無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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80.静かな会話

初めてのパーティで、ダンジョンに入る。

見知らぬ相手。

見知らぬ環境。

そんな中で指揮を取る。

 

きっと最初は困惑するのだろう。

焦りもするのだろう。

不安にもなるし、自分自身を疑わしくもなる。

 

……ただ幸いだったのは、募集に駆け付けてくれた彼女達がとても優秀で、かつ性格的に温和であったことか。

 

「水弾」

 

ドッパァァァンッと、もうなんかそうとしか言い表せない様な凄まじい破裂音と共にドリルドッグが吹き飛んでいく。いつもリゼ達に喧嘩を売りに来るあのドリルドッグだ。凄まじい速度と威力と共に放たれたその大きな水の弾丸は、破裂と共に周囲に水飛沫を撒き散らし、リゼの身体を衝撃と共に大きく濡らす。

 

(……威力がおかしい)

 

それはもし比較をするのであれば、属性の相性もあるとは言え、ラフォーレ・アナスタシアの炎弾を正面から相殺出来るのではないかと思えるくらい。

いや、まあこの前提を語るのであれば、そもそものラフォーレ・アナスタシアの頭のおかしい炎弾について議論しなければならないのだが、敢えてそれは今は置いておくとしてもだ。体感とは言え、ステータスが魔力に偏り過ぎているエルザの威力を超えているだろうそれは、リゼからすれば思考が止まる。

 

「………」

 

『ギャウンッ!?!?!?』

 

一方、横ではまた違った破裂音と共に、よく分からないが粉々になった何らかのモンスターの肉片が見える。恐らく残った半身的にベアボアであるのだろうが、まあ見事に頭部が消し飛ばされている。

 

(一瞥もせずに……)

 

ベアボアはどう言い繕ったところで決して頭の良いモンスターとは言えない。それが空腹状態ともなれば、警戒心よりも闘争心。何にだって喧嘩を売るし、仲間とだって喰らい合う。その末に決して手を出してはいけない相手に喧嘩を売り、マッチョエレファントにボコボコにされている姿も稀に見る。……恐らく今のも、その類だったのだろう。問題はその女の拳の一振りが、マッチョエレファントの突進並みの威力があったというところ。

 

(ラフォーレの拳が可愛く見えてしまう……)

 

リゼの周りにはこうして筋力を活かして戦う探索者があまり居らず、むしろそういった役割はこれまで自分にあった。そんな彼女からしてみれば自分よりも遥かに強い肉体を持つ隣の美女はなんだか新鮮で、ついついその強者特有の雰囲気に目を惹かれてしまう。

 

「?どうした」

 

「あ、いや……魔法使いや速度を重視する探索者は何人か見て来たのだけど、力や肉体を活かす探索者というのはあまり見たことがなくて。少し興味が」

 

「……なるほど」

 

エクリプスは相変わらず言葉少なく、けれど穏やかな微笑みを浮かんでリゼの瞳を覗き込む。その瞳に宿っている光は、強く、優しく、そしてとても真っ直ぐだ。色は違えど、種類は違えど、リゼはその光を知っている。良く似た光を、見たことがある。

 

(そうか、似てるんだ……色は違えど、マドカの目に)

 

このエクリプスという謎の探索者を、どうして最初に見た時からこれほどに警戒薄く受け入れてしまったのか。どうしてすんなりと隣を歩いているのか。その理由が、この目だ。この目を持っている人間を、リゼが受け入れない筈がない。

 

「あ、そういえば……2人はカイザーサーペントと戦った経験はあるだろうか?」

 

「一度だけ」

 

「ないかな、レッドドラゴンは倒したことあるけど。リゼは?」

 

「私は一度だけあるよ、本当に辛うじてだったけれどね」

 

「すごいじゃん」

 

「武器の性能と、仲間の献身のおかげさ。……だから次はもっとマシな作戦を立てられように、今日という機会を大切に使わせて貰いたいんだ」

 

「……いいね、すごくかっこいい」

 

「ああ」

 

それがリゼの後悔、そして反省。

あの時にレイナが怪我をして、結果的に最後まで上手く動くことが出来なかったのは、間違いなくリゼの立てた作戦が失敗したことが理由なのだから。

 

『だからお前は愚図なのだ』

 

ラフォーレのその言葉は、正に真実。

階層を調べ、生態を調べ、調べ尽くしてから望む。そんな当たり前のことを怠っていたが故にレイナに怪我を負わせてしまった。

レイナは優秀だ、上手く実力を発揮させればもっと簡単に帝蛇を倒す事も出来た筈なのだから。リゼはもう少し、否、もっともっと、必死にならなければならない。大切な仲間を守るということに。

 

 

 

 

「……みたいなこと、考えてそうなんですよね。リゼさん」

 

「いや、知らないけど」

 

「まあ、なんとなく分かる話ではあるな」

 

突然話題に出されたそんな話に、カナディアは微笑みを浮かべながら果実茶を啜る。

 

ここはカナディア・エーテルの自宅、そして研究室。大量の書物や資料が綺麗に整理された巨大な空間は、彼女が如何に金銭的な余裕があるのかというのを強く示している。そんな中で白衣を着て作業に勤しんでいた3人は、現在は休憩の最中だった。

 

「最近は部屋に帰るとずっとギルドで買ってきた情報誌を読み漁ってるんです。私のために必死になってくれるのは素直に嬉しいんですけど、自分の時間を取れてないんじゃないかなって……」

 

「彼女に趣味の様なものが?」

 

「あ〜……そういえば、そうでなくともずっと本を読んでいた様な。リゼさん好きなんですよ、不思議とか謎とか、そういう話」

 

「いいんじゃない?好奇心は猫も殺すけど、あればあるほど知識は増えるから」

 

「猫を……?」

 

「知識は財産、そして力だ。学ぼうとする意思の強さもまた能力。それも楽しんで学ぶことが出来るとなれば、それはもう才能だろう。食事や睡眠を削るほどでない限りは、彼女の好きにさせてやればいい」

 

「なるほど、そこが基準なんですね。勉強になります」

 

3人で茶を啜りながら菓子を摘み、薄くかかっている穏やかな音楽の中で言葉を交わす。

以前にマドカが言っていたが、リゼの保護者がマドカであるのなら、レイナの保護者は正式にはカナディアになる。それは責を負うべき立場という意味での話であり、決してレイナの保護者はリゼではない。リゼにレイナの責任を負うことは出来ない、責任を負うには信用と立場が必要だからだ。

そして責任を負うべき立場だからこそ、負ってくれる人だからこそ、相談出来ることもあり、相談しなければならないこともある。即ち、特別な関係は生まれる。

 

「ところで、あの子は?セルフィだっけ?あたしの話を聞きたいとか言ってなかった?」

 

「本人的にはそう願っているだろうがな、あの子にも立場がある。近くアイアントに行くことになり、今はその準備中だ」

 

「やっぱり大手クランの幹部ともなると忙しいんですね」

 

「下位のクランは自分達の維持を、中位のクランは都市の維持を、上位のクランは世界の維持を。……誰かに決められている訳ではないが、見える物が増える程に、そう動かざるを得なくなる」

 

「この世界の人間って、結構善性強いわよね。普通は蹴落としあって利益を占めようとするところじゃない?」

 

「そこまで大層なものではないが、蹴落としあった所で得られるのは一時の利益に過ぎないからな。いくら金があったところで、都市が消えればただの紙屑になるだろう?」

 

「人間なんてそう利口なものじゃないでしょ」

 

「ああ、そうだな。今は各クランの頭になっている人間達が互いに理解があるというのも大きい。……そしてセルフィや君達の様に、少しずつ頭だけではなく、その下の者達の間にも繋がりが生まれ始めている。未来は明るい」

 

「どうだか」

 

色々と問題はあるし、それらが解決したところで全てが上手くいくとは限らないと。ただカナディアの言う通り、正に今も渦中のリゼ・フォルテシアが初対面の2人と仲を深めながらダンジョンに潜っているのだから、それが僅かでも明るい未来に通じているというのも否定は出来ない。

 

「……というか、それならこんな風にあたし達に構ってていいの?あんたも忙しいんじゃない?」

 

「ん?ああ、確かに役割は多いが、昔程ではない。私は今は探索者ではなく、研究者としての立場に重きを置いているからな」

 

「龍殺団の副団長、都市の上層部、研究者、探索者指導……それに私達のことも乗せるとなると、なんだか申し訳なくて」

 

「あたしは全く思ってないけど」

 

「ふふ……まあ、今は本当に落ち着いている具合だから安心していい。私が居なくとも動いてくれる人間が居る、私より優秀で経験のある者達が居る。"出なくていい"のではなく、"出て来るな"というのが最近だ」

 

「へぇ、いい傾向じゃない」

 

「ああ、後は以前の騒動で精神的な影響を受けてしまった探索者達が復帰出来れば言うことはない。君達のクランが正式なものになって、より勢力を増してくれるのなら最高だ」

 

「悪かったわね、身分が証明出来なくて」

 

「あの、スズハさん……それ私にも刺さるので……」

 

「ふふ、嫌な偶然は重なるな」

 

そうして、話はこれからのレイナ達の話に変わっていく。

 

「実際、レッドドラゴンだっけ?倒せるの?2人で」

 

「まあ、普通に考えれば無理だろう。2人で倒そうとするのであれば、最低でもLv.20と、かなりの火耐性装備を揃える必要がある」

 

「で、ですよね……」

 

レイナがこの部屋に来て、スズハとカナディアが何やら難しそうな話をしている傍らで読んでいた本が、そのレッドドラゴンについてのものだった。

 

・凄まじい熱量と範囲の炎ブレス

・非常に硬く、常に熱を帯びている龍鱗

・広い空間を自由に飛び回る高度な飛行能力

・一撃が致命的な近接攻撃

・言葉にする必要もない巨体

 

簡単に言えば、そんな特徴。

危険度的にはカイザーサーペントと同等とは言え、それは帝蛇のあの規格外の巨体を考慮しての話だ。アレとはまた別の脅威がそこにあり、帝蛇を倒せたから赤竜を倒せるのかと言われれば、そこにイコールは成り立たない。逆もまた然り。

 

「狙撃したらいいんじゃない?あのバカみたいな銃で」

 

「その場合、問題はそれで倒せなかった時だ。あれは連発が出来ない。炎ブレスで反撃されれば、階層間を繋ぐ狭い通路が丸ごと炎で埋め尽くされる。即死は免れないだろう」

 

「うわ、そんなにヤバいの?」

 

「ああ、実際に幾つかのパーティがそれで壊滅している。レッドドラゴンと戦う際には、強力な水魔法か障壁魔法は必須だ。それがないなら高位の防火装備を整えるか、高速移動や飛行手段、これを用意するしかない」

 

「……例えば上位の探索者さんは、どうやって倒してるんですか?」

 

「私やセルフィの様な魔法使いは、単純に水魔法で押し通す。マドカやエミ、ライカの様な高速戦闘型は、壁を走る等してブレスを3次元的に避ける」

 

「当然のように壁を走らないで欲しいんだけど」

 

「アルカは火耐性付きのマントとVITで強引に突破して近接戦闘に持ち込む事が多い、一方でラフォーレは炎のブレスごと炎弾で爆破するな」

 

「頭おかしい……」

 

「勧めるのであれば、やはり魔法使いを1人募集する事か。『バリアのスフィア』と『水弾のスフィア』を持っているだけで相当楽になる。たった2人でカイザーサーペントを倒した君達なら、それだけで攻略は可能だろう」

 

もちろん、INTがそこそこあるレイナがその役割を担ってもいいが、単純に赤竜を相手にリゼが1人で勝てるのかという問題もある訳で。そうなればやはり、もう1人探索者を募集するのが一番理にかなっている。もしかしたらマドカならば、2人で突破できる方法を知っているかもしれないが……そもそもそんな方法は無いということを自分達で理解させるための課題である可能性も考えれば、一先ずは現実を受け止めておくことが重要だ。

 

「ちなみに、やっぱりスズハさんは戦えませんか?」

 

「小動物も殺したことないような女に龍退治を求めないでくれる?」

 

「す、すみません……」

 

「ステータスはどうだ?」

 

「ん……まあ、魔法寄りじゃない?あたしが大剣振り回してるってのもあり得ないでしょうし、妥当?」

 

「ふむ。しかし、いざという時のためにスフィアの知識や経験は得ておいた方がいい。魔法寄りのステータスを持っているのなら、それだけで役に立てることは多くある筈だ」

 

「それはそうだけど……」

 

「一緒に赤竜倒しますか?」

 

「絶対嫌」

 

「ダンジョンに潜ってみたりとか」

 

「それも嫌」

 

「でも一度はモンスターと戦っておかないと、緊急時に怖くないですか?」

 

「うっ……」

 

「大丈夫ですよ、私やリゼさんが守りますから。基本的にはリゼさんの横で魔法の支援をして下さればいいだけですし」

 

「……なんかその流れで、いつの間にか深い層まで連れて行かれそうなんだけど」

 

「そんなことないですよ♪」

 

「全然信用出来ない……」

 

実際のところ、レイナとしてもスズハにダンジョンまで来て欲しいとは思っていなかったりもする。

なぜなら彼女の言う通り、戦闘への慣れというのは簡単に得られるものではなく、その気がない人間を連れていっても事故の元にしかならないからだ。可能な限り、身近な場所で死人は出したくはない。それは至って当然の話であるのだが、それでもリゼの性格を考えれば、より気をつけるべき事であるとレイナは思う。……自分も含めて、彼女の側で死人を出すべきではない。

 

「先ずはレッドドラゴン。そこから11階層以降の水泉地帯を抜けて、ブルードラゴンだ。まだまだ先は長いな」

 

「あ〜……そこの勉強もしておかないといけませんね」

 

「ちなみに水泉地帯は、あのラフォーレが最も苦手としている場所だ」

 

「え、そうなんですか?……いくら水辺とは言え、あまり想像出来ませんね」

 

「なに?奇襲が多いとか?それか泳ぐ必要があるとか」

 

「いや、泳ぐ必要は無いが……ふふ、それも勉強して学んでみるといい。ラフォーレ・アナスタシアが嫌っている理由も分かるだろう。あそこほど気まぐれな場所も他にない」

 

それを最後に、壁にかけられた時計の音が鳴り始めたこともあり、カナディアは立ち上がり自分の作業に戻って行く。スズハの世界ではもう滅多に見ることがなくなったような、時刻を知らせるために鐘を鳴らす時計。

残されたレイナとスズハは、互いに顔を見合わせ、互いに小さく笑いを吹き出す。

 

「あんなこと言われると、気になってしまいますよね。調べないといけない事はたくさんあるのに」

 

「いいんじゃない?いつかは学ばないといけないことなんでしょ?……それに、そのラフォーレって奴がどんな人間なのか、個人的にはそっちの方が気になるし」

 

「ダンジョンの攻略に"焼払う"という選択肢が上から2番目くらいにあるような人です」

 

「なにそれ、すごい面白そう」

 

「あとマドカさんのお母様です」

 

「おぉぅ……やっぱり狂った人間からは狂った人間が生まれるのね」

 

「血の繋がりはないそうですよ」

 

「途端に弄り難くなったんだけど」

 

「親子仲は本当に良いみたいです。私もリゼさんに聞いた話ばかりで、あまりよく知らなかったりするのですが」

 

「今度紹介して貰おうかしら」

 

「多分リゼさんは全力で引き止めると思いますけどね、結構な被害に遭っているみたいですから」

 

「そう、なら今度会った時はその話を聞かせて貰いましょう」

 

「ふふ、嫌がりそうですねぇ、リゼさん」

 

クランの長になるリゼを差し置いて、仲を深めた2人。スズハは癖のある性格はしているが、こうして話してみれば善人に違いはなかったからだ。

それに……リゼが嫌がらない程度に適度な弄りを入れてくれそうな人材は、レイナとしても歓迎出来る。彼女は戦力としては期待出来はしないが、クランの仲間としてはかなり有望な存在であった。

 

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