無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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53.vsカイザー・サーペント

レイナが大きく跳躍し、森の木々の中へ突っ込んでいく。一方でリゼは外周の木々の少ない部分を走り、カイザー・サーペントを引き寄せる。普段ならば復活したモンスターと、そこを縄張りにしているモンスター達が熾烈な争いをしているこの場所も、カイザー・サーペントが暴れている今ばかりは空白だった。逃げていくモンスター達、凄まじい勢いで土煙と共に迫り来る巨体。

あれが何故モンスターではなくリゼを狙ってくるのかは分からない。ただ……

 

「【星の王冠】【視覚強化】」

 

スフィアとスキルを同時発動し、走りながら首だけを動かして迫り来るカイザー・サーペントの状態を確認する。

 

(……怒り狂っている?目が血走っていて冷静じゃない、それに身体に妙に多くの傷がある。再生しているものが少ないことを考えると、比較的新しいものだろうか。しかし私が木の上で確認した時、特段暴れている様子もなかったが、一体どうなっている?)

 

そこまで考えて、余計な情報は切り捨てた。

今この状況で使えるのは、敵が冷静さを完全に失っているということくらいだろうか。以前に戦った際にはその暴れ様とは裏腹に、常に冷静で森の地形を利用して様々な攻め方をして来たカイザー・サーペントだ。あれにはリゼも読み合いに負け、ラフォーレに何度も助けられてしまった過去がある。

だかもし、今それが無いのだとしたら。

 

(この距離から撃ち込むのは……リスクが高いか。当てられない訳ではないが、以前に撃ち込んだ際には僅かに位置がズレて絶命には追い込めなかった。あれが他の要因ではなく、カイザー・サーペント自身の知覚能力であった場合、仕留めきれない可能性は高い)

 

幸いにもアレの目に映り込んでいるのは自分だけ。

木々の中に隠れているレイナのことは気にも留めていないし、レイナの一撃が放たれてからの方がより確実だ。

 

「とは言え、私の足ではあと何秒もつか……!」

 

少し森の中へと入り、カイザー・サーペントがなるべく多くの木々を薙ぎ倒しながら進む様に誘導してはいるものの、やはり距離は縮まるばかり。

多少でもDEXが伸びていなければ、こんな追いかけっこすら出来ていなかっただろう。木々の中を走る技術が無ければ、ほんの数秒で轢き殺されていた筈だ。なんだかんだ言ってもこの階層は、リゼにとって動き易い環境であったのは間違いない。

 

「【雷散月華】……!」

 

「来たか……!」

 

真っ赤に染まった2つの瞳が寸前まで迫ったその瞬間、レイナがその視界から逃れつつ、凄まじい電撃を迸らせ、カイザー・サーペントの胴体目掛けて飛び跳ねる。

いくら分厚い皮と肉体を持った帝蛇とは言え、レイナのそれは雷属性特有の切味と麻痺効果を持った致命的な一撃だ。いくら急所ではなくとも、突き刺されば確実に一瞬でも意識が吹き飛ぶ筈。その隙に頭部を吹き飛ばせば……

 

『キシィィィイイイイイ!!!!!!!』

 

「なっ!?」

 

「えっ!?きゃぁっ!?」

 

「レイナ!!」

 

瞬間、間違いなく視界に捉えていなかった筈のレイナの攻撃を、カイザー・サーペントは身体を不自然なほどに強引に動かし交わし、巨体を打つけて吹き飛ばす。

その動きによって僅かに距離が離れてしまったとは言え、未だにカイザー・サーペントの目はこちらに向いたまま。それなのに何故レイナの攻撃に対応出来たのか。何故見ずとも後方からの攻撃に対応出来たのか。そんなこと、少し頭を回せば思い至る。

 

「……まさか、目以外にも感知器官が?」

 

蛇に熱を感知する器官が存在することは、山で過ごして来たリゼは知っている。しかしそれは目と鼻の間部分に存在していて、後方に対してはあまり良く働かない筈だった。加えて熱を感知しているとは言っても、その距離には限度がある。遮蔽物を越してまで感知出来るものではないし、その器官が仮にカイザー・サーペントにもあったとしても、今の攻撃を避けられる筈がない。

……つまり、敵にはそれとは違う、むしろそれを発展させた感覚器官が存在していると考えるべきだ。それがある限りは不意打ちは不可能。

 

「くっ、先ずは距離を取る……!」

 

リゼは走りながら跳躍し、手頃の良い枝に手をかけると、腕力に任せて自分の身体を上空へと引き上げる。そのまま対面にあった大木に足を付けると、更にもう一度跳躍をして別の木に飛び移った。

先程まで足場にしていた大木が薙ぎ倒される。

動きを察知した帝蛇が、前進をやめて頭を持ち上げる。

……ただ、リゼの狙いは逃げることだけではなかった。攻撃こそ最大の防御。いくら良い器官持っていたとしても、その長く大きな体の全てをカバー出来る訳ではないだろう。

 

「【マーキュリー・イェーガー】!!」

 

『ギッ……キィィイイイイィィィイイイイイ!!!!!!!』

 

弾の一つをここで使う。

木々の間から身を隠して放ったそれは、頭を持ち上げたことで停止せざるを得なかった帝蛇の地面との設置部分の体を撃ち抜いた。

あの極太の肉体に文字通りの風穴を空ける一撃、カイザーとも呼ばれた巨蛇が肉体をくねらせてその痛みにもがき苦しむ。

リゼはその隙に木々を飛び移りながら地上へと降り、吹き飛ばされた反動で今も苦しそうに立ち上がろうとしているレイナの元へと駆けた。見た目では大きな怪我を負ってはいない様だが、あの様子では何処かの骨にヒビが入ってしまっているのかもしれない。リゼは走りながらも次の弾丸を用意し、装填の準備も同時にし始める。

 

「レイナ!大丈夫かい!?」

 

「リ、リゼさん……ご、ごめんなさい。役割、果たせなかったです」

 

「仕方のないことだから気にしなくてもいい!それよりも怪我の具合を虚勢なしで教えるんだ!」

 

「……恐らく右足の骨にヒビが入っています。正直に言うと、走れません」

 

「分かった、気にしないでいい。……私が次の一撃を当てれば、それで済む話だからね」

 

「リゼさん……」

 

手袋越しでも凄まじい熱を持つ装填部を無理にこじ開け、多少の火傷を無視しながらも強引に装填を完了させる。最大威力の連続装填、本来ならばもう少し時間をおくべきだろうが、銃の負担も肉体の負担も無視をして、額を伝う汗を拭いながらリゼはレイナの前に立つ。

それに決して策がない訳ではないのだ。

まだそれを判断するだけの材料が無いというだけで。

 

「……!そうだレイナ、松明を投げてくれ!」

 

「松明をですか?」

 

「そうだ、帰りのことは考えなくても良い!とにかくカイザー・サーペントの近くに投げてくれるだけでいい!」

 

「わ、分かりました!!」

 

更に目を赤く染め上げた帝蛇が頭を持ち上げてリゼを睨み付けたと同時に立ち上がる。リゼの手には自身の松明、そしてレイナも同時に自分の松明に火を付けて敵に投げ付けた。予想通り、敵は投げ付けられた松明をわざわざ身体で弾き飛ばしてからリゼの方へと顔を向ける。

 

(やはり感知器官は熱か光に対応している。恐らくは熱かもしれないが、以前に私は吹き飛ばされる木に隠れて奴から逃れたことがある。……つまりあの器官は、熱を感知する癖に熱に弱い。あの時はラフォーレの炎弾によってその器官が破壊されていたと予想して良い)

 

適当に撃っていた様に見えて、実際には彼女は数発の炎弾でそれを破壊してくれていたのだろう。だからリゼは吹き飛ばされる木々に隠れて逃れる事が出来たし、その後に身体に触れてしまうまで感知されずに済んだ。

……となると、あの時の最後に銃弾を僅かに逸らしたのは敵の単純な動体視力によるものだという最悪の結論を導き出してしまうのだが、それはもうこの際無視だ。

 

今はとにかく、

 

「感知器官を破壊する!」

 

リゼはレイナと同じ様に松明を放り投げて敵の動きを一瞬止めると、バックの中の箱から1本の瓶を取り出した。

可燃性の液体……やはりこれは持っていて損はない。補充しておいて本当に良かった。また森を燃やしてしまうことになるが、ラフォーレの様に森を全焼させるまででは無いのだから許して貰えるだろう。

 

「【炎打】!!」

 

リゼは銃を構えて撃つのではなく、打った。

炎を纏った銃底で、空に放り投げた液瓶を力一杯に殴り付ける。

 

『キィィィイイイイイ!?!?!?』

 

飛び散る液体。

着火し、火の雨となって散弾の様にカイザー・サーペントの顔面に向けて降り注ぐ。これなら敵の何処に感知器官があったとしてももう機能は果たせないだろうし、何粒かが眼に入り込んだのか、あまりの痛みに敵は頭を周囲に叩き付け始めた。

銃底に張り付いた燃焼している液体を、再びバックから取り出した消火用の液体を使って消し、再びレイナの元へと駆け寄る。

槍を杖にしながらもなんとか立ち上がった彼女に、リゼは疲労を隠しながらも笑い掛けた。

 

あと少し、もう少し。

まだ気は抜けない、敵の怒りは最高潮。

恐らく僅かでも思考を取り戻せば、敵はもうなりふり構わず突っ込んで来るだろう。そうなればレイナは避けられないし、リゼだってレイナを背負いながら逃げる事は不可能だ。

それならばレイナを放置してリゼが気を引けば良かった話ではあったのだが、リゼはもうここで決着を付けるつもりだった。

これ以上は自分の体力と集中力がもたない、色々と柵を巡らせて敵を弱らせても、最終的に決定打を入れるだけの余裕がなければ負けなのだ。

つまりここが最適、ここが最善。

僅かでも余裕が残っている今この時でなければ、100%の狙撃は実現しない。

 

「レイナ、最大出力のを頼みたい。そのまま私の背後で掲げていて欲しいんだ」

 

「……はい、分かりました」

 

言われるがままにスフィアに手を伸ばす。

リゼの思惑は分からなくとも、疑う事はしない。

 

「【雷斬】【雷斬】……【雷散月華】!」

 

短時間での2度目の使用。

精神力の消費はそれなりに大きいが、リゼの抱えている疲労と比べれば小さなものだ。レイナがしたことと言えば不意打ちに失敗して吹き飛ばされた程度、まだ何の役にも立てていない。

リゼに言われた通りに槍を掲げながら、レイナは必死になって頭を回す。この後に起きること、この後にすべきこと。指示された理由は分からないしリゼが何を考えているのかも分からないが、それでも現状から予想出来ることは多いにあった。

何の役にも立たずに終わるなんて出来ない、足手纏いのまま任せきりにするなんて絶対に嫌だ。この人の役に立ちたいと思ったから、今ここに立っているのだ。だからレイナは痛みを訴える右足に更に力を入れて、より強い痛みを自身に与えることで叱咤する。この程度のことで立ち止まっていられるほど、まだ自分は何も成していない。

 

「来い!帝蛇!!」

 

『キシャァァアアァァァア!!!!!』

 

リゼの呼び掛けに呼応する様に、帝蛇が迫り来る。

やはり高い知能はあるのか、木々を盾にして、頭を大きく動かして、リゼの狙撃を少しでもズラせる様に警戒しているのが見て分かる。それでもこうして突貫してくるのは、それほどの怒りからなのか、それともそれでも勝てるという自負からなのか。その巨体からは想像も出来ないほどの早い動き、地面が抉れ、木々が吹き飛ぶ。階層が揺れ、本来ならば狙撃は難しい状態だ。

 

(それでも、当てられる)

 

確信している。

そのための布石は既に打った。

 

「【星の王冠】【視覚強化】」

 

だから後は、この引鉄を引くだけだ。

 

「【マーキュリー・イェーガー】!!」

 

『ーーーッ!!!』

 

本日3度目の射撃。

2連続の最高威力。

弾が放たれた直後、限界を迎えた両手が離れ、弾丸を放ち終えるまでなんとか保ち続けた姿勢も崩れて後方に爆音と共に吹き飛ばされる。

それを既に予知していたのかレイナは槍を右手で掲げたままリゼの身体を受け止め、右足の痛みを堪えながらもしっかりと敵を視認する。

 

……リゼの弾丸は今度こそ、そして今日こそ、間違いなく、カイザー・サーペントの眉間のど真ん中を撃ち抜いていた。

向こう側が見える程に清々しい風穴、帝蛇の目からは既に正気は消え失せており、両方の眼もあらぬ方向へ向いて灰化を始めている。

 

全てがリゼの思い通りだった。

 

特殊な感知器官を潰してもリゼの弾丸に僅かな反応を見せるカイザー・サーペント。それに対してリゼが考え用意した手段は2つ。一つ目は可燃性の液体を撒くことによって、感知器官と目潰しを狙うこと。そしてもう一つは、凄まじい電撃を放つレイナを背後に置くことで、強引に逆光の状態を作り出し、感知器官も視界も完全に封じることだ。

性能の良い眼というのは、あまりに良く見え過ぎてしまう。それは同じ様に良過ぎる目を持つリゼだからこそ実感としてよく分かること。

だから仕掛けて、成功した。

 

……唯一思い至らなかったのは。

絶命したカイザー・サーペントの死体が、果たしてどう動くのかということで。

 

「ま……ずい……」

 

頭を失い、脳を失い、そのままプッツリと全身の機能が停止する。そんな生優しい相手であれば、目の前の存在は皇帝という名を付けられはしない。

身体を灰に変えながら、完全に肉体だけの抜け殻になりながら、それでも脳が命じた最後の指令を全うする。つまり全力の突撃、対象を絶対に殺し尽くすという絶対の意思。

殆ど行動能力を奪われてしまった2人にとって、これは間違いなく致命的だった。リゼは死すれば勢いが落ちてくれると当たり前の様にそう思って、ブレーキのかかる距離なども見測っていたのに。予想出来なかった。

 

「でも、大丈夫ですリゼさん」

 

「レイナ……?」

 

「ここから先は、私の予想通りですから」

 

「っ、なにを……!」

 

無造作に槍を投げ捨てたレイナが、その場で残った力の全てを振り絞ってリゼの身体を放り投げる。進行方向から直角に、絶対にあの突進に巻き込まれない位置へと、彼女を避難させた。

そんな彼女の行動に絶望の表情を浮かべるリゼ、だってそれは誰がどう見たって自己犠牲だ。確かにこれなら1人は生き残ることが出来る。しかしそれは同時に、もう1人が絶対に直撃を受けることを前提としたもの。いくら秘石の力があったとしても、VITの高くないレイナがあんなものを受けて生きていられる筈がない。

 

「レイナ!!」

 

なぜそんなことをするのか。

なぜこんなことをするのか。

分かっている、分かっているとも、分かっているけど納得など出来ない。出来る筈がない。リゼはそんなこと、これっぽっちだって望んでいないのに。

 

「まったく、リゼさんは私のことがまだまだ全く分かっていませんね」

 

「レイナ……!!」

 

「私がリゼさんのこと、そう簡単に手放すと思っているんですか?」

 

瞬間、自身の秘石に嵌め込まれた一つのスフィアを叩くレイナ。彼女はその状況に見合わない様な余裕のある様子で、絶望の表情を浮かべる目の前の人に呆れつつ、けれど同時に少しの嬉しさも混じえながら、ただ笑みを浮かべていた。確信をしていたし、備えてもいたからだ。目の前の人を守るために。そして同時に、目の前の人の側に居たいと思う自分を守るために。

 

「【体盾】」

 

「っ!」

 

放り出されたリゼの身体を追う様に、レイナの身体が跳び上がる。DEXを3段階上昇した状態で対象に定めた相手の側へ防御態勢で移動する、ただそれだけの効果。しかしレイナにとって何より必要だったのは、このスフィアはその目的のためならば疲労した身体であろうと怪我をした足だろうと、持主や物理法則すらも関係なく無理矢理に動かすという点だった。そしてどのような状況であろうと、相手が空に居ようが水の中に居ようが、必ず視界に捉えた相手の元まで辿り着かせてくれる。

 

「ぐっ……!」

 

損傷した右足であろうと、スフィアはレイナに驚異的な跳躍力を与え、同時に彼女に凄まじい激痛を齎しながらもその身体を守りたいと指定した人間の元へと飛ばして届けた。落下し始めたリゼの前に防御態勢で現れ、スフィアの効果が切れると同時にレイナは振り向き、彼女を抱える。

無理をさせ過ぎた、治療を行うまで右足はもう使えない。未だ銃撃の反動が抜けないリゼが十分な状態で着地を出来るとも思えなかった。だからレイナは残った左足と自分の身体を使って、リゼを守りながらも可能な限り自分自身も軽症で済む様な形での着地する努力をした。

滑り込む様な形を意識して、鞄を下敷きにしながら尻と胴体を犠牲にして四肢へのダメージを軽減する。衣服が傷付き、相殺し切れなかった衝撃が身体を襲う。2人分の体重だ。いくら横向きの力があったとしても、いくら鞄を下敷きにしたとしても、一瞬息が止まるほどの反動は着地してから暫く動けないほどのものだった。

 

「レイ、ナ……!」

 

彼女に守られ、最小限ダメージで済んだリゼが、震える身体で今度は痛みに動けないレイナを抱き寄せる。

灰に変わっていくカイザー・サーペント、彼が打つかった階層の壁には大きな凹みが出来ていた。決死の突貫、徐々に再生を始めている壁であるが、実際その強度はそれなりのものだ。もしあれが直撃していたら、そう考えるだけで恐ろしい。

 

「くっ……この……!」

 

しかしまだ、まだ安心は出来ない。

カイザー・サーペントは倒した。

しかしここは9階層、モンスター達はまだ居るのだ。

そしてここは決して安全な場所ではなく、むしろ10階層への階段と9階層への階段からも離れている中間位置。カイザー・サーペントの暴れ様に逃げていったモンスター達だが、壁の近くということは死んだモンスターが再生してくる場所でもあるのだ。あの騒ぎで恐らくこの階層の生態系は滅茶苦茶になった、それによって争いが起きていてもおかしくない。そうして散り散りとなった残党達もまたここに……

 

「VITは……高い、方なんだ……!私が立たないで、どうする……!」

 

下唇を噛み、震える身体を叱咤しながら、リゼはレイナを背負って立ち上がる。大銃は狙撃時には皮のベルトで肩から掛ける様にして、仮に失敗しても遠くへ吹き飛ばない様に固定しているが、それも一連の中で外れてしまった。落ちている大銃までは距離がある、レイナの槍など更に遠いし既に折れてしまっている。リゼの鞄は何処で外れたのかもう記憶にすらないが、恐らくはカイザーサーペントの残した大量の灰の中だろう。レイナの鞄の中を見てみるも、ポーションの系統は着地の際に軒並み割れてしまっていた。

だから最優先したのは大銃、武器の確保。

その為に歩いているが、遠い。

そこまでの距離が、今はもうあまりにも遠い。

 

『グルルル……』

 

「……もう、きたのか」

 

少し離れた場所から聞こえてくる唸り声。

それが一体誰のものなのか、リゼは見ずとも知っている。森の草木が揺れ始める。やはり単独行動はしていない様だった。

これならパワーベアと滅茶苦茶になった縄張りの取り合いをしてくれていた方がまだマシだった。嫌な偶然というのは重なるものだと言うが、この状況はあまりにも不幸が続き過ぎている様にも感じる。否、そういえばこんな状況に陥ってしまったのは、そもそもが恐らく人為的なものだったと、リゼは今更になって思い出したのだが。

 

『グルルルゥッ……』

 

「……8体、か。拳に炎打の効果を纏って、回避を利用して上手く立ち回って……しまったな、ポーション瓶の破片でも持って来れば良かった」

 

ジリジリと壁際へと追いやられる。

囲む様にして迫るハウンド・ハンター、リゼはレイナを背後に隠しながら片手をスフィアの近くに置いた。まだどうにかなる、どうにかなるはず、どうにかしなければならない。だってレイナは最後まで自分を含めた2人が生き残る方法を考えていてくれたのだから、それならリゼだってそうするべきだ。決して諦めるなんて選択は取れない。

 

(考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!どうする、どうすればいい!どうすればこの場を切り抜けられる……!私達はまだ死ぬ訳にはいかないんだ!!)

 

ハウンドハンター達が口を開く。

近付くのを恐れてか、風弾による牽制を行い嬲り殺しにするつもりなのだろう。そうなればリゼにはもう何も出来ない、されるがままになるに決まっていた。ただそれでもリゼはレイナを自分の背後に下ろすと、素手のまま目の前の一体に殴り込むために走り出した。決してレイナには攻撃が当たらないように、敵をまずは一体でも減らすために。

 

 

 

……想定外だったのは、そう。

 

意外と世の中の大半というのは、必然で出来ているということだ。

 

 

 

 

【大炎弾】

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