静に頭を回さなければ、それは為し得ない。
……それに今は、たとえどれだけ恐ろしくて、足が震えるほど怖い思いをしていても、それでも……やらなければ、殺される!!
「『視覚強化』『星の王冠』!!」
『ガォァァアッ!!!』
「さあ!気合を入れろ!腹を括れ私!マドカはあの恐ろしい相手から、命を賭けて私を守ってくれたんだ!それに比べたらこんなもの!!」
声を出す。
自分を鼓舞する。
以前と同じでいい。
以前の感覚を思い出せばいい。
上手くなくていい、みっともなくていいのだ。
劇的でなくても、感動的でなくても、今だけは格好悪くても、それでいい。
目の前の敵を乗り越えられるなら。
目の前の恐怖を克服出来るのなら。
ワイアームに負けた事は、まだマドカには報告していない。報告したくない。そんな事をバレたくない。だから今ここで取り戻す。自分の自信を。マドカの教え子として、恥ずかしくない自分を。
「せやぁぁああああ!!!」
全身全霊の力を込めて、大銃をワイアームの顔面に向けて叩き付ける。突進をギリギリの間合いで避け、恐怖から意識を必死になって守り抜き、普段よりも幾分か不自然な格好になりながらもカウンターを決める。
それでも確かな手応え、確かな威力……そんなものは、何処にも無かった。
『ゴァァァア!!』
「うっ」
叩き付けたと思った大銃が、ワイアームの大顎によって止められ、飛ばされる。背後へ飛んでいく大銃、そして武器を無くしたリゼに追撃を仕掛けようとするワイアーム。
リゼは素手での戦闘は得意では無い、そうなれば今度こそ負けの目が見えて来る。
「……!いや、まだだ!!」
だが、リゼは以前の戦いから今日までの間に、その技術だけはしっかりと会得していた。ステータスを含めても殆ど成長していない彼女が、目に焼き付いたそれを再現する為に何度も試して練習し、そして最後には実戦で扱ったその技術。
「『回避』……!!」
背後に吹き飛ばされた大銃を追う様に、リゼもまたスフィアの効果によって吹き飛ばされる。未だ残っている視覚強化で周囲の状況を把握しながら背後に飛び、その動きに一瞬の驚愕によって身体を停止させたワイアームを踏み台にして跳び上がった。
宙で銃を掴む。
壁に足を着けて敵を見る。
呆然とこちらを見ているワイアームは、あまりにも隙だらけで、これっぽっちも、あれほど感じていた恐ろしさを持ってはいなかった。
「『炎打』ぁぁああ!!」
炎を纏った大銃を、今度こそワイアームの顔面に向けて振り下ろす。
割れる頭。
地面に叩き付けられる顎。
炎を纏い打撃と同時に小爆発を起こしたその全身全霊の攻撃は、間違いなくワイアームの命を奪うに十分な威力となった。
少しずつ灰に変わっていく好敵手を見下ろす。
やはりスフィアが落ちる事はなく、2度ほど見たことのある大きめの魔晶が転がるだけ。
……ただ、そこには何か目に見えないドロップ品があった様にも思えた。形にはならないそれを、一体何と言葉にすればいいのか。
少しの息を荒げながらも一度目を閉じ息を整えてから魔晶を宝箱に収めたリゼの顔が、前より少しだけ清々しいものになっていた事だけは、きっと間違いない。
リゼの戦法……基本的に近接戦闘に関しての技術は素人程度でしかなく、故郷の山では一般的な猟銃を改造したものを使っていた。故に技術ではなく、その目による対応力の違いで強引に突破している。現状の戦闘スタイルが彼女本来の物ではないというのは間違いなく、今のスタイルが最終的なものになる訳もない。