無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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85.遠い

『貴ッ様ァ!!この私の助言を破っておきながらよくもまあ図々しくその愚図面を前に出せたなこの愚図が!!』

 

『い、いくらなんでもこの大銃だけで戦闘を続けるなんて無理だぁ!!それにこっちの方が私の基本スタイルなんだぁ!!』

 

『喧しいわ愚図がァ!!少し目を離した隙に調子に乗ったか!いいだろう!そこまで言うのであればそのスタイルでやらせてやろう!ただし及第点が取れるまでダンジョンから帰れると思うなよこの愚か者が!!』

 

『ま、待ってくれラフォーレ!せめて少し休憩してから……マドカぁぁぁあああ!!』

 

『あ、あはは……』

 

ということがあり、ようやく地上へ戻って来ることが出来たリゼは、そのままラフォーレによって再度ダンジョンの中へ連れ込まれて行った。哀れに引き摺られていくそんな彼女を見る周りの目は、なんだかとっても同情的で、しかし誰も助ける人は居ない。

元々、カイザーサーペントを倒した後にラフォーレから『大銃の扱いを極めろ、他のことには手を出すな』という助言を受けていたにも関わらず、他のことに手を出してしまったのがリゼである。ならば今直ぐにでもそれが使い物になるようにしてやろう、というラフォーレの判断は至極正しいものだ。リゼとしても、結果的には為になる話だろう。……まあ今日中に帰って来られるかは割と絶望的な話ではあるが、上位の探索者にそこまで付き合って貰えるということを感謝すべきでもある。

 

「ということで……ありがとうございました、お二人とも。リゼさんが無事に帰って来られたのはお二人のおかげです」

 

「無事……?」

 

「ま、まあお母さんもリゼさんのこと気に入っているみたいですし」

 

「……おかげって言うか、巻き込まれたよね。英雄サマに」

 

「すまない」

 

「それで、マドカはどうして知っていたんだ?」

 

「知っていた訳ではありませんよ。ただ知り合いから街中でアルファさんを見掛けたという話を聞いたので、アタラクシアさんにダンジョン内での調査をお願いしたんです」

 

「アルファ……例のマドカを狙っている変態男か」

 

「へぇ、そんな罰当たりな人が居るんだ」

 

「ただ、流石に今回のことは予想外が過ぎました。強化種が2体も同時に出現するなんて、少し間違っていれば地上に大きな被害を与えていた可能性すらあります。本当にアタラクシアさんにお願いして良かったです」

 

「むしろ英雄サマのせいで難易度上がった説」

 

「すまない」

 

「ほんと死ぬかと思った」

 

「クリアさんもお疲れ様でした」

 

「ん〜、メイアナ様にそう言われたなら頑張った甲斐もあったかなぁ」

 

「ふふ、クリアさんがメイアナ様を信じてないことなんて知ってるんですからね?そもそも私はメイアナ様ではないのですが」

 

「髪が白くて目が青かったらみんなメイアナ様だし、単純だよねぇ、精霊族って」

 

「お母さんも昔はメイアナ様って呼ばれていたみたいですよ?言われる度に強く否定していると言っていましたが」

 

「強い否定」

 

「それはもう強い否定なんだろうなぁ」

 

話は逸れていくが、こうして話している間にも彼らの後ろではギルド職員達がこれでもかと忙しく走り回っている。強化種2体の出現ともなれば、その原因究明のために奔走するのは当然の話だ。肝心のリゼ達から聞けた話も、原因は分からず、不審な人物も見ておらず、取り敢えず英雄アタラクシア・ジ・エクリプスの力もあってなんとか討伐に成功したと言うことくらい。目撃者の特定のためにダンジョンに入った人間の名簿を洗い直して、各クランに聞き回っている。しかしやはり特に今のところ手掛かりもなく、どこまで遡っても2体が突然出現したようにしか思えない。

 

「……強化種を自由に呼べる方法がある?」

 

ライカは小さくそう呟く。

個人、若しくは少人数で、加えて短時間で、もし強化種を呼べる方法があるとしたら。それはダンジョン、探索者、どころかこの街や世界そのものに対する凄まじい脅威になる。決して見つかってはいけない方法であり、知られてはいけない情報だろう。だがこうなった以上、マドカがアルファという男を見たという事実があり、本当にその男が関わっているのだとすれば……

 

(一体この街に、強化種に挑める人間がどれだけ居る?今の戦力で、本当に対抗出来るのか?)

 

ワイアームの強化種とマドカ・アナスタシアを基準に考えるとする。ワイアームの強化種というのは通常のワイアームよりも絡め手となる手段が多く、その知性も考えれば一気に上位の存在となる。それにマドカの罹った毒のことを考えれば、あれは恐らくレッドドラゴンの強化種にも勝る。

 

(……私ならば、どこまで戦える)

 

ライカには強化種と戦った経験がない。3年前の邪龍候補討伐の際も、ライカはその精鋭に参加することは出来なかった。あれに参加出来たのはベテラン探索者ばかりで、唯一若かったのはマドカとセルフィ、そして少し歳の離れたエアロくらいだった。

それくらい強化種と矛を交える機会というのは得られるものではなくて、ライカからすれば探索者になって数ヶ月にも関わらず、既に2度も強化種と出会っているリゼが羨ましくて仕方がない。

 

「それでは、私とライカさんはこれから行くところがありますので」

 

「は……え?」

 

「ん〜、なら私は帰ろっかなぁ。疲れたし」

 

「あ、そうだ。アタラクシアさんはレンドさんの所に行ってくれませんか?今企画していることがありまして、それに協力してもらいたいんです」

 

「了解した」

 

「えっ?あっ、マドカ……?」

 

「まあまあ、こっちにこっちに」

 

アタラクシアとクリアと別れて、マドカはライカを連れ出していく。向かう先はダンジョンの中、出て来たと思ったらまた入っていく2人を見て職員は不思議な顔をしたが、それもリゼとラフォーレの件もあったので何も言わずに見送った。

1階層のワイバーンはラフォーレが消しとばしたのか灰しか残っていなかったが、その方が都合が良かったとばかりに、マドカは身体を伸ばし始める。

 

「さてライカさん、競走しましょうか」

 

「?いきなり何を……」

 

「ライカさんが私の高速戦闘を密かに練習してるの、知ってたんですよ?危ないから駄目だって、ちゃんと言った筈なんですけどね」

 

「そ、れは……」

 

笑顔を向けられながら、叱られているのだと分かる。しかし彼女が言うことももっともであると知っている。何度も怪我をした、この身をもって知っている。

 

「だからですね。そんなに使いたいのなら、最後の仕上げくらいお手伝いしようかなぁと思いまして」

 

「!」

 

「これからは教える側として頑張ると決めましたし、これもその一貫ですね。……ただし、まあ、その代わり」

 

「?」

 

 

 

 

「最後の仕上げが一番苦しいことだけは、先に言っておきますよ?」

 

 

 

「なっ……!!!」

 

瞬間、顔の横を通っていった彼女の姿。

 

一瞬瞬きをした、正にその直後のことであった。

 

見えていたのに、反応出来なかった。

彼女の動きに何も出来ず、ただ見送ってしまった。

自分の意識の隙をつかれた。

 

「さ、構えてください。ライカさん」

 

「なにを、言って……」

 

背中合わせに背後に立つマドカは、ライカに少しもたれ掛かりながら軽い拍子でそう語る。レベルは既に上回った、今やあの頃とは違い見上げるだけの存在ではない。……それなのに、どうしてこうも。

 

(この女は、強い……!!)

 

「私もリゼさんとお母さんから学んだんです。……急いでいる時には、実戦で教えるのが一番早いんだって」

 

「それは一番真似したら……ぐっ!?」

 

「さ、SPDの値は一緒なんですから。私に追いつくには練度を上げるしかないですよ?……高速戦闘の」

 

「瞬き1つ許してくれない人間から何を学べと言うんだ……!!」

 

抜かれた剣、それを弓で懸命に逸らす。

引き離す、引き離す、そのために足を動かす。しかしその女はむしろ自分を追い抜いて、回り込んでくる。SPDは同じはずなのに。いくら近距離戦闘が得意だからと言って、いくら自分が遠距離戦闘しかして来なかったとはいえ、流石にこれは……

 

「っ、時間差の2撃……!」

 

「右腕も左腕も、全くの別々に動かせるようになると便利ですよ。あと人間を相手にする時は定石を多少崩した方が楽です、剣の振り方一つにしても」

 

「お前の腕は鞭か何かか!」

 

「正にそんなイメージです」

 

「こっ、のっ!!」

 

ガードするだけで精一杯な連撃から抜け出すために、多少強引に回避のスフィアを使い、マドカから距離を離すライカ。しかし彼女の表情は変わらない、彼女もまた腰のスフィアに手を伸ばす。

 

「さて、逃げ切れますでしょうか」

 

「そんな使い方を……!」

 

そうして距離を離して体勢を立て直そうとしたライカを、マドカは背中を向けて同じように回避のスフィアを使って追い掛けてきた。

リゼも知っているマドカの定石。そしてそのまま身体を回転させて攻撃を続行してくるのだから、こいつには怖い物がないのかとすら思ってしまうほどだ。一歩間違えればあらぬ方向に飛んでいき、大きな隙を晒すことになるというのに。しかしそのミスすら起こさない確証がある様に、彼女はそれを当然の様に成す。

 

「だが!これは持っていないだろう……!」

 

「回避☆2ですか」

 

回避☆1のスフィアが後方への吹き飛ばし効果であれば、回避☆2のスフィアは前方へ前転しながらの吹き飛ばし効果であった。

正にマドカがそうしたように、ライカは自分の身体を横に向けて回避する。ライカとて似た様な技術は使っている、そして一度見たのであればそれを応用に利用する程度の器用さはある。いくらマドカであっても、空中での2度目の方向転換は出来ないものだ。これはスフィアの枠を2つも回避に使用しているライカの特権。

……そう考えていたが、それは間違いである。

 

「っ、これは……!」

 

「鎖、結構便利ですから持っておくと良いですよ」

 

「勉強に、なる……がっ!!」

 

腕に巻かれた鎖によって、強引に引き寄せられ、無理矢理近距離戦闘に持ち込まれる。しかし分かる、完全に手加減をされていると。近距離戦闘では分がないということは分かっていたが、全ての攻撃がこちらの武器と防具に当たる。ここまで来れば人によっては侮辱とも思うだろう。しかも当の本人は笑みを浮かべているのだから、こいつの人間性を知っていなければライカと言えどブチギレているところだ。

 

「くっ、怪我をしても文句を言うなよ!!"双射"!!」

 

「言いませんよ、怪我をするつもりもありませんから」

 

「っ、バケモノか……!」

 

至近距離から放った【双射のスフィア☆2】による予備動作なしの二重射撃。スフィアによって生み出された矢は自動で装填され、意思によって射撃される。その間に次の実物の矢を用意し、3本目を射出するのが定石だ。近距離戦闘でも十分な力を発揮するそれは、少数での戦闘の際には弓士にとって不可欠なものと言えるだろう。

……ただそれが対人戦闘においてもそうかと問われれば、そうではない。実際マドカは射出の瞬間に切先を矢の先端と合わせる事で2発に別れる前に粉砕し、そのまま次弾となる実弾を装填させることすら妨害した。

 

「そういう時は即座に矢で攻撃できるといいですね。あとその速度で跳ぶと着地が危ないですよ」

 

「っ」

 

とにかく逃げるために天井を蹴って降りようとしたのは良いが、勢い余って自分の許容範囲を超えた速度を出してしまったライカは、マドカによって腹部に巻かれた鎖によって勢いを落とされ、なんとか無傷で着地をさせられる。

それに伴って遅れて降りて来た彼女は、両手に剣を持ちながら、余った指で器用に鎖を収納していく。変わらぬ笑みを浮かべたまま、冷静に。

 

「ですが、これなら十分に合格ですね。仕上げをする必要もなかったでしょうか」

 

「……合格、なのか?」

 

「ええ、ここまで追い詰めて唯一のミスが今のだけですから。普段使いをする分には問題ないでしょう」

 

「やはり、分かっていて追い詰めたのか」

 

「強化ワイアームはこれ以上です」

 

「!」

 

「強化種と戦ったことがないことを気にしていたんですよね?だから私なりに強化ワイアームの動きを少し再現してみたつもりです。……本物は私以上の攻撃力と体力、そして空中を自在に飛び回り、壁を抉り、薄い毒を充満させながら襲って来る訳ですが」

 

「……よく、そんなものを」

 

「あれは"主従の誓い"のお二人のおかげです、私一人では到底無理な相手でした。……そして気付きましたか?単なる移動という面においても、ライカさんはまだその速度を活かしきれていないことを」

 

「っ」

 

「とは言え、この分野については私よりエミさんに教えを頂いた方がいいと思います。私もエミさんから色々と教わりましたから。その辺りも纏めていつか本にしたいですね、速度重視の探索者は事故を起こしやすいので」

 

「…………」

 

……遠いな、と。

素直にそう感じてしまう。

自分より2つ下の少女、探索者としての歴も自分の方が長いはず。それなのに彼女の存在はこれほどまでに遠く、そして大きく感じてしまう。

彼女は天才であるし、ステータスやスキルにも恵まれている。正しく探索者になるために生まれて来たような人間で、レベルが伸び難いことくらいしか欠点がない。ただそれよりも異常だとライカが感じているのは、その達観した精神性だ。

視点が違う、考え方が違う、そもそも立って見ている場所が違う。日々を必死になって、自分の目の前の物を見ることだけでも精一杯なライカとは違い、この年下の女は常に何処か遠くを見つめている。だからきっと、その過程にあるものに対して、それほど執着はしていないのだろう。

故に遠い、近くには感じられない、身近な人間には感じられない。

……端的に言えば、憧れる。

 

「安心してください、ライカさん」

 

「……?」

 

「今のライカさんなら、強化種との戦闘でも十分な戦力になれます」

 

「!」

 

「そして、こうして1人で高速戦闘を完成させてしまうくらいの努力家さんなら……直ぐにでも、最上位の探索者になることだって出来ます」

 

「……お見通しか」

 

「長い付き合いですから」

 

「まだ4年だろう」

 

「人生の1/5ですよ、十分に長い付き合いです」

 

「それも、そうだな。……あと2年もあれば、お前に勝てるようになるだろう」

 

「あと1年で頑張ってください」

 

「お前の隠し事を考慮しての2年だ」

 

「なるほど」

 

「……だから、言ってくれ」

 

「?」

 

「足りないことがあれば、指摘してくれ」

 

せっかくこれまで見せてくれなかった高速戦闘を見せてくれて、その応用まで教えてくれて、ならばもっと……より多くのことを……

 

 

 

「………それなら先ず。回避☆1のスフィアと双射のスフィアは、可能な限り同時に使用した方がいいです。回避と反撃を同時に行える貴重な機会ですから、追い詰められている状況では有効な手段です」

 

 

 

「次に対人戦闘では回避☆2のスフィアはあまりお勧めしません。移動距離は長く速度も早いですが、前転する必要があるので慣れるまで視界の確保が難しいので。それより回避☆1のスフィアを2つ付けた方が便利な場合がよっぽど多いです」

 

 

 

「それと双射を放つ場合には可能な限り照準時間は短くする方がいいです。双射は不意打性能が高いので、近距離戦闘で使うのであれば弓矢で殴り付けるついでに放つとか、そういう使い方が出来ると最高ですね」

 

 

 

「そもそも高速戦闘を主軸に置くのであれば、武器に工夫をしてみるのもいいかもしれません。せっかくの弓矢ですから、鎖やロープを撃つことで空中での移動手段を増やすのもありだと思います」

 

 

 

「それともし余裕があれば、腕に仕込み矢を付けておくのもいいかもしれません。私はこうやって小杖を仕込んでいますが、仕込み矢であれば威力は下がりますが双射も使えますし、予備の武器としても役割が持てると思います。もしもの時に絶対に役に立ちますからオススメです」

 

 

 

 

「……そんなに沢山指摘されるとは思わなかった」

 

「え、あ、すみません」

 

「いや、勉強になるのは確かなんだ。ありがとう」

 

「は、はい」

 

彼女から見れば、まだまだ不足しているところばかりということなのか。むしろそれくらい期待をしてくれているということなのか。

とにもかくにも。

 

(……遠いな)

 

この感想だけは変わりそうになかった。

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