無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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サブタイトルの数字が飛んでますが問題ありません。


65.騒がしい日

その日、リゼとレイナが普段通りにギルドを訪れると、職員達どころか周囲の探索者達すらも慌しく動いている様子を見ることとなった。

ギルドにいる探索者達も普段見かける様な若い探索者達ではなく、少し年を食った中堅の探索者が多い様に見えるし、中でも聖の丘の刺繍を胸に刻んだ者達が多い様にも感じた。

……明らかに何かが起きてしまったのだろう。

多少鈍感な部分のあるリゼでも、それだけはハッキリと認識出来た。

 

「リゼ、レイナ、こっちに来るっす」

 

「ヒルコ?あ、ああ、一先ずお邪魔するよ」

 

何が何だかと立ち尽くしていたリゼとレイナにそうして声を掛けてくれたのは、鑑定士のヒルコである。主に換金や鑑定を仕事にしているギルド職員であり、ギルド長と副ギルド長に次ぐ影の実力者でもある彼女であるが、やはりというか何というか、こういった雰囲気の中でも彼女だけは普段通りにのんびりとペンで遊んでいた。

そんな彼女の前に座る2人。

周りの邪魔にならない様にと、避難したとも言えるだろう。

 

「ヒルコ、これは一体何事だい?ダンジョンで何かトラブルでも起きたのだろうか?」

 

「いや……まあ、もうここだけの話じゃなくなるんで話しちゃうんすけど、ほぼ間違いなく外界に龍種が逃げたっす」

 

「……なんだって?」

 

話の内容がよく理解出来ないリゼとレイナ。

しかしそれは当然だ、その話を理解する前にはそもそもの前提となる話があるのだから。何も知らない2人が突然事実を突きつけられても困惑するのは仕方のないこととも言える。

 

「えっと、龍種が逃げたというのは、ダンジョンから逃げたということでしょうか?」

 

「違うっすよ。……話の始まりは、そもそも、どうしてマドカさんがグリンラルにまで足を運んでいるのか?ってところっすね」

 

「それについては私も話は聞いていないのだが……」

 

「前兆が見つかったんすよ、2度目の龍の飛翔の」

 

「「!?」」

 

「それが話の始まり……要は、マドカさんはグリンラルに戦力提供の交渉に向かった訳っすね」

 

そこまで聞けば、後の話の流れは大体わかる。

 

「つまり、マドカが交渉に出かけているその間に龍が出て来てしまい、対応が出来なかった……そういうことだろうか」

 

「まあそんな感じっす。マドカさんがグリンラルを出る直前に、『出現予想地点を掘って欲しい』なんて伝文機で送って来たっすから、まさかと思って掘ってみたら……」

 

「既に龍種が出てきた後の痕跡があった、ということですね」

 

「そういうことっす、穴が塞がりかけてたんすよ。むしろ予兆が見つかる前には既に外界に出てた可能性すらあるみたいっす」

 

「それはまた……」

 

とすれば、この騒ぎは恐らくその龍種を探して討伐するためのものだろう。先ずは聖の丘から捜索のための編成が組まれ、発見後直ぐに攻撃部隊が駆け付ける。今はそのための相談か何かをしている段階で……

 

「だから!!なんで出発できないんだ!!今直ぐにでも探索に向かうべきだろう!!」

 

「落ち着いてください!何の情報もないというのにどうするつもりですか!今無駄に人手を減らせる余裕はないんです!許可出来ません!」

 

「そんな悠長なこと言ってる間にいくらでも探せんだろうが!馬鹿言ってんじゃねぇ!いいから出発許可を出しやがれ!」

 

ギルドの受付で探索者と職員が言い争っている。

2人とも、性別は違っても互いに今にも掴み掛からんとするほどの勢いだ。明らかに強そうな身体を持っている男を相手にしても、一歩足りとも引くことをせず、むしろ大きく机を叩いて威嚇する女性職員。というかエッセル。百戦錬磨のギルド職員は恫喝に決して屈する事がないどころか、むしろ食い殺してやらんばかりの気迫を放っている。

 

「……うわぁ」

 

「ふ、2人とも誰かを守りたいという点においては思いは同じなのだろうけどね」

 

「ま、とは言っても今はマドカさんの帰りを待つのが先決っすよ。情報が全くない状態での捜索なんて無意味にも程があるっすから、特に今回は……」

 

「?」

 

「いや、なんでもないっす。そういうことで、アンタ達にも捜索の協力をお願いすることになるかもしれないっすから。準備だけはしておいて欲しいっす」

 

「ああ、任せて欲しい。眼には自信があるんだ」

 

「……あの、それって戦闘に参加する必要とか出てきますかね?」

 

「アンタ等より強い奴なんてこの街には腐るほど居るっすよ、そこまで人材は不足してないっす」

 

「ああ、うん、まあ、それはね……」

 

しかしまあこうなると、何か指示があるまで変に緊張して普段と違うことをする意味もないだろう。むしろこういう時にこそ普段通りに動く人間が必要であるということは流石に理解しているし、リゼにはそれを求められているということも分かっている。

一先ずはいつも通りに配信の手伝いをし、その後は依頼の処理だ。いつもの探索者達が居ないことを考えると、普段よりも処理すべき依頼は多くなるかもしれない。取り敢えず期限が今日までの依頼から優先して処理していくことに……

 

「あ」

 

「ん?なんっすか?」

 

「いや実はその、今日の午後に"青葉の集い"から探索者を1人紹介して貰う予定になっているんだ。影響は出るだろうか」

 

「あ〜、それは流石に無理じゃないっすかね。誰からの紹介なんすか?」

 

「シセイさんと名乗っておられました」

 

「あ〜……あ〜、なるほどっす」

 

「え、なにがだい……?」

 

「シセイさんがリゼ達に誰を紹介したいのか予想出来たんすよ。大変っすね」

 

「そんなに大変な人なんですか!?」

 

「本人はかなり温和っすよ、やばいスキルとスフィアを持ってるだけで」

 

「やばいスキルとスフィア!?」

 

「なんすか?やばい人間だけでクラン作るつもりなんすか?龍殺団の対抗馬とか面白すぎて応援したくなるっすね」

 

「わ、私はやばくないですから……」

 

「レイナ!?」

 

まあそうは言っても、事情が事情なだけに仕方ない。まだ相手から正式な断りがない故に中止とは限らないが、これだけギルドも探索者も慌ただしくしているのだ。"青葉の集い"という都市内でもかなり大きなクランの人間が、そう簡単に時間を割けられる場合でもない。

 

「……よし、ありがとうヒルコ。取り敢えず私達はいつも通りのことをしてくるとするよ。エッセルの邪魔にならないかが心配だけれど」

 

「あ〜、むしろ喚いてる探索者の相手しなくて嬉しがるんじゃないっすか?まあ付き合いっすから、シセイさんが来たら話しておいてあげるっすよ」

 

「ああ、助かるよ。よろしく」

 

それから2人は依頼板の元へ近寄り、期日が迫っているものから優先して取りエッセルの元へと向かった。ヒルコの言った通り普段通りの、むしろ状況を見て期限が危うい物から持って来てくれた2人を見て、エッセルが喚く探索者を押し退けてニッコニコで応対するくらいには好感度が爆上がりしたらしい。

 

 

「……まあ、こういう対応が大切なんだと思います。何かが起きても焦り過ぎず、声を掛けられるまで下手な行動は起こさない。何か協力出来そうなことがあるのなら、軽い情報提供程度に済ませる」

 

「でも、それほど人任せでいいのだろうか?……いや、自分が行動を起こせば事態を良く出来るとは思ってないのだけどね」

 

「それがまず事実としてあって、次に私達より慣れていて優秀な人達もこの街には大勢居る訳です。そしてそんな彼等はなるべく現状維持をしながら事態を解決したい筈ですから、私達の様な働き手は余計な混乱を起こす事なく、普段通りのことをしていればいいんです」

 

「なるほど……彼等が落ち着いて対策を立てられる現状維持という基盤を、私達は担っているということか」

 

「そういうことですね。方針決めはギルドと上位の探索者に任せて、能力も経験もない私達は無力を噛み締めて大人しくしていましょう。……きっとギルドに中堅の探索者が多く居たのは、自分がどちら側に立つべき探索者なのか理解出来ていないからなんでしょうね」

 

「……それが責められるべきものなのか、妥当なものなのかは、私にはまだ判断が出来ないかな」

 

「同感です」

 

若くとも優秀であれば重宝される。

例として挙げやすいのはマドカであるが、それ以上に今はエルザやユイの方が分かりやすい。まだ歳も若く探索者としても歴が浅い彼女達が、既にギルドのかなり深い情報まで知っており、その方針決定にまで携わっている。

他にも"青葉の集い"の団長と副団長もかなり若く、"風雨の誓い"の団長と副団長も探索者全体で見れば若々しい。

だからそんな彼等を見て自分も同じ位置とは言わなくとも、積極的に動ける立ち位置にくらいは居るのではないかと勘違いする者も出てきてしまう。これはある意味で弊害であり、誰もがその立場になり得る話でもある。

 

「私が勘違いしていた時にはレイナに止めて貰うことにしよう」

 

「え、止めないですけど」

 

「え?」

 

「いや、だってリゼさんは将来的に絶対その位置取れるじゃないですか」

 

「???」

 

「ギルドの信頼もあって、勉強も熱心で、誠実で、唯一無二の特技があって、灰被姫とそこそこ話せる……こんな人材早々居ないですよ?」

 

「な、なんだかそう褒められると恥ずかしいな……調子に乗ってしまいそうだから、やっぱり止めて欲しい」

 

「多少は構いませんが……多分最終的にはそうなると思います。というか私だったら私情抜きでもそうしますよ。灰被姫の凶行を止めてくれる人間なんて何人居てもいいですからね」

 

「それは普通に嫌過ぎる……」

 

どう考えてもそれが目的で引っ張られることになる気しかしない。あの女が何かをやらかそうとする度に必死になって止めようとして被害に巻き込まれる将来の自分を想像して、それならばそんな立ち位置になんか行きたくないとリゼは思った。

とは言え、レイナは色々と回りくどい言い方をしていたが、単体で移動式の超威力超精度の砲台として機能する様な、対邪龍戦において極めて強力な切札となり得る人間を会議の場に参加させないなどということは決して有り得ないため、リゼの未来は確定している訳だ。それこそ作戦立案の出来るマドカ側ではなく、絨毯爆撃による広範囲殲滅を得意とするラフォーレ側の人間として。求められる役割がラフォーレ側なのだから、今後も彼女とよろしくお世話になるということもまた言うまでもない。

 

 

 

 

「いやいやいやいや待て待て待て待て待て!!」

 

「な、なんなんですかこれはぁぁあああ!?!?」

 

「と、とにかく逃げるんだレイナ!!私の前で道を開いてくれ!」

 

「わ、わっかりましたぁぁああ!!!」

 

ガサガサガサ!バサバサバサ!!

2人の背後からはそんな凄まじい音の軍勢が聞こえてくる。必死に走って、必死に逃げて、背後から稀に飛んでくる空気弾をスキルとスフィアを使った眼を用いて避けたり叩き落としたり。

一体なぜこんなことになってしまったのか。どうしてこんな絶体絶命の危機にカイザーサーペントの居ない筈の8階層で陥ってしまっているのか。それについてはもう本当に、運が悪かったとしか言いようがない。

 

「ああ!もう!いつの間に8階層の支配権をハウンドハンター達が得ていたんだ!?昨日はこんなことにはなっていなかった筈だろう!?」

 

「昨夜のうちにハウンドハンターとパワーベアの陣営で大規模な抗争があったんじゃないでしょう……ひゃぁっ!?」

 

「あっぶない!!」

 

前方を走るレイナに向けて待ち伏せをしていた1匹のハウンドハンターが襲いかかり、それにいち早く気付いたリゼが持っていた短剣を投げ付けて撃ち落とす。運良く顔面に突き刺さったことでレイナに怪我は無かったが、どうにもその短剣を拾い直す余裕も無さそうで、リゼは諦めて走り続ける。

凄まじい量のハウンドハンターの群れ。

この階層に生息している個体はこうまで多いものなのかと、リゼは今驚きすら感じている。

 

「あ、ありがとうございますリゼさん……!」

 

「構わない!それより……この状況はどう考えても問題だ!こうなると本当に広範囲攻撃の手段を持つ人材が欲しくなるというか!」

 

「魔法使いってやっぱり必要なんですかね!今更ですけど正直この階層わたしメチャクチャ戦い辛いです!」

 

「同感だ!!ラフォーレが二言目には森を焼こうとする気持ちが最近は少し分かるくらいだ!見辛いし邪魔なん……だっ!!」

 

『キャンッ!?』

 

少し広めの空間に出た瞬間に、その場で大銃を振り被りながら一回転し、薮から出てきた3匹のハウンドハンターを一振りで薙ぐリゼ。

 

「『雷斬』『雷斬』……【雷散月華】!!」

 

そして、リゼのその行動に気付いたレイナは、最大威力の雷斬でリゼに追い付いてきた個体ごと後方の木々を大きくぶった斬る。凄まじい雷によって複数の個体が撃たれ、木々も多く切り倒されたことで押し潰され、道を塞がれ、群れの統率が悪くなる。

 

「ありがとうレイナ!」

 

「は、はいっ!」

 

そのまま一撃の疲労を感じ始めたレイナの手を引き、リゼは残り僅かまで迫った8階層の入口に向けて走る。こうしてハウンドハンターに追われて逃げるのも、果たして何度目のことだろうか。マドカであれば1人でも殲滅出来るのだろうか。ラフォーレなら間違いなく出来る。エルザやユイのペアでももしかしたら出来るかもしれない。……だが、リゼ達にはまだそれは出来ない。

 

(レイナに問題はない、むしろ彼女は本当に良くやってくれている。今も広範囲攻撃という役割を擬似的に果たしてくれた。……問題は)

 

リゼの近接戦闘能力。

正直に言えばそれは本当に素人に毛が生えた程度のものでしかなく、側からみればただ大銃で殴り付けているに過ぎない。眼が良いことを武器にしてタイミングだけは最高だし、カウンターには滅法強いが、それ以外は基本のきの字も出来ていない。

 

『マドカさんが帰ってきたらどうするんですか?』

 

以前レイナにそう聞かれたことがある。

今ならそれこそ『近接戦闘を教えて欲しい』と答えられるが、しかし同時にラフォーレは『近接戦闘を学ぶなどと考えるな』というようなことを言っていた。認めたくはないが、ラフォーレも実績だけを考えれば十分にリゼの師としてカウントしていいだろう。そんな彼女の助言を無にするというのもリゼの良心が痛むし、そもそもそれが彼女に知られでもしたら何をされることか。迂闊なことはしない方がいい。ここが現在リゼの中で本当に悩ましい話だった。それでもラフォーレに対する探索者としての尊敬は間違いなくあり、リゼは決める。

 

(少し無理をして入口付近まで来たら何体か返り討ちにしようかとも思ったが……やはりやめておくことにしよう)

 

リゼが企んでいた無茶を引き留めたのがラフォーレだというこの皮肉。リゼは考えていた通りにレイナを連れて7階層へ登る階段へ飛び込んだ。

階層移動を出来ないことはない様であるが、何故かそれを避ける傾向のあるモンスター達。ハウンドハンター達もその例には漏れず、多少興奮して数体はリゼ達を追っては来たものの、群れでなければ恐ろしくも何ともない。地形的有利を取ったレイナに直ぐ様に串刺しにされ、リゼによって叩き潰された。

……本当に、ダンジョンというのは恐ろしい。

 

「ふぅ……さて、依頼については後は木の表皮を持っていくだけだ。少し休んだら戻ってギルドに報告しようか」

 

「はい、そうしましょう。リゼさんは休んでいて下さい、私が今のうちに表皮を」

 

「休むのはレイナの方だよ、精神力的にも疲れているだろう?……私も少し疲れたんだ。ここで2人で休息をして、表皮はその後で取りに行こう。ほら、私の隣に座るんだ」

 

「は、はい……す、座ります……」

 

考えることも多いし、やるべき事もたくさんあるし、まだまだ自分には足りていない物ばかり、それなのになんだか時間がすごくゆっくりに感じてしまう。いそいそと隣に座って俯くレイナに少しもたれ掛かりながら、目を閉じるリゼ。

 

(……正直、思い描いていた自分にはまだまだ程遠いかな。ただ何も考えずにダンジョンに潜っているだけでは、強くなれないのは当たり前だ)

 

考えて、試して、修正して、挑戦する。

いつまでも偶然の危険を回避して強くなるばかりではいけない。何も考えずにダンジョンに潜るのは簡単だ、苦悩が少なくて済む。けれど意識をして努力をしなければ何の意味もないのだ。より早く強くなり、より早くあの背中に追い付くためには……苦しい思いや、困難に頭を悩ませることを常としていかなければならない。

 

「……レイナ」

 

「は、はひっ!な、ななっ、なんですか!?」

 

「今日の午後は、少し、工房に籠ろうと思うんだ。……帰るのが遅くなるかもしれないが、構わないかな」

 

「!……はい、分かりました。待ってますから、美味しい夕食を用意して」

 

「うん……ありがとう」

 

そろそろ自分のスタイルを定める時だ。

自分に合った戦闘スタイルは、もっと他にある筈なのだから。

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