無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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74.躍動する世界

何故か感動の再会といった雰囲気になってしまったマドカとの久しぶりの対面から少しが経ち、漸くリゼの様子が落ち着いた頃。それを見計らっていたエルザは少し呆れた様に、しかし可愛げのある後輩を愛でる様な目を向けて、話を元に戻すことにした。

 

「さてと、本題は別にマドカとの再会じゃないのよね……そろそろいいかしら、リゼ?」

 

「ん?……あ、ああ、すまない。も、もう大丈夫だ」

 

「あ、レイナさんも座って下さい。椅子ならここにありますので、リゼさんの隣に」

 

「……どうも」

 

今も目を赤くしながらマドカに手だけは繋いで貰っているリゼは、もうなんだか本当に子供の様ではあるが、流石に今それについて触れてはいけないとレイナも分かっている。

代わりに反対側のリゼの手を握って膝の上に置くと、そのままレイナ自身も少し顔を赤らめながら視線をエルザの方に移した。リゼとマドカがそんな自分をどんな顔をして見ているのかなんて恥ずかし過ぎて見たくなくて、けれどそんな心すらエルザにはバレていたのか、ニヤニヤとした顔を向けられて俯いた。

 

「ま、いいわ。まず今回リゼをここに呼んだのは、一先ず情報の整理と共有をして、これからの事に備えるためよ」

 

「……ええと?」

 

「そうね、分かりやすい話からするなら……先ず、どうしてマドカが今ここまでの怪我を負っているのか、からかしら」

 

「!」

 

バッとリゼが顔をマドカの方に向ければ、確かに彼女は今も治療中であることが伺える。自分の感情ばかりに気を取られてしまっていたが、そもそも彼女はこの病室に入院していたのだ。何かがあったことに間違いなく、彼女がそれほどの重傷を負ったことも間違いのない事実。

 

「だ、大丈夫なのかい!?」

 

「ふふ、大丈夫だから面会出来るんですよ?」

 

「あ……そ、それは確かに……」

 

「話が進まないから続けるけど、マドカが怪我をしたのは襲われたからよ」

 

「それはまた…………襲われたというのは、単純に命を奪いに来たという意味で捉えていいんでしょうか?」

 

「ええ、相手の目的は完全にマドカの命。そういった行為を目的としたものではないわ」

 

「「?」」

 

レイナとエルザのボカした物言いに同様に首を傾げるこの2人。それを見て互いに溜息を吐きながらも、今はもう無視をする。普段は色々と鋭い癖に、どうしてこういった話に関しては2人とも鈍いのか。そういった危機感もそろそろ持って欲しいというのが、レイナとエルザの思うところ。

 

「敵の正体は判明しているんです?」

 

「アルファという男よ」

 

「「!」」

 

「ラフォーレから聞いているわ、あんた達もその男に声を掛けられたそうね。……この男が裏で糸を引いて、探索者崩れの集団をマドカに仕向けた。それはマドカ自身が敵の指揮を取っていた男から聞き出してる」

 

「……アルファ」

 

「まずこの男について、何か情報はある?」

 

「いえ、私もリゼさんもあの日以来一度も会っていない筈です。そうですよね?」

 

「あ、ああ、その筈だよ」

 

あれはカイザーサーペントに襲われる前日の話だったろうか。ダンジョンの中であの奇妙な男に話しかけられ、そこに偶然通り掛かったラフォーレに助けられた?のは。……あの男がマドカを襲ったというのなら、それは許せない話でしかない。しかしリゼもレイナも、あれ以来あの男とは一度も会っていないこともまた確かだった。それに2人としては他に気になることもあったりして。

 

「その……マドカさんが。相手が集団とは言え、他の探索者に負けたんですか?」

 

「あ、あの、私もそんなに強い訳では……」

 

「相手はそんなに強かったのかい!?」

 

「Lv.20前後の探索者崩れが30人前後、ってところね。とは言え、普段のマドカならその程度はなんとか処理出来る範疇よ」

 

「体調でも崩していたんですか?」

 

「体調を崩しているのかい!?」

 

「えっと……なんだかリゼさんが慌しいので、少し落ち着かせますね」

 

「よろしく、マドカ」

 

「ふぎゅっ」

 

マドカの事となると途端に過剰な反応を示す今のリゼはどう考えても話を遮っているので、そんな彼女の頭を落ち着かせるために自分の膝の上に乗せて、撫でながらマドカは続きを促す。レイナはそんな様子を冷ややかに見ているし、エルザは明らかに面倒臭そうな顔をしているし、リゼは顔を真っ赤にさせていた。リゼが未だに本調子ではないのは分かっている。ならば好きなだけそうしていればいいという判断であった。

 

「マドカが負けたのは、単純に相手がマドカを調べ尽くして、事前に対策を立てていたからよ。ご丁寧に偽りの指揮官まで作って、奇襲で武器を落とされたのが致命的だったわね」

 

「ええ、それと私の判断ミスもあります。正直に言えば迂闊でした」

 

「マドカ……」

 

「あの、何故マドカさんが狙われたのでしょう?そこまで周到な準備をしていたとなれば、相当な恨みでも抱いているとかが考えられると思いますが」

 

「そのアルファって男が、マドカに付き纏ってる変態糞野郎だからよ」

 

「「………」」

 

「……つまり、エルフが言うところのストーカーという奴ですか」

 

「えと、付き纏われているのかい?マドカ」

 

「……まあ、その、好意を伝えられてはいますね。しっかりとお断りしていますが」

 

「マドカは世界一綺麗だからな……」

 

「え、なんで今突然口説きに行ったんですか、リゼさん」

 

「?」

 

「え、今の天然で言ったんですか?本気でそう思ってたんですか?どんだけ重い想い抱いてるんですか」

 

「他人事みたいに言ってるけど、あんた達も狙われる可能性あるのよ」

 

「「え」」

 

それは考えてみれば当然の話。そもそもダンジョンで話しかけられたあの時、あの男は明らかにリゼがマドカの教え子の1人であることを知っていた。その上で話し掛けて来たとなれば、何からの関心を持っているのは明らかだろう。

 

「どころか、あんた達が9階層に閉じ込められてカイザーサーペントに襲われた件も、この男が関与してるんじゃないかってラフォーレは睨んでるわ」

 

「「なっ!」」

 

そもそも、ダンジョンにあの様な形で閉じ込められるということ自体が、前代未聞だった。その想像にはラフォーレの勘と思い込みも多分に含まれているとは言え、決して否定できるものでもない。既にマドカを襲っている事からしても、むしろその可能性は高まっている。だとすれば今後も同様の事が続いても不思議ではないし、リゼどころかエルザ達にもその手が掛かることだってあるだろう。

 

「……狂人ほど厄介な相手も居ませんね」

 

「私も同意見よ、マドカの願いを叶えるためにマドカを殺そうとするくらいだもの。都市を巻き込む様な事をしでかしてもおかしくないわ」

 

「マドカの夢というのは……?」

 

「あ、えっと……人の力で邪龍を倒せる様にすることです」

 

「壮大」

 

「あ、だから教え子をつくったりしていたんだね」

 

「そうですね。私に出来る事を精一杯していたつもりなんですが……ごめんなさい、まさかこんな形で巻き込んでしまうことになるなんて」

 

「だからマドカは悪くないって言ったでしょ。アンタは狂人に目を付けられただけで、むしろ被害者でしょうが」

 

とは言え、そのせいでリゼ達まで死にかけたとなれば、マドカが責任を感じてしまうのも仕方がない。しかしやはりエルザの言う通り、狂人に目を付けられたことを責めることは誰にも出来ない。そんなこと、生きていれば誰にだって起こり得る事なのだから。むしろ有名になる程、その手の被害は増える。

リゼだって将来的にはそういった手合いに悩まされることがあるかもしれない。そう考えればレイナだって他人事ではなかった。むしろこの状況を活かして、リゼに狂人の恐ろしさという物を教え込む……良いチャンスになるのではないだろうかと、そう考える。

 

「そうなると、これからどうすれば良いでしょうか?その様子からすると、アルファという男の足取りは掴めていなさそうですが」

 

「ええ、むしろどうやってダンジョンの内と外を移動しているのかも分からないわ。少なくとも名簿や記録には残ってなかった」

 

「……それって」

 

「お二人も、カナディアさんから聞いていますよね。ダンジョンの別口の話を」

 

「ああ、丁度今6階層から9階層の間で私達が探しているところだよ」

 

「相手はそれを利用している可能性が高いです。そして私の予想では、別口はもっと深い層にあると思われます」

 

「え、そうなんですか?」

 

カナディアの予想では、レイナが現れた森林地帯にそれはあるのではないかと言われていた。それはリゼもレイナも状況から可能性が高いと思っていたし、あのアルファという男と会った層も近いため、この話が本当ならばむしろ信憑性は上がるとも言えるはず。

 

「簡単な理由として、9階層での件がアルファさんの仕業だとして、彼はお二人を閉じ込めた後にどこへ逃げましたか?」

 

「ええと……あ、たしか10階層より深い場所に行ったのではないかとラフォーレが」

 

「ええ。そしてアルカさんが15階層まで見て来た限りでは、レッドドラゴンとブルードラゴンの2体が殺されていた。……本当に6〜9階層に抜道があるのなら、15階層のブルードラゴンまで殺す必要がない。そもそも深層に向けて逃げる必要すらない」

 

「……状況的に仕方がなかった、という線もありませんか?」

 

「お相手がアルファさんでなければ、それで理由も通ります。しかし今回私を追い詰めた手際を考えるに、そんな半端な事はしないでしょう」

 

「そもそもの目的は……マドカが見初めた教え子が、本当に邪龍討伐を成し遂げられる様な素材か見極めるためってところ?」

 

「もしくは、リゼさん達に試練を与えるため、でしょうか。私のやり方では甘いと言われているのか、それともオルテミスに居なかった私の代わりと言うつもりなのか……」

 

どちらにしても迷惑な話だ。

頼んでもいないことを、こちらの意識に関係なく。

 

「そういうことなので、ダンジョンの別口の捜索は一先ずは打ち切りましょう。それにレイナさんの身元についても、アルファさんが知っている可能性も高いです」

 

「!ああ、そうなるのか……!」

 

「ええ、それとエルザさんとはもう話したのですが……」

 

「マドカにはこれから探索者の育成を主にして貰うことになったわ」

 

「「!!」」

 

「マドカが動くほど、アルファが余計な事をして来る可能性が高くなる。それならギルドで大人しく探索者の育成に努めて貰っていた方がいいでしょう?……ま、それはそれで敵の思う壺の様な気がして腹が立つけど」

 

「それは……!う、うん!それはとても良い事だと思うよ!それがいい!そうしよう!私は応援するよ!マドカ!」

 

「……ふふ」

 

「え、あ……あれ、私何か?」

 

「いえ、エルザさんの言う通りだなぁと思いまして。リゼさんは本当に私に教えて欲しかったんですね」

 

「うっ……エ、エルザ……?」

 

「事実を伝えただけよ、責められる謂れは無いわ」

 

「それはそうだが……!!」

 

如何にもそうだったとしても、実際にこう面を向かって言われてしまうと恥ずかしくなってしまう訳で。しかしそうなっても他人を睨み付ける事すら出来ず頬を膨らませる彼女が可愛らしくて、マドカもエルザも取り敢えずリゼの頭を撫でる。そしてそんな様子を見ていたレイナも、負けじとばかりに彼女の頭を撫でる。

 

「な、なぜ皆して私の頭を撫でるんだい!?」

 

「いえ、リゼさんは可愛らしいなぁと思いまして」

 

「あんたはそのままで居なさい」

 

「あ、私はただの対抗心です」

 

「対抗心で人の頭を撫でないでくれ!?」

 

未熟さ、純粋さ、それは時として弱さにもなり得るものの、やはり尊いものである事に変わりはない。今だけしかないとも言えるそれを慈しみたいと思うのは、酸いも甘いも噛み分けた人間特有の共通意識であるのかもしれない。

……それはさておき。

 

「あ、言い忘れてた。噂で聞いてると思うけど、龍種を一体取り逃がしたから」

 

「え、なんですかその話。これから討伐するって話じゃ無かったんですか」

 

「……今朝方にガンゼン殿から軽く聞いていたが、本当だったんだね」

 

大事な話はもう一つある。

それこそ、これから先のことを左右するとなれば先程の話以上に直接的な話が。

 

「ええ、どうやら対処した1度目の"龍の飛翔"は、実際には2度目だったようです。それ以前に既に抜け出していて、今は"混毒の森"に逃げ込んでいます。捜索は困難です」

 

「混毒の森……世界の東端に広がる、名前の通り猛毒が蔓延る危険地帯」

 

「前人未到の地。最初にこの世界を巡った勇者エゼルドが見つけた、4つの極限環境の1つですね。そういえばマドカさんはグリンラルに行っていたとか」

 

「ええ、しかし私達が滞在していた時には特にそれらしき物は見えませんでした。……私の想像が正しければ、今はあの濃度の高い魔力を回復に費やしている頃だと思われます」

 

「回復?」

 

「………」

 

そんなマドカの話の中で、何故だか渋い顔をして彼女を見つめていたのが意外にもエルザだった。何やら納得していないというか、それ以前に"さっさと話せ"とでも言っているような、彼女にしては珍しい顔。ここに来た時点で2人の中で話の共有は終わっていると思っていたのだが……

 

「エルザ、まさか君も初耳の話だったりするのかい?」

 

「その龍種が"何故回復する必要があるのか"についてはそうよ、リゼが来たら説明すると話してくれなかったのよ。それどころか、そもそも逃げ出した龍種が疲労しているという事実すらも口止めされてるわ」

 

「え」

 

「……あの、それって結構大事な情報なのでは?隠しておいて良いものではないと思うのですが」

 

「ええ、そうですね。普通に考えればそうなのですが、今回は少しばかり状況が特殊なんです。伝えているのもユイさんとレンドさん、カナディアさんにエリーナさんくらいです。……なのでこの件についての扱いは、今ここで決めたいと思っています」

 

「今、ここで……?」

 

その時だった、部屋の扉に乱暴に2回ノックが叩き付けられたのは。驚くリゼとレイナ、警戒するエルザ。しかしそんな3人にマドカは安心するようにとジェスチャーをし、普段と変わらない様子で声を掛ける。

 

「入っても構いませんよ、スズハさん」

 

「……本当に意外、あんたも怪我するのね」

 

「怪我ばかりですよ、むしろ。治療中はお構い出来ませんでしたが、不自由はありませんでしたか?」

 

「ええ、あんたの教え子達が良くしてくれたおかげでね。……張り切ってたわよ?あたしをもてなしてあんたに褒められたいって」

 

「ふふ、そうですか。後でお礼をしておかなくてはいけませんね」

 

背は低く、体は細く、全てが小さく……毛先に向かうほど茶から赤色に変わっていくその長い髪が特徴的な、目付きの鋭い少女。彼女のことをリゼは知らない、レイナも知らない。どころか、エルザすら彼女のことは見たことがない。そして言っていることは分かるが、話している言葉のイントネーションが何処かおかしく感じてしまう。方言なのか、特殊な話し方をするのか。そしてどうにも感じてしまうのが、何かが違うという奇妙な違和感。

 

「マドカ、彼女は?」

 

「ええ、ご紹介します。私がグリンラルからご招待した『スズハ・アマギリ』さんです。……彼女は、こことは別の【異世界】から来られた方です」

 

「「「!?」」」

 

どうやらもう少しだけ、話を続ける必要があるらしい。

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