そしてその日は漸くやって来た。
マドカ・アナスタシアによるはじめての"新人探索者向け"講義。
今回の題目は……"レッドドラゴンの討伐"。
「す、すごい人の数ですね……」
「あ、ああ。改めてマドカの影響力の強さを感じさせられるというか……」
「いや、これ新人と同じくらいベテランも居るでしょ。何しに来てんのよあいつ等」
ギルドに設置されている最も大きな講義室、すべての席が埋まっているどころか、壁際に立っている人間で敷き詰まっているような状況。
流石に席に座っているのは新人探索者ばかりのように見えるが、カナディアやクロノスの様なリゼでも全然知っている人間もここに居るし、果てはこの狭い空間にも関わらずラフォーレまで居る始末だ。
早速前に立っているマドカも緊張した面持ちをしているし、まさか彼女もここまで人が集まるとは思っていなかったのだろう。リゼだってもう少し小規模な物を想像していた。
「あ、えっと……それでは時間になりましたので始めますね。マドカ・アナスタシアです、本日は"初めてのレッドドラゴン討伐"について講義をさせて頂きます。どうぞよろしくお願いします」
拍手が起きる。
特に壁際の人間達から。
ほんと何しに来たんだあの人達。
「さて、ではまずレッドドラゴンの討伐について基本知識から確認していきましょう。手元の資料の1ページ目を広げてください」
リゼは言われた通りに広げる。
今日の講義のためにこれも作ったのだろう、なんとなく内容がリゼが探索者になって最初に貰った冊子に似ていた。
「レッドドラゴンは基本的にLv.15以上の探索者4人以上で対処することがギルドとしては推奨されています。特に火耐性装備は必須、全身を覆い隠せる装備であると良いとされています」
資料には火耐性のマントや大楯など、都市で売られている色々な装備が書かれている。星が付いているのは、恐らく特に有効な装備ということか。
「レッドドラゴンに対峙する際のパーティ編成についてですが、必須となるのは遠距離攻撃です。魔法や弓、銃などを扱う人員を一人は必ず確保する必要があります。特に魔法は水魔法であると良いですね、逆に炎魔法はよっぽどの火力がないとダメージにもなりません。とは言え、炎魔法でさえなければ最悪なんでもいいです」
ちなみにそのよっぽどは間違いなくラフォーレである。実際この前リゼが連れていかれた時、最終的にはラフォーレが赤龍を焼き尽くしていた。赤竜の耐性を上回る威力の炎魔法、それは都市ごと焼き払うことだって可能だろう。
「逆にあまり推奨されない役職は前衛の盾職です。本来であれば龍種の攻撃を防げる盾職は有効なのですが、炎のブレス攻撃が厳しいです。そもそも至近距離での直撃を避けるべきですが、それを防げても今度は呼吸が続きません。基本的にダンジョン内は常に空気の入れ替わりが起きていますが、レッドドラゴンのブレス攻撃を至近距離で受けても余裕を持っていられる様な方は滅多に居ませんね」
なお、これについてはラフォーレの同僚であるクロノスとバルクがそれにあたる。彼等はそもそも普段からそれ以上の炎魔法を受けているので当然ではあるが、そもそもステータスの高さと盾職としての年季が違う。
……まあ、盾職の居ないリゼ達には関係ないのだが。それはそれでいずれ問題が出て来そうでもある。
「最も動き易いのは移動速度の早い探索者になります。ブレス攻撃は離れるほど威力が弱まりますし、ブレス攻撃中はレッドドラゴンは無防備になります。熟練の方々はその隙に最大威力の攻撃を頭部に直撃させて早期の討伐を狙うのを定石としていることが多いです。……個人的には一撃で倒せないのなら翼を狙うことをおすすめします。これをするだけでずっと戦い易くなりますからね」
さて、基本知識はこの辺り。
ここまでならばリゼだって勉強した中で知っている、他の者達も同様だろう。言葉にするだけなら簡単だ。しかし実際に対峙してみて分かったが、あれはそれほど容易い存在ではない。堅牢な龍鱗と龍種の強力な筋力、そしてブレス攻撃はこちらが想像していたよりも遥かに火力が高く範囲が広い。流石に本格的な龍種となるとワイバーンやワイアームのようにはいかないのだ。少なくとも、一人で倒せる相手ではない。リゼは自分が撃ち込んだ二丁銃の弾丸が殆ど効いていなかった時にそれを悟った。翼すら奪うことが出来なかった。
「基本知識については以上ですが、恐らく皆さん思ったと思います。"Lv.20になるまで9階層で引きこもっていなければならないのか?"と」
周りの探索者達が頷く。
「ワイアームを討伐するにしても、Lv.20になるまで一体どれほど倒さなければならないのか。実際それよりも11階層以降で鍛錬をした方が効率は良いでしょう、しかしそうなると他のパーティの後に着いて行くしかありません。実際そうしている方もこの中には居ると思います、そういった依頼を私も何件か頂いたことがありますから」
パーティ同士で組み、数の暴力で倒す。そんな風にして11階層に赴いている探索者も多く、それほどにレッドドラゴンというのは下級〜中級の探索者にとって大きな難関なのだ。そもそも火耐性装備もそれほど安い物ではない。人数を増やせば安定性は上がるが、その人数分の装備を整えるとなるとまた難度は上がる。
「そこで今回私がお教えするのは、理論上ブレスさえ防げば、3人以上のパーティで確実にレッドドラゴンを倒せる方法です」
「「「「「!?」」」」」
講堂が騒つく。
無理もない、リゼですら驚いていたからだ。
マドカが嘘をつくはずがない、しかしそうと分かっていてもとても信じられる内容ではない。周りの者達も同じ意見なのだろう、ベテランの探索者達ですら困惑している。しかしマドカはそれに対して特に表情を変えずに自身の鞄を漁った。
「まず10階層に出現するレッドドラゴンですが、いくつか個体特有の特徴が存在します。何度倒しても同じ個体である以上、その特徴は変わりません」
「特徴……」
「まず10階層に出現するレッドドラゴンは非常に好戦的であり、人間を見掛ければ襲い掛かり、逃げようとすればより追い掛けてきます。そしてこのレッドドラゴンは自身のブレスの有用性を理解している為、ブレスを多用します」
「そ、そうだったのか……」
「よって3人以上でダンジョンに入った時、こちらから先手を仕掛けなければ相手は確実にブレスを使用して来ます。そしてこのブレスについてですが、向かって左側に火力が弱い空間が存在します。これは単なるブレスの癖ですね、右側の牙が異様に発達していることが原因です。よって吐かれた際に即座に左方向へ移動することで被害をかなり減らすことが可能になります」
「…………」
「また弱点と呼べる部分として頭部と心臓は当然ですが、この個体は恐らく生まれ付き翼の骨格に異常を抱えています。丁度翼の付け根辺りのこの部分ですね、ここをこの角度で強く叩けば飛べなくなります」
「「「…………」」」
「最後にダメージについてですが、いくら行動を阻害しても倒せなければ意味がありません。そこで今回使うのがこの2つです。金槌と毒針、この毒針は特注品ですが増産のお願いを既にしてあります。金槌で叩くと時間を置いて内部に注入されます」
「「「…………」」」
「やり方は単純です、レッドドラゴンの腹部にあるこの部分に思いっきり突き刺します。ここは肉体の中でそれなりに柔らく浅い部分にある動脈です、STRがE8もあれば十分に打ち込めるでしょう。全身に回るまでは大体1分弱ですね。特にこの部分を狙うのをお勧めする理由は、炎袋と呼ばれる器官が直ぐ近くにあるため、毒で早期にブレスを妨害することが出来るからです。こうなれば後は弱体化した相手を遠距離から攻撃するだけで簡単に倒せます」
「「「「「「………………………」」」」」」
………
「ということで今話したことを実現出来るだけの基礎が養われていればレッドドラゴンは倒せます」
「「「「「……………」」」」」
「……ええと、あの、聞こえていますか?あれ?」
静寂に包まれた講堂の中で、あまりにも反応がなさ過ぎて全員が押し黙る。それに対して困惑するマドカではあるが、そんなことは当然であり、もうなんかむしろちょっと不審な目でさえ見られていた。それくらい意味の分からない話だったからだ。
(これが、調べるということ……)
レッドドラゴンを倒すために、その為の方法を調べて来いと言われていた。故にリゼもレイナも可能な限りのことを調べ、この日のために備えて来た。……だが、その"調べる"という行為がどれほど浅いものであったのか今思い知らされている。これが本当の、本気で調べる行為なのであると言われているように感じている。
「ええと……一先ず言葉だけでは実感が湧かないと思いますので、今お話ししたことを小規模クラン"夢の足音"の皆様に実演をお願いしています。彼等はここ数日で実際に何度もこの方法でレッドドラゴンを討伐しています、それでは投影しますね」
マドカのその言葉にギルド職員達が灯りを消し、マドカは自分の秘石とスフィアによって投影を始める。
移り始めたのはダンジョン10階層に入る手前の階段。今や9階層は綺麗に元の姿に戻っており、そこには撮影者から見て4人の探索者が装備を整えているのが見える。男性2人、女性2人、パーティのバランスはリゼから見ても安定している。盾役1人、魔法役1人、剣盾持ちの指揮官に、弓を背負い槍を持った万能役が1人。レベルはリゼやレイナとそう変わらないくらいだろう、そして一番重要な毒針を持っているのは……弓と槍を持った身軽な女性。
「装備として共通しているのは火耐性のマント、これがあれば遠距離からのブレスならそれなりに防ぐことは出来ます。毒針を持っているのはパーティの調整役であるルルさんです。ステータスはSTR:E+9、SPD:D+12、言うまでもないですが速度のある方が持つのが一番ですね」
4人は時間になったからなのか、早速ダンジョンの中へと入っていく。撮影役は本当に撮影をするだけらしく、彼等の動きがよく分かるように動いてくれている。慣れているのだろう、とても見やすい。
「さて、先ず注意の一つ目として、レッドドラゴンとの戦闘では対面したら戦闘開始……ではありません。先程も言ったようにこちらの存在を視認した瞬間にブレスを放って来ますから、そもそも足音等に注意して侵入する必要があります」
リゼは大きく頷く。それのせいで開幕殺されかけたし、ラフォーレが魔法で相殺してくれなければどうしようもなかった。流石にブレスの威力は強化種には全く及ばないが、それでも何の対処もしていない人間を焼き殺すには十分過ぎる。好戦的にしても過剰が過ぎるのではないかと思うくらいだ、だからこそレッドドラゴンの危険度は高いと言われているのだろうが。
そして投影された映像の中で4人が遂に10階層に突入した。するとマドカの言う通り、彼等を視認した瞬間にブレスを吐き出したレッドドラゴン。やはり問答無用、むしろそれこそが奴の常套手段なのだろう。そして彼等はマドカの話通り、即座に左側へ向けて走り出す。大楯と剣盾持ちの男性陣が前に、そして魔法役の女性が"バリア"の魔法を目的地に貼りながら。
「まずブレスに関してですが、確かにこれは強力な攻撃です。それは龍種達も理解しているので、これを多用して来るというのは邪龍クラスになっても変わりません。しかしこれが完璧な攻撃手段かと言われるとまた違います。ブレス攻撃の共通の弱点として、攻撃の最中は五感が殆ど意味を成しません」
大楯役の男性が一人で耐えている間に、剣盾持ちの男性がバリアに守られながら更に左へ左へと毒針持ちの女性を誘導していく。そうしてブレスの中から女性だけを逃すと、彼等は煙幕をそこら中にばら撒いた。
ブレス攻撃が収まる、そして直後に盾を強く叩きながら"挑発のスフィア"を使用する男性達。魔法役の女性は"光弾"の魔法をレッドドラゴンの顔面目掛けて射出し、更にその気を強く引いた。挑発のスフィアの使用後も盾を叩き大きな音を立て続ける彼等の目的はリゼにも分かる。
「はい、ここでレッドドラゴンの翼を無力化します。その後からは瞬き厳禁です、効率化された彼等の行動は早いですよ」
煙幕から飛び出し、レッドドラゴンの背中に飛び乗った女性がバッグから鉄製の金槌を取り出し、付け根辺りの部分に向けて思い切り振り下ろす。直後、凄まじい咆哮を上げたレッドドラゴン。リゼは驚いた、あんな金槌でレッドドラゴンの硬い鱗越しにダメージを与えられるのかと。……しかし、よくよく考えればそれは当然の話だった。それほど硬い龍鱗が関節部分に存在していれば、そもそも彼等はまともに動くことすら出来やしない。つまりはマドカの言うその弱点部分には、堅牢な龍鱗というのがそもそも存在しないのだ。
「ここ大事です」
痛みに咆哮を上げたレッドドラゴン、しかしその咆哮に怯えることなく、むしろ勝機とばかりに4人は動き出す。
背中に乗っていた女性は直ぐ様に腹部の方へと周り、魔法使いの女性はバリアの魔法をレッドドラゴンの顎の下に設置する。剣盾を持った男性は一心不乱に前へと走り、大楯の男性は1つの球のような物をレッドドラゴンの頭部に目掛けて投げた。彼等のその一つ一つの行動は、毒針の一撃を確実に与えるための物。
「すごい……」
ポツリとそんな言葉が聞こえてくる。
リゼもそう思った。
あのレッドドラゴンを相手に、主導権をこちらが確実に握っている。レベルが自分達と対して変わらないであろう彼等がだ。
大楯を持った男性が投げたのは破裂と同時に凄まじい音が鳴る音爆弾であった。激痛から意識を取り戻したレッドドラゴンは直後に響いた音爆弾に驚き、直後に顎にぶつかったバリアに混乱する。翼は使えない、飛べない、視線は空を見るばかり、何が起きているのかも理解出来ていないのだろう。そしてそんな無防備になったレッドドラゴンの腹部目掛けて、先程マドカが黒板に描いた正にその位置に目掛けて……正面に回り込んだ女性の毒針が、打ち込まれる。大きく振り上げた金槌が、毒針の背に叩き付けられる。
「はい、これで毒針が打ち込まれましたね」
目的が果たされた事を確認し、女性は剣盾を持った男性に背中を守られながら撤退していく。顎の下に貼っていたバリアが破られ、凄まじい激痛と聴覚が戻ったことにより、冷静さを取り戻したレッドドラゴンがそんな2人に視線を向ける。
再び息を吸い込んだレッドドラゴン、未だ毒はそれほど回っていない。ブレスの阻害も出来ていない。距離の近いこの場所でそれを受けてしまえば、致命傷は避けられないだろう。
「ここからは便利なスフィアの使い方を紹介しますね。これは"回避☆1"のスフィアを持っている方が2人居る時に使える方法です」
剣盾を持った男性と、弓槍を持った女性が何を思ったのかブレスに対して振り返る。しかしそれは決して諦めた訳ではなく、2人は肩を組みながら同時に跳躍すると、交互に空中で"回避☆1のスフィア"を使用し始めた。
ブレスがたどり着くより早く後方に吹き飛んでいく彼等、そしてそんな2人の前に大楯持ちの男性がレイナも使っていた"体盾☆2のスフィア"で割り込むと、今度は"堅盾☆1のスフィア"を使用して全力でブレス攻撃を防御する。そこに再び魔法役の女性によってバリアが貼られれば、ほとんど無傷でブレスを防ぐことに成功した。
周囲からも称賛の声が上がる。
それほどに彼等の連携はよく練られていたものだったからだ。それも互いに信頼関係が出来ているからこその物というのがよく分かる。気付けばベテランも含めて全員がその映像に意識を引き込まれていた。
……そして、それから先の戦況は、一方的だった。
「飛行能力を無くし、ブレスも吐けず、行動も遅くなったレッドドラゴン……この状態を作り出すことが出来たのなら、後はもう何の脅威でもありません」
弓槍の女性が弓矢によってレッドドラゴンの眼を潰し、魔法役の女性が口に目掛けて光弾を撃ち込む。男性陣は彼等から一定の距離を取りつつも"挑発☆2のスフィア"によって気を惹きつけ、動きが更に鈍くなり始めた頃を狙って近接戦闘を行い始めた。
目に向けての弓矢など普通であれば先ず当たらないが、やはり毒の効果がこんなところでも生きているのだろう。しかもその弓矢にも違う種類の毒が塗ってあるそうなのだから、徹底している。
そうしてそれからレッドドラゴンが灰に変わったのは、ブレスを防いでから5分もしないうちのことだった。彼等は本当にレッドドラゴンを自分達の力だけで倒したのだ。中位の探索者でも数を揃えなければ苦戦すると言われていた赤龍を、最低限の装備で。
「はい!ということで、見事レッドドラゴンの討伐に成功することが出来ました!素晴らしい連携でしたね、100点満点です。皆さんも映像越しにですが、彼等に拍手を送ってあげてください」
映像の中でハイタッチを交わす彼等に対して、拍手を送らない者はいなかった。ラフォーレさえも素直に拍手をしていた。マドカの指示だからということもあるかもしれないが、それでも認めているものがあるとリゼには分かる。
動きや魔法の威力を見れば誰からでも分かるのだから、彼等は特別ステータスに偏りや特殊なスキルを持っているわけではないということを。
「クラン"夢の足音"の皆さんは、1年ほど前に幼馴染同士で結成された小規模クランです。最近まで皆さんと同じようにレッドドラゴンの討伐で苦悩されていたのですが、パーティとして模範的な彼等を見込んで今回のことについて協力をお願いさせて頂きました」
つまり本来なら彼等もここに居たであろう者達である。正に自分達と同じ悩みを抱えていた人間が、ここまでの偉業を見せた。レッドドラゴンという難関の敷居が、一気に下がったようにも感じられてしまう。……いや、実際にマドカは下げたのだ。そのためにこの講習を開いたのだ。
「ここまで組み立てるのに費やした時間は約2週間です。しかし実際に討伐を成功させるまでは1週間もかかりませんでした、その時はマント以外にも火耐性装備が整っていましたからね。慣れてからは最低限の装備でシナリオ通りに進め、少しでもミスをすれば撤退するようにしています。ちなみに現時点でシナリオは2通り作ってあります。資料に両方載せてありますので、それを参考にご自身のパーティに合わせて作り替えてみて下さい」
リゼは思った。
今日配られたこの資料、これからとんでもない値段で出回ることになるのではないかと。これはそれほどに貴重な代物だ。まあどうせギルドの方で公式配布されることになるだろうとは思うが、まさかギルド側もここまでの内容とは考えていなかった筈だ。
事実、なんだかギルド職員達が慌ただしそうにしているのが目の端で見える。きっと増産の指示を慌てて出しているのだろう。
そしてリゼもその資料を見ながら自分のパーティでのことを考えてみるが、今回こうして別のパーティの戦闘を見せられて、改めて思ったのが盾役と魔法役の重要性だった。
特に仲間を背に守れる大楯には銃士として強く魅力を感じるし、バリアの魔法についても守りだけでなく拘束にも役立つという汎用性の高さに驚く。
レイナはまだしも、リゼがいる時点でこの資料そのままの手段を使用することは出来ない。他にシナリオを自分なりに考えなければならないと理解はしているが、それもなかなか難しそうだ。やはり人員を増やすことを考えなければならないのだろうが、それでも敷居が間違いなく下がったというのもまた事実。レイナであれば間違いなく毒針の役割を担えるのだから、リゼはそれについては信用しているし、むしろ毒針を使うまでもなく彼女の全力の攻撃力を叩き込めば突破できるとすら思う。
「さて、講義の主な内容としてはこんな感じなのですが……実はギルドの中に私の席を設けて貰うことが出来る様になりました。場所は探索者受付窓口の直ぐ横です」
「マドカの……」
「ですので、私はこれから大体そこに居ることになります。もし今回の件で"自分なりにシナリオを考えてみたけれど自信がない"というような方が居ましたら、どうぞ私の元に相談しに来て下さい。……もちろん、他の相談事でも構いませんよ。講義は大体1〜2週間に1回を予定していますが、初心者さんに向けた集団訓練なんかも行っていく予定です」
それはつまり、これからマドカに対して皆が気軽に相談事を出来る様になるということ。その貴重さをリゼは理解出来ていないが、彼女の教え子という立場に羨ましさを覚えいた者達からすれば、思わず声をあげてしまうのも無理もない話であった。
そしてそれは中位以上の探索者達にとってもそうだ、悩みを抱えている探索者などいくらでもいる。
「さて、最後に何か質問はありませんか?……今思い付かなければ後からでも構いませんが、出来れば今してもらえると有り難いです。それを皆さんに共有することも出来ますから」
「……それなら俺から」
「あや、クロノスさんですか。私に答えられることがあれば是非」
「ああ、悪いな。これは他の龍種の対応についてもそうだが、映像の奴等も苦戦してたが、そもそもブレス攻撃に対しての対抗手段が無さすぎる。なんか良い方法はないか?」
「……そうですね」
これはこれから先も"龍の飛翔"と呼ばれる討伐を繰り返していかなければならない、この街の探索者だからこその悩みだろう。クロノスも多くの龍種と戦って来た、彼は数年前の邪龍候補との戦闘にも参加していた人間だ。そんな彼でもブレス攻撃を脅威と感じている、あれは単純だがそれほどのものだということ。
「簡単な方法として、敵の口を塞ぐというものがあります。しかしこれは言わずもがな非常に難しいです」
「まあ、そうだな」
「しかし逆に口を開いたまま拘束するという手段も存在します」
「口を開いたまま?」
「では皆さん、一度試して欲しいのですが、口を開いたまま息を吸い込んでみて下さい」
そんなことを言われてしまうと全員が口を開けたままなんとか息を吸い込もうとしている間抜けな光景が生まれてしまうのだが、なるほどこれは確かに難しい。吸い込むには吸い込むことはできるが、普段よりも吸い込む量が確実に少なく、吐く量もまた少なくなってしまう。
「頑丈な槍なんかで口を開いたまま固定することが出来れば、ブレスを無効化することは可能でしょう。ただし槍の大きさが合わないと意味がありませんし、そもそも手や尻尾などで取り払うことも出来てしまいます。……それでも、それは無意味ではありません」
「それを取り外すという手間と、思考を割かせる事が出来るってことか」
「そういうことです。そもそも口の中の物を取り出すって割と器用な行為ですし、激しい戦闘中ほど有効だと思いますよ。専用の武具を作るのもありかもしれません、こう伸縮が可能な頑丈な棒のような物を」
そんなクロノスの質問の後、ベテランの探索者を中心に時間いっぱいまで質問が飛び交った。彼等がここに来た理由もリゼはその時になってようやく分かったというか、彼等は自分達も当然分かっていることも質問し、マドカとの間でその質問の意味や答えの理解をわざわざ解説しながら若い探索者達に共有していたのだ。
いつかは自分も彼等のような大人になりたい、そう思ったのはリゼだけではないだろう。