無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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57.異世界人との面談

日が落ち、赤焼けた空に青の色が強く混ざり始めた頃。二つの人影がとある民家を目指して歩いていた。

人通りは殆どない。未だに外出禁止令は出されていて、それを皆が(半ば無理矢理)守っている。

それでも静かかと言われればそうでもなく、1人で部屋の中で騒いでいる獣人は居たし、そんな獣人達と酒盛りをしているエルフやヒューマンも居る。あくまで獣人同士が会わなければいい……という訳では本来はないのだが、彼等のストレスもそろそろ限界ということなのだろう。気持ちは分からなくもないが、あと数日くらい我慢出来ないものかとも思ってしまう。

 

「……大丈夫か?マドカよ」

 

「へ?あ、えっと………ふふ、流石に疲れてるみたいです。道中の戦闘の殆どはアタラクシアさんにして貰っていたのですが、やはり何度か休憩を入れたとは言え、数時間ものスフィアの連続使用は少し」

 

「明日でもいいのだぞ?」

 

「いえ、約束した以上は。ただ、明日は流石にお休みを頂きますね」

 

「ふむ、それがいい。新たな感染者も見当たらず、今はエルフの者達で森の中のモンスターの調査を進めている。ここからは我等の仕事だ」

 

「ふふ、頼もしいですね」

 

「ああ、任せてくれていいとも。……まあこの騒ぎ様を見せてしまうと、自信を持ってそう言えないのが悲しいことだがな」

 

地下から発生した大量のモンスター達が持っていた謎の病気。獣人にしか感染せず、『解毒のスフィア』でしか治せない。今回の件が公になれば、きっと『解毒のスフィア』は凄まじい勢いで高騰することになるだろう。元々回復系のスフィアは珍しい物であるのだが、個人だけでなく公共機関でさえ集め始めるのは目に見えている。正にスフィア一つで家どころか豪邸が建てられるくらいのレベルになるのは間違いない。

 

(……それと、スフィアを活かせる人材も)

 

今回のマドカの様に、少ないスフィアで最高効率を出せる人材は、今後より必要とされる。しかしそんな人材はオルテミスでさえも滅多に居ないのだ。

例えば先日のマドカと同じことを出来る人間は"龍殺団"のカナディア・エーテルと"風雨の誓い"のアクア・ルナメリアくらい。"聖の丘"のセルフィ・ノルシアも擬似的に同じことが出来るかもしれないが、必要となるスフィアの個数が多くなる。

マドカが思い付いただけでもたった4人、もし病が広がってしまえばこの4人で世界を回る必要が出て来るのだろうか。そうなれば獣人を固めた方がいい気もするが、なによりモンスターが病の保持者になるというのが苦しい。放っておけば、それこそ獣人が全滅するまで止まらなくなる。病が変質する可能性だってあるし、病がモンスターに与える影響も観測していかなくてはならない。

根本的な解決をするためには、徹底的な研究と対策を練っていくしかないだろう。それがマドカの仕事かどうかと問われれば違うであろうが、そういった提案や土台を整えることくらいは出来る。

 

「ふむ、ここだな」

 

「っ、すみません、考え事をしていました」

 

「なに、構わない。……ところで、俺はこの後キャリーに呼ばれているのでな。1人にさせてしまうが、大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ、ただお話しするだけですから。……ふふ、ゼグロスさんは私とお話しする時は、なんだか心配症さんですね」

 

「そ、それはっ!……ひ、必要となれば大声も出すが、マドカはあまり好みではないだろう。それに個人的にも、その、こちらで話したいと思っていてだな」

 

「そうですね、私も今のゼグロスさんの方がお話ししやすいので好きですよ」

 

「っ……な、何かあればギルドに来るといい。直ぐに対応する」

 

「ええ、分かりました。頼りにしてますね、ゼグロスさん」

 

「………」

 

最後は顔を見せずに小走りで行ってしまったから表情は分からなかったが、単に照れてしまっただけだろう。そう思ってマドカは目の前の小さな家に向き直る。

キャリーから貸し出されているという空き家、そこには1人の女性が住んでいるということであり、どうにも聞く限りでは正気ではないらしい。……いや、意思疎通は出来るらしいのだが、言っていることが分からず、毎日ただひたすら何かを書き殴り続けているとか。言葉は同じなのに、時々知らない言語が混じってくる。スフィアや魔法を見るとまたブツブツと呪文を唱え始める。それはまあ確かに、異常な存在と言えた。

 

「すみません、ゼグロスさんから紹介を受けたマドカ・アナスタシアと申します。入ってもよろしいでしょうか?」

 

…………

 

返事は返ってこない。

しかし中の灯りは付いているし、人の気配も伝わってくる。ガリガリと何かを書き殴っている音、どうやら噂は本当らしい。

しかし相手がどんな人間であろうとも、これまでにない様な特殊なスキルを持っているとなればマドカとしては是非とも勧誘したいという気持ちがある。今は協力はしてくれなくとも、オルテミスには来て欲しい。そう考えている。

 

「失礼します……」

 

鍵は空いていたし、何度か呼び掛けても無視されるのならばと、マドカはゆっくりと中に入り部屋の中の様子を確認する。元々はキャリーが持っていた小さな家、彼女の親戚が住んでいた家らしい。しかし今は過去の影など殆どなく、部屋の至る所に様々な表やメモが書かれた紙が貼られ、床には丸められた紙や使い切ったインクの瓶が捨てられている。

最近はそれほど紙も高価ではなくなったとは言え、この使い方はなかなかに豪胆と言えよう。そして部屋の主は今も大きな机の上に様々な紙を広げて、今もその毛先へ向かうに連れて赤色に変わっていく長い褐色の髪を片手で掻きながらブツブツと何かを呟いてインクペンを動かしている。

 

(……?)

 

そんな彼女の背後からマドカはひっそりと近寄り、こっそりと書いている物を覗いてみる。これでもカナディアの手伝いをして色々な書物を読みながら、最先端の研究に触れて来た。ゼグロスからも"何を書いているのか分からない"と言われていた彼女の成果が単純に気になってしまったのだ。

そうしてみれば……

 

「……なるほど、これはスフィアと秘石が外付の魔力生成器官であるという説に対する反論ですね。ここまで独学で辿り着いたんですか?」

 

「っ、は!?え、なに!?誰!?」

 

「こんばんは、良い夜ですね」

 

突然耳元で話されたからか、彼女は凄まじい勢いでふっ跳んでいく。この家が靴を玄関で脱ぐタイプの家で、机も低く、彼女も床にクッションを引いて座っていて良かった。この感じでは普通の椅子に座っていれば倒れてしまっていただろう。まあその時にはマドカが受け止めていただろうが、それはともかくとして。

 

「ゼグロスさんから聞いていませんか?マドカ・アナスタシアです、今日は貴女の勧誘に来ました」

 

「勧誘……?というか待って、あんたさっき私の書いてたこれ、意味分かってたわよね?なんで?」

 

「そういった研究のお手伝いをしているから、でしょうか。それなりに知識には自信があります」

 

こうして見ると目の前の彼女が疲れた顔をしていても、それなりの美人さんであることが分かる。鋭い目付き、なんとなく圧を感じさせる様な雰囲気、そして目の下のクマ。その辺りから彼女の気質の様なものを感じられるが、それと同時に彼女が目の前のマドカに対して興味を抱いていることも窺えた。一方でマドカから彼女に対する興味は既に、その何倍にも増している。

 

「……じゃあこれ、分かる?」

 

「?……なるほど、"魔力生成器官"ではなく"魔素変換器官"であるという仮説ですか。空気中に"魔素"と仮定した物質が存在していて、スフィアと秘石はそれを形として変換出力していると。つまりエルフ達が自身の魔力使って使用する魔法と、スフィアによる魔法は、精神力の消費という共通点はあるものの、根本的に原理が違うということですか」

 

「どう思う……?」

 

「私がお手伝いをしている方が似た説を提言していましたが、未だその"魔素"に当たる物質の実在を証明することは出来ていません。ただ個人的には支持している説ではあります。秘石の原理が解明出来ればいいのですが、現在の技術力では壊す事すら出来ません」

 

「……本当に分かるのね。この街の奴等は誰も見向きもしてくれなければ、理解すら出来なかったのに」

 

「スフィアはグリンラルでは取れませんから。理解したとしても意味のないことを、時間と労力を掛けてまで頭に入れようとする人はなかなか居ないのでしょう。それよりは魔力製品に関する論文の方が間違いなく需要があります」

 

「……そう、そうよね。よくよく考えてみれば当然の話だったわ、私ほんと何考えてたんだろ」

 

目に見えて彼女は落ち込む。

しかしマドカとしてはもうこれ以上にないほどの賞賛を贈りたい、それほどに書き込まれ積まれている紙の束の価値は高いものだった。これほどの逸材は早々見つかるものではない。

これはマドカの個人的な考えではあるが、研究者というのは探索者と同じくらい重要な存在だ。探索者は確かに居れば居るほどいいが、個々の能力は必ず何処かで限界が来る。そこから先をどう伸ばすか、如何に探索者の消耗を抑えるか、如何に一人当たりの効率を伸ばせるか。如何なる研究であろうとも、突き詰めればそこに行き着く。だからマドカとカナディアは数年前から研究者に対しての支援の増強をギルドに要望しているし、オルテミスの一画には彼等のための特区も存在している。

この時点でマドカの心は決まっていた。

その為ならばいくらでも私財を費やそうと。

 

「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 

「……天霧鈴葉。スズハ・アマギリって言った方がそれっぽいかしら」

 

「ではスズハさん。先程も言いましたが、今日は貴女の勧誘に来たんです。私と一緒にオルテミスに来て頂けませんか?」

 

「それはまた突然な話ね。折角ここにも慣れてきた頃だったんだけど、それあたしに何かメリットある?」

 

「この世界で最先端の街で、それなりの待遇を保証します」

 

「……そんなこと、あんたの一存で出来るの?見た限り、ただの若い探索者って感じなんだけど」

 

確かにマドカの見た目は珍しいものとは言え、初めて見た人間からすればただの若い女だ。それほどお金がある様にも見えない。ダンジョンからの配信を見ていなければ、初めて抱くイメージとして、それほど権力のある様な存在でもない。

 

「安心して下さい、手段はいくらでもあります。仮にその手段が全て潰えたとしても、私が直接貴女を支援します」

 

「それこそ信用出来る訳ないじゃない、あんたに何のメリットがあるのよ。私がこれだけ頭捻って作った論文だって所詮は後追いだった訳だし、そこまでする程の価値なんて別に無いでしょ」

 

何処か不貞腐れた様にそう言う彼女。

気持ちはマドカにも分かるが、それでもマドカの熱は冷めない。冷めることはない。

 

「それでは担保として、一先ずこちらをお渡ししておきますね」

 

「?なにこれ、スフィアよね?」

 

「中の星の数を見てみて下さい」

 

「星の数って…………………ぃっ!?」

 

マドカが手渡したのは1つの透明なスフィア。

無属性のスフィアであり、見た目だけならばその辺りにあるものと特段変わらない。しかし違うのはその内部に浮かんでいる星の数。

 

「4つ!?4つってこれ……!」

 

「☆4のスフィア、ご存知ですか?」

 

「龍族の秘宝で、今は盗まれてるって少し前に読んだけど……」

 

「それは【黒龍のスフィア】の話ですね、あれは本当に秘宝と呼べるものです。☆4のスフィア自体は他にも数例ですが発見されてはいます。これもそのうちの一つ、【生存のスフィア】と呼ばれているものですね」

 

「それって世界に数個ってレベルの話なのよね?な、なんでこんなものを私に……」

 

「それをお預けしておく程に、私は貴女に価値を感じているから、でしょうか。その証明として考えて頂ければ。……あ、一応扱いには気を付けて下さいね。それを持っていると知られれば、数多の勢力から命を狙われかねません」

 

「怖過ぎて持ってらんないんだけど!?」

 

「そのための【生存のスフィア】です。発動後は10秒間、外部と完全に隔絶された球体領域に閉じ籠る事が出来ます。傷も回復しますし、便利ですよ?自分だけにしか使えませんが」

 

「そ、そもそもあんたなんでこんなの持ってるのよ!?ただの探索者じゃないの!?」

 

「ただの探索者ですよ。少しだけ出しゃばりで、少しだけお節介な」

 

「………」

 

スズハはこの段階で、なんとなくだが察していた。

目の前の女がただの探索者などというのは、自分で言っておいて何だが、絶対にあり得ないと。そもそもこの街を取り仕切っているゼグロスとかいう男が特別紹介したいと言って来たような女だ。

そしてこの☆4のスフィア。

絶対にこの女が言っている以上にとんでもない代物で、価値だけで言っても、もっと過剰な反応を示すべき物に違いない。そしてそんな物を初対面の相手に軽々しく手渡すというのは、彼女自信がこの宝石の価値を分かっていないか、気が触れているかのどちらかしかなくて。

 

「……2つ、聞いてもいい?」

 

「構いませんよ」

 

「まず、あんたはあたしの何にそんなに価値を見出したの?分かる様に説明して」

 

「……これから私が話すこと、誰にも話さないと約束して下さいますか?少なくともあと10年は」

 

「……まあ、それくらいなら」

 

「分かりました。ではまず先程の"魔素変換器官"の説、既に私がお手伝いをしているお方が提言しているとお話ししましたよね」

 

「ええ、そうね」

 

「でも実のところ、私はそれが事実であると知っていたんです」

 

「は……?」

 

「つまり、私が彼女にそう気付くように仕向けたんです。けれど貴女は、私が仕向けなくとも独学だけでその真実に非常に近い説に辿り着いた……そこに組み立てるまでの過程もサッと読んだだけですが見事なものでした。論文としての完成度も高かったです。だから私は貴女の本当の価値を知っています」

 

「………は?」

 

何を言っているんだこいつは、と。

ただただ困惑する。

困惑するしかない。

本当に何を言っているのか分からなかったからだ。

ただ分かるのは一つだけ……

 

「もしかして、あんたも私と同じ、別の世界からここに来たの……?」

 

「……なるほど、そういうことでしたか」

 

目の前の人間も恐らくは、自分と同じ、何らかの異物であるということ。

 

「ですが、違います。私は正真正銘、この世界で生まれて、この世界で育った人間です。別の世界のことなんて知りませんし、記憶にも知識にもありません。……ただ、最初に言った通り、この世界の知識については自信があります」

 

「じゃあ、あたしがどうしてこの世界に連れて来られたのかは知ってる?」

 

「残念ながら、それは私にも分かりません。ですが大方の予想は付きます。というか、この世界にそういった時間や空間に干渉出来る様な存在はひとつしかありません」

 

「なんなのよ」

 

「邪龍です」

 

「どの?今は5体居るんでしょ」

 

「どれでもないと思います。そして恐らくは、現存するどの個体よりも魔法に長けている存在です」

 

「……意味分かんないんだけど」

 

「ふふ、私にも分かりませんから」

 

底が知れない。

真実を話しているだろうことは分かる。

ただ、その言葉が指し示している本当の意味まで捉えることが出来ない。こちらの1で10を理解されているのに、相手の10に対してこちらは5も理解出来ていない。端的に言えば不快だ、そして奇怪だ。近寄りたくない、関わりたくないとすら思える様な抵抗感を感じてしまう。

 

「……じゃあ2つ目の質問。そのオルテミスにあたしを連れて行って、そもそも何をさせたいわけ?あんたの助手なんて真っ平ごめんなんだけど」

 

「候補としては2つですね。1つは先程お話しした私がお手伝いしているカナディア・エーテルさんの助手をして貰うこと。もう1つは少し前まで私が教えていた、リゼ・フォルテシアさんのクランに入って彼等のお手伝いをして貰うことです」

 

「あんたの指示通りに動きながら?」

 

「いえ、私からは一切干渉するつもりはありませんよ。もちろん支援はしますが、基本的にはスズハさんの望むままに動いて頂ければと」

 

「……ねぇ、本当に意味分かんない。こんだけ話してるのに、あんたのこと、これっぽっちも理解出来ない」

 

「私が理解し合おうとしていませんからね、仕方のないことではあります。そして私達の関係は、それが一番なのだと確信もしています」

 

「頭おかしいわよ、あんた」

 

相変わらずニコニコと笑っている彼女に対して、スズハは顔を歪ませながら頭を掻く。

正直何も分からない。

敵か味方かも分からない。

ただ、妙に誠意だけは感じられる。

そして押し付けられている様なものではあるが、重い期待と信頼を寄せられている。なぜ初対面の人間にこれほど求めているのかも理解出来ないが、この世界に来てこれほどまで純粋に期待や賞賛をされることは一度も無かった。

……だからかもしれない。

その押し付けがましい視線を、遮ることが出来ないのは。

 

「……あんたが求めてるのは、どっちなのよ」

 

「後者でしょうか」

 

「探索者になれって言うの?研究者じゃなくて?」

 

「別にダンジョンに入って欲しい訳ではありません、ただリゼさん達の力になってあげて欲しいだけなんです」

 

「それがあんたにとって一番利益になるってことね」

 

「いえ、私にとって利益があるのは前者でしょうか」

 

「は?……つまり、教え子の利益を優先したってこと?」

 

「そういう部分もありますね」

 

「……素直に両方やって欲しいって、そう言えばいいじゃない」

 

「将来的にはそうして欲しいですが、今直ぐにそれを求めたりはしません。聞く限りではまだこの世界に来て浅い様ですし、まずは探索者の支援をしながら細かな知識を付けて頂ければと思っています」

 

「………」

 

恐らくであるが、仮にこの話を拒否したとしても、この女は自分の意見を肯定して身を引くだろうと思える。どうしてもと食らい付いてくるような姿が、全く想像出来ない。

しかしスズハは理解している。

自分がどれほどスフィアや秘石のことを調べたとしても、スフィアが発掘されないこの街の人間達にとってはこれっぽっちも価値の無いものであり、唯一理解のあるギルド長の計らいでタダ飯食らいをしていられるが、いつまでもこのままで居られる筈がないと。

ダンジョンで金を稼ぐことを拒否したのだから、研究で成果を出すしかないが、そもそもこの世界の知識が不足している現状では、何の研究をすれば利益になるのかも不明確だ。何れ嫌でも追い出されることになる、何もかも分からず理解も出来ないこの世界に。

 

(……この話に乗るしかない)

 

自分にとって利益しかない提案。

少なくともこれからの生活は確保される。

あまりに提案の内容が良過ぎるが、それも目の前に居る狂人から出されたものであることを考えれば、一周回って信用も出来るというもの。そもそもこんなとんでもない代物まで渡して来て、貴女にはそれと同等の価値があるとまで言われたのだ。

ここまでの期待をされたのは、元の世界でも無かったことである。

色々と利用されて貶められる可能性も考えたが、そうなるとどうしても☆4のスフィアを渡した意味がなくなるのだ。別に身分の不明な小娘1人を貶めるのであれば、それこそ最低ランクのスフィアで事足りる。

きっと彼女は裏切らないのだろう。

そして言葉通りの環境を用意してくる。

そして最後には彼女の望み通りの形になる訳だ。

 

手のひらで踊らされているようで気に入らないし、不快でもあるが、乗るしかない。

この女であればもしかすれば、自分を元の世界に戻す方法もまた知っているかもしれないのだから。

 

「最後に確認、あたしを元の世界に戻すことは出来ると思う?」

 

「……断言は出来ませんが、可能性はあります。しかしその可能性について今詳細に語ることは出来ません」

 

「そう……それならいいわ、協力してあげる。あんたの話に乗ってあげる」

 

「それでは……!」

 

「オルテミスに行くわ、そのリゼって奴の手伝いをすればいいんでしょ?戦闘なんて絶対に嫌だけど、頭くらいなら貸してあげるわよ」

 

「ありがとうございます、スズハさん!」

 

「……」

 

満面の笑みで頭を下げられ、スズハは溜息を吐きながら部屋の片付けをし始めた。必要な物、不要な物を纏めて引っ越す準備をしなければならない。

……まあ、悪いことにはならないだろう。

その確信だけは、この短時間に確かに植え付けられていたから。

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