無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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36.報告会議

ギルドの施設の中にはいくつもの部屋があり、勿論会議室に当たるものも多く存在している。しかしその会議室1つにしても様々に種類があり、誰でも使える簡易的な物、より大人数を収容するための物、そして重要な客人を招いた時や外部への情報漏れを防ぐ為の設備の整った物と用途に分けて様々に。特に後者の物に関してはギルド長の許可が無ければ使用どころか入室すら出来ない程にしっかりとした物だった。掛かっている金額も他の比ではない。

 

「さて……全員揃ったな」

 

そしてそんな一室に、今日は珍しく何人もの人間が卓を囲んで集まっていた。

ギルド長に直接収集をかけられ、この深夜の時間帯に呼び出された有力な探索者達。この場にいる殆どが街の外の人間にも知られている様な有名な者達であり、同時にギルド長のエリーナが信用出来る、信用出来なくとも確かに裏切る事はないと判断した者達だ。

 

「……大分顔色が良くなったな、マドカ」

 

「そうですか?ふふ……お昼はリゼさんへの指導ありがとうございました、お母さん」

 

「構わない。脚の方はどうだ、少しはマシになったか」

 

「はい、順調ですよ♪」

 

"無所属"、マドカ・アナスタシア。

"紅眼の空"、ラフォーレ・アナスタシア。

実質的にギルド直属の探索者であるマドカと、有力クラン"紅眼の空"の中でも此度の件に特に関わったラフォーレは、当然の様にこの場に呼び出された。隣り合わせの席で互いに微笑み合いながら、マドカはラフォーレに頭を撫でられている。

 

「あの、エルザ様?今日は一際体調が優れないご様子ですわね、よければ回復魔法をお掛け致しますわよ?」

 

「お願いしてもいいかしら……はあ、早く終わらせて家に帰りたいわ」

 

「お仕事の方は、もうよろしくて?」

 

「ええ、後はギルド長に全部押し付けるだけ。……今日は絶対にユイに添い寝して貰うんだから、そうでもないとやってらんないわよ」

 

"主従の花"、エルザ・ユリシア。

"風雨の誓い"、アクア・ルナメリア。

明らかに顔色悪く突っ伏しているエルザに、アクアはスフィアを使用しない精霊族特有の治癒魔法を掛ける。本来ならばエルザのクランはここに呼ばれる程に大きな物ではないが、今回の件の彼女達のギルドに対する貢献度で言えば、呼び出されるのは必然の話でもあった。そして見て分かる通り、彼女はその能力を現在進行形でエリーナに酷使されている。どうやらその尻拭いはユイが犠牲になるらしい。

 

「あ、あれ?今日はカナディアさんが居ないんですね、遅れるんでしょうか?」

 

「いいや、あいつは今ダンジョンの中だ。なんか遭難者が出たんだってよ」

 

「な、なるほど……あ!記録したもの、後でカナディアさんにも渡しておきますね!姉さんにも報告しないとなので……!」

 

「お前はほんとに真面目だねぇサイ、もう少し肩の力抜いて生きねぇと若ぇのに白髪生えっぞ〜」

 

「え、えぇ〜」

 

"若葉の集い"、サイ・シンフォニー。

"聖の丘"、レンド・ハルマントン。

この場に数少ない男性である2人はその歳の差も関係無く自然に言葉を交わす。まだ15の身であるサイと、既に45の身であるレンド。背後にもたれ掛かりながら椅子をギコギコと鳴らしているレンドに反して、前のめりになってメモを取る準備をしているサイの姿は本当に対照的な2人だ。

 

そして、

 

「そろそろ私語は謹んでくれ。これより一連の騒動に関する報告を行って貰う。エルキッド、資料配布を頼む」

 

「了解」

 

ギルド長のエリーナが、秘書のエルキッドに主にエルザが作った資料の配布を命じた。

定例の会議。

今回はそれだけではなく、様々にあった一連の騒動の報告を中心に行っていく。これは龍の飛翔や何か重大な事件が起きた時に行われる物だが、今回はそれこそ本当に色々な事があった。その分エルザが作成した資料の束は分厚く、手渡されたレンドも嫌な顔をしながらもそれを受け取る。

 

「……酷ぇもんだな、色々と」

 

「想定外、というか……最悪が重なってしまいましたね」

 

「そうだな、正直に言えばラフォーレの独断行動が無ければ被害は更に酷い物になっていた。その反面、そちらの方が被害は大きかった様だがな」

 

「チッ」

 

「いえ、ラフォーレ様が拠点を出た際には既に大凡の対処の目処は付いていましたわ。カナディア様とセルフィ様がその分大層苦労をなさっていましたが、結果を考えれば最善の行動だったのではないでしょうか」

 

「……実際、マドカが十分に動けなくなった時点で戦力を早急に引き戻す必要はあったもの。ラフォーレの判断は間違ってはいなかったわ」

 

「面目ありません……」

 

「いや、ありゃあ完全にウチの責任だ。その尻拭いしてくれたマドカちゃんが気にするこたぁ無ぇよ。……街守ろうとしてる奴等が街ぶっ潰す様な真似したんだ、責任持って指導しとかねぇとな」

 

「そうだな、マドカは十分に仕事は果たした。そしてラフォーレ、今回の件については私からも改めて感謝させて欲しい。お前が居なければこの街は壊滅していた。独断専行とは言え助かったのは事実だ、ありがとう」

 

「……やめろ気持ちが悪い、頭を上げろ」

 

皆が手元の資料をパラパラと捲りながら、取り敢えず思い思いの意見を発していくスタイル。今更資料の解説を1から10までする必要もない。

静かに、そして穏やかに、特に怒声や大声が飛び交う事もないこの会議。これがいつも通りの彼等の会議の姿であった。そういう人間達が選ばれてこの場に居る、そういう冷静な人間達がこの場に居る事を許されている。本来ならばラフォーレは外されるのだろうが、マドカと一緒にいる時の彼女はその条件の中に入っている。彼女はこうしてマドカが側にいる場所では、決して暴君の姿を見せたりはしない。

 

「時にレンド、一つ聞きたいのだが……今回の街への襲撃は十中八九"龍神教"の仕業だろうが、この奇怪な生物群についての情報はあるか?」

 

「……いや、無ぇ。こんな気色の悪い化物、見た事も聞いた事もねぇ。少なくとも前に見た【憤怒】も【憂鬱】もこんな奴等を引き連れては居なかった」

 

「そうか……」

 

「ま、【憂鬱】は奇妙な沼を突然作り出してたからな。もしかすれば他の罪のスキルの力って可能性はあんじゃねぇのか?そもそも罪のスキルがいくつあって、他にどんな名前が付けられてるのかすらも分からねぇが」

 

「……スキルの力でモンスターを生み出すなんて、信じ難い話ですわ。それでもあの力のことを思い出してしまうと、納得せざるを得ないと言いますか」

 

「1匹1匹はゴミだったが、集まったデカいゴミは生意気にも私の魔法を抑え込んだ。加えて全ての個体が同一の目的に沿って動き、半ばでその目的を変えた様にも見えた。……居るだろう、ゴミを支配しているゴミ山の猿は、間違いなく存在している」

 

それこそリゼの助けもなければ勝利を掴む事は出来なかったあの状況、それを作り出した事を考えるに敵は楽観視できる様な存在では到底無かった。

加えて、そのラフォーレ曰くゴミ山の大将がこの街の中には全く見当たらなかったという事を考えると、敵はそれを遠距離から操作していたとも考えられる。果たして本当の力を見せた時、それがどれほど脅威的な存在になるのか。それを考えれば所持者1人で数多の実力ある探索者を打ち倒す事の出来る罪のスキルが関わっていると言われても、全くと言って良い程に不思議では無い。

 

「個人的に今回の敵の目的はマドカだったんじゃないかと私は思ったのだけれど、それについてはどうかしら?」

 

「ええと、どうなんでしょう……仮にそうだとしても、私は龍神教側に行くつもりは無いのですが」

 

「渡す訳が無いだろう、あんなカス共の集まりに」

 

「分かっている。仮に敵がマドカを狙って仕掛けて来たのだとしても、マドカはこの街の貴重な戦力であり人材だ。敵に屈して差し出す気は毛頭無い。これがレンドであろうとサイであろうと、我々が取る行動が変わる事は無い」

 

「ま、仮にもこの世界の最後の砦を名乗ってんだ。狙いがマドカちゃんだろうがスフィアだろうが、頭下げて差し出して終わり、なんて訳にはいかねぇわな」

 

「1度折れれば2度目が、2度折れれば3度目が。要求は際限無く続きますわ。単にマドカさんが狙われているという話では無く、対組織としての話で考えるべきかと」

 

「つ、つまりマドカさんには何の責任もないって事ですよね!僕もそう思います……!」

 

「そう言って貰えると私も嬉しいです」

 

「……私だって別にそんな事が言いたかった訳じゃ無いのだけれど、まあいいわ」

 

別にエルザとてマドカが原因であったとしても、マドカを糾弾するつもりなんてこれっぽっちも無い。仮にマドカが狙われているとして、それが原因となって街に被害が出たとして、それでマドカを責めるのはお門違いにも程がある。そんな事を言ってしまえばエルザだって実家が動いた時にはこの街に迷惑をかけるだろうし、過去まで遡ればラフォーレの方がよっぽどこの街に迷惑を掛けている。

 

「私が言いたいのは、マドカが本当に狙われているのか、そして狙われていたとしたら今後どう対応していくのか。それだけよ」

 

「……その辺りどうなんだ、ラフォーレ。仮にマドカが狙われているとして、その理由に心当たりは無いのか」

 

「回答を拒否する」

 

「お、お母さん……」

 

「黙っていろマドカ、この件についてはお前とて口を挟む事は許さん。絶対に口に出すな」

 

「……狙われているという事は確定だと、そう考えていいんだな?ラフォーレ」

 

「好きにしろ、それ以上に私から言う事は何も無い」

 

その瞬間そこに座っていた者達の心中に浮かんだのは、何より驚き。しかしそれはマドカが龍神教に狙われているという事実に対してではなく、あのラフォーレが愛娘を相手にこれほど厳しく当たったという事実に対して。

娘のためならば自分の心柱さえへし折る彼女が、その娘の意思を無視して抑え込んでいる。それはもう少し考えれば誰でも分かる事だが、それ程に他人に容易く話せない様な秘密が彼女にはあるという事になる。

 

(……ま、どうせカナディアの奴はそれすら知ってんだろうがなぁ。あいつもマドカちゃんの事になると口固ぇから何の参考にもなりゃしねぇが)

 

この場に居ないエルフの女性を思い浮かべながら、レンドは舌打ちを切る。

しかしカナディアがもしそれについて知っているとなれば、それはこの街にとって大きくマイナスになる事ではないという事が確かになる。ならばそれについてレンドが考える事は特に無いという事にもなるのだが、そうでなくともマドカ・アナスタシアという人間はこの街オルテミスの探索者の中でもトップクラスで訳の分からない人間だ。この街の頂点に立ち、指示を出す立場である以上、そういった不安要素を残しておきたく無いというのも本音にはある。

 

「……ま、街の周辺の警備を強化すんのは前提としてだ。暫くは投影のスフィア使った放送もマドカちゃんは出禁だろ」

 

「うっ」

 

「それは少し残念ですが、私もその通りだと思います」

 

「え、や、待ってくれ!そこはまだ少しの交渉の余地がだな……!」

 

「ギルド長、気持ちは分かるけど駄目よ。マドカの放送人気は高いけど、流石にこの状況で表には出せないわ」

 

「ほ、他の人に出演を代わってもらうとかはどうですか……?」

 

「マドカ以上の演者がそうそう居るか!それとも何か!君が代わりに出演してくれるのかサイ!?当然女装して際どい服を着て!それでもマドカの人気に届く事はないんだぞ!分かっているのか!」

 

「ひぃっ!!」

 

「エ、エリーナさん、落ち着いてください。あの、ほら、予告無しの短時間突発出演とかならまだ大丈夫だと思いますし……!」

 

「基本司会のお前が居なくなったらどうするんだぁぁ!中央のお偉い方の中にもお前を応援している人間が居るんだぞぉ……!」

 

「え、そうだったんですか!?」

 

「だから困るんだ!……そ、そうだエルザ!せめてユイを貸してもらう事は!」

 

「嫌よ、絶対に嫌」

 

「ぐぅ……!」

 

話の中心は、投影のスフィアを利用した配信活動について。

投影のスフィアは、今やこの世界の重要な娯楽の一つとなっている。ギルドがそういった人材を集めて作っている放送部門では日々様々な番組を放送しており、連邦中央から放送部門に降りてくる資金も日々増していく一方。1つの時間帯に1つの番組しかしていなかった物も、最近では2つに増やしていくという話が出ており、2階層以外にも放送用の設備を建設するのはどうかという話だってある。後者はダンジョン環境と強化種出現の引鉄になる危険性を考慮して今も話し合いが続けられているが、前者は既に現実味を帯びて来ている話だ。

そんな中、容姿も良く、性格も良く、番組の司会だって十分以上に熟してくれるギルドの看板娘マドカ・アナスタシアの欠員はあまりにも痛い。手紙や魔力を利用した文章伝達装置で送られてくる番組への感想に子供達による物が多いのは、間違いなくマドカが担当する健全な番組の評判が良いからで、そうして健全な番組の評価が良いからこそ、中央からも正式に金が降りてくる。様々な支援が受けられる。

 

「む、無理だ……やはりどう考えても今マドカに番組を降りて貰うことは出来ない……」

 

「貴様、ギルドの為にマドカに危険を及ぼす気か?」

 

「いきなり降りたらそれこそ街が混乱するだろう!!街というか中央が!……せ、せめて!せめて後任が出来るまでは続けてくれないか!その分の護衛はこちらで絶対になんとかするから!」

 

「「「……………」」」

 

頼む、この通りとばかりに頭を下げるエリーナの必死さには、流石にあのラフォーレでさえも口を閉じた。ギルド運営のことまではよく分からない者ばかりだが、あのエリーナがここまで頭を下げるという事は、本当にそれほど大事の話なのだと誰でも分かる。

実際、この街の探索者にとってもギルドと中央の間にトラブルが生じるのは困る事だ。放送だって、新人探索者を集るのに必要なこと。この場に居る人間達がギルドの放送にあまり積極的に参加していないのもあって、堂々とそれを否定する事は出来ない。

それにギルドと探索者達の間柄は決して悪いものではない。仕事とは言え常に探索者達が十分に活躍出来る為に彼等が汗癖動いているのを知っているのもあって、こうして素直に頭を下げて頼まれてしまうと断り難いのだ。少なくともこの場に居る人間達にはその程度の良心くらいは残っている。

 

「……はぁ、仕方ねぇなぁ。各クランで放送中の警備員回すか、ウチは街の外部の警備拡大しちまうから難しいけどよ」

 

「そう、ですわね。私のクランでは性質上そういった警備の担当を回す事は難しいですが、団長のエアロが幸いにも常に暇をしておりますわ。協力致します」

 

「ぼ、僕の所は……一応姉さんにも相談してみますけど、大丈夫だと思います。むしろお爺さん達は放送現場が見れて嬉しいんじゃないかなって」

 

「ウチは2人しか居ないから時間がある時でいいかしら?龍殺団は……無理そうね、唯一まともなカナディアが1番忙しくしてるもの」

 

「……おい、"紅眼の空"はどうすんだ?」

 

「無論私が側に着くに決まっている」

 

「やめろ、やめてくれ、お前が収録現場等に来た日には演者達が間違いなく萎縮する……」

 

「せめて3人で回してくんねぇか?」

 

「チッ、ゴミが」

 

「なんでそこまで言われなきゃなんねぇんだよ……いやもう別に今更いいけどよ」

 

どうしても人手が足りなくなる都市成立祭(龍の飛翔)の時期以外には、基本的に2日に1度、多い時には1日に2〜3回ほど放送に出演していることもあるマドカ。それも彼女の大切な収入源の一つであり、実際に完全に無くなってしまえば困るのはマドカも同じ。他に収入が得られる何かを探すまで続けさせて貰えるのなら、それ以上のことはなかった。

 

「つっても後任探すにしても、マドカちゃんの稼ぎは大丈夫なのかよ。クラン入る気は無ぇんだろ?」

 

「私が出す」

 

「お、お母さん……ほら、別にダンジョンに入らなくてもお金は稼げますから。今まで放送に使っていた時間を飲食店のバイトで補えばなんとかなります」

 

「ああ、確かマドカがお気に入りの喫茶店があったかしら。別にそんな事しなくともギルド長が首括れば大丈夫よ」

 

「誰が首を括るか。……マドカには探索者支援部門の仮職員として雇える様に既に制度改革を含めて手を回してある。金銭面の問題はない」

 

「へぇ、それは良いですね!僕も参加してみたいです!」

 

「手際が本気過ぎますわね……」

 

「そ、そこまで話が進んでいたんですか……?」

 

「仮職員と言っても、ギルドの施設を自由に使える一般人なんていう都合の良い存在よ。ギルド所属の探索者は禁止されていても、仕事の委託と施設の貸し出しは禁止されてないもの。偶々専門性のある業務で見積もりが高かったり、偶々入札が1件しか入らなかったりはするけど。合法よ」

 

「酷過ぎる」

 

「だが食堂の利用を自由に出来なかった事だけが残念だ。講師としての講師料や講演料ではそう高い額は出せない上に、常に同じ人間を呼んでいるのもおかしくなるからな。これが最良だと判断した」

 

「……これ今後マドカちゃん以外に適用されること2度と無ぇ案件だろ。お前の入れ知恵だな、エルザ」

 

「私男は嫌いだから話しかけないでくれるかしら?」

 

「散々だなウチの女連中は……これでも都市の頭だぞ俺」

 

一先ずはそんな所で今後のマドカの方針についての話は纏まった。

例えマドカが狙われているとしても、敵の本拠地が分からない現状では敵の動きを待つしかない。待ちながら、罠に掛けていくしかない。

マドカを囮になどすればラフォーレが暴れ出す事を考えるに、その罠については裏で密かに仕込んで行く事が賢明だ。それを考えてそれについてはレンドは話題に出さない様にしたし、そんなわざとらしい様子に気付いたエルザも悪態を吐きながらも話を打ち切った。

 

「よし、マドカのスケジュールについては確定次第共有する。決して外部に漏らさない様に、そして護衛も信用出来る者だけを選ぶ様に頼む。マドカはスケジュールを作成次第、エッセルに渡しておいてくれ」

 

「分かりました。……皆さんご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません、よろしくお願いします」

 

そんなこんなで会議も終わり……な訳もなく、この後も2時間ほど後処理の対処の為に会議は続いた。最後の方には疲れ切ったエルザが完全に眠り始めてしまったものの、途中でカナディアが合流した事もあって特に大きな問題になる事は無かった。

街の復興と探索者達の回復の為に忙しい日々はもう少しだけ続いていく。その大きな目的の前には、実際マドカの護衛など二の次の話であろう。それをこの世界の何よりも一に持って来てしまうヤバい女は居るけれど。それでもクランの調和という目的の為にマドカの存在は必要不可欠ではある。

 

「……そういやぁマドカちゃん、新しい教え子出来たって聞いたぜ?見込みあんのか?」

 

「リゼさんの事ですか?私個人の感想で言うのでしたら、とっても期待していますよ。彼女の目的を考えるに"聖の丘"には入らないとは思いますが」

 

「へぇ……それは、エルザ達みたいにマドカちゃんの後釜にはならねぇのか?」

 

「それはどうでしょう。そうなってくれると私も安心は出来ますが、今の時点でその道を示すつもりはありません。素直なリゼさんは示したら最後、その道だけしか見えなくなってしまいそうなので」

 

「………そうかい」

 

そして忘れてはならない。

誰しもがマドカ・アナスタシアに好印象を抱いている訳では無いという事を。

ラフォーレという爆弾を抱え、龍神教と何らかの関わりを持ち、あまりに影響の強い人望と力を持つだけではなく、その行動1つにしても盤面を掻き乱す程の変化を齎す彼女。一刻も早く前線から退いて欲しいと、そうでなくとも大人しくしていて欲しいと、そう考える人間は当然居た。

 

「あの、レンドさん……」

 

「ん?なんだ」

 

「……リゼさんやエルザさん、それにステラさん達の事、これからもよろしくお願いしますね。私も、少しずつ活動を減らしていく必要がありますから」

 

「!」

 

そして当然、そんな事に本人は気が付いている。けれど、別にそれは嫌味でも何でもない。交換条件というよりは、本当に純粋な頼みの様なもの。

 

「まだ若いだろうが、マドカちゃんは」

 

「明日隣に居る人間が生きているとも限らない、ですから」

 

「……わぁったよ」

 

会議が終わり、眠っているエルザを背負いながらラフォーレと合流して去っていく彼女をただ見送る。都市最強探索者であるレンド・ハルマントンはマドカ・アナスタシアの事を苦手に思っている。決して敵に回る相手ではなくとも、多くの秘密を抱えているにも関わらずその片鱗を見せる事なく変わらず生活に溶け込んでいる彼女を、心の底では信用していなかった。……勿論、それ以外にも彼には様々な事情はあるのだが。

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