無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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67.銃の可能性

「……結局リゼさん1日帰って来なかったんですけど!!」

 

「あ、ああ……いや、というか、本当に最初の私との契約は何処に行ったというか。そもそもこの週に1度の時間もリゼ・フォルテシアとの時間だった筈なのだが」

 

ギルドを出て、鍛冶屋の方へと歩くレイナとカナディア。ぷくっと両頬を膨らませて歩く彼女は、以前にカナディアが言葉を交わした時よりも幾分か人間味があるというか、遠慮が無くなったというか、とにかく健全に見えた。

これでも彼女の生活のために当初の契約通りに毎月30万Lの支援を続けているカナディアであるが、彼女達2人で既に普通の生活が出来る程度の稼ぎがあるのだから。これはもう殆ど『ダンジョンの別の入口の調査報酬』として解釈している部分もあるが、実態はほぼ単なる支援である。まあどうせそろそろリゼ本人から支援を打ち切るような話があるとは予想しているが、こちらから話した手前、3ヶ月分くらいで話は纏まると予想される。ぶっちゃけカナディアとしては、それくらいの端金はどうでもいい。

そして2人がどうして鍛冶屋に向かっているのかと言えば、それは言わずもがな、この場に居ないリゼの元に向かうためである。

 

「うん……?ガンゼンの鍛冶屋が今日は妙に静かだな」

 

「確かに……前に来た時にはもっと活気があった筈ですが」

 

そうして辿り着いたガンゼンの鍛冶屋。

以前にレイナが奇妙な槍の性能解明のために来た時には多くの鍛治師達が忙しなく鉄を打ったり武具を売ったりしていた筈だが、何故か今日は店頭に最低限の人員が居るだけ。鉄を打つ音もあまり聞こえては来ない。

 

「もしかして……」

 

この瞬間、何かを予想できたのは当然ながらレイナの方だった。

いつもとは違う雰囲気、ならばその原因はいつもとは違うことにあるはず。そしていつもとは違う何かがあるとすれば、それは間違いなくリゼがこの場で何かしらの作業をしているということに他ならない。

 

「そこの君、今日はなぜこうも静かなんだ?」

 

「え?ああ、"聖の魔女"様。実は例の大筒を持った女性が今とんでもない物を作っていまして、ガンゼンさん含めて鍛治師連中の殆どはみんなそっち見に行ってるんですよ」

 

「とんでもない、物……?」

 

「こ、今度は何をしてるんですかリゼさん……」

 

そんな言葉を聞くと同時に、工房の奥の方から湧き上がる男達の歓声。もう何が起きたかなど議論する必要もない。殆ど勝手に中に入っていくカナディアとレイナ、そんな2人を止めることすらしない店員達。彼等も店を仕方なく任されているとは言え、本心ではその場で起きていたことに興味津々だったらしい。

大工房の奥の方、個人用の小さな工房が多く配置されているその空間に辿り着けば、多くの男達が何度も何度も手を上げ祝福の声を上げている。その中心に居たのは、一本の黒い完全金属製の銃を掲げる見慣れた女。猟銃の様にも見えるが、レイナやカナディアが知っている様な形とは違うし、必要以上の無骨さは薄く潰された鉄の箱の様にも見えて。

 

「リゼさん!」

 

「ん?……ああ!レイナに、カナディアも!見てくれこれを!ついに完成したんだ!」

 

「見てくれって……」

 

明らかに寝不足なのか目の下にクマを作ってポヤポヤとしている彼女だが、その興奮が珍しく顔に出ている。否、言ってしまえばこの場にいる全ての職人が似たような雰囲気を持っていた。彼等は一体いつからここでその様子を見守っていたのか、この歓声はその徹夜明けの妙な精神がもたらしたものでもあるのかもしれない。

 

「リゼ・フォルテシア、これは一体なんだ?なにを作ったんだ?」

 

「基本はお祖父ちゃんが教えてくれた単発式の銃さ。ただ、ダンジョン内の戦闘にも耐えられる様に最硬の合金を使用しつつ、殴打にも使用出来る様な頑丈な作りにしたんだ。それに威力だって増し増しだ!」

 

「は、はぁ……それで、この騒ぎは?」

 

「ふははははは!!!これはいい!こいつはいい!スゲェぞ姉ちゃん!おい"聖の魔女"!こりゃ時代が変わるぜ!時代はスフィアじゃなくて銃の時代かもしれねぇ!!」

 

「そ、そうなのか?」

 

「おい姉ちゃん!やっぱりお前のお祖父さんは天才だ!同じ天才の俺が断言する!こんなゴチャゴチャした機構、頭のネジ外れた狂人くらいしか思いつかねぇよ!」

 

「あはは、そう言ってくれるとお祖父ちゃんも報われるよ。生前はスフィアに銃は負けないということをずっと証明しようとしていたからね。たくさん褒めてあげて欲しい」

 

「「「はっはっはっはっは!!」」」

 

「「………」」

 

そのテンションに乗ることは出来ない健全な睡眠を取った2人ではあるが、まあ確かにこれをリゼが作ったのだと言われると驚くところもある。彼女は本当に銃工房で生まれ育った人間なのだと今初めて理解出来た。

それに銃の方も黒く細長い箱を潰した様な形をしているとは言ったが、形からしても、どう考えてもそれは片手で撃つことを前提にしている様にも見える。普通の人間にあの大きさの銃を片手で撃つなんてことは絶対に出来ないし、そもそも狙いが定まる筈がないのだから、間違いなく感覚のあるリゼ専用の物なのだろう。それに銃弾と思われる物も妙に細長く大きい。これほどの鉄の塊が撃ち込まれると考えると、レイナは普通に血の気が引いた。

 

「……ガンゼン、もしかすればこれは容易く探索者を」

 

「殺せるだろうな。これのスゲェ所はレベルの足りねぇ相手でも関係なくぶっ殺せるってとこだ。例え急所に当たらなくとも致命傷だろうよ」

 

「リ、リゼさん……」

 

「ああ、だから構造上の重要な箇所についてはガンゼン殿にしか伝えていないし、一緒に作っていたのもガンゼン殿だけだ。それにこの銃も私以外には使えない作りにしている。両手では支え難い上に、相応のSTRとVITがないと発射の反動で怪我をするだろう。そもそも片手射撃でも相当な練度がなければ標準がかなりブレる」

 

「……流石にその辺りについての理解はあったか」

 

「銃についての理解が深いというのは、その危険性にも理解があるということだからね。……お祖父ちゃんは言っていたよ。もしスフィアではなく銃が世界に広まっていれば、この世はまた違った姿になっていた筈だとね」

 

故にこの技術を広めるかどうかについては、より頭の良い人間達に任せる。スフィアにも銃は負けていないということを証明したいという想いはあれど、リゼの祖父はその影響についての理解はあったため、リゼにもそれを伝えていた。

ガンゼンの頭があれば、今からそれを活用し、応用し、多くの者達が容易く使える形に変え、大量に生産することも可能だろう。しかしそうなった場合、もしかすれば普段から不満を持っていた者達が今の実力のある者達に銃口を向ける可能性が出て来る。それが正当な理由であるならばまだしも、単なる嫉妬や欲望で実力のある者達を殺されては困るのだ。

 

「……今のところ広める気はねぇ。ただ、そこまでしてでも戦力を上げる必要が出て来たのなら、遠慮なく使うつもりだ。当然そこはギルドやお前達との協議の末の話だがな」

 

「そうしてくれると助かる」

 

「大型砲台の方の支援は引き続き行うつもりだよ。それについては既に協議も済んでいる案件だという話だからね」

 

そう淡々と話す3人に対して、その重大性に気付き、なんとも言えない心地になっているのはレイナである。リゼの持っている大銃がなんだが凄いものであるということは知っていたが、そこまでの物であるとは想像すらしていなかったからだ。

そしてリゼがそこまでの影響力を持っている人間であるとも今の今まで思ってもおらす、思考が止まる。

 

(……もしかしてマドカさんは、ここまで考えてリゼさんを?)

 

そうだとしたら、まあなんと悔しいことか。ここでもまたリゼ・フォルテシアという人間に関する理解度で負けていたということなのだから。

 

「レイナ、今から試し撃ちにいくのだけど……君も来ないかい?」

 

「え?あ……はい、いきます」

 

「……あ"!!そ、そういえば昨日レイナが夕食を作って待っていてくれるって……!」

 

「いえ、まあ、その……それはもう大丈夫なので」

 

「す、すまない!本当にすまない!この償いは必ず何かで……!!」

 

「……じゃあ後で抱き締めてください」

 

「え"」

 

「なんですか?嫌なんですか?あーあ、せっかく昨日は腕によりを掛けて作った料理を結局冷まして1人で食べることになったのに、そうですか、リゼさんはそんな私を慰めることもしてくれないんですね。いえ、いいんです、分かってます、それでも私はリゼさんのことを思って今日も涙を拭きながら家事に勤しみますから。それもこれも全部わたしの惚れた弱味……」

 

「わ、分かった!する!するから!だからそんな泣く真似はしないでくれ!」

 

「よろしいです。それでは行きましょうか」

 

「……全く、敵わないなレイナには」

 

けろっと立ち直ってリゼの手を引くレイナ。

ずるいことをしている自覚はある。

リゼの弱味に付け込んでいる自覚もある。

けど、今のレイナにはこれしかない。

 

(これくらいしか、マドカさんに勝てるって自信を持てるものがない……)

 

そんな悲し過ぎる現実から目を背けるために、ただ知らない男達の背中を追う。今ここに居ない見えない相手は聞けば聞くほど強大で、知れば知るほど焦りは増すばかりだから。

……そもそも相手が自分とは別の舞台に立って居るということに気付くまでは、レイナにはもう少し時間がかかるらしい。

 

 

 

 

大きな破裂音が5発、訓練場に木霊する。

様々な武具の試しに使われるこの訓練場においても、これほどの音は滅多に聞こえることはないだろう。

撃ち込まれた5発の弾丸はその全てが的にされた藁人形の頭部に吸い込まれ、あまりにも正確に中心を射抜かれている。

 

「……凄まじい腕前だな」

 

「す、すごい……」

 

「これはもう慣れかな。いちいち狙って撃つのも面倒になってからは、実家でもこうやって片手で猟銃を使って狩をしていたよ。幸いにもステータスには恵まれていたからね」

 

5発とも様々な態勢から撃って見せたものの、その全てがしっかりと狙い通りの場所に吸い込まれているのだから、彼女の言は間違いないのだと誰もが分かる。それほどに銃を撃ち続けて来たということに少し引いてしまう者も居たが、これは間違いなく彼女だけの武器だ。

付近にいる者全員が耳栓を付けなければならないというのは少し不便ではあるが、リゼ曰く直ぐに慣れると。それにこのくらいの威力であるなら、VITの値が高ければ耳栓なしでも問題がないらしい。カナディアはそれを龍種の咆哮に例えて納得していたが、レイナにはよく分からない世界の話だった。とは言え、これから近くで戦うのであれば慣れておかなければならない音ではあるのだが。

 

「にしても、やっぱ問題は弾丸だな。薬莢は使い回せるだろうが、これも形整えねぇと使えねぇぞ?」

 

「猟銃を生産している所はないだろうか?ある程度の形を整えてくれれば、手入れや製作が楽になる」

 

「オルテミスには居ねぇだろうなぁ、ツテ持ってる商人くらいなら居るかもしれねぇが」

 

「この大銃にしてもそうだけれど、やはり弾丸作りが一番困る。単純に時間がかかるし、繊細だ。正直ガンゼン殿が銃関係の資材を集めていてくれなければ、これも完成しなかった」

 

「弾丸をうちで作ってやってもいいが、それなりに金はかかるぜ?そいつで殴ってた方が安上がりなくらいだ」

 

「む、むむむ……こんなことならお祖父ちゃんの弾丸じゃなくて普通の猟銃の弾を……いや、でもそれだと威力が」

 

祖父の工房であれば大量生産が可能な機械もあったが、それについては流石に持って来ることが出来なかった。そもそもの話、祖父はそれ等をどこでどうやって作ったのかも分からないが、簡単に作れる物ではないということだけは分かる。今の状態では1発当たりの単価が浅層の魔晶1つには全く見合わない。せめてそれ以下の単価にならなければ容易くは使えないだろう。

 

「……取り敢えず、少しずつでも構わないから製造をお願いしてもいいだろうか?当然、作って貰った分しっかりと支払いはするよ」

 

「ふむ……とは言え、今後のことを考えれば大量生産の目処を付けておくのも悪いことじゃねぇ。まあ金払ってくれるってんなら、後は職人の仕事だ。額も勝手に調整する、気にすんな」

 

「一先ず、今の単価としてはどれくらいになるだろうか?」

 

「……2200L?」

 

「たっか!?1発でですか!?」

 

「ううん、まあ設備が整っていない以上はそうなるか……」

 

「嬢ちゃんが持ってるその型、全部譲ってくれんなら半額にしてもいいぜ」

 

「いきなり安くなりましたね!?」

 

「その型にはそんだけの価値があんだよ。未知の技術を金で手に入れられんなら、なんぼ払っても安いもんだ」

 

「それならもっと安くしてもいいのでは?」

 

「うっ」

 

「……うん、まあ私が持っているよりかは役に立つだろうし、それは問題ないかな。その条件を飲もう」

 

「金額については後で私とも交渉しましょうね♡ガンゼンさん♡」

 

「おっ、おお……」

 

ガンゼンとて鍛治師であると同時に商人の1人。

なるべく自分の得は多い方がいい、より高く売り付けたいし、より安く仕入れたい。故に物の価値というものを尋ねられれば、少しくらい高い値段を言ってしまうのも仕方ないというものであろう。

ただ、今回は騙した相手と、その保護者が近くに居たのが不味かったらしい。純粋で誠実なリゼを騙すということは、その信仰者にとっては何よりの罪である。果たしてどれほどまで値切られることになるのか、その報いは受けることになるのは間違いない。

 

 

 

「……ところでリゼ・フォルテシア、その大銃はもう使わないのか?」

 

「?いや、普通に使うつもりだけれど」

 

「まさか、両方持っていくのか……?」

 

「ええと、移動には問題は無いはずだ。それにこの銃もこうしてベルトで腕に固定すれば持ちながら走れるし、射撃も安定する。ほら」

 

「……荷物が多そうだな、兵器人間か?」

 

「本当はもう一丁欲しいんだが、装填の問題があるんだ。弾倉を作るにも下手な形にすると邪魔になるし、ここも今後考えないといけない所かな」

 

「君はほんとうに何になりたいんだ……?」

 

「そもそもそれが私の本来の戦闘スタイルというか、山の中でモンスターを狩る時には大抵そうしていたよ。いくら頑丈なモンスターでも基本的に額に2発撃ち込めば力尽きるからね」

 

「………」

 

もしかしなくともこの女は、設備さえ整えてやればとんでもない探索者になるのではないか?まず間違いなくここまでマドカが読んでいた訳ではないだろうが。益々彼女の人を見る目というものに対する信頼度が増したカナディアは、信頼出来る商人を数人頭に思い浮かべながら、今日という久しぶりの休日も仕事に飛んでいきそうなことから目を背けていた。

 

「……で、武器の名前は?」

 

「あ……」

 

リゼは作成した人間として命名をしなければならないという現実から目を背けていた。

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