トム・リドルのヘビィなアイ   作:空飛ぶほうき君

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灰被り蛇の後編。

突撃!マルフォイ邸のお誕生日パーティー回。



ロケットの代償はいくらか。


第11章  灰被り蛇 後編

 トムは黒にエメラルドグリーンのアクセントが入ったスーツ、私は紺のタータンチェック柄のスーツに身を包み戦場へ出陣。黒々としたトムの隣にいるとやや地味な印象に見える。だが、それが狙いである。こういった場では出来得る限り目立ちたくない。

 

 邸宅で開かれたアブラクサス・マルフォイの誕生日パーティーは、ガリオン金貨の香りが漂っていた。

 

 広大な敷地に聳え立つ邸宅の玄関で、暇なく働く屋敷しもべ妖精に招待の有無を確認後、広いホールへ。豪華なシャンデリアがギラギラ輝き、豪勢な食物の乗った長テーブルを色とりどりの花々が美しく飾る。

 まさに貴族の生誕日を祝うに相応しい会場で、マルフォイ夫妻&アブラクサスの純血親子がふんぞり返って招待客をさばいていた。

 

 純血に囲まれた完全不利な状況に怯まず金持ちの輪へ突撃。小脇の捧げ物をしっかり抱え人々を通り抜けて行く。

 

 言うまでもなく、誕生日パーティーへ出席するなら主役へプレゼントが必要だ。そうそう。金で手に入らない物などマルフォイ家に存在しない。金をかけた所で無駄である。生徒かつ、子供へ与えても問題なく軽視もされない品が最善。丁度研究で作りすぎた砂時計が余っていたので、外観を美しく装飾し、魔法を何個か掛けて包装した。

 トムがどんなプレゼントを用意したのか興味があるが、詮索など野暮はせずこの先を心配するのに費やそう。

 

「ごきげんよう。本日はお招きいただきありがとうございます。お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます、ダンブルドア教授。僕の誕生日パーティーへようこそ。父から貴方が参加すると聞いて楽しみにしていました」

 

 ほくそ笑むオフェアリス・マルフォイとその妻へ、挨拶と招待の礼を言い、意味深に父親とニヤつくアブラクサス・マルフォイを祝う。それからプレゼントの小包を渡す。

 マルフォイは包みの重さを手でさり気なく測り、暫し眺めて検分を終えると、傍に走り寄る屋敷しもべ妖精へ包みを突き出し、妖精が恭しく受け取った。

 

 儀式を終えて少し下がり、後ろに潜むトムの背を優しく押して前へ引きずり出す。

 挨拶したまえ。

 

「初めまして、トム・マールヴォロ・リドルです。ご招待ありがとうございます。お誕生日おめでとうアブラクサス」

「ありがとうトム」

 

 控えめだが、輝く笑みでマルフォイ家に愛敬を振りまくトム少年。無を体現した虚無面は消え、ホグワーツの優等生及びホラス・スラグホーン教授お気に入りのスリザリン生が、深緑の細長い形をしたプレゼントをマルフォイへ渡す。

 

 少年の変わり身の早さに、いつ見ても鳥肌が立つと同時に感心もする。

 彼は仮面を被るのが非常に上手い。孤児院で生き残るために磨いた処世術の一つだろう。

 

 将来の闇の魔法使いポイント50点! 

 

 トムのプレゼントの検分後、一度目と同じようにマルフォイが腕を横へ振る。受け取った妖精が深々と頭を下げ、小走りでプレゼントの山が乗った台へ走り寄り、山に二つの捧げものを加えた。

 

「よくぞいらした。ダンブルドア、リドル君。君のことは息子からよく聞いている、リドル君。なんでも素晴らしい才能を持っているとか」

 

 地味な変身術教授とホグワーツ期待の新星を、なんとも面白そうに交互に見遣るマルフォイ家当主。傍で当主夫人がクスクスと上品に笑んで話に加わる。

 鈴を転がすような声で愛らしく笑む当主夫人、イーシス・マルフォイ。

 冠状に編み込んだ黒髪へ飾られたサファイアの髪飾りを煌びやかに光らせ、温和な雰囲気でイーシスが語りかけた。

 

「ごめんなさいね。この人は珍しいものに目が無いの。アブラクサスがお世話になっています、ダンブルドア。リドル君、息子と仲よくしてくれてありがとう」

「イシー! 仕方ないだろう。こんな機会、数百年あるかないか……」

「ほらほら、他のお客様へもご挨拶しないと。パーティーを楽しんでくださいね」

 

 会話は終わり、と頷く夫人と拗ねた様子の当主、呆れた顔の息子へ頭を下げてその場を去る。

 

 トムを伴い、閑散とした窓際へ避難。

 暗い色のカーテンへ溶け込むのに最善を尽くす。

 

「トム、あそこに好きなだけ飲食可能な魔法のテーブルがあるから行ってくるといい。もしかしたら友達が見つかるかもしれないよ」

 

 訝し気なトムを少々強引に食物の暴力へ向かわせて一人の時間を味わう。

 顔に手を当て大きく息をつき、懐中時計を取り出す。

 おいおい。まだ三十分も経っていない。

 

 ファーストコンタクトを命辛々成し遂げたものの、地獄の宴は始まったばかり。

 明らかにマルフォイ家はトムの一発芸を楽しみにしていて、オフェアリスは予想通りトムを見る目が悍ましかった。ロケットが本当に手に入るか些か不安。いや、だいぶ不安だ。

 しかし、あの男は後ろから刺したり煙に巻くことはあっても、正面から理不尽に奪い取る真似はしまい。

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。まずは社交界のゲームをどう生き残るか考えねば。

 飲料を運ぶ通りすがりの屋敷しもべ妖精から白ワインを受け取り一気に呷る。

 

 アルコール度数の低く甘い酒を気に入り、もう一杯貰う。グラスを回しながら窓の外を眺め気を紛らわせていると、ガラスに反射した見慣れた姿が近づくのが見えた。

 獅子身中の虫。ホラス・スラグホーンの出現だ。

 

「ここにいた!」

 

 ホラスの隣にトムが手ぶらで控え、トムの背後にオレンジジュースと軽食の乗った皿を持つメレディス・レストレンジが侍る。さも当然だと言わんばかりにレストレンジから飲み物を渡され、優雅に飲むスリザリンの化身にワインを吹きそうになった。

 腰巾着から使用人へ華麗に転身を遂げたレストレンジがいそいそ軽食の皿を渡す。

 

 たったひと月で、名家の純血一人を使用人へ調教した手腕に内心引くが顔に出さない。

 口角の痙攣はご愛敬。

 

「お帰りトム。こんにちはお二方。見つかってしまったな、ホラス」

「なあアルバス、もっと人前に出ろ。君ならすぐ人気者になれるのに勿体ない」

「あぁ、やめてくれ。今日はマルフォイが主役なのだから、私は目立つ必要ないよ」

 

「フゥム」と顎を撫でて考えるホラスに、嫌な予感がしながらも「誰も私を探していないな?」と思わず聞いてしまった。予感が的中したようで、ホラスが頷く。

 

「まぁその、そうだな。誰かいたかもしれん」

 

 広いホールを見回し、とあるご婦人を見つけた魔法薬学教授が「ほれ、あそこの。ギボン夫人だ」と横目で告げた。

 まさにこの言葉が詠唱された瞬間、こちらを認識したが如く夫人が顔を向け、目が合うと笑顔で近寄ってくる。咄嗟にホラスガードを挟むも、発見後に隠れたので意味無し。逃げ場を急いで探していると、見知らぬ男を伴ったマルフォイ家とヘプジバ・スミスが歓談のひとときを過ごすのが見えた。

 これ幸いとトムを引き連れ現場を離脱。相変わらず使用人君が付き従うが無視。

 

 以前、別のパーティーでギボン夫人が耐え難い提案をした。

 多分またあの話題を掘り返すつもりだろう。そうはいかん。逃げるぞ。

 

 

 

 分家の、それも、生まれたばかりの赤子を許嫁になんて、冗談でもやめろ。

 

 

 

「急かして悪いね。彼女とは、ちょっと……居づらくて。さあトム、もうすぐ受け渡しが始まる。準備は?」

 

 沈黙を貫くトムの肩に手を置く。小さく肩が跳ね、緊張、怒り、恥、不安が入り混じった混沌とした表情が浮かび、すぐさま消える。この、もうすぐ十三歳になる少年はゲラートや私のような怪物ではなく、あまりに自分の心を隠すのが上手なだけの子供だった。

 

 見て見ぬ振りをして敵視できたらどれほど楽か。怪物だ、敵だ、闇の魔法使いだ、倒せと。

 その醜い感情を抱くたび、恐怖に負けて恐ろしい行為を成そうとするたび…

 自分の何かが止めた。

 

 自分だが、自分ではない曖昧な存在。心の隅に潜む異質なモノが脳みそに影響を及ぼすのだ。

 顕著なのはトムとの接触時。家族の思い出を痛みに溺れず思い起こさせた、あの衝動。まるで、誰かの意志を自分の意思だと思わせるように”私”を操る。

 

「金持ちの前でピエロを演じると言ったね。君は正しい。これは見世物だ」

 

 もしかしたら私の心は最初から曲がっていたのかもしれない。

 ならそれは、ひん曲がった根を真っすぐにしようと奮闘する善なる心? ありそうもない。

 

「イギリスの魔法界を牛耳る名家がこの場に山ほどいる。トム、君は彼らのゲームを生き残る必要がある。勝者は彼、彼女ら。これは勝敗が決まったゲームなのさ。君や私がどれだけ困ろうが侮辱されようが、彼らにとっては娯楽。ただの楽しい遊びにすぎない」

 

 少なくとも、誰かの脳に巣食って意思を押し付ける存在を善と呼びたくはないし、自分に善の心がスプーン一杯でも残っていたなら、アリアナは死なずにすんだ。

 コレは私でなく、悪い存在でも善の存在でもない。トムへの反応はそれを示す。

 

「巻き込んですまない、トム。もっと静かに行動できていたらよかったのだが。……君はこれより、今まで以上に良くも悪くも注目されることになるだろう。この世界には血統が重要な意味を持つと考える人々が大勢いる。実に、馬鹿らしい」

 

 最近妙な夢が再発するわ、自分の意思が一つじゃない問題が発覚するわ、散々な目に合っている。

 

 ゲラートや戦争の状況を収集し、ドイツ魔法界の動向を探り、同盟者を集め、ホグワーツで教壇に立つ。睡眠薬とウィゲンウェルド薬でごまかしごまかしやってきたが、そろそろ休憩を挟まないとどこかで倒れるやもしれん。

 

「血統を重んじるばかりで個人の能力や功績を軽んじるなどもっての外。彼らが許しても私が許さない」

 

 私、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアは、ゲラートが離れようが家族が亡くなりアバーフォースが厭悪しようが、あるがままの自分と共存し生きながらえてきた男。本格的に頭が狂ったとしても、その狂った部分と共存してみせよう。

 機会があれば聖マンゴへ寄ることを心のメモへ書き記しておく。

 

「ここまで長々と語ってきたが、なに、気楽にやってくれトム。蛇語を喋る、ロケットが手に入るってね」

 

「……大丈夫」

 

 肩に乗せた手を軽く握って離し、本心からこの言葉を贈る。

 

「たとえ何があろうと、傍にいる」

 

 

 

 

 

 豪華絢爛なホール中央に集うマルフォイ家とスミス婦人。

 グループに混ざる黒髪の男が笑顔で頷く。

 

 歩み寄る我々を確認したオフェアリスが話を打ち切り、顎を高く上げ、響きの良い声で告げた。

 

「どうぞこちらに」

 

 スミス婦人のもとへトムを向かわせ、すぐ後ろで待機。

 黒地に金の細工が施された豪奢なケースを持つ婦人が黒髪の男へ目配せする。頷いた男がトムの近くまで寄ると、ゆっくり片手を上げた。

 

 男の首に巻かれた灰色の長いストールが有機的に蠢く。首から胸、右腕に巻き付くにつれ厚みが増し、鱗が生え、頭部を形成。フードを広げた灰色のインドコブラが頭を持ち上げて現れる。

 

 どうやら蛇を用意するという言葉は本気だったようだ。

 わざわざ他人様とその蛇を招き入れたのか、もとより呼ばれていたかは、オフェアリスとその家族のみぞ知る。

 

 知性的な黒の目を輝かせたコブラが『こんにちは坊や』とシューシュー音を立てて尾を鳴らす。思慮深い表情の仮面を纏うトムが挨拶と名を名乗り、相手の蛇に名を問うと、面白そうに頭を傾げた後『ナーガよ』とコブラが答えた。

 明るく談笑する一人と一匹を見る男が、オフェアリスとスミス婦人へ目配せを返し、口を開く。

 

「興味深い。非常に、興味深い。彼女と話す誰かを見たのは初めてだ。私でさえ彼女の言葉を理解できず、一方的に語るだけにすぎないのに」

 

 ナーガを優しく撫で、首に再度移動するコブラを塵ほども恐れず「彼女は名乗ってくれたか?」と男は言う。

 

「はい。ナーガという素敵なお名前を」

 

 トムが魅力的な笑顔を向けて答えると、男は嬉しげに笑顔を返し、蛇を連れてマルフォイ家のもとへ帰って行った。

 いつの間にか形成された純血の円陣に囲まれ、スミス婦人が興奮を隠せない様子でトムへケースを差し出す。中身はボージン・アンド・バークスで見た時と同じ、ベルベットの敷物に座するロケット。トムが息を飲む。

 

「貴方がリドルさんね。私はヘプジバ・スミス。スリザリンのロケットの現在の所有者。どうぞリドルさん。このロケットはもともと、貴方のお母様が持っていたと聞いているわ。貴方に返せて光栄よ」

 

 素敵な笑みをスミス婦人に照射し、ロケットを手に取るトム。左右に傾け、光を照り返す黄金の表面を満足するまで眺め回し、ロケットを開こうと手で弄る。

 

「ロケットは開かないの。古い魔法が掛けられていて──―」

 

『開け』

 

 蛇語でトムが唱えると、梃子でも動かなかった小さな扉が滑らかに開き、内部を晒す。

 

 中身は空洞。

 だが、伽藍洞から音楽が響くのを耳がとらえた。

 女性の優しい声が紡ぐ子守歌。

 

 トム・リドル・シニアの心の奥を覗いた際に聞いた、幸せそうなメローピー・ゴーントの鼻唄。

 

「我が息子の誕生を祝うべくお集まりいただいた皆様! この祝福されし日に、スリザリンの継承者が帰ってきた! 彼こそ、サラザール・スリザリンの正当なる子孫、トム・マールヴォロ・リドル!」

 

 魔法界上層部を震撼させる大々的な発表をぶちかます声を意識半分に聞き、周囲の『ゴーント』『子供はいない』『目』『気狂い』などの雑音を聞き流す。

 マルフォイ家と謎の男、スミス婦人がうわずった声で語り合うのを眺め、少年を見下ろす。

 開いたロケットを心ここにあらずといった状態で見つめていた。

 

 ロケットが無事トムへ渡ったのは良いが、これからが大変だ。

 古い血筋へ近づきたい者、トムの力を利用しようとする者、私利私欲に濡れた連中が沸いて出るだろう。きっと、今まで通りの人生は送れない。

 

 安心させようと肩を叩こうとしてふと留まる。周りがお喋りに夢中でこちらを認識していないのを見てから、黒壇の頭へポンと軽く手を乗せた。

 

 私はただの教師でしかないが、出来る限り力になりたいのだ。

 

 たとえ、トムにそんなもの必要ないとしても。

 

 

 

 我に返った少年が優しく手を握り、

 

 

 

 カチリとロケットが閉まった。




・イーシス・マルフォイ
生やしたアブラクサスの母。純血。穏やかで優しい家族思いの人。
しかし、強かな策略家でもある。
オフェアリスを尻に敷く。夫婦仲はすこぶる良い。

・ギボン夫人
生やした名家の人。飾りの当主を通し、ギボン家を裏から操るとんでもないご夫人。
ダンブルドアの交友関係と力、将来偉大な人物になるであろう素質を嗅ぎ付け、半純血である分家の女児(ガチ)を差し出した。
懐柔に失敗したので次は男児を薦める予定。

・謎の男とコブラ
生やした純血モブ。父がエジプト人の純血魔法族、母がマルフォイ家出身。実は恋愛結婚。
生まれた時から一緒にいるインドコブラのナーガを愛するあまり、変身術でストールの姿にしたナーガを首にかけ、どこでも連れだしている。
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