無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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79.パーティ募集

ワイワイガヤガヤと、今はもうこの騒がしさにも慣れて来てしまった。最初にこの街に来た頃には本当に同業者というのは滅多に見ることが無かったが、今はこの状態こそが普通であると理解している。

それにしても感じてしまう物足りなさというか、空白感というのは、言うまでもなく最近はずっと隣に居てくれた彼女が今日ばかりは居ないからである。そして当然ながら、そこには理由もある。

 

『リゼさんの課題は、私が居ると邪魔になると思いますから。私は今日明日とスズハさんと一緒にカナディアさんの所に行って来るつもりです。……もし機会があれば、クランメンバーの勧誘もお願いしますね』

 

レイナからそう言われた今朝のこと。そのまま彼女をスズハの元へと送って、リゼは本当に久々に1人でギルドを訪れた。

ここも以前と比べれば騒がしくなった。それでも2度目の龍の飛翔の話が出ていた時よりは静かになった方だろう。周囲を見渡せば鑑定師のヒルコが今日は居ないが、受付のエッセルは普段と変わらずせっせと仕事をこなしていた。別にギルドの受付は彼女だけではないが、つい彼女の所に足を運んでしまうのは、もう癖の様なものだ。

 

「おはよう、エッセル」

 

「あ、おはようございますリゼさん。話は聞いていますよ」

 

「え、そうなのかい?」

 

「ええ、リゼさんが1人で受付に来たらパーティの募集の仕方を教えてあげて欲しいと。エルザさん経由でマドカさんからお話がありました」

 

「なるほど、それは助かるよ。早速教えてくれると嬉しい」

 

それからエッセルは幾つかの用紙を用意して、リゼに説明を始めてくれる。

確かにクランという集まりはあるが、それでもクラン内で全てが完結する訳ではない。偶には違う人物と組んでみたいという人もいれば、何か大きな目的のために外部から一時的な戦力を求めるということもある。そうでなくとも自分のクランへの勧誘のためにパーティ募集に積極的に参加する者や、若い人間の力になろうと暇を見つけては手伝いをする老人も居る訳だ。

募集の方法も簡単、用紙に条件や目的等を書き込んで掲示してもらうだけ。報酬の分配方法等も明記し、ギルド職員に確認して貰えばそれで大丈夫だ。

 

「目的は帝蛇の討伐、報酬はドロップ品を換金して平等に分配と……」

 

「どういう方を募集しますか?必ず希望通りになるとは限りませんが、パーティの編成は記入しておいた方が良いかと」

 

「なるほど。……最悪私が遠距離も近距離も担えるから、魔法が得意な人が欲しいかな」

 

「知識的に不安があるのでしたら、歴の長い探索者さんの枠を1つ作っておくのもいいかもしれません」

 

「あ、それはいいかもしれない。……帝蛇を相手にするとなると、もう1人くらい居た方がいいのだろうか」

 

「そこはリゼさんの能力次第です。2人に指示を出すのと、3人に指示を出すのとでは割ける余裕が違いますから。実力的に自信があるのなら少人数で、頭脳や経験に知識があるのなら大人数で、というのがおすすめです」

 

「そういう考え方もあるのか……うん、勉強になるよ。一先ずは2人の募集で上げて貰っていいかな?人を集めてみて、足りなさそうなら改めて再募集ということで」

 

「分かりました、それでは3番のテーブルでお待ち下さい」

 

そうしてリゼが書いた募集を食堂とギルドを繋ぐ廊下の方に貼りに行くエッセル。ギルドにいくつかあるテーブルというのは、どうもこのパーティ募集のために使われるものらしい。募集を見て参加を決めた人間が、指定された番号のテーブルに集まる。単純な話だ。以前にラフォーレが座って本を読んでいたことがあるが、あの時にはテーブルに番号の書かれた札はなかった。そういう使い方も出来たりするということか。

 

「それにしても……緊張するね」

 

初めて会った人間と、パーティを組み、探索をする。しかもその上、目標は帝蛇の討伐と来た。別に今日1日で達成しなければならないことではないが、朝にレイナに言われた様に、ここで良さそうな人を見つければ自分のクランに勧誘する事だって出来るだろう。だがその反面、色々と拗れてしまって、上手くいかなかった……なんてことも有り得る訳で。

それでも基本的に人との関わりというのはリゼは好きな方である。緊張もあるが、楽しみだという気持ちも大いにあった。もちろん、不安だって間違いなくあるが、それでも。

 

 

 

 

「ね、パーティ募集してるの?」

 

 

 

 

「え?」

 

 

それはリゼがテーブルで待ち始めて、本当に5分もしないうちのことだった。エッセルからサービスされた茶に口を付け、お礼ではないが買ったギルドの情報誌に目を向け始めた頃に、唐突に。

 

「何を倒したいの?」

 

「あ、ええと、カイザーサーペントを……」

 

「へぇ、大変そう」

 

「うん、まあ、大変ではあるかな」

 

ギルドに入って来て、こちらを見て、真っ直ぐに近寄ってきた1人の少女。特徴的な青銀色の長髪に、美しい氷の様な両瞳。服装は簡素で、荷物だって鞄1つ。唯一目に止まるのは、全体的な雰囲気に似合っていない黒色のリボンだけ。……それなのに彼女は、端的に言えば、とても美しかった。そしてリゼは彼女と似た雰囲気を持った人物を、過去に一度目撃したことがある。

 

「あの、失礼なのかもしれないが……もしかして、アクア・ルナメリアという人物を知らないだろうか?"風雨の誓い"の副団長のことなのだけれど」

 

「知ってるよ、同族だし」

 

「同族、ということは……」

 

「自己紹介、まだだったね。クリアスター・シングルベリア、長いからクリアでいいよ。精霊族なんだ、珍しいでしょ」

 

「精霊族……」

 

その種族のことは、リゼは実はあまりよく知らない。聞いた話では今はあまり表舞台には出てこない種族らしく、昔は人族と手を取り合って戦っていたらしい。確かにリゼの読んだ本の中でも、彼等は人族に力を与えて、大きな障害を退けるために不可欠な役割を担っていることが多かった。

そしてリゼとしては、アクアと出会った時にも思ったのだが、彼等精霊族というのはその伝えに違わぬ程に神秘的な何かを保有しているようだった。マドカとは違う美しさ、天然の芸術品とでも言うべきなのだろうか。もし自然の中で氷で出来た美しい彫刻を見つけたのであれば、まさに今リゼが感じている感情を知ることが出来るだろう。彼女達にはそんな超自然的な美が備わっている。

 

「私はリゼ・フォルテシア。ある人に課題を出されていてね、誰とでもいいからパーティを組んで帝蛇を倒す様にと言われているんだ」

 

「へぇ、やっぱり大変だ」

 

「うん、だから手伝ってくれる人が欲しいんだ」

 

「魔法しか使えないけど、いいの?」

 

「むしろ私は魔法が使えなくてね、使える人が居てくれると助かるよ」

 

「そうなんだ?じゃあ私達、ベストマッチだね」

 

「べすと……?」

 

「相性良さそう」

 

「なるほど……ふふ、そうかもしれない」

 

「うん、座っちゃうね」

 

空いているリゼの隣の席に座るクリア。彼女はあまり表情は動かないが、それなりに積極的な人物らしい。リゼとしては嫌いではないし、むしろ好ましいというくらい。特にこんな美しい女性と顔見知りになれたのだから、幸福なくらいだろう。リゼは変わらず美人に弱いし、綺麗な女性が好きだ。

 

「それで、何処のクランの人?見たことないけど」

 

「私は何処のクランにも所属していないよ。むしろ今からクランを作ろうとしてる」

 

「へぇ、すごいね」

 

「でもなかなか上手くいかなくてね。クラン員は私を含めて3人集まったんだけど、何の偶然か3人とも身分証明証が無かったんだ」

 

「ふふ、なにそれ。めちゃくちゃ面白い」

 

「そうかい?」

 

「うん、自分の平凡な自己紹介が恥ずかしくなりそう」

 

「まだ名前くらいしか教えて貰っていないよ」

 

「ん、そうだっけ?そっかぁ……自己紹介、どうしようかなぁ」

 

マイペースというか、人よりテンポが遅れているというか。動きも口調もゆっくりとしていて、この独特な空気感に向き合っていると引き込まれてしまう。自然と心が穏やかになって、自分の身体から力が抜けていくような、そんな不思議な感覚。

 

「私、"青葉の集い"に居るんだ」

 

「へぇ、あの有名な……」

 

「うん、大体ホームでお爺ちゃん達とお喋りしてる」

 

「ふふ、孝行してるんだね。よくこうしてパーティを組みに来るのかい?"青葉の集い"なら沢山人は居そうだけれど」

 

「ううん、全然」

 

「へ?」

 

「ダンジョンに入る時はお爺ちゃん達と一緒のことが多いし、パーティ募集もあんまり見ないよ」

 

「それなら、どうして……?」

 

「ん〜……」

 

少しの間、目を上に向けて考え込んでいた彼女は、それから直ぐに何かを思い付いたのか、リゼの方に目を向けて、机の上に肘を乗せて前のめりになりながら笑みを浮かべる。

 

「一目惚れ?」

 

「ひとっ……めっ!?」

 

「精霊族の習性、知ってる?」

 

「い、いや、知らないけれど……」

 

「強い意志とか、綺麗な心に惹かれるらしいよ」

 

「そ、そうなのか」

 

「心、綺麗だよね。一目見て分かった」

 

「そ、そうなのだろうか……?」

 

「そうだよ」

 

「そうなのかい……?」

 

「うん、そう」

 

「……もっと綺麗な人が居ると思うが」

 

「それはそうだけど、別にさ、一番を探してる訳じゃないし」

 

「そういうものなのか……」

 

「それにほら、少し汚れてるくらいの方が趣があるじゃん?」

 

「ふふ、それはちょっと分からないかもしれない」

 

「え〜、残念」

 

珍しく口説かれているような状況に、慣れないリゼは目を横に逸らし、頬を少し赤らめながらも会話を続ける。どうも精霊族というのは、容姿以外にも色々と不思議なところがあるらしい。長寿の上にスフィア無しでも少しの魔法を扱えるエルフや、人間以外の特徴を持つ獣人や龍人も、普通のヒューマンであるリゼからすれば不思議なものだが、精霊族はもっと存在が神秘的だ。霊的というか、なんというか、……正直リゼとしては、十分に興味が惹かれてしまう。

 

「あの……」

 

「あの人、こっちに来てるね」

 

「え?」

 

精霊族について、彼女について、色々聞いてみたいと声を掛けたその時、クリアは何かに気付いた。言われるがままに彼女が指差す方向に顔を向けてみれば、なるほど確かに1人の女性が真っ直ぐにこちらに向けて歩いて来ているのが分かる。

……不思議なのは、何人かの探索者が驚いた様な顔をして彼女のことを見ているという点。そして同時に、その女性からはクリアとはまた違う圧倒的な存在感を感じてしまうということか。

 

明らかに実力がある。

それも相当な。

見て、感じて、それだけで分かるくらいには。

 

服装は一般の探索者の様な身軽なもので、腰に付けている剣だってそこらで手に入る程度の代物なのに。それが酷く似合っていないと、見合っていないと思えるほどに、彼女だけが、彼女という人間の存在だけが、明らかに飛び抜けている。

 

「入りたい」

 

「え?あ……ええと、パーティに入ってくれる、ということだろうか?」

 

「ああ」

 

「それは嬉しいのだが……本当に、私のパーティでいいのだろうか。貴女は、なんというかその、私なんかに見合っていない凄い人のように……」

 

「君がいい」

 

「な、なぜ……」

 

「心がいい」

 

「また心なのかい!?」

 

 

「あ〜……同族?」

 

「少しな」

 

「お〜、珍しい」

 

波巻きの掛かった赤髪をした彼女は、一度リゼに目線で確認を取ると、空いていたもう一つの席に座る。話を聞く限りでは彼女も精霊族の血を持っているらしく、パーティ募集をしたら偶然にも珍しい精霊族を2人も引き寄せてしまったリゼは、それはもう周囲からも注目の的だ。

自分の精神にそこまで自信のないリゼにとってはどうしてこうも彼女達から好意を受けられるのか分からないし、何より隣の確実に都市でも最上位の女性をこれから率いるということに対する重圧がもう本当に重い。

こんなの帝蛇など一瞬なのではないだろうか?

こうなってくると本当にマドカがこの課題を出した本当の理由についても、考察の必要が出て来てしまうというか。

 

「あ、あの……ええと、取り敢えず……」

 

「エクリプスだ」

 

「エクリプス……あ、名前のことかな」

 

「ああ」

 

「じゃあ、その……エクリプスさんと、クリア。2人のレベルと、得意な戦闘方法などを教えて貰ってもいいだろうか?」

 

魔法が得意だと言っていたクリアと、剣を持っていることから間違いなく前衛であろうエクリプス。そこにリゼが居ればパーティバランスとしては一見完璧に見えるが、事前の情報共有は大切だ。

もしかすればこういった所も含めて、マドカからの課題なのかもしれない。こんな風に運良くパーティに恵まれたのも、マドカが手を回していたからという可能性だってあるのだから。どんな時でも手は抜かない。自分に出来る最善を尽くすことをリゼはもう一度戒める。

 

「えっと……レベルは14、水系の魔法が得意。というか、水属性しか使えないんだよね。スキルのせいで」

 

「そうなのかい?」

 

「うん、でも威力は自信あるよ。それに凍らせる事も出来るから、任せて」

 

「なるほど、それは頼りにさせて貰うよ」

 

クリアは1属性に特化した魔法使い、という感じらしい。実際こういう分かりやすい探索者というのは経験の少ないリゼとしてはありがたい。普段組んでいるレイナは近接戦闘を主としていたので、遠距離型のクリアに指示を出すという経験を得られるのも大きいだろう。あくまでこのパーティのリーダーはリゼ、経験が少なくてもその責務は負わなくてはならない。そして利用もするべきだ。これから先の長い探索者人生をより良いものにするためにも。

 

「エクリプスさんは……」

 

「呼び捨てて」

 

「あ、えと……エクリプスについて、聞いても?」

 

「何でも出来る」

 

「え……」

 

「求めて欲しい」

 

「それは、その、役割を求めれば、それをしてくれるということだろうか?」

 

「ああ」

 

「……魔法使いでも?」

 

「可能だ」

 

「素手格闘とかでも……?」

 

「勿論」

 

「単独討伐も……?」

 

「求めるのなら」

 

「なる、ほど……」

 

嘘をついている訳でも誇張している訳でもなく、実際に彼女にはそれが出来るだけの力があると理解出来る。しかしこれはこれで困ったものだと言わざるを得ない。

正直に言えばリゼとしてはカイザーサーペントより少し上程度の戦力を集められれば都合が良かった。多少の失敗なら見逃せるような、それくらいがパーティ初体験としては理想の状況。だからクリアに関しては本当に良い戦力だと思ったし、彼女が良いのならば今後も仲良くしたいと思っているくらいだ。

 

……ただ、エクリプスは違う。

正直どこに配置してもこの課題の難易度があまりに低くなってしまう。

例えば攻撃的役割に配置してしまえば、討伐は簡単になされてしまうだろう。しかし防御的役割を与えれば恐らく敵の動きが殆ど無くなってしまう。魔法使いを願えばクリアの役割が消えてしまうし、こうなるともう多少彼女の言がホラであって欲しいくらいだ。しかし彼女の実力が本物であるのなら、そんな本物を直で見られる良い機会でもあって。

 

「……あの、エクリプス。無茶を提案してしまうのだけれど」

 

「なんだろう」

 

「その……剣ではなく、木の棒とかで戦うというのは、可能だったり、する、のだろうか……」

 

「!」

 

「あ、いや!流石に冗談だ!そんな危険な事というか、ある意味侮辱の様なことをさせる訳には!」

 

「可能だ」

 

「え」

 

なんとなく、なんとなく思い付いたそんな条件に、エクリプスは少しだけ微笑みながら首を縦に振って肯定する。……出来るらしい。それどころかむしろ、なんかちょっと嬉しそうな顔をしている。それは一体何に対する感情なのか。ただそうなればもう、役割は決まった。

 

「ええと、それなら……基本的な作戦は、エクリプスが近距離、私が中距離、クリアが長距離からダメージを与えていくという感じでどうだろう。私はこの通り銃を使うんだ。精度には自信があるけれど、音に驚かない様に気をつけて欲しい」

 

「おお、珍しい武器」

 

「いいね」

 

「背中の大きいのは使わないの?」

 

「以前は使わなければ勝てなかったが、今回は使わずとも勝ってみたいんだ。……というか恐らく、この戦力だとこれを使うと簡単に倒せてしまう」

 

「なるほど」

 

「うん、任せて。最悪、私も盾役やるよ」

 

「……クリア、VIT(耐久力)の値は?」

 

「G2」

 

「エルザと同等……!絶対に前に出ないでくれ!」

 

「残念……」

 

なんとなく、リゼは思う。

どうして自分の周りの人間はこう、VITの低い相手が多いのだろうと。そこは探索者をする上で、むしろ一番大切なところではないのかと。

 

「その、ちなみにエクリプスのVITは……」

 

「S+24」

 

「ああ、それはよかった!……S+24!?」

 

「おお、すごいね。私のLUK(幸運値)と同じだ」

 

「君も一体どんなステータスをしてるんだいクリア!?」

 

「へへ」

 

相手のステータスは可能な限り詮索しない。そんな常識とも言えるルールも思わず破ってしまいたくなるくらいには独特な人物達を前にして、リゼは湧き上がる興味を必死に押さえ付けながら今後の方針に思考を割くのだった。

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