無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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4.ギルド長との面談

3階層で粗方のモンスターと戦い、自身の実力を確認したところで、手持ちの鞄が魔晶でいっぱいになったために2人は一度地上へと帰る事にした。

単価は安いとは言え、これだけの魔晶を集め、更に依頼まで完了したとなれば、1日の宿代としては十分であるとマドカからのお墨付きも貰えたのも大きい。初日から順調の一言、それは間違いなく同行してくれた彼女のおかげだった。

 

「えっと、少しだけここで待っていて頂けますか?リゼさんに紹介したい方がいますので」

 

「ん?ああ、それは構わないが……」

 

そうして魔晶の換金を行なっている際に、完了した依頼分の花と依頼書を持っていってしまった彼女。

果たして彼女がどこに行くのか、そして誰を呼びに行ったのか。僅か数時間とは言え、ダンジョン内で色々と話した仲。彼女が依頼を自分だけの手柄にして姿を消してしまうなんてことは考えられないし、どころか貰ったスフィアの価値を考えれば、依頼の分が無くとも十分過ぎる。まあもし『スフィアを奪われた!』なんて言われてしまえば何の信用もないリゼは一貫の終わりなのだろうが、例えとしてもそんな事が考えられないくらいにはリゼは既にマドカに信用を置いていた。

そして意外にも彼女の人を見る目は、それなりにまあまあよく当たる。

 

「全部で6000Lっすね、どぞ」

 

「あ、ありがとう。……結構貰えるものなんだね、今日は3階層までしか行っていないのだけれど」

 

「ワイバーンの魔晶は比較的大きいっすからね。とは言え、狩過ぎには注意っす。強化種が出て来たらワイバーンと言えど流石に上級探索者しか対処出来ないんで」

 

「ふむ、そういうのもあるのか」

 

話とやらに時間がかかっているのか、マドカが帰って来る前に魔晶の換金が終わってしまった。たかが6000Lではあるのだが、僅か数時間あの程度のモンスターを狩っていただけの割には貰えていると思えてしまう。とは言えこれだけでは宿代には届かないので、やはり依頼を事前に取って来ておいてくれた彼女には感謝しかない。それほど都会の宿というのは高いのだ。

 

「……ええと」

 

「?……ああ、鑑定士のヒルコっす。普段は換金じゃなくてスフィアの鑑定とかやってるんすけど、まあ暇なんで」

 

「なるほど。私はリゼ・フォルテシアという、これから世話になるよ」

 

「ん〜……普段なら『世話になる前に死にそう』みたいな冗談を言う所なんすけど、マドカさんが面倒見てるならその冗談は通じないっすかね。面白くない」

 

「あ、あはは……」

 

比較的空席の多いギルドの内部。探索者が殆どいないからか何となく気怠げな雰囲気が漂っており、特に目の前の女性の職員は見るからに眠そうで動きも緩慢だ。ヒルコと名乗った彼女は猫系の獣人の様で、適当な事を言いながら机に肘を突いてペンを転がしている。

こんな事が許されるくらいに大らかな雰囲気の職場なのか、それともそれが許されるくらいに彼女が優秀な職員なのか。どちらにしてもリゼはそんな事は気にしないし、むしろ初対面で冗談を交えて話してくれるだけ良心的な人物だと思っていた。少なくとも会話まで面倒臭がる様な人では無さそうなのだから、それで十分である。

 

「マドカは……信頼されているんだね。先程の受付のエッセルというギルド職員からも慕われている様だった」

 

「ん〜?まあ、それは当然っすよ。だからアンタは運が良いっす。あの人に付いて真面目に生きてさえいれば、探索者として最高のスタートを切れるんすから。まさか狙ってたんすか?」

 

「それこそまさか、だから私は単純に運が良かったんだろう。彼女と出会えた事がこの上ない幸運だと、私も今は強くそう感じているからね」

 

「……やっぱ面白くないっすね、アンタ」

 

「おや、それは残念だ」

 

仮にも公共機関の職員がとんでもない態度で客に接している事はさておき、そのおちょくりが通じないどころか、『面白くない』と言いつつもニヤニヤと笑われているところを見ると悪い印象を与える事は無かったらしい。

 

「リゼさーん!こっちでーす!」

 

「ああ!今行くよ!」

 

そうこうしている内にギルドの2階に上がる階段部分で手を振っているマドカに呼び掛けられ、リゼは受け取った6000Lを鞄に入れながら立ち上がった。

果たして彼女は自分を誰に引き合わせようとしているのか、知り合いの宿屋に紹介して貰えたりしてくれるのだろうか。

 

「最後にいいっすか」

 

「?」

 

そんな風に少しだけワクワクしながらその場を後にしようとしたリゼに、それまでペンを転がして遊んでいたヒルコが後ろから声を掛けた。先程までの気怠げな雰囲気を少しだけ潜め、なんとなく真剣味が伝わって来る様な微かな意思の灯った瞳で。

 

「その武器、作り方は知ってるんすか?」

 

「ん?これかい?……流石にこれと同じ物は作れないが、小型銃くらいならば自分でも作れる程度の知識は持っているつもりだ。この銃も簡単な修理くらいならば行える様に叩き込まれているよ」

 

「へぇ、それはまた……なんか困ったら頼ってくれてもいいっすよ、材料の在処くらいは知ってるっすから」

 

「本当かい?それは助かるよ」

 

「いやいや、いいっすよ。なんか面白くなりそうな気がするんで」

 

物事の判断基準が面白いか面白くないかの2択しか無いのか、と思う様な彼女であるが、猫系の獣人、特に女性に関してはこういったタイプも多いという。ある意味で分かりやすい方でもあろう。

一方で頭がパッパラパーなタイプも多いというので、話が通じるだけマシなのだ。単純な身体能力で言えば後者の方が高い……などという噂もあるが、むしろそれはそれで厄介とも言えるのだから。

 

 

 

 

「それで、マドカは一体私に誰を紹介してくれるつもりなのかな?」

 

「ふふ、それは会ってからのお楽しみということで♪……失礼します」

 

あの会話を最後に再びペンを転がす作業に戻った鑑定士のヒルコと別れた後、リゼはマドカに連れられて建物の2階……どころか最上階の3階まで上がった所にある一室の前へと連れて来られていた。

『お楽しみ』とは言うが、こうもしっかりとした部屋に連れて来られれば、一体自分がこれからどんな人物と会うのか、ある程度の予想は付いてしまうというもの。しかしそれを今声に出して言うのも違うだろうと、変わらずニコニコと笑っている部屋に入っていくマドカを追っていく。

 

「ほお、また大きな娘が来たな」

 

「……!ええと、リゼ・フォルテシアと言います。よろしくお願いします」

 

「ふむ、初対面の相手に挨拶が出来る程度の常識はあるか。いいだろう、とりあえず座ってくれ」

 

促されるままに執務室の様な部屋のソファへと腰を掛ける。慣れた様にお茶を作り始めたマドカはさておき、この部屋の主人であろう目の前の女性もまたとても印象的な人物であった。

大きな娘と言われたが、目の前の人物もリゼに負けず劣らず色々とデカい。種族は恐らくアマゾネスなのか、色黒の肌と後ろで一つに結ばれた髪質の硬そうな黒髪が、初めて見た種族であっても特徴的でよく分かる。その大きな胸部は大分ラフに着られている白のシャツ越しでも分かるくらいに強調されており、腕を捲った素肌には大きな傷跡もいくつも見えた。左目を失っているのか眼帯もしており、その雰囲気や立ち姿から間違いなく探索者としても実力者である事が窺えた。

 

「マドカ、紹介を」

 

「もう、いつも私にさせるんですから。……ええと、彼女はエリーナ・アポストロフィさん。このギルドのギルド長さんです。実質的なこの街のトップとも言えますね」

 

「トッ……!?そ、それはつまり、他の町の町長とかと同じ地位という事だろうか!?」

 

「ですです。ただこの街は見ての通り大都市ですから、アーセナル連邦国の中での影響力を考えるとまた話は違うかもしれませんが」

 

「な、なぜそんな人が私の様な田舎者と……!?」

 

「こいつの仕業だ」

 

「私の仕業です♪」

 

「マ、マドカぁ……!」

 

リゼの知る限り、街規模の大きさの長となれば一般人が対面できる事は滅多になく、イベントなどでしか見掛けない様な存在である。私生活でならばまだしも、仮にもこの世界に4つあるダンジョン街のトップにこうして部屋に招かれるなど……それこそコネを作りたい商人や権力者達ならこぞって切望する様な出来事の筈だ。いくら世間知らずの田舎者でも気後れくらいするし、そこまで出来る程に仲睦まじそうなマドカに驚愕もする。

 

「あー、もしかして……2人は親類関係にあるとかなのだろうか」

 

「うん?そう見えたか?くく、だとしたら私も嬉しいのだがな、生憎そういう訳でもない。私としては娘の様に可愛がっているつもりではあるが……」

 

「私の母がエリーナさんと仲が良いんです、その縁で偶にこうしてお話しする様になりまして」

 

「いや、何度も言うが私はお前の母親と仲良くはないからな?むしろ出来るならば極力関わり合いたくないと思っているくらいだからな?」

 

「ふふ、またそうやって照れ隠すんですから」

 

「あれ、これ私がおかしいのか?いつもは何でも察してくれるマドカが今日に限っては何も察してくれない、私今日化粧失敗してっかな?」

 

「いえいえ、今日もお綺麗ですよ。ね、リゼさん」

 

「あ、ああ……そうだな、美人ばかりで私も嬉しいよ」

 

今のやり取りで大体この2人の関係に想像がついたリゼは、この世界ではまだまだ高価な手鏡を持って薄めの化粧を確かめながら首を傾げるエリーナを見て苦笑う。

まあ恐らく、マドカの母親とギルド長は知り合いの仲ではあるらしいが、本当に仲が良いという訳ではないのだろう。それは彼女がマドカと知り合うきっかけでしかなく、同時にこの街でギルド長になれる程に常識的な彼女がここまで嫌がるくらいには、マドカの母親は何かしらの問題を抱えている人物だという事も想像がつく。そんな母親すらも彼女自身は慕っている様ではあるのだが、そこは複雑な事情があるとでもいうのか。

 

「ところで、マドカはどうして私をここへ……?」

 

「あ、そうですそうです。本題に戻らないと」

 

「ああ……まあ、とは言え話は単純だ。将来有望な新人探索者にギルドから何か支援が出来ないかという話をマドカから受けてな。下で申請して打ち合わせて長々と決済を回すより、先に私が承認しておいた方が話は早いだろう?何よりその方が融通も効く」

 

「リゼさんは今日の宿すら不安な身ですから、こういう話は早ければ早い方が良いと思いまして。少しだけ我儘をさせて貰いました」

 

「……!ありがとう、本当にありがとうマドカ!私はここに来てから君に助けられてばかりだ!」

 

「ふふ、気にしないで下さい。私は先輩探索者として当たり前のことをしているだけなんですから。私じゃなくても皆さん同じ事をしてくれると思いますよ?」

 

「下心全開でな」

 

「し、下心……」

 

「良かったな、見つけてくれたのがマドカで」

 

とにもかくにも、ギルドの支援を受けられるというのなら有り難い。そもそもそんな支援がある事すらも知らなかったくらいなのに、自分の知らないところで更にそれを手早く受けられる様に場を整えてくれていた。この分では恐らく下の階でも申請の準備も始めてくれているのだろう。

リゼの前にマドカがいくつかの用紙の様な物を並べていく。それは正しくその初心者支援に関する書類の数々だった。

次いでマドカはそのまま隣のリゼに寄り添い、一つ一つの書類を説明し始める。その近過ぎる距離感になど微塵も気にしていないかの様に。

 

「という事で、リゼさんは身分証明書がありませんから、基本的に探索者として一定の実績を持っている私を保証人として書類を作っていきます。それでも受けられる支援としては数が限られてしまいまして……ギルド寮の貸し出し、ギルド提携店での割引、初心者探索者用の道具セットの提供等が主な物になりますね」

 

「な、見ず知らずの私の為にそこまでしてもらえるのか……!」

 

「まあ、この世界の実情的に探索者は1人でも多く欲しいからな。それが身分が保証出来て優秀な人材ともなれば金は惜しまんよ。最終的に20層辺りまで潜れる様になってくれるのなら、ギルドとしてもかなり割りの良い投資と言える」

 

「こういうシステムを最初に導入したのもエリーナさんなんですよ?40年前の邪龍討伐で大勢の探索者が命を落としてしまいましたから、今はどこのギルドも人材育成に必死なんです」

 

「な、なるほど……」

 

仮にもLv.8のステータスを持ち、モンスターを狩っていた経験もあるリゼ。確かに将来的な期待値としては比較的高い方なのだろう。何より他の探索者が使わない様な奇妙な武器を用い、初めてのダンジョン探索で一人でワイバーンを倒したという実績もある。簡単には脱落しないだろうという思惑もあるに違いない。

書類を見る限りでは審査の過程でギルド職員との面談などが必要な場合もあるらしいが、もしかすれば今この瞬間がそれに当たるのかもしれない。

 

(……というか、むしろ私がこの部屋に来た時には『面談の必要もない』と言った雰囲気だったような)

 

だとすれば、マドカが認めているという事実がその面談代わりになっているとでも言うのだろうか。そうだとすれば正式なギルド職員ではなく何処にでもいる探索者の1人である彼女だが、このギルド内での影響力だけで言えば普通の職員と同じくらいにはあるという事になる。

今日会ったばかりの自分の保証人にもなってくれるという事からも、それほどに期待されている重圧を感じるべきか、それほどに認められている事に嬉しさを感じるべきか。少なくとも彼女を敵に回せばこの街で生きていく事がかなり難しくなるという事だけは確かだ。美人に弱いリゼとしては敵に回すどころか一生ついて回りたいくらいなのだが、それは今は置いておくとして。

 

「それと教官役、つまり君のダンジョンに関する指導は基本的にマドカに一任する事にした。マドカの依頼を手伝いながら知識を詰め込み、慣れて来た頃に独り立ちというのが今後の流れになる」

 

「こ、ここまでして貰っているのにこれ以上の迷惑をかけるというのは……!」

 

「ああ、気にしないで下さいリゼさん。これは私にも利がある話なんです。教官役の探索者は一時的なギルド職員として登録できるので、お給料が出たり食堂がタダになったりしまして……」

 

「だ、だが普段の稼ぎよりは減ってしまうのではないのか……?」

 

「それは、ええと……」

 

「まあ確かに、私達もそう多くは出せないからな、それは事実だ。だがそこは問題ない、これはマドカにとって何より利のある話になる」

 

「え、えへへ……」

 

なんだか申し訳なさそうな、しかし同時に嬉しそうな、そんな顔をしながら恥ずかしそうに頬を赤く染めて視線を逸らす彼女。彼女の白い肌は頰の紅潮を人よりも分かりやすく見せてしまうらしい。

色々と気になる事はあるが、そんな可愛らしい姿を見せられてしまえばもうどうでもよくなってしまう。自分を教える事で彼女にも何かしらの利があるというのなら、断る理由も無いだろう。

むしろ存分に利用して貰っていい。

それくらいの恩はもう受けている筈なのだから。

 

「それなら……今日からよろしくお願いします、マドカ教官」

 

「あわわ……!そ、そんな頭を下げないで下さい!名前も普通に呼んで貰っていいですから!」

 

「そうかな?……それじゃあマドカ、未熟な身ではあるが、どうか見捨てないで付き合って貰えるとありがたい」

 

「もう、見捨てたりしませんよ。私からも、よろしくお願いしますね。リゼさん」

 

お互いに頭を下げながら言葉を交わし、同時に向き直り、笑う。案外2人は相性が良く、上手くやっていけるのかもしれない。

そんな2人をエリーナも微笑ましげに見ていた。

 

ここはアーザルス連邦国の南端都市オルテミス。

世界に蔓延る絶望の原点であり、同時に未知の可能性と人々の願いが眠り集まる希望の街。

表裏一体のこの都市で果たして彼女は何を見、何を知るのか。それはまだ誰も何も知らない。それこそ目の前で微笑む美しい少女が何を抱え、何を思い、そこに立っているのかすらも。リゼはまだ、何一つとして知ることは出来ていない。




アーザルス連邦国……約200年前に誕生した連邦、現状では全ての人間と全ての種族がここに属しているとされている。世界の大敵とされる"とある存在"に対応するために各地に軍を派遣しており、各都市の方針に大きく干渉はしない方針を示している。成り立ちには神族とアマゾネスが深く関わっており、基本的には各族のトップが寄り集まって指揮を取っている。
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