無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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54.灰被姫の憂鬱

【大炎弾】

 

そんな言葉が聞こえた様な気がした。

そして直後、リゼの頭上から凄まじい大きさの爆発音が響くと共に、信じられないほどの大きさの炎の流星群が瓦礫すらも焼き払いながら降り注いだ。

爆発音に驚いたハウンドハンター達が逃げていく、しかし彼等は着弾した巨大な火球によって森ごと焼き払われた。爆音、突風、熱風、リゼは咄嗟にレイナを抱き締め、その全てに背を向けて歯を食いしばる。それは咄嗟の判断だが、頭で実行したものではなく、どうすればいいのか考える前に身体の方が判断したものだった。

 

階層が揺れる。

衝撃波に内臓が揺れる。

真っ白な光から目を背け、意識を確立させるために、只管に朧げな目のレイナの顔を見つめ続けた。

 

 

……そうして、数秒なのか数時間なのかも分からないほどの時間のあと。荒い息を堪え、身を覆う熱による汗を拭いながらリゼが振り返れば、そこにもう緑と呼べるものはなにもない。赤熱する大地。灰となり空へと舞っていく生物達の残滓。火は燃え盛り、世界は赤く染められ、風と共に煙と灰塵がそこらを踊り狂っている。

 

ああ、知っている。

知っているとも。

こんなことが出来るのは、1人しか居ない。

実力としても、モラルとしても、こんなことをする様な輩は、この世界に1人しか居ないとリゼは確信している。

 

「生きていたか、愚図」

 

「……ラフォーレ」

 

ぶっ壊した8階層と9階層を隔てる天井から、その女は降りて来た。あれほどの高さから落ちて来たというのに、あまりに美しいロール着地を決め、当然のように話しかけてくる見知った狂人。

 

「どうして、天井から……」

 

「9階層へつながる階段が埋められていたからな。もしかすればあの気に食わない害虫の仕業かと思い、不意打ちで森ごと焼き払ってやろうと思った訳だ。お前が助かったのは偶然だな」

 

「……そうか」

 

もう何も言うまい。

もう何かを言う気力もない。

天井なんか壊しても大丈夫なのかと、強化種が出てくるのではないかと、そんな心配をする余裕は身体にも思考にもどこにも残っていなかった。今はもう

レイナをこうして抱えていることしか出来ていない。むしろ苦しくさせていないか心配なくらい。

 

しかしそんなリゼの様子に彼女は目をくれることもなく、自分が降りて来た天井の方へとその鋭い目を向けた。同じ様にリゼも目を向ければ、光でよく分からないが誰かの人影が見えている。影は小さい、どうにもそこにいるのは子供らしい。

 

「おいクソガキ!何を偉そうにこの私を見下ろしている!さっさと降りて来い!この役立たずが!!」

 

「酷過ぎる……」

 

『だ、誰が役立たずだ!!そ、それよりこんな、この、やっぱり頭おかしいだろアンタ!!』

 

「殺す」

 

『待て待て待て冗談だ!お、降りる!今から降りるから!!』

 

ラフォーレとは違い、滞空中に一度『回避のスフィア』を使う事で落下速度を軽減して着地をした1人の少女。活発そうな口調、短く赤い短髪を更に後ろで纏めている特徴的な容姿、しかしそこには明らかに探索者として優れているであろう雰囲気を感じられる。二本の短剣を腰に携え、彼女は何か異常なものを見るようにラフォーレを見上げていた。……いや、まあ、異常なのだけれども。

 

「普通マジでここまでやるかよ……」

 

「ええと、彼女は……?」

 

「クソガキだ」

 

「ざっけんな!アルカだ!マドカのねーちゃんのライバルの、アルカ・マーフィンだ!」

 

「マドカの、ライバル……?」

 

「なに、100回戦って100回負けるような愚図でも名乗れるような安い称号だ。価値はない。……そういえば龍殺団の団長などという不名誉な肩書きも持っていたな」

 

「誰が不名誉だ!!これでもアンタのところと最高到達階層は一緒なんだぞ!!」

 

「強化ワイアームに秒殺された雑魚が長の養育施設だ」

 

「1年も前の話を蒸し返すなぁあ!!」

 

その言葉に驚く。

龍殺す団と言えばマドカもフォロー出来ないような頭のおかしい人間の集まりであり、確かにそのトップに立っているのは1人の少女だとは聞いていた。しかしいざ目の前にしてみると、本当にこの小さな少女が都市の中でも最前線を走るクランの長だとは思えない。確かに探索者としての雰囲気はあるが、目の前で言い争っている様は本当に子供にしか見えなかった。

 

「おい」

 

「あ、とと……ありがとう」

 

ラフォーレに投げ渡されたポーションの蓋を開け、取り敢えずはレイナに半分を飲ませる。先程まではぼんやりと意識はあったようだが、今は寝息を立てて眠っている。右足の治療はどの様な状態になっているか分からなかったため、ポーションを手で直接塗り付けて止血をするに留めた。

そうして残った液をリゼが飲み干せば、怪我自体はそれほど多くなかったが故に、時間をおけば普通に立てるようになるくらいには回復する。これなら休息さえすればレイナを背負いながらでも地上に戻れるだろう。ラフォーレが隣にいるのであれば、森林地帯であろうとモンスターは脅威ではない。流石に、流石に今日くらいは無事に送り届けてくれるであろうし。いくら彼女であっても。

 

「……ほう、あれは私が焼いたものではないな」

 

「え?」

 

リゼがまたレイナを背負おうとした時に、珍しく、本当に珍しく、ラフォーレからそんな機嫌の良さそうな声が聞こえてくる。彼女の視線の先を追ってみれば、大きな灰の塊。つまりカイザーサーペントの死骸だ。彼女はそれを見て口角を上げていた。

 

「お前達が倒したのか?」

 

「まあ、その、閉じ込められてしまって。必要に駆られてというか……」

 

「ふむ……クソガキ、最初にアレを倒したのはいつだ」

 

「だからクソガキはやめろっての!……探索者になって3ヶ月くらいの時か?その時の仲間と、兄貴に手伝って貰って倒した」

 

「ああ、そういえばその前に一度無様に殺されかけていたな。あの男に泣き付いていたのを今思い出した」

 

「だからなんでそんなことばっかり覚えてんだ!!あと泣き付いてねぇ!兄貴が勝手に手伝いにきただけだ!」

 

ラフォーレにそう食らい付くも、「いいから死骸の中から魔晶と荷物を拾って来い」と尻を蹴られるアルカ。それに対して至極不満そうに睨み付ける彼女だが、やはり悪名高いラフォーレに逆らうことはないのか、ぐちぐちと何かを呟きながら灰の山を掻き分け始める。……いや、もしかするとあの様子では過去にラフォーレに刃向かったことがあるのかもしれない。勿論その結果は、想像通りのものであるのだろうが。

 

「……なるほど、こうなるとやはりマドカの目は間違っていなかったのは確定だな」

 

「?……それはどういう」

 

「私が想像していたよりかは使える人間だった、ということだ。探索者となって1月程度の女が帝蛇を殺した、仮に戦闘経験があったとしてもそうある話ではない。よくやったな」

 

「!」

 

一瞬、リゼは自分の耳を疑った。

そして何故か、あれほど苦手だった女の言葉なのに、深く胸を動かされた。

……褒められた。

あのラフォーレ・アナスタシアに褒められたのだ。

その意味をリゼはなんとなく知っている、むしろこの女がマドカ以外の探索者を褒めている場面など今日の今日まで見たことがない。その対象に今こうして自分が居る、見出したマドカのついでとは言え、間違いなく認められている。

 

「……何を泣いている、気持ちが悪い」

 

「えっ、あっ、いや、これは……」

 

「勘違いするなよ、それでもまだお前は愚図だ。だが最初に見た時の様な甘ったれた顔が少しはマシになった、それだけだ」

 

「わ、分かっている。まだ、まだ気を抜いたりはしない」

 

「……いいか、その銃は貴様にしか扱えないとは言え、貴様単体の実力はそう高くない。しかしだからと言って、決して銃を使わない自分を強くしようなどと考えるな。その程度の量産品など腐るほどいる、今更もう必要ない。貴様には他に生き残る術があるだろう」

 

「あ、ああ」

 

「お前に求められているのはその銃の性能を十二分に活かすことだと理解しろ。走りながら撃て、跳びながら撃て、何度でも撃て。より強大な敵を穿ち続けろ。……それ以外のことは量産されたゴミ共にやらせればいい、そのためにアレ等は居る」

 

「な、なるほど……」

 

大銃を拾い上げる。

やはり今日も今日とて傷一つ付くことのなかった祖父の形見。ラフォーレの言葉は、きっと1人の探索者としてだけではなく、都市を守る一員としても自分に求められている姿なのだろう。

今のリゼでは最大威力で弾丸を放った場合、連続で2発までしか叶わない上に、リゼが祖父と考案した固定された姿勢でなければその反動に耐えられない。……だがもし、もしもっと容易く撃ち込むことが出来る様になれば。きっと今日みたいに、レイナを危険に晒すことはなかったはず。

 

「愚図」

 

「……その呼びに素直に返事をするのは未だに少し躊躇われるのだが、なんだろうか」

 

「褒美だ」

 

「!」

 

無造作に投げつけられたそれを、リゼは片手で掴み取る。赤色のスフィア、そして中には2つの星。

 

「これは……」

 

「【炎弾のスフィア】だ」

 

「!……ええと、その、素直にありがたいと思っているのだが、実は私はINTが目も当てられくらい低いというか……」

 

「だからお前は愚図なんだ、誰が今更魔法使いになれと言った。魔法弾系のスフィアは射出武器や投擲武器の弾丸に対しても作用する。矢や投石、猟銃でさえもそうだ」

 

「な!そ、そうなのか!?ということは!?」

 

「その銃に作用するかどうかは知らん、少なくとも古典的な大砲や投石機などと言った、武装ではなく兵器と呼ばれるものには反応しなかった。……加えて内部構造次第では発動の瞬間に爆発もあり得る」

 

「しゃ、洒落にならないんだが……」

 

これでも意外と毎日しっかりとリゼは手入れしているのだ。事故が起きない様に日々のメンテナンスも欠かさない。火薬を使っている弾丸に炎を纏わせるというのは、率直に言えばかなり恐ろしい行為である。仮にそれを実現するのであれば、弾の改良から必要だろうし、多くの検証も必要になってくる訳で。

 

「……一先ず、一般的な猟銃から試してみようと思う。ありがとうラフォーレ」

 

「ふん」

 

それで会話は終わりなのか、ラフォーレは今も灰の山に潜っているアルカの元へと歩き始めた。こうして見ると、なんだかんだで彼女も大人の女性なのだろう。人の好き嫌いはあれど、面倒見はいい。口も悪いし指導も極端だが、それ相応の理由と知識もあるのが良くわかる。

 

「クソガキ、命令だ」

 

「なんだよ!人がせっかくスフィアのドロップが無いか探してやってんのに!」

 

「今直ぐ15階層まで降りろ」

 

「!」

 

「ここと同様に塞がれた通路がないか見て来い、あれば即座に破壊しろ。レッドドラゴンとブルードラゴンが生きているかどうかも見て来い。死んでいれば羽虫は下に向かっていることになる」

 

「……15階層まででいいのかよ」

 

「羽虫と言えど未知、未熟者が余計な手を出すな。仮に見つけたとしても無視して戻って来い。……貴様が私より優れた頭を持っていると自負しているのであれば好きにすればいいが」

 

「……性格悪ぃな、相変わらず。分かったよ、見てくるだけだろ、ったく」

 

「ついでにこの階層に戻って来た際に次の帝蛇を端に退かしておけ。殺さない限りは好きにしろ」

 

「あいよ。……ほら姉ちゃん、スフィアは無かったけど魔晶は無傷だ。あとこの鞄も姉ちゃんのだろ?」

 

「あ、ああ。ありがとう、アルカ・マーフィン」

 

「アルカでいいぜ、そんじゃな」

 

ラフォーレにそう命じられた彼女は、軽い様子でリゼに荷物を渡して、10階層へ向けて走って行った。探索者としてはかなり軽装、持っているのも小さな鞄と双剣だけ。しかし彼女もきっと、それこそレッドドラゴンやカイザーサーペントを1人で倒せるほどの十分過ぎる実力を持っているのだろう。そうでなければ、これほどラフォーレに信用されない。出来ると判断されているからこそ、こうして指示を出されているのだから。……いつかはそう思われる様な探索者に自分もなりたいと、リゼは思った。

 

 

 

 

 

『15階層まで行って来た。塞がってた壁は無かったけどよ、やっぱレッドドラゴンとブルードラゴンが殺されてたぜ。しかも魔晶にも手を付けてなかった。灰の形を見る限り、多分一撃だと思う。こう、首をスパーンッて』

 

『調べてみましたが、やはりアルファという名前の探索者はこの街のどの名簿にも存在していませんでした。門とダンジョンの出入り記録にもありません。加えて目撃された容姿に当たる人物の心当たりも、少なくとも職員の中にはありませんでした』

 

『壁が出来た時の状況と言われても、本当に私が木に登って周囲を見渡している間に出来ていたんだ。下にはレイナが居た筈だし、恐らく時間的には10分もない。音も大してしていない。……ああ、それとカイザーサーペントが妙に興奮していて、生傷とストレスを抱えている様だった。悲鳴の様な笛の様な高い音が聞こえた後に、いきなり私達に襲い掛かって来て』

 

ラフォーレはその日の夜、ギルドの食堂で温かい茶を啜りながら物思いに耽っていた。

マドカの新しい弟子であるリゼ・フォルテシア。当初は甘ったれた腑抜けというイメージであったが、この頃妙に意識が変わり、実力を付けてきている。その隣にいたよく分からない女はさておき、マドカに憧れて必死に強くなろうと藻搔いているあの姿は素直に好感が持てていた。

だからこそ暇潰しに叩いてやろうとも思ったのだが、そんな折に奇妙な雰囲気を纏う男を見つけてしまった。今思えばやはりあの時あの瞬間に顔を合わせると同時に殺すべきだったのだろう。調べれば調べるほど、その情報は出てこない。マドカならば知っている可能性もあるが、彼女は今は街の外に出ている。まだ断定は出来ないが、リゼ・フォルテシアを9階層に閉じ込めたのがあの男であったとすれば、今回限りでこの悪戯が終わるとは考え難い。

……正直、ラフォーレ個人の考えとしては探索者に試練を与えるのは別に構わないが、あれは仮にもマドカの選んだ教え子である。今回の様に監視者が誰も居らず、一歩間違えれば死ぬ状況に頻繁に巻き込まれるというのは少し困る。事実、ラフォーレが間に合っていなければ彼女はあそこで死んでいただろう。9階層が封鎖されていると耳に挟み、近くを歩いていたアルカの首根っこを掴んで降りて来た甲斐はあったが、マドカの教え子に勝手に手を出すというのはあまりにも不快だ。

 

「珍しいな、お前がそう考え込んでいる姿は」

 

「……なんの様だ、魔女」

 

「その魔女という呼び方はあまり好きではないのだが……まあいいか、席を借りるぞ」

 

「勝手にしろ」

 

そんな風に人が近寄り難い雰囲気を出しているラフォーレの元に、珍しく1人の女が同席を申し出てくる。カナディア・エーテル、ラフォーレが昼間に散々こき使ったアルカが作り上げた龍殺団の副団長を務めるエルフだ。

彼女はラフォーレの対面に座ると、少し遅めなのか夕食をとり始める。メニューは焼魚を中心とした定食。一部の物語ではエルフは野菜しか食べないといった設定もあるが、実際には魚だろうと肉だろうと普通に食べる。そもそも彼等は普段から狩りをしているのだから当然だ。ただ果物だけは特に好んでいるのか、彼女もまた黄色の柑橘類を別で頼んでいるようだった。

 

「昼はアルカが世話になったな」

 

「使っただけだ」

 

「いや、今後も怪我をしない程度に使ってやってくれ。お前と関わった日のあの子は大人しくなって助かる」

 

「はっ、反面教師とでも言いたいのか?」

 

「実際にそうなっているのだから仕方あるまい。お前以外の一体誰が、居るかどうかも分からない男を殺すために階層境界を破壊して森を焼き払うなんて真似をするんだ。他に探索者が居たらどうする」

 

「松明の灯りは無かった。松明無しであの森を突破出来るほどの力がありながら、帝蛇に襲われているガキの助けをしようともしない探索者など死んでもよかろう。……まあ実際にはそんな輩も居なかった訳だが」

 

「その辺りも疑問が残るな。いくら帝蛇の情報を出していたとは言え、あの時間帯にあの階層で他の探索者が居なかったというのは妙だ。とは言え、アルカの証言では10階層以降に壁は無かったというし、そちらについては単なる偶然なのかもしれない」

 

「………」

 

出口は偶然でも、入口は必然だろう。

ダンジョン内で、何者かが企みを施している。

あのアルファという男がどういう立場の人間なのかは分からないが、少なくとも最初に見たあの時からダンジョンの外に出た形跡は一切なかった。

ダンジョン内で生活している、にしてはあまりにも身なりが清潔過ぎる。つまり可能性としては、ダンジョン内にそういった施設や大掛かりな隠れ家があるか、ダンジョンの外に出る他の出口があるということだ。

 

「ダンジョンの別口については、それこそリゼとレイナの2人に調査をお願いしている。2人とも快く受け入れてくれた」

 

「つまり、その件で狙われた……訳ではないな」

 

「ああ、2人のレベルではまだ十分に森林地帯を探索出来るほどではない。それに森林地帯は既に何度もお前とマッチモスに焼き払われた場所だ、宝箱目当ての探索者達もよく駆け回っている。あるとしても普通では見つけられない方法で隠してあるんだろう」

 

そもそも、いくらレイナがあの場所で見つかったとしても、それであの階層に別口があると考えるのは早計だ。それこそあのアルファの様な人間が彼女をそこまで運んで来たと考えることも出来る。まあそうなると目的とか理由が訳の分からないことになるが、正直この件については殆どが想像だ。あの男とダンジョンの別口が関係していないという可能性もあるし、別口の存在を否定することは難しいが、それほど便利なものなのかすら分からない。

 

「聞くが」

 

「ん?なんだ」

 

「あの愚図の側にいた女、レイナといったか。あれについては何か分かったのか」

 

「連邦中枢に問い合わせているところだが、あまり芳しくない。正直あの子も悩みの種だな。身元が分かればいいが、分からなければ問題の一つになる」

 

「技術はあったな、知識はあるのか」

 

「ある、基本的な常識や知識に問題はなかった。何処かに監禁されて育っていた、という線は間違いなく無い。槍術も何処かで訓練を受けて得たものだ、実戦だけで身に付けたものとは違う様に思える」

 

「……今のうちに殺しておくか」

 

「やめろ、例え彼女が潜入員であったとしても、恐らく問題はない」

 

「なぜそう言い切れる」

 

「記憶を無くしている事実は間違いないからだ」

 

「それだけでは理由にならんな」

 

「それとリゼ・フォルテシアに惚れている」

 

「………」

 

「………」

 

これほどラフォーレが微妙な顔をするのを、カナディアすらそうそう見たことはない。

どう反応すればいいのか分からないというか、何と言えばいいのか分からないというか。カナディアもまた苦笑いしか出来ないのがまた気不味い。

 

「……まあ、容姿だけはいいからな。あの愚図は」

 

「それと言動も何処で身に付けたのか、どうも無意識に女性を口説いている節がある。正義感も強いし、そういう人気が出そうな人種だ」

 

「エリーナが喜ぶだろう、マドカに代わる未来のアイドル候補だ」

 

「実際、そこまで含めてマドカは彼女を見込んだのではないかと私は想像している。……こうしてマドカが都市から居なくなっても、あの子の教え子達はその穴を埋める様に働いているのは事実だ。配信の代役だけはエリーナもまだ模索しているが、お前の言う通り彼女に話が来るのも時間の問題だろう」

 

「……気に食わんな、マドカが居なくとも問題ないとでも言いたいのか?」

 

「むしろそう仕向けているのがあの子自身だということを言いたい。全く、身の引き方と役割の分配が完璧だな。ひと段落がついたら私の研究を手伝ってくれるだろうか」

 

「……お前」

 

ラフォーレの視線が鋭くなる。

なんとなく増した威圧感、それに対してカナディアもまた涼しげな顔で果実水を口に含む。元々都市内でも有名な2人が同席しているだけあって、周囲からの視線も多少はあったが、そんな彼等も変化に気付き次々と立ち上がり逃げ始めた。ラフォーレが暴れたのは過去に一度や二度で済む話ではないのだ。巻き込まれる前に逃げるのが一番、ここでの常識の一つとして染み渡っている。

 

「貴様またその話か!何度言わせれば気が済む!貴様などにマドカをやるか!!」

 

「むっ……とは言うが、その方があの子も静かに暮らせるのは確かだろう?私もそろそろ今のクランの引き継ぎを始める、数年もあれば十分に手放せる程度まで成長する筈だ。マドカの役割分配とタイミング的にも合う」

 

「黙れこの年増!50を超えた分際で17の娘に執着するなど気持ちが悪いにも程があるわ!」

 

「そ、その様な不純な気持ちはない!それにエルフとしてはまだ若い方だ!!」

 

「何が若いだ!所詮は人の2倍程度の寿命しか持たない蛮族が!割ったところでマドカより10も歳上だろうが!」

 

「わ、私はただ1人の研究者としてマドカを助手として欲しいと言っているだけだろう!」

 

「なにが1人の研究者だ!貴様が研究に託けてマドカと妙に近い距離感で接していることは周知の事実だ!」

 

「なっなっなっ……!」

 

どうやら今日の負けはカナディアの方らしい。

こう見えて意外と色々と情報を集めているラフォーレ、特にマドカの件に関して彼女が弁舌で負けることはそうそうない。

 

「……マドカは貴様に気を許している。故に今のところは見逃しているが、不純な行為を働いたり、私から母としての役を奪う様な行いがあれば……徹底的に殺すからな」

 

「そ、その様なことは考えていない!私はノーマルだ!」

 

「普通という意味か?その歳になっても未だ男との噂話が欠片もない女が何を言っても説得力がない。加えてエルフには同性愛も多いと聞く、特に女のな」

 

「ノーマルだ!」

 

「どちらにしても、余計な手間をかけさせるなよ。私とてあの子に嫌われたくはないんだ」

 

なんだかんだと言っても付き合い自体はそれなりに長い2人。"いまのところは"マドカへの良い影響の方が多いだけに譲歩している部分はあるが、これから先も見逃し続けられるかどうかは分からない。

 

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