無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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78.高速戦闘訓練

「ふっ……はっ……よっ」

 

「……ええと、大丈夫かい?レイナ」

 

「段々、慣れて、来ました……ふぅっ!」

 

「おお、すごいね」

 

「えへへ、ステータス様々です」

 

慣れた6階層を進む2人。

今日も今日とて5階層のワイアームは2人の試し切りの相手となり、スフィアを落とすことなく消えていった。最早ワイアームに対するトラウマなどリゼには殆ど残っておらず、特に最近は両手の猟銃という得意なスタイルで、かつ探索者としての自身も付いてきたこともあり、色々と試すことが出来てありがたい相手だと思うようにもなって来た。

そんなおりの今日であるが、いつもと違うのはレイナの様子。普段はリゼの前方を歩く事の多い彼女が、今日は木にぶら下がり、飛び伝いながら進んでいる。

 

「それにしても……これ、結構難しいです……ねっ!」

 

「ふむ、やっぱり難しいのかい?」

 

「ええ。どうやれば上手く飛び移れるのか、事前に考えてルートを作らないといけないですし……ふっ。それに着地だったり、身体の動きだったりも、意外と工夫が必要で」

 

リゼの歩行速度に合わせながら、絶妙な速度で木々を飛び移るレイナ。速度を出していいのなら少しは楽だろうし、いちいち止まってもいいのならもっと楽だ。しかし歩行している相手に合わせながら移動するというのは、これがまた難しい。特に会話をしながらとなれば、意識はいくつも割くことになる。しかしレイナがリゼとの会話を蔑ろにする筈もない。

 

「あっ……痛っ!?」

 

「だ、大丈夫かい!?怪我は……!」

 

「だ、大丈夫です。枝が折れて、ちょっと着地にも失敗してしまっただけなので……」

 

「休憩した方が……」

 

「い、いえ!本当に怪我とかはしていませんから!……それに、あの、とても情け無いので今のは忘れて貰えないかなぁとか」

 

「……ふふ、私は別に気にしないよ?」

 

「わ、分かってますけど!」

 

こればかりは慣れであるとは言え、木々を飛び回るというのは普通に考えて難しい。荷物もあって、槍もあって、この状態で戦闘なんて出来る気もしない。

 

『"6階層以降の探索は、なるべく地面に足を付けずに移動すること"。これがレイナさんの課題です』

 

高速戦闘を教えて貰うに当たり、マドカから出されたレイナ個人に対する課題が正に今努力しているこの縛り。そして続けているうちに、段々と高速戦闘への理解が深まって来ている気がしている。

 

「ただの移動ですけど……実戦ではもっと思考に回せる余裕が削られて、その状態で戦闘もするんですよね」

 

「空間を縦横無尽に飛び回りながら行う戦闘方法……私もマドカのそれを一度だけ見たことがあるけど、あれは確かに凄かった。身体の大きな龍種に対して効果的なのは間違いないだろうね」

 

「あの、その時のマドカさんは何処で高速戦闘を?」

 

「5階層、ワイアームが居る場所だよ」

 

「……あんなだだっ広い場所で、一体どうやって」

 

「主に壁や天井、強化ワイアームの身体なんかを、回避のスフィアやロープを使いながら飛び回っていたかな。隙の生まれる滞空時間をスフィアの斬撃や小型の魔晶爆弾で誤魔化しつつ、その反動も利用していた覚えがある」

 

「……本当に人間なんですか?」

 

「うん、まあ……色々と経験して来た今思い出すと、改めて凄さが分かるというか」

 

そして同時に、あの強化ワイアームという存在が本当にどれほど脅威的な強さを持っていたのかというのも、実感出来る。

もし次に会うことがあったとしたら、その時には今度こそ自分の力で倒せる様になっていたいとリゼは思ってはいるものの、仮に大銃を撃てたとしても至近距離でなければ避けられてしまう気がしている。気穴と龍鱗によって半端な魔法や物理攻撃は通用せず、体内に持っている毒は長時間戦闘を許さず、気穴を犠牲にした全方位射撃を行え、それでいて最大の武器は速度と巨体と知能なのだから、やはり強化種というのはつくづく規格外の存在なのだろう。

 

「よっ……まあ、そんな先生に教えて貰えるんですから。これもリゼさんのおかげですね」

 

「そんなことはないさ。……というか、レイナは普通の高速戦闘を教えて貰えるのだろうか?」

 

「?どういうことです?」

 

「いや、以前にマドカの高速戦闘は普通のものとは違うと聞いたんだ」

 

「え、そうでしたっけ。……そういえば、そんな話をした覚えも」

 

「ああ、確か高速戦闘というのはSPDだけでなくVITや STRの値もある程度高くなければ成立しないらしい。けれどマドカは独自の方法で制限を破っていて、その方法は彼女の最初の教え子にしか教えていないんだとか」

 

だからその方法を聞くために何人かの探索者が彼女に問い詰めたが、彼女はそれを決して他者に教えることはしなかった。何処かで聞いたそんな話を思い出してみるが、よくよく考えればあのマドカが他人に教えず、技術の独占をするとは考え辛い。何か理由があるのだろう。

 

「……なんとなく、言いたいことは分かります。空間を縦横無尽に高速移動することになりますから、肉体も相応の耐久力が無ければ自爆することになるということでしょう。ただ私はステータス的にそこまで尖っていませんから、その方法は使わなくて済むんじゃないでしょうか?まさかあの人が普通の高速戦闘の方法を知らないなんて事もないでしょうし」

 

「む、それもそうか……」

 

「それに多分それ、かなりやばい方法ですよね?」

 

「……私もそう思うよ」

 

「『安全のためにステータスが必要』という理論に対して、『ステータスが無くとも実現出来る』って答えになってませんよ。間違いなく安全を疎かにしているということです、流石に私はそこまでして会得したいとは思いません」

 

「うん、私もレイナにそこまでのことはして欲しくないよ」

 

だから今は取り敢えず、木を飛び移るというだけのこの課題をとにかく熟す。多少余計な動きや経路を辿ることになったとしても、まずは体に慣らして、覚えさせることが必要だ。速度を上げた時に思わぬ事故をしないためにも。

 

 

 

――その後、2人は8階層でモンスターのドロップ品目当てに森の深くへと入ることにした。

9階層にはカイザーサーペントが居るので近寄りたくはないし、7階層は現在モンスターの分布的にパワーベアが優勢であり、目的のハウンドドッグが集団で固まって動いているという情報があったからだ。

8階層の分布は東西で2つの勢力が睨み合っており、こういった状況が一番動き易い。そして当然ながらこんな時でも、レイナは木と木を飛び移りながら移動をしている。

 

「レイナ、頭上にスライムが居るよ。それから東の方から何匹かハウンドドッグが来ているね」

 

「了解しました!ふっ……【雷斬】!!」

 

「うん、完璧だ」

 

『ギャウンッ!?』

 

木を思い切り蹴り付けて跳躍し、緑と同化していたグリーンスライムを的確に攻撃したレイナ。一方で木々の間を凄まじい速さで走って来ている3匹のハウンドドッグに対して、両手の猟銃で正確無比に2発の銃弾を叩き込むリゼ。

突如として消えた左右の同胞に驚き立ち止まったところを、更にレイナが投げ付けた槍によって撃ち抜かれる。

……今やもう、4匹程度の相手ならば容易くなった2人だ。リゼは森の中でも扱い易い猟銃(仮)を手に入れた事で中距離ならば無類の強さを発揮しており、レイナも元々のセンスもあるのだろうが、既に空中での戦闘に慣れ始めていた。流石に普段以上の動きなんて絶対に無理であるが、視点が変わったからこその利点も多少はある。レイナにも一度しか使えないとは言え、中距離の攻撃だって出来るのだから。視点だけではなく、戦法も変わる事で、見えてくることも違ってくる。

 

「ふぅ……ドロップ品は出ましたか?」

 

「いや、やっぱり簡単ではないね。やはり奥の方にいる強い個体を狙うしか無いのかもしれない」

 

「うぅん、流石にそれは……」

 

「もう少しだけ粘って、それでも無理なら諦めよう。深くまで行って危険を冒す必要はないよ、こればかりは運だからとエッセルも言っていた」

 

偶にあるこんな無茶な依頼も、出来ない時は出来ないのだから仕方がない。

 

「あ、リゼさんまた……」

 

「うん、一先ず私が片付けるよ。レイナは少し休んでいて」

 

「あ、ありがとうございます」

 

そうこう言っているうちに、仲間が戻ってこないことに気が付き寄ってくるハウンドドッグ達。敵の数は5、恐らくリゼの銃声を聞いて近寄って来ているというのもあるのだろう。

しかしそんな相手でさえ、今のリゼは1人で対処出来ると言い切れる。以前はそれなりに苦しい戦いをしていたが、流石にもう慣れた。

 

「まず1匹」

 

レイナと話している間にリロードを終えていたリゼは、前方に走りながら片手間に右方向から寄ってくる1匹の眉間を撃ち抜く。

 

「2匹目」

 

そのまま一度茂みを挟み姿を隠した直後、思いっきり跳躍し全体重を乗せた跳び蹴りを前方から飛び掛かってきた個体の顔面目掛けて叩き込んでみれば、耐久力が貧弱なハウンドドッグは絶命した。

 

「3匹目」

 

先程弾を撃った方の銃を腰のホルスターに仕舞い込めば、同時に取り出した銃剣をもう片方の銃に装着する。空気弾を発射するために身体を膨らませたハウンドドッグ。リゼはむしろそれに対して突っ込み、射出されたそれを衝撃が頬を掠める程にギリギリで避け、最短距離から首を刈った。

 

「リゼさん!」

 

「4匹目」

 

すると今度は木の上で機会を伺っていた個体がリゼの背後から飛び掛かり、それに気付いたレイナが咄嗟に叫ぶ。しかしリゼは既にそれに気付いていたのか、そもそも気付いてわざと見逃していたのか、その場で小さく跳躍をし、空中で身体を回しながら豪快な回し蹴りで迎撃する。思わずレイナも惚れ惚れとしてしまう様なそれは、ハウンドドッグの小さな身体をまるで弾丸の様に吹き飛ばし、幹のしっかりとした木を大きく揺らす程の衝撃をその身に与えた。

 

「最後」

 

そして5匹目。

4匹の仲間が屠られている間も虎視眈々とリゼの隙を狙い続け、地形を利用しながら上手く自分の身体を隠し続けている個体がいる。恐らくそれはかなり強い個体であり、この階層でも長く生き残っている個体であろうことは易々と想像が付いた。

以前に戦った時もそうであったが、恐らくハウンドドッグの部隊にはリーダーとしての役割を果たす個体が1匹は配置されている。3匹程度の小規模ならば別であるが、5匹以上の部隊には明らかに知能が高い個体が混じっている訳だ。

時には引くこともするし、こうして仲間を犠牲にしながらこちらの戦闘力を測ったりすることもある。本来ならばリゼにレイナまで居ることは知っているのだから知能が高ければ引くはずであるが、こうして未だこの場に留まっているということは、何かしら勝算があるのかもしれない。

 

「ふぅ」

 

リゼは銃剣を取り外し、息を吐く。

 

 

 

 

「……【視覚強化】【星の王冠】」

 

 

 

 

『ギッ!?』

 

「えっ……」

 

その早業は、レイナも一瞬自分の目を疑うほどのものだった。

レイナの左後方から、地面に落下した頭部に銃痕を残したハウンドドッグの死体。直ぐ様に灰となって、黒く変色した爪と魔晶を残して消えていく。一気に空間を包み込んだ静寂の中、レイナの視線の先でリゼが静かに銃を下ろす。

 

……リゼが行ったのは、狙撃だった。

 

しかしただの狙撃ではなく、極限まで視覚を強化し、思考速度を早めた中で実現した、照準を殆ど行わない狙撃。完璧な偏差射撃。森という障害物を厭わない正確さ。そしてレイナからしてみれば本当に銃を持つ腕が動いた瞬間に銃声がしたと思うくらいの早撃ち。

これが本来のリゼ・フォルテシアだった。これが本来の、山や森の中における、リゼ・フォルテシアの姿だった。……リゼ・フォルテシアは、生粋の狩人だった。

 

「レイナ、帰ろうか。ドロップ品が運良く手に入ったからね、これでエッセルも喜んでくれるだろう」

 

そう笑う彼女に、レイナも小さく頷く。

そして思う。

やっぱりこの人はすごい人なんだと。

この人を見初めた自分やマドカが絶対に間違っていなかったと言い切れるくらいには、かっこいい人なのだと。

少し暑くなってきたと感じるくらいには顔に熱を灯して、確信を深める。

 

「リゼさん!受け止めて下さい!」

 

「へ?うわぁっ!?」

 

突然無防備に木の上から飛び降りて、慌てるリゼに受け止められるレイナ。本当にその咄嗟の行動に驚いていたのか、必要以上に力を入れてリゼは抱き締めてしまうが、レイナにしてはそれはそれで意図せぬご褒美と言ったところ。腕の中でニコニコと笑うレイナに、リゼも苦笑いをして応える。

 

「いいのかい?木の上で移動するのが課題だったのに」

 

「地面や足を付けないように、が課題でしたから。これでも一応課題をこなしていることにはなります♪」

 

「ふふ、それならこのまま地上まで連れて帰ってしまおうか?」

 

「そ、それは流石に恥ずかしいので……せめて6階層までで」

 

「よし、了解した」

 

嫌な顔もせず。

むしろ嬉しそうな顔までしてくれて。

これで惚れるなという方が無理な話だ。

……もし最初に出会っていたのがマドカであったのなら、レイナはきっと彼女を慕っていた。しかしそれでも、断言出来るのは、例えマドカを慕っていたとしても、今レイナがリゼに抱いている感情と同じものを感じることは絶対になかったということ。

 

「……リゼさん」

 

「うん?なんだい?」

 

「カッコよかったですよ」

 

「そ、そうだろうか」

 

「ええ、特にあの回し蹴り。何処で習ったんですか」

 

「昔遊んで貰っていた女性劇団の人達が、革のボールを色んな蹴り方で見せてくれた事があるんだ。それに憧れて密かに練習したりしてね」

 

「やっぱりリゼさんにとっては、その人達が色々な始まりなんですかね」

 

「うん、そうだと思うよ。……こうして相手の女性を優しく抱き抱える術も、あの人達から教わったからね」

 

「……全く、とんでもない怪物を仕立て上げたものですね。その劇団の方々には心の底から感謝を伝えたいところですが」

 

こんな人だから、正直に言えば今回出されたリゼに対する個人課題については不安しか残らないのだけれど。その辺りの信用をして、離れることも大切だから。今回ばかりは身を引くことは、覚悟しなければならない。

 

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