エクリプスが剣を一度振るう。
ただそれだけで、争い続けていた2体の動きが停止する。例えるならそれは、周囲を飛んでいた鬱陶しい虫達の中に、命に関わる様な毒を持つ危険な存在が紛れ込んでいたのを見つけた時のよう。
そしてそんな2体に睨まれているにも関わらず、エクリプスは顔色一つ変える事なく剣を構えた。
「身を隠せ」
「わ、わかった……!」
「帝蛇を殺せ」
「それは分からない!?」
「引き付ける」
「だとしてもだ!!」
「頼んだ」
「そこはもう少し説明が欲しかったかなぁ!!」
足場にクレーターを作る様な凄まじい跳躍。
直後、強化赤竜の顔面にエクリプスが衝突する。
そして始まる、三つ巴の争い。
争いは激化した。
10階層から8階層までをも大きく揺らし始めた。
……エクリプスは、化物だった。
彼女の一振りは強化赤竜の爪を弾き飛ばし、強化帝蛇の強固な鱗肌を叩き斬る。
「『水斬』」
「っ、あれは!?」
そして彼女が本気で剣を振るった時、リゼは2度だけ見たことのある、とある光景が重なった。マドカが強化ワイアームを倒し、ラフォーレが焼いた街を消火する際に披露した極大の水斬。彼女がスフィアやスキルを駆使して生み出す必殺の一撃。流石にあそこまでの威力は無いとは言え、驚異的な威力を持っていることは間違いない。
……マドカが様々な前提条件のもとで生み出すそれを、エクリプスはただ【水斬のスフィア☆1】を使用するだけで劣化版とは言え再現する。言うなれば、彼女の一振り一振りが必殺。
強化赤竜の龍鱗を破壊し、強化帝蛇の巨体を抉る。
「……分かった」
「な、何が分かったんだい?」
「エクリプスの正体」
「え?」
「……アタラクシア・ジ・エクリプス、当代の英雄だ」
「英雄、だって!?」
リゼはその話を聞いたことがある。
歴史の中にも"英雄"という存在は度々現れ、特に今代の英雄は歴代最強と呼ばれる程に優れた存在であるということを。その人物は邪龍候補を倒した3年前の龍の飛翔の中でも、大きな役割を果たしたのだと。
「精霊族と人族の間に定期的に生まれる、生まれつきステータスが異常に高い存在。それが英雄なんだって」
「そんな存在が……」
「どれだけ龍を倒してもレベルは上がらないけど、生まれた時からLv.100に相当するステータスを持ってるって」
「Lv.100!?ラフォーレでさえ40程度なのに!?」
「けど今代の英雄は、もっと規格外らしいよ」
「……ど、どれくらいに?」
「スキルも兼ねると、最高で……Lv.150くらい」
「ひゃ……」
エクリプスが高速戦闘をし始める。
しかしそれはマドカの時の様な繊細な動きでは決してなく、着地と跳躍の瞬間に足場を大きく抉り、衝突する様な、あまりに力業な高速戦闘。いや、むしろあれこそが高速戦闘の原型とも呼べるものなのだろう。
強化赤竜がブレスを吐く為に空気を吸い込み始めれば、水斬の斬撃を叩き込んで邪魔をする。強化帝蛇がその巨体を利用して逃げ場を防ごうとすれば、僅かに残った隙間に強引に踏み込んで削りながら脱出をする。豪快な力技の中にも、確かに彼女が積み上げて来た戦闘の経験値というものが見て取れる。
……ならば、このまま彼女に任せておけばそれでいいのではないだろうか?自分達が何もしなくとも、彼女は勝ってしまうのではないだろうか?
一瞬そう考えてしまったのは、リゼだけではない。
「……でも、指示出されちゃったし」
「まあ、そうだね」
「ってことは、簡単じゃないってことだ」
「そうなるのかもしれない」
「リゼは、どうするの?」
「自分に出来る事を必死にやればいい。頭の良い人は私達の頭のことも考えてくれている。……そう言ったのはクリアだろう?」
「うん……そういえばそうだったね」
「流石にこのままエクリプスを置いて逃げるなんてこと、私は出来ないからね。クリアもそうであってくれると、私は嬉しいよ」
「……仕方ないなぁ、これも惚れた弱味かぁ」
強化帝蛇を殺す。
一先ずの目的はそれだけ。
リゼはライフルを仕舞うと、背中の大銃に持ち替えた。もちろん威力は最大。耳栓は軽く付けるだけ。意思疎通は最低限で良い。
「クリア、私のことを守ってくれるかい?」
「いいよ、任された。そっちの方が得意なんだよね、実は」
「持って来た弾丸は3発、これを帝蛇の頭に撃ち込む。クリアもこの耳栓を使って欲しい、あと衝撃が酷いから気を付けて」
「うん。ふふ、どんな攻撃になるのか楽しみだ」
「さあ、はじめての3連射。私の体が保つのか、この銃自身が反動に耐えられるのか、色々な意味で心配だ。せめて2発目辺りで力尽きて欲しいかな」
任務は単純明快。
やるべきことも容易い。
しかし強化帝蛇ともなれば、この速度の弾丸も避けられてしまう可能性は十分に考えられる。つまり必要なのは、確実に当てるための何らかの策。
「来たっ!!」
「【水弾】」
戦いの余波で飛んで来た巨大な瓦礫を、クリアが生み出した巨大な水弾が叩き落とす。水系のスフィアは魔力によって威力が大きく変わると言われており、魔力の低い探索者が扱う水弾は殆ど単なる水を生み出す魔法に過ぎないと言われるくらいだ。一方でマドカくらいの威力になれば、階層を階層主ごとぶった斬るくらいの威力になる。そしてクリアの水弾もまた、巨大な瓦礫を雑に撃った水弾で撃ち落とせるくらいの威力がある。
……ただそれでも、この戦いの中では余波をどうにかするだけで精一杯だ。やはりレベルが違い過ぎる。
「どうするの?」
「ーーーーーーーー……」
「すご、もう聞こえてないじゃん」
今の一撃で確信した、もう守りは大丈夫だと。
だからリゼは直ぐに頭を切り替えた。
目を凝らして、思考を巡らせ、敵の隙を探る。
強化帝蛇を倒すために必要なのは、絶対的な隙である。通常の帝蛇の時点で大銃での狙撃に僅かながらでも反応した、それは特殊な熱反応器官によるものであると分かった。
そして強化帝蛇ともなれば、更にそれを上回る感覚器官を持っていてもおかしくない。弾数が少ない以上は、そう考えておくべきだ。
「ね〜、あの〜、そろそろ撃ってくれないとキツ……【水壁】」
「ーーーーーーーーーー」
「おおぅ、これもうやるしかない感じだ。そんなカッコいい横顔見せられたらさ、そんなのもうさ……あ、また【水壁】砕けた。もうちょい喋らせて欲し、【水弾】」
本日2度目の水壁の破壊。
水弾の使用間隔を埋める様に水壁を展開してはいたが、炎による攻撃でないのなら水壁は単なる【バリアのスフィア☆1】より少し防御力が強い程度。これならば普通のバリアのスフィアで良かったというくらい。だが今からスフィアを取り替えている時間も余裕もない、今はとにかく手当たり次第に撃ち落とすしかない。
それにそうでなくとも……
ーーッッッツ!!!!!!!!
「ひっ!?」
なんの前触れもなくぶっ放されたリゼの大銃が、その反動で近くにいたクリアの全身を震わせる。それは衝撃などという言葉で表すのも生温い、殆ど爆発だ。耳栓をしていれば大した物ではないなどという考えはあまりに甘過ぎて、クリアは思わず瓦礫を撃ち落とす作業を忘れて呆然としてしまう。
「っ、避けられた」
「え……」
気付けば静まった階層を破壊する三つ巴の壊音。クリアが強化種達の方へと振り向けば、そこにはリゼに対して警戒する様な、そして僅かに恐怖しているような雰囲気を纏った2体と1人がそこに佇む。
「あー……えっと、リゼ?これどうするの?」
「次は確実に当てる」
「次って言われても……」
ーーッッツ!!!
「ひんっ!?」
今日2発目の銃弾。
2発目のそれは1発目と比べると威力は弱めで、事実リゼは今それを銃口を足でかち上げ、1発目の時の様に狙いを定めることなく片手でぶっ放した。
銃なんて撃ったことすらないクリアからすれば、信じられないようなその射撃は、しかし今度は何故か避けられることなく強化帝蛇の胴体に撃ち込まれた。苦痛に喘ぐ帝蛇、リゼから大きく距離を取る様にして離れた強化赤竜。アタラクシアはそんな様子を見て瓦礫の上に佇むだけ。
「クリア、対処法が分かったよ」
「腰が抜けそうなんだけど」
「ああ、ふふ、すまない。ただ強化種とは言え、もう同じ相手に2回も全力勝負を挑んだんだ。流石に3度目はすんなり勝ちたい」
微笑み、笑うけれど、その目は全く笑っていない。直ぐに帝蛇の方へと鋭い視線を向け、口元に付いた煤を親指で拭うリゼ。3度目のリロード、これが外れたら手がなくなる。だというのに彼女はその一発を外してしまうなどという重圧は一切感じていないように、ただ標的と睨み合うだけ。
「……次は何をすればいい?」
「水弾の温度を変えることは可能かい?」
「ん……考えたことないけど、少しくらいなら」
「それなら一番高い温度で水弾をばら撒いて欲しい。……エクリプス!申し訳ないがもう少しだけ抑えておいて欲しい!!」
リゼのその言葉に頷くこともせずに、直ぐ様に隣の帝蛇に水斬を放つアタラクシア。その勢いは先ほどより更に増し、彼女の動く速度は更に跳ね上がった。どうやらさっきまでの戦闘でさえも、彼女は手を抜いていたらしい。
一方でそんな帝蛇はリゼからもアタラクシアからも赤龍からも狙われていることもあり、動きからも明らかな焦りを見せ始めた様に見える。しかしそれでも時折尻尾を使って瓦礫を弾き飛ばして来るのだから、帝蛇がどれほどリゼを警戒していて、早急に排除しておきたいと思われているのかが分かる。
「とは言え、こちらの利点は身体が小さいことだ。これだけ荒らされた地形の中、こちらにばかり目を向けていられないカイザー・サーペントから身を隠すのは簡単だ」
「でもなんか、ほら、蛇ってすごいんでしょ?なんか」
「うん、個人的に色々調べてみたんだけど、どうやら目はそれほど良い訳ではないらしいよ。ただ皮膚で振動を、舌で匂いや味を捉えられる上に、特に性能が高いのは目の下にある熱を感知する器官だ。帝蛇はこの器官が普通の蛇以上に発達している上に、頭を中心に360度感知することが可能だそうだ」
「へぇ、そうなんだ」
「強化帝蛇は恐らく単純な情報処理能力と肉体の性能が高い、普通に撃てば1発目の様に絶対に当たらない」
「でも2発目は当たったよね?なんで?」
「カイザー・サーペントに対応するために、特殊な弾を作って来たんだ。具体的に言えば、威力を弱める代わりに弾丸が纏う熱量を抑える弾さ」
「ああ、なるほど」
現在のこの階層の気温は非常に高い。
なぜなら強化赤龍が吐く豪炎によって森も焼け、今なお炎が残っているからだ。特に強化赤龍は自身の身体そのものが高熱を発しており、目ではなく熱を捉えているカイザーサーペントにとっては、この状況で最も脅威であるのは、そもそも感知がしにくいリゼ達に他ならない。
「水弾の温度を高くするっていうのも、気温を下げないためか〜」
「うん、それと身を隠すために私達の体温に近い液体を撒いて欲しかったからかな。それに一度身を隠せてしまえば……クリア、私に水をかけてくれないか?」
「……?痛いのが好きなの?」
「い、いや、そうではなくて……身を隠しながら狙うとは言っても、少しは身体が見えてしまうから。少しでも見つかる危険性を減らしたいんだ」
「なるほど」
「それと………………」
「……へぇ。頭良いんだね、リゼって」
「ふふ、必死に倒す方法を考えただけさ」
互いに顔を合わせて、笑みを交わす。
リゼに言われた通りに、手渡された2本の缶に入っていた液体を小さめの水弾に混ぜ始めるクリア。一方で身体を水で濡らし、極力火に近い瓦礫の隙間から伝わってくる熱を我慢して標準を定めるリゼ。
帝蛇は赤龍と同等の危険性を持っているとされながらも、出現する階層が1つ違うため、実際には赤龍よりも下にランク付けされることが多い。それ故に正面から戦わせてみれば赤龍の方が強いのではないかという話も多かった。
……しかしどうしたことか、こうして強化種同士を戦わせてみれば明らかに赤龍よりも帝蛇の方が強い。通常種であれば分からないが、強化帝蛇はその鋭敏な感覚によって起用に素早く巨体を動かして赤龍の致命的な一撃を避け、龍種として他の生物とは比較にならないほど硬い龍鱗を、単純な肉体による締め付けでヒビを入れる。特に恐ろしいのは発達した牙であり、恐らく龍鱗よりも更に硬質であろうそれは、強化赤龍の翼を食い千切った。
リゼから受けた1発、そしてリゼに対する警戒というハンデを差し引いても戦況は五分五分。そして何よりそこまで戦力差が開いているのかと問われれば、それは間違いなく個体としての知能の差であるとリゼは考える。
リゼは知っている、カイザーサーペントはかなり知能が高いことを。単純な駆け引きという面で見れば、あれはリゼがこれまで見てきたモンスターの中でもワイアームの次に高い知能を持っている。下手をすれば戦闘という面で限れば、そこらの探索者よりも駆け引きが上手いくらいだろう。
高熱のブレスと飛行能力という恐ろしい武器を持っている上に、龍種として基本能力も高いレッドドラゴン。しかし知能自体はそこまで高くはないのが今のリゼには目に見て分かり、明らかにその場その場での対応しかしていないし、思い付きやパターンによる行動も多い。距離が離れればとにかく炎を吐きまくるその行動が代表的だ。
一方でカイザーサーペントは炎も吐くことはないし、毒すら持っていないが、自分の肉体と赤龍の扱うブレスの相性を即座に把握し、ダメージにならない最低限の動きで距離を詰める。そして恐らくは敵が飛行能力を持っているが故に、空から相手を見下ろす戦闘パターンばかりを使用していることを見切ったのか、帝蛇はその巨大で壁を天井を破壊しながら器用に強引に登り、重力を利用した素早い突進で赤龍を押さえ付ける。
今やエクリプスがやることは、その2体の争いに時々攻撃を挟むことで、決してどちらかに優勢が傾かない様にコントロールすることだけだった。単に争うだけだったにも関わらず、次第にその影響範囲を広めていく2体。もう既にギルドの方も動いているだろう。しかしリゼとしては最低限、エクリプスに言われた役割くらいは……こなして見せたい。
「クリア!」
「よーし、いくよー……【水弾】!」
可燃性の液体を混ぜた小さめの水弾が2つ、表面に炎を纏って飛んでいく。今回混ぜた液体は揮発性が高く、液体と混ぜても暫くは燃え続ける。加えてクリアが水弾の内部の動きを最低限にしていることもあり、液体と水は分離した状態で、それでも球体を保ったままに動きをコントロールされていた。
それに対して明らかな反応を示したのは当然カイザーサーペント。2つの水弾は全く別の場所から射出される様に指示したが、最も重要なのは2つの弾の速度差だ。片方はクリアの可能な限り最速で、もう片方はゆっくりとした動きでリゼと帝蛇の間を走る軌道で設定した。
頭の良い帝蛇であるならば、直ぐ様にその2つは陽動であり、本命の一撃が直後に別の場所から来ることを予測するだろう。そして普通であれば、陽動の水弾が放たれた地点とは全くかけ離れた所から攻撃するのが定石。実際、帝蛇もそう考えたのか、自身の頭をわざと赤龍の腹部に頭突きする形で隠し、火を伴った水弾を後頭部に受けることは覚悟しつつ、尾を使って身体を大きく暴れてさせ始めた。
瓦礫や砂埃を巻き上げ、身体や頭部を大きく動かし、赤龍を盾にしながらも狙撃に備えている。実際それは最善の手段であり、普通であればそんな状態の帝蛇の頭を撃ち抜く狙撃なんて誰にも出来る筈がないだろう。
……そう、普通であれば。
ーーーーーッッ!!!!!!!!!!!!!
「……任務完了」
「すご……」
最高、最大威力の狙撃。
強化種カイザーサーペントの頭が地に落ち、強化種レッドドラゴンの腹が大きく抉り取られる。帝蛇は完全に力尽き、赤龍は甚大なダメージを負ってヨロめいた。
「っ……」
「リゼ……!」
大銃を落とし、その場に倒れたリゼの元へとクリアが掛けよる。
1日3発の連続射撃。リゼの大銃には威力を3段階に切り替える機能があり、1発目を中威力、2発目を小威力、3段階目を強威力で使用した。いくら慣れているリゼとは言え、流石に身体にも限度がある。耳は殆ど聞こえないし、指どころか腕も碌に上がらない。炎に近いところで待機していたこともあり、肉体的にも精神的にも疲労困憊の様相を呈しており、尋常ではない集中力が切れたことで掛かっていた負担を一気に自覚してしまったらしい。
「リゼ、大丈夫?」
「……?す、すまない。ちょっと聞こえない……」
「ポーション耳に流し込めばいいのかな」
「ええと……うん、耳に流し込もうとしてないかい?普通に飲ませて欲しいかな……」
聞こえなくとも、やろうとしていることが分かってしまう。クリアがそんな分かりやすい人間で良かったとリゼは心の底から思いながらも、ポーションをされるがままに飲まされた。
背後から伝わってくる大きな振動、聞こえ難くなっている今の耳にも伝わってくる悲鳴の様な龍の叫び声。帝蛇を倒すという任務が完了したあと、きっとアタラクシアが赤龍の処理を始めているのだと予想する。しかしそれは戦闘というか、本当に処理で。むしろ可哀想なことになっているのではないかと苦笑いをしながら、今はとにかく自分の身体の回復を優先させた。
「……聞こえる?」
「ああ、少しはマシになったかな」
「そっか。ちなみに私はまだ困惑してる。燃えてる水弾ごと頭を撃ち抜くなんて、普通考えないし」
「あ、あはは……前にも似た様な形で処理したんだ。熱感知とは言っても、結局は視界と同じ平面的に事象を捉える感知能力だからね」
「すごいね、本当に」
「……クリアのおかげだよ。君は本当に優秀な魔法使いだ」
「そう?」
「ああ、頼りになった」
「それなら嬉しいかな、頑張ったかいもあったよね」
ズズンッと、背後から何かが崩れ落ちた音が聞こえてくる。
それきり一切の破壊音と叫声が途絶え、静けさと平穏を取り戻した9階層。きっと全てが終わったのだろう。強化種2体の闘争も、英雄による新人探索者に対する試練も、全部。
「……お見事」
「ふふ、あんな怪物達を1人で押さえ込んでいた君がそれを言うのかい?エクリプス」
「言うさ」
「流石英雄、かっこいいじゃん」
「……知っていたか」
「むしろ最初に気付かなかったの、普通に同族に怒られると思う」
「そうなのかい?」
「英雄って、人族と精霊族の繋がりの証だからさ。言葉だけでもぞんざいに扱うと怒られるんだよね」
「気にするな」
「うん、気にしてないから大丈夫」
「そ、そこは少しくらい気にした方がいいんじゃ……」
クリアと、エクリプス。
色々と特徴的な性格をしていて、片方は英雄と呼ばれる規格外の存在で、本来であれば手を伸ばしても届かない、こうして言葉を交わすことも出来ない人物であるが。
存外このパーティは、戦闘だけでなく、互いの相性としても噛み合っているのかもしれない。
そう思うとリゼは即席であったにも関わらず、これは運命の出会いだったのではないかと思ったほどだ。そして単純に見識も広がったし、色々な体験をすることも出来た。魔法というものがこれほど便利なものであり、本来の高速戦闘の在り方についても学べた。これが出会いであり、これこそが人と人との道が交わることによって生じる変化。
エクリプスとクリアに肩を貸して貰い、立ち上がる。本当に、2人と組むのがこれきりだということを勿体なく感じてしまうくらいに、変え難い出会いであったと今なら断言出来た。
「うん、11階層に」
「ええ!?まだ進むのかい!?」
「良い機会だし、見に行くくらい良いんじゃない?」
「だ、だがこの有様をギルドに伝える役割とか……!!」
「終息した」
「誰かやっといてくれるからへーきへーき」
「せ、精霊族はみんなこんな感じなのか!?」
ただ、こういう2人のちょっとした雑なところは、真面目なリゼとしては慣れないところもあるのかもしれない。