無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く   作:ねをんゆう

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95.英雄試練祭1

それから3日後。

もう既に日が昇りかけているような早朝からでも騒がしい喧騒が聞こえてくるようなそういう日は、まあどうしたって自身の感情も昂るもの。"都市成立祭"などという名ばかりの静かな半祝日と比べれば、これこそが正に祭りという活気がそこにある。

 

「さあ!さあ行こう!祭だ!お祭りだ!!私はこういうのが初めてなんだ!!」

 

「はいはい、いいから少し落ち着きなさい。今から行ってもまだ屋台もやってないわよ」

 

「そ、それよりリゼさん。寝癖がまだ少し直ってませんから、ここに座ってください」

 

「う、うん……す、すまない。どうにも昨日から落ち着かなくて」

 

「ふふ、リゼ楽しそう」

 

「早めに寝かせて良かったわね、ナイスよレイナ」

 

レイナの提案で昨晩はいつもより2時間早く寝床に着いた4人。それはもう完全にリゼのためだけでしかなく、予想通り彼女が寝息を立て始めたのはそれから3時間後のことであった。しかも大体3時間が経った頃に自分でも全く眠れなさそうな事に気付き焦り始めてしまったのか見るからにオロオロとし始めた彼女を見かねて、スズハがクリアとレイナに添い寝をするように指示しなければならなかったような有様。その上、そうしてみればものの数分で寝息を立て始めたのだから、こいつは本当に小学生かとスズハも呆れてしまったほどだ。

……まあ、その大きな図体に見合わず可愛らしいと言われればそうなのだろうが。

 

「戸締まりした?灯りと火の元確認した?」

 

「ええ、私が確認しました。リゼさん忘れ物はないですか?スフィアとか財布とか」

 

「だ、大丈夫……な、はずだけど。少し確認してもいいかな」

 

「……クリア、あんた何で手ぶらなの?」

 

「?いつもこうだけど」

 

「財布は?」

 

「お金はここにあるし」

 

「財布代わりに封筒持ち歩いてる奴、私初めて見たわ」

 

「あ!手拭いがない!」

 

「だから小学生かお前は」

 

「スズハ、小学生ってなに?」

 

「私の世界で6歳くらいから学校に通ってる奴等のこと」

 

「すごい悪口を言われてた!?」

 

そんなことを話しながら、部屋を出て4人で祭りの会場へと足を運ぶ。会場とは言っても街全体が探索者や他の町から押し寄せた一般客のために何かしら用意をしているため、それこそ全体的に盛り上がっているという感じではあるのだが。だからこそ定期的に足を止めて目を輝かせるリゼは一先ず目的地に着くまでは左右をクリアとレイナに挟まれて、レイナに手を引かれながら先導される羽目になったりしたのだが、それもまた一興。

しかしこうして見ると諸々と不思議な店があるものだと改めてスズハは思ったりもする。薬売りだとか食品売りとかはまあ分かるとしても、少女2人が営んでいる錬金術研究所だとか、魔晶製品だとか、何より魔力を利用していない普通の機械製品が他の何より遥かに高額であるのがまた不思議なところ。機械技術が進歩していないというより、そもそも必要とされていないという感じなのだろう。だからこそ、魔力無しで動いているそれを珍しげに見ている人も多いし、買っているのも金持ちそうな人間が多い。

まだまだスズハもこの世界に関する理解が深まっていないということだ。何より錬金術などという言葉はこの世界に来てから初めて聞いた。そんな物が本当にあったのかと、少し驚いているくらいだ。

 

「ギルド裏の鍛錬場でしたよね、マドカさんが担当してるのって」

 

「うん。昨日なんか改装してたから、多分そう」

 

「へえ、私はなんだかんだで行ったことがなかったよ。そんなところがあったんだね」

 

「治療院のリハビリ場としても使われてるから、いつかお世話になるかも」

 

「あ、あはは、そうならないといいのだけど……」

 

「………あれ?」

 

そうしてギルドは向かう階段を登り始めた頃、レイナは人混みの中に"それ"を見てしまい、思わず立ち止まってしまう。そんなレイナに気付き、同じように足を止める3人。

 

 

「…………え?」

 

 

レイナが見つめていた視線の先、そこに同じように目を向けて呆然としてしまったのはリゼ。何故ならそこに居たのは、彼等が正に今こうして会いに行こうと思っていた目的の人物:マドカ・アナスタシア。

しかし問題なのは、そんな彼女が楽しそうに"手を"引いている1人の『男性』の存在だ。

 

……そう、男性。

 

背が高く、身体もしっかりしていて、なにより美形。周囲の女性達がその姿を見ると思わず振り向いてしまうようなそれに、怪しさが見えてこない愚直な雰囲気をした、好青年。

 

そんな彼とマドカが、2人で"手を繋いで"走っているのだ。マドカ・アナスタシアが嬉しそうに彼を連れて行くその姿は、見る人が見れば、というかそれを見てしまったリゼからすれば…………恋人のような間柄にしか見えなくて。

 

 

「ぁ………ぇ………?」

 

 

「ヨシっ!!」

 

「レイナ、気持ちは分かるけど落ち着きなさい。流石に全力でガッツポーズするのはやり過ぎよ」

 

ガッツポーズどころではない。左手でガッツポーズしながら右手で正拳突き、彼女がこれまで見せて来た中で最高の感情表現である。

……とは言え、リゼやレイナが考えていることが事実とは、少なくとも色々と知っているスズハには考え難い。そこでこの街についてよく知っているであろう彼女に意見を聞いて見る。

 

「クリア、あの男誰か知ってる?」

 

「え?あ〜………なんか見たことあるかも。なんか剣術道場から3人で来た、みたいな」

 

「マドカの恋人なわけ?」

 

「違うと思う。マドカの恋人って、どっちかって言うとカナディアさんじゃん」

 

「「あ〜……」」

 

「ぐふっ」

 

上げてから落とす。思わぬところから放たれた凶弾に撃ち抜かれたリゼは思わず膝を突きそうになってしまったが、そんな4人に気付いたのはどうやら相手方も同じだったようだ。

例の男性を引き連れていつもの笑みでリゼ達の方へ走ってくるマドカ。それを見てリゼのHPはひとまず笑顔を返せるくらいには回復した、単純なものである。

 

「おはようございます皆さん、今日は大丈夫そうですか?」

 

「あ、ああマドカ。私達は大丈夫だよ、ちょうど今顔を出しに行こうと思っていたんだ」

 

「そうだったんですね。……?なんとなく顔色が悪い気もしますが」

 

「ああ、別に気にしなくていいわよ。それより私としてはそっちの男性の紹介をして欲しいところなんだけど」

 

「え?あ、ああ」

 

やはりこうして前にすると、彼の身長はリゼと同じか、それより少し大きい。特に十分な鍛錬と実践経験によって生まれたのであろう、がっしりとした肉体は、正しく男性美といったところだろうか。男性も憧れる男性の姿とはこういうものなのだろう。

そんな彼はこうして女ばかりの集団を前に何となく居辛そうにしており、そんなところからも彼の真面目さが伺えてしまう。‥‥そしてそれ以外にもなんとなく感じる、湿っぽさ。

 

「こちらはベインさんです。私と同じ中級の探索者さんでして、最近あまり顔を見ていなかったので、こうして連れ出して来たんですよ」

 

「ど、どうも。リゼ・フォルテシアです」

 

「レイナ・テトルノールです」

 

「スズハ・アマギリ」

 

「クリアでいいよ」

 

「あ、ああ。ベイン・ローガーデンだ。……その、よろしく頼む」

 

その辺りの区別がどうなっているかは知らないが、お前は間違いなく上級の探索者に区分されるべきだろう、というマドカに対するツッコミはさておき。

リゼに差し出された右手を握り返して挨拶を返すその様子を見れば、この女性ばかりの空間に少しの抵抗感はあるにしても、女性自体が苦手という訳ではないらしい。

特に事前にあったクリアの話の通り、彼は背中にスズハの身長よりも遥かに大きな鋼の大剣を身に付けており 、スフィアもしっかりと装着している。

 

「……すごいな」

 

「え?」

 

「あ、ああ、いや、すまない。俺と同じくらいの身長の女性を見るのは初めてで、少し驚いてしまったんだ。気を悪くさせるような話であったなら謝らせて欲しい」

 

「ああ、なるほど。私は気にしていないから大丈夫だよ。自分の身体の大きさにも今は感謝しているくらいなんだ、貴方ともこうして目線を合わせて話すことが出来るからね」

 

「………彼女はもしかして女性に人気があったりしないか?」

 

「御明察」

 

「これからもっと人気になります」

 

「いいよね、リゼ」

 

「ああ、君達もそういう……」

 

流石にマドカから気に入られているだけあるのか、少なくともスズハにはその青年が普通にまともな人間に見えた。少し顔色が悪そうではあるが、下心のようなものも見えて来ない。

これだけの美人に囲まれたのなら、少しくらいそういう気持ちが湧きそうなものでもあるのだが。女性慣れしているのか、それとも……

 

「ということで、ベインさんのことは皆さんにお任せしますね!」

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

「ま〜たこいつは……」

 

「私これから出番なので!また後でお会いしましょうね!それでは!」

 

「お、おいマドカ……!」

 

「………行っちゃいましたね」

 

「私はなんとなく予想してたけどね」

 

「マドカっぽい」

 

取り残された女4人と男1人。

凄く居辛そうな彼に対し、出来ることはただ一つだろう。少なくともこうして任されてしまった以上は、彼を放ってマドカの元へ行くことも出来ないし、そもそもそんなことをする我らがリーダーでもないのだし。

 

「よし!それじゃあ行こうか!」

 

「切り替えが早いな!?」

 

「マドカがああ言ったんだ!さあ!マドカの勇姿を見に行こう!」

 

「ああ、なるほど、君はそういう……」

 

マドカ・コンプレックス、つまりはマドコンなのか……とまでは口にすることはなかった。それを言ったところで毒にも薬にもならないのだから。一先ずはマドカが人を押し付ける程度には信頼している人間という以上の情報は、必要ない。

 

 

 

 

『……という訳で、本日は基本的に私がこの区画で皆さんのお相手をさせていただくことになりました。ただし、お恥ずかしい話ではありますが私はそれほど体力に自信がある訳でもありません。そこで、私の休憩時間中は自慢の愛弟子であるこちらのお二人に代わりをお願いしています。ささ、マイクの前に』

 

『は、はい……!』

 

『ん……』

 

ギルド前の広場で行われた開会式、その後の各区画での説明会にて彼女は司会を担当していた。こんな重要な役割があったのならば、時間に焦るのも当然の話。しかしそれでも彼女は涼しい顔をしてその役割を全うしているのだから、そこは流石としか言いようがない。

そしてそんな彼女がギルド裏の鍛錬場で行われる"試練"についての説明をしている最中、紹介をされた2人の少女。恐らくは双子であるのだろうが、リゼからして見れば本当にただの少女にしか見えて来ない。しかしそんな彼女達こそが、マドカの最初の教え子達である。つまりは、リゼの先輩。

 

「どうも今日の今日まで延々とダンジョンに潜ってたみたいよ」

 

「なるほど、だから訪ねてもいらっしゃらなかったんですね」

 

「……マドカはすごい実力者だと言っていたが」

 

「ベインさん知ってる?」

 

「え?ああ……」

 

どれだけ顔がイケていようがなんだろうが、全く興味を示すことなく自然体で接してくる変わった少女達に囲まれて、なんとなく慣れて来たベインは解説役に回される。まあこの中で一番この街について理解が深いのがクリアという時点で仕方がないことではあるのだが、彼等にはこういったことに関する知識がない。そこで少なくとも数年はこの街で探索者をして来たベインは非常に便利な存在であった。ベインとしても、そういう使い方をされた方が接しやすいというところ。少なくとも会話の糸口にはなり無言の時間は続かなくなる。

 

『ステラ・ブローディアさんと、リエラ・ブローディアさんです!皆さんよろしくお願いします!』

 

『よ、よろしくお願いします……!!』

 

『お願いします……』

 

ブローディア姉妹。

その名前は探索者達の間ではそれなりに有名なものであり、何よりマドカ・アナスタシアの教え子という名前を広めた張本人達である。

 

「"右手の鮮血"リエラ・ブローディア、"左手の冷血"ステラ・ブローディア。彼等は何処のクランにも所属することなく活動している珍しい探索者だ」

 

「え、クランに所属していないのかい……?」

 

「ああ。彼等は税金なり制度なり、そういったことには興味がないみたいだからな。余計なしがらみに縛られることも嫌なんだろう」

 

「へえ、割と話せる子達だったけどね」

 

「今は大分落ち着いているが、この街に来たばかりのころは相当に荒れていたと聞いたことがある。それこそ、身分証明が出来ず文字も読めず、最初はギルドで大暴れをしたらしい。それを見兼ねたマドカが手を差し伸べた、というのが切っ掛けだそうだ」

 

「……どこかで聞いた話ですね」

 

「わ、私は暴れてはいないよ!?」

 

「それとラフォーレ・アナスタシア、つまりマドカの母親に師弟関係の解消を迫られたことがあったそうだが……計24回も挑んで無理矢理折らせたらしい」

 

 

「「頭おかしい」」

 

 

「……リゼ、あんたもそういうこと言うのね」

 

「頭おかしい」

 

「あ、これマジな時の反応なのかしら」

 

「頭おかしいですよ……」

 

「ああ、俺もそう思う」

 

つまり今目の前でマドカから紹介を受けて頭を下げている2人は、24回もラフォーレ・アナスタシアに喧嘩を売り、24回も返り討ちにあっているということだ。むしろ24回目でラフォーレが漸く折れただけであり、それがなければ何十回でも何百回でも同じことをしたのではないだろうか。

それは正しく狂気と言っていいだろう。

ラフォーレがリゼという教え子を曲がりなりにも今では認めてくれているのは、この2人のその狂気があったからこそなのかもしれない。

 

こうして見ている分には本当に何の変哲もない可愛らしい女性達にしか見えないのだが、やはり諸々で聞こえて来た噂話は本当らしい。

 

『それでは!これより15分後から早速"試練"を開始したいと思います!希望者の方はあちらの受付にお並びください!また、今回は見学用としてギルドと治療院の一部をお借りしています!見学者の方々も職員さん達の誘導に従ってお進みください!』

 

 

 

「さて、それじゃあ移動しましょうか。予定通り私とクリアは場所確保して来るわ」

 

「私とリゼさんは受付をして来ようと思います。ベインさんはどうされますか?」

 

「ああ、一応マドカから試練に参加するように言われている。受付に同行しよう」

 

恐らく、ダンジョン2階層の方でも同じように説明会が行われている頃合いだろう。開会式を終えた中央広場は投影のスフィアを使った観戦会場に変わっているし、日除けのテントと共に用意された椅子やベンチ、丸机なんかに座り始めた一般客達に、様々な飲食店の売り子達が歩き始める。

 

ようやく祭がはじまったのだ。

 

最高峰の探索者達の実力を知ることが出来るお祭りが。

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