無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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86.気の合う仲間

「ーーーーーーうぁ」

 

「なにこれ」

 

「リゼさんです」

 

「いや、知ってるけど……なにこのボロ屑」

 

「帝蛇と赤竜の強化種と戦わされた後に、単独で赤竜の前に放り出されたリゼさんです」

 

「ドMなの?」

 

「流石にボコボコにされて負けたそうです」

 

「そりゃそうでしょ」

 

スズハがリゼとレイナの部屋を訪れると、そこには玄関入って直ぐに倒れている黒焦げの服を着て倒れている女と、そんな彼女の体を持ち上げようとしている女の姿。怪我はない……というよりは治された後なのか、どうもレイナが帰って来た時に玄関前に放り投げられていたらしい。気力も体力も尽きていて、状況を聞くだけが精一杯様子。スズハも仕方ないと溜息を吐きながら落ちていた荷物を運んでやる。

 

「で、赤竜倒す方法は見つかったわけ?」

 

「正直リゼさんの大銃を使えばそこまで難しい訳ではなさそうです。帝蛇ほど感覚が優れている訳でもないみたいですし、堅牢な龍鱗もこの大銃の障害になるほどではないですし」

 

「ボコボコに負けてんだけど」

 

「それはこっちの二丁銃を使ったからみたいです、あと全力射撃したせいで身体がガタガタだったんじゃないでしょうか」

 

「大銃だけに専念した方がいいんじゃない?」

 

「これにばかり頼ってはいられませんから。基礎を整えていかないと事故を起こします。大砲として生きていくだけなのならまだしも、探索者として生きていきたいなら基礎能力は重要です」

 

「でもこの世界のレベルって概念、龍種相手に苦戦するのが一番効率いいんでしょ?なんでこいつ帝蛇とばっか戦ってんの?」

 

「……実は以前はワイアームとばかり戦ってまして。なんだかこう、どうも蛇型のモンスターに縁があるというか」

 

「でもレベルは上がってるわね」

 

「え、ほんとですか?」

 

リゼが足に付けている秘石を勝手に除き、そのレベルを確認するスズハ。レイナもいけないとは知りつつも覗き込む。実力が離されすぎてしまうとパーティメンバーとして困ってしまうので、仲間のレベルくらいは確認しておきたいというのは当然だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

○リゼ・フォルテシア

17歳 女性

Lv.14→16

スフィア1:回避☆1

スフィア2:視覚強化☆3

スフィア3:炎打☆2

-ステータス-

初期値30+13→30+15

STR:D11

INT:G+3

SPD:E-7→E8

POW:F5

VIT:D-10→D11

LUK:E-7

-スキル-

【星の王冠】…精神力と引き換えに意識・思考・認識能力を高速化する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……盾にでもなりたいの?こいつ」

 

「実際ステータスは純戦士向きというか、大型の武器を持って前衛で殴り合ってそうな感じなんですよね」

 

「精神力ってスフィア使う時に消費されるんでしょ?魔力もないし、スキルも使えば同レベル帯の近接型より強いんじゃない?」

 

「実際、最初の方はこの大銃を棍棒のようにしてモンスター殴ってましたし。最近はこっちの銃を使っているので、あまり見ませんが」

 

「あんた何Lvだっけ?」

 

「12です」

 

「また引き離されたわね」

 

「……わかってます」

 

「4レベルって、そんなに簡単に縮められるわけ?」

 

「……わかってますよ」

 

今回、本当にリゼが強化種を撃ったのだとすれば、直ぐにもう1つレベルが上がってもおかしくはないだろう。それほどの偉業だ、むしろ2つしか上がらなかったのが物足りないくらい。

ならばレイナも追い付かなければならないが、一緒に成長するのと追い付くというのは全くの別物だ。相手も成長しているのだから、単純にそれ以上の成長を自分はしなければならない。

レイナに足りないのは、地獄を見せてくれる相手。それ即ち、リゼにとってのマドカ……の母親であるラフォーレである。決して死なせず、しかし問答無用で地獄の中へ放り込んでくれる。そういう存在。単純にレベルを上げたいのであれば、そういう相手を見つけることこそが重要になる。優しさだけでは強くはなれないのだ、そういう意味ではラフォーレは名教師と言える。

 

「地獄を見せてくれる人、か……」

 

「レベル上げたいなら良い方法があるわよ」

 

「え?なんですかそれ、聞きたいです」

 

こうして困っている事案に、何故だかあっさりと解決法があると言うスズハ。この世界の住人ではない彼女が、一体どういうつもりなのか。むしろこの世界の住人でないからこその考え方でもあるのか。スズハはリゼの衣服を着せ替えてベッドに寝かせると、身を乗り出して彼女の言葉を待つ。

 

「3日くらいダンジョンに引きこもったら?」

 

「……は?」

 

しかし出て来た言葉は、知的な彼女からは考えられないような脳筋手段で。

 

「例えばレベルを2つ上げるために50時間必要だとする、これを1日5時間の探索で成し遂げるなら単純計算で10日必要だってことでしょう?」

 

「え、ええ、そうですね」

 

「でもこれを1日20時間の探索に帰れば、3日で上げれる」

 

「それ死にますよね」

 

「だから効率が良いじゃない」

 

「?」

 

「3日間、死にそうになりながら必死にダンジョンの中で生きてるだけで、相当レベル上がるんじゃない?モンスターは勝手に襲って来る訳だし、階層主は復活するし」

 

「……事故りません?」

 

「そりゃ事故はあるでしょ、その危険性があるから効率が良い訳だし。全くの安全で成長したいのなら、それこそ時間掛けるしかない」

 

「………」

 

確かに、1〜6階層の間であれば野宿でも何とかなると言えばなる。7階層以降は流石に1人では難しいが、ワイアームを1人で倒すというのにもそろそろチャレンジしたいと思っていたところだ。ただ問題は……

 

「私、1人だとダンジョンに入れないんですよ……」

 

「そうなの?」

 

「記憶がなくて、出自も信頼出来ないので。リゼさんが私の目付役って感じなんです。最近はそれも形骸化というか、あってないような条件になって来てるんですけど」

 

「じゃあ他の人間を見繕って来たら?」

 

「誰かと一緒に籠るってことですか」

 

「それなら7階層以降も行けるんじゃない?」

 

「なるほど……」

 

しかしそうなると、今度は良さそうな相手が見つからない。リゼと潜ればいいというのはその通りだが、それではリゼに追い付けない。あくまでこれはリゼのレベルに追い付くための特訓であり、一緒に特訓しては意味がない。

 

「マドカ・アナスタシアでしょ」

 

「……マドカさんですか」

 

「20階層くらいまで行きたいって言えば、本当に連れてってくれるでしょ。あれは極端なタイプだから」

 

「極端?」

 

「甘い鍛錬を頼めば甘過ぎるけど、過剰な鍛錬を頼めば過剰過ぎる。あれはそういう人間よ。あいつの最初の教え子見たことある?」

 

「"主従の誓い"のお二人より前の方々ですよね、まだお会いしたことはありませんが」

 

「見て分かるくらい目がギラ付いてんのよ」

 

「え」

 

「振る舞いは普通の子供の癖に、目の奥で笑ってない。マドカ・アナスタシアを尊敬の目で見てる癖に、その目が滅茶苦茶に鋭い。畏怖とか、標的とか、敵視とか、そういうの」

 

マドカ・アナスタシアに畏怖を抱えている者は少なからず居たとしても、あれほど心の底から尊敬と畏怖と反心を両立させている人間も居ないだろう。あの姉妹がマドカ・アナスタシアに抱えている異常な心情は、そういったことに過敏なスズハから見ても近寄り難いものだった。そして聞いた話では、あの2人は既にこの街においても最前線に立てるほどの実力を有していると。あの若さでそこまでになるには、相応の地獄を潜る必要がある。そして実際に潜ったのだろう。そしてその地獄に導いたのは、恐らく……

 

「ま、手軽に地獄が見たいなら、あの女に着いていくのが1番ってのは間違いないでしょ。実際そこの馬鹿はそのせいで地獄見てる訳だし」

 

「それは確かに……」

 

「うぁ……」

 

どちらかと言えば、マドカの母親の方に。

リゼ自身も最近何となく感じているようであるが、リゼにとって直接の師に当たるのはどちらかと言えばマドカよりラフォーレである。それくらいリゼはラフォーレに色々と世話になっているし、鍛錬に何度も付き合ってくれるくらいには気に入られている。実際過去まで遡っても、ラフォーレにここまで付き合って貰えているのはリゼくらいである。本人は絶対に認めたくないだろうけれど。それは否定の出来ない事実だ。

 

「……とは言え、もうマドカさんの授業も始まってしまいますから。ダンジョンに籠るのは少し先の話ですね」

 

「で、赤竜の倒し方は?」

 

「何か見つかりましたか?」

 

「……なんであんたら水系の攻撃スフィア持ってないのよ」

 

「そんなこと言われましても……」

 

「マドカ・アナスタシアには現状では確実に勝てる手段は無いって言っておきなさい。少なくとも相手の行動基準でも調べない限りは勝ち目なんて無いわよ。空飛んでる相手に遠距離攻撃手段なしで挑むとか無謀が過ぎるから」

 

そう言ってスズハは自分が持ってきた鞄の中から着替えを取り出し始める。……着替え?レイナがそんな風に不思議に思うと。

 

「あ、言い忘れてたけど今日からあたしここに住むから」

 

「ええ!?」

 

唐突にそんな重要なことを伝えられた。

異様に荷物が多い気はしていたが、それにしても。

 

「マドカの教え子達から放り出されたのよ、クランに入ったんだからクランの仲間と相談するべきだって。流石に他の人間に住居貸せって言うわけにもいかないし、ここしかないの。いいでしょ?」

 

「それはまあ……リゼさんも断らないでしょうし、私も構いませんが」

 

「部屋割りは?」

 

「奥の個室はリゼさんの部屋で、私は大体このリビングで生活してます」

 

「そう、それならあたしも今日からここね。布団の余りある?」

 

「一応ありますよ、安物ですけど」

 

「あるだけマシよ。……ってかほんと、この世界の文明レベルがそこそこ高くて良かったって心から思うわ。布団もあるし、シャワーもあるし、部屋は土足じゃないし、これだけでぜんぜんマシって感じ」

 

「……えっと、研究費用とかも出した方が良いんですよね?」

 

「必要なものがあれば言うけど、それとは別に自由に使える額があると助かるのは事実ね。それ相応の働きが出来るかは保証出来ないけど」

 

「実際こうして赤竜の情報集めて貰ってますし、調べ物とか書類関係を任せられる事務員が居るのは助かりますから。月給制のお給料を出すって感じで良いかなぁと私は思いますよ」

 

「給料制より小遣い制の方が重圧少なくて助かるわ、マドカ・アナスタシアもそうだけど変に期待されても普通に困るのよ」

 

「それなら最初は5万Lくらいでどうですか?そこから必要に応じて相談していく形で」

 

「……お小遣いにしては十分過ぎるくらいね。5万L分の働きは出来る様にするわ」

 

「まあそんなに気負わないで下さい、リゼさんは多分なにも成果が出なくても気にしませんから。リゼさんは一緒に隣に居てくれる人が居るだけで嬉しがる人ですし」

 

「あんたは?」

 

「自分より頭の良い人が分からない様な壁に直面したら、単純に絶望するだけですね」

 

「どんだけ後ろ向きなのよ」

 

「だから頭脳役として頑張って欲しいです。個人的にはスズハさんの存在はとってもありがたいので。自分より頭の良い人が側に居てくれるっていうの、結構安心感強いんですよね」

 

「……まあ戦闘をしない分、それくらいの負担は受け入れてあげるわ」

 

意外にも目の前の女がかなりネガティブな人間だったということに驚きながらも、しかしまあその程度の期待であるのならばスズハにとってはまだ可愛らしい。

自分の頭に自信が持てなくて、重大な決断をすることが難しい、恐ろしい。だから自分より間違いなく頭の良い人が決断をしてくれるのなら、その結果が良かろうと悪かろうとも納得出来る。要はそういうことなのだ、なんとも弱気な人間らしい。

 

「あんた、意外と可愛いわよね」

 

「かわっ……え?」

 

「……いや、何度も言うけどそういう趣味は無いわよ?」

 

「だ、誰もそんなこと言ってないじゃないですか」

 

「単に身近っていうか、健気っていうか、悪く言えば普通なのよ」

 

「なんで悪く言ったんです……?」

 

「ここに来てから普通じゃないっていうか、変な奴としか会っていないから妙に落ち着くのよね。マドカ・アナスタシアとかマドカ・アナスタシアとかマドカ・アナスタシアとか」

 

「スズハさん、実は私よりマドカさんのこと苦手ですよね」

 

「……やばいわよアイツ」

 

「そうなんですか?」

 

「約束してるからあと10年は言えないけど、個人的にはこの世界に来てから出会った人間の中で一番頭がおかしい。というか視点が違い過ぎる」

 

「……本当に苦手なんですね」

 

「慕われる理由も分かるんだけどね、入れ込んだら駄目なタイプよ、アレ」

 

「もう手遅れな人が結構居るんですけど……」

 

「この街は終わりね」

 

「縁起でもないこと言わないでください」

 

そんな冗談を話していると時間も良い具合。リゼは未だにピクピクとしているが、空腹も限界になってくる頃だろう。

レイナは立ち上がり、食事の準備をし始める。

ちなみにスズハは料理はできない。

リゼの料理は全てが豪快だ。

まともな料理はレイナくらいしか出来ない。

これがこのクランの現状であったりもする。

 

「……冷蔵庫もあるのよね、この世界」

 

「魔晶って本当に便利ですよね、その力を上手く変換している技術の方が凄いんでしょうけど」

 

「正直理論だけ説明されても全然実感湧かないのよね。魔力線を引いて魔力を流すんでしょ?その線の形で色々な効果が生まれるとか……」

 

「私もあまり詳しい訳ではないんですけど、その形を新しく1つ見つけるだけで一生食べるのに困らないそうですよ」

 

「ガチの魔法陣とか描いたらどうなるのかしら」

 

「魔法陣っていうと、カナディアさんが魔法を使う時にだけ出るアレですよね?描けるんですか?」

 

「流石に魔法陣は難しいけど、点描写を使えば図形なんて無限に描けるし、それで一攫千金を狙うのもありよね。フラクタル図形とかなんかあるでしょ」

 

「難しい話はよく分かりませんが、私の槍の方も調査をお願いしたいです。本当に私の物なのかも怪しいですが、本当に凄い代物なので」

 

「……意外とやることあるわね。まあ暇しないくらいが一番いいんだろうけど」

 

「一先ず、必要な物があれば纏めて、冷蔵庫にでも貼っておいてくださいね」

 

「母親か」

 

何処の世界でもやることは同じ。

なんだかその様子にスズハは素直に笑ってしまった。

もしかすればスズハと最も気の合う人間は、リゼでもカナディアでもなくレイナなのかもしれない。

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