トム・リドルのヘビィなアイ   作:空飛ぶほうき君

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バレンタインデー編。

トムの取り巻き(レストレンジ以外)のご登場。


第13章  チョコ、ハート、アノニマスの反動形成

 時間旅行という心臓発作必須の非日常的出来事のその後、腰を強かに打ち付けイモムシと化した変身術教授を見兼ねた防衛術教授が医務室へ連れて行き、見事医務室の住人となった。

 腰の痛みに悩まされて過ごす数日。やっと医務室とそこの主から解放されたのはトムの誕生日当日。急いで誕生日プレゼントの第一候補を包装し、フクロウ便を飛ばす。

 

 贈り物は宝石箱。黒い木製の外観に銀の錠、開けば玉虫色のクッションが顔を出す。錠は飾りで鍵は存在せず、トム本人(と製作者の自分)しか開かない。

 

 純血パーティーでトムが大富豪から毟り取ったスリザリンのロケット。それの保管場所が無いだろう事に気付いたのは医務室に監禁されていた夜。

 ホグワーツで盗みが起こるなど有り得ない! と言えたらどれだけ救われるか。

 

 いじめで物を隠された生徒が毎年研究室に訪れる自身の経験上、用心するに越したことはない。

 

 兎にも角にも、トムへ贈る初めての誕生日プレゼントを爪で持つフクロウを見送り、一休み。

 全力疾走した代償に再発した腰痛に顔を歪めて腰を摩る。一時間前まで鷹が如く監視していた校医が知れば、キンキン声で怒鳴り付けながらまたベッドに縛り付けるのが想像つく。

 そしてミネルバも監視に加わる。

 

 おぉ、マーリンよ! 願わくばご慈悲を。

 特製軟膏で痛みが引きますように。

 

 

 

 

 

 軟膏の効能か、マーリンへの嘆願か。どちらが効いたかは不明だが腰の痛みも引き、特筆すべき事件も起らぬまま迎えた新年。

 ダンブルドアはクリスマス休暇より舞い戻った生徒への対処と業務に追われていた。

 

 予想通りと言うべきか、今年はひと味違う。内容は以下の通り。

 

 一、トムの取り巻きの増加。

 二、トムが哀れな変身術教授に嫌がらせを始めた。

 

 以上の事柄が1940年のトレンドである。

 

 人に関心を持つのは良いが嫌がらせに走ったのは減点対象。この件に関して様子見を選択し、授業中に例の少年を盗み見る。

 

 誇らし気にスリザリンのロケットを胸に輝かせ、勤勉にメモを取る姿。寸分の狂いなく撫でつけた髪が陽光を浴び、美しい天使の輪を現す。見た目だけは天使な、潜在的闇の魔法使い候補を挟み込む純血二人と半純血一人。

 

 トムの右に御座すはアシュレー・ノット。結ったブロンズの長い髪を揺らめかせ、二年生とは思えない抜群のプロポーションで男子生徒の心を掻っ攫うスリザリンのマドンナ。

 

 通路を挟んで、左隣の机に御座すはレヴィ・セルウィン。そう、あのノア・セルウィンの弟。まさに兄ノアの邪悪版といった配色と顔つきをしている。

 

 セルウィンの隣に影が如く潜むベンジャミン・ペオル。長い前髪を垂らし、メモを取る振りしてラブレターの返事を書く恋多き少年。

 

 そして最後に、トムの斜め後ろで数名のスリザリン女子が頬杖ついて夢見る目をトム少年の背へ向ける。

 

 最前列がスリザリンに侵食されて妙に緑が目立つ。

 レイブンクローとの合同授業で青と緑が入り乱れる中、最前列に座す緑の塊が気になって気になって仕方ない。

 

 偶々目が合ったノットが煙るような長い睫毛を瞬かせてキスを投げ、派手な桃色のハート型の雲が顔面に向かって真っすぐ飛ぶ。苦笑いでハートを横に押しのけると、黒板に当たった場所で爆発を起こし、爆心地が桃色のキラキラで覆われた。表情筋を固めてノットに目線を戻すと、追い打ちにウインクを噛まされる。

 ノットの素晴らしい技巧を褒めるか、とんでもない爆弾を発射したノットに避難の眼差しを向けるか迷いに迷い、首を振って呆れる事に。

 

 何気なく目の片隅でトムを見ると、隠れてニヤついている。どうやら、私を困らせるためだけに彼女を隣に置いたようだ。

 

 執拗にウインクを繰り返すノットに目を転がし、背を向けて黒板のラメを杖の一振りで消す。

 新品の長いチョークを黒板に引き、有機物から無機物への変身、内部構造の理解と物質改変理論について大まかに纏め、ハートと桃色の雑念を追放。

 瞑想状態で黒板へ身を投じた。

 

 無を体現して数分。突き刺すような視線が背中を耕すのを感じる。

 背を向けて以来この妙な視線が発生、消え去るのを待つも一向に止まない。

 『変身術入門』を盾にこっそり根源の偵察を決め、教科書に視線を合わせて生徒に向き合う。

 

 

 

 セルウィンが親の仇とばかりにねめつけていた。

 

 

 

 どうしたセルウィン。なんなんだセルウィン。君に恨まれる謂れはないよ、セルウィン。

 兄弟揃って不可解な態度をとる様に思わず顔を顰め、空想上の巨大な疑問符を浮かべて困惑。

 しかし、即座に原因が判明する。

 

 ノットが目を瞬かせる、セルウィンが目を細める、ノットが上目遣いで凝視する、セルウィンが歯を軋ませる、という負の無限ループを繰り返しているのだ。

 なるほど、私は少年少女の青春を意図せず邪魔していたようだ。

 すまないセルウィン。

 

 二発目のハート型追尾爆弾を発射されたので、これ幸いとセルウィンの方向へ誘導する。

 達者でな、ハートくん。その頑固なキラキラで二人の架け橋になってやれ。

 

 私を睨みつけるのに忙しかったセルウィンは我が背後に迫りくるハートに気付かず、突如出現したキューピッドの矢を顔面で受け止めて煙に包まれる。派手に桃色の雲とラメが飛び散り、顔中が桃色に煌めいた。

 それを目撃したトムが鼻で笑い、ノットが眉根を上げ、そしてセルウィンは毒の滴る眼力で焼き尽くさんばかりに睨むのだ。

 

 恋のキューピッド作戦は失敗に終わり、セルウィンの殺気を益々強めてしまった。

 不可解な静けさに包まれた教室で、スリザリン生は声を潜めひそひそ話を広げ、レイブンクロー生は我関せずとメモを取る。

 

 よくわからない空間を作り上げた自分が恥ずかしくなる。咳払いして杖を振り、少年の顔のラメを拭う。一切動かず彫像と化したセルウィンに小さく謝罪し授業へ戻った。

 

 ああ、青春よ! 私に青春は青過ぎる。

 私を巻き込むな。強制的に三角関係を形成するのはやめろ。

 ノットのちょっかいが止むのを祈るばかり。

 

 腰の祈りが届いたなら、これくらい屁でもないだろう。

 

 

 

 

 

 誠に残念ながら祈りは届かなかった。

 マーリンは寝ているのか? 

 

 

 

 

 

 ノットの挑戦は止まず、セルウィンの嫉妬も止まなかった。余程腹に据えかねたのかトムの隣に座って睨むこともしばしば。その間ノットは他の少年に囲まれていた。何故彼女を囲む少年らを視線で焼き払わず、私に光線を当て続けるのか。不可解で謎に満ちている。

 

 そして、背中を焼かれるのにも慣れてきた頃に悪魔はやって来た。

 

 そう。バレンタインデーという悪魔が。

 

 1B教室の教卓に置かれた数個の包み。ピンクや水色、赤や紫の愛らしいハート型が鎮座する。

 

 この歳になっても聖ウァレンティヌスの祝福を受けられるのは幸運だ。

 ミネルバから大好物のレモンキャンディの大瓶、ホラスからチョコレート風味の高級シャンパン、エルファイアスが世にも珍しいドラゴンの血入りチョコレートを贈ってくれた。

 ナサリー製濃厚チョコケーキを傍らに、これらの贈り物を摘まむ。

 我がバレンタインの過ごし方である。

 

 だが、他人からのプレゼントは別。我が家の屋敷しもべ妖精に検品を任せるのには理由がある。

 理由は簡単。

 

 高確率で異物混入済みの品が混ざっているため。

 

『貴方の崇拝者より』『恋しく思う貴方に』『私の心』などのカードが付いたバレンタインらしい贈り物はまさにパンドラの箱。災い溢れる箱の底にあるのは希望でなく、体の一部から毒物まで幅広く混入した食物達。希望なんてない。

 一体誰がやるか不明だが、歴史上の人物や架空の小説キャラクター、なんとまあゲラートからも届く。ゲラートの名がついたブツは安全性を考慮し、山の空き地に掘った深い穴で処分しなければならんのが面倒。

 

 そそくさと立ち去る女子生徒の背を見送り、もう一度プレゼントを見下ろす。

 グリフィンドールが五つ、ハッフルパフが二つ、レイブンクローが二つ。

 そして、スリザリンが一つ。

 

 見てしまった。

 

 ノットが包みを置くのを。

 

 教卓の真ん中へ誇示するが如く安置し、こちらを見つめ、髪をかき上げ立ち去っていく姿を。

 

 心なしか瘴気を纏って見える黒い長方形を慎重に持ち上げ、手で重さを計る。

 重さは卵一つと半分。大きさは手のひら大。厚みは小指の先程か。表、裏に柄や文字など無し、完全無地の黒の包装紙。手紙や小さなメモは見当たらず。

 

 あのノットが贈る物にしてはあまりに素朴な見た目に拍子抜けした。

 透かしでどぎつい桃色ハートが浮かび上がる可能性を考慮し、光に当て、火に近づけ、温めるなどのアプローチを試すもスカ。

 

 生徒からの贈り物をこれ程疑う必要はあるだろうか?

 たとえ愛の妙薬や隠しきれないゾンコの隠し味が混ざろうが、生徒の期待に応えてこそ教師と言えるのではなかろうか。

 いや。ないか。

 

 肩をすくめ、几帳面に糊付けされた紙の端を開けて中身を滑り出させる。

 手に馴染む心地良い手触りと包装、微かなチョコレートの香ばしい芳香。ハニーデュークスのダークチョコレート。カカオ含有量70%。

 

 すべすべした包装紙をゆっくり撫で、板状のカカオの凹凸を指に感じる。

 開封の痕跡及び魔法は検知されず。正真正銘ただのチョコレート。

 

 暇さえあればウインクとハートを飛ばすファム・ファタールの権化がチョコレートをくれた。

 質素で安価。お前にくれてやるよと言わんばかりの堂々たるザ・板チョコを。

 チョコ一枚を包むには不相応な、完璧に糊付けされた包装。

 指紋一つない綺麗に輝く既製品が手の平にある。

 

 そう、既製品で未開封。こういう気遣いができる子だったのかノット! 

 もしかしたらお前なんぞ安物のチョコで十分だ、という心の表れかもしれんが僥倖だ。

 解毒剤片手に恐る恐る毒見をせずに済む。

 

 スリザリン印のチョコレートをズボンのポケットに入れ、机上の箱や袋を器用に腕へ積み上げていく。途中、またも誰かに見られている感覚が。授業中に僧帽筋を睨まれるのにうんざりしてきた節もあり、背後の気配にすぐ気づいた。

 振り返って周りを見渡すも自分以外に人は見えず。さっきの女子生徒だろうか。プレゼントへの反応が気になって隠れている、なんて。年甲斐もなく気恥ずかしい世迷言を吐き出した自身を恥じつつ首を傾げる。

 

 教室の入口、扉の影に目くらまし術か透明薬で姿を消した生徒が潜んでいるようだ。

 上手に隠れているな。誰かは気になるが、隠れている子をわざわざ見つける必要も無い。

 

 見るのをやめて研究室へ向かうと、扉傍の背景に溶け込んだ誰かが動き、背後を追従する。

 どうやらついてくる気らしい。

 

 気付かない振りをして研究室へ。扉を半開きにしたまま室内に入り、執務机に貰い物をドサリと置く。背後で蠢く透明人間の気配を無視して卓上を整理、眠るハツカネズミを撫で、変身術の学術雑誌『変身現代』を手に暖炉前のソファへ勢いよく腰を下ろす。

 

 雑誌を捲って眺めていると、空気の動きと微かな衣擦れが左斜め後ろで止まる。正体不明の訪問者がパーソナルスペースに侵入し、首筋の毛が逆立った。

 

 雑誌を膝に広げ、肘掛けへ寄り掛かったままポケットのチョコレートを取り出し、ハニーデュークスの名が躍る包装ごと銀紙を無慈悲に引き裂く。

 後ろの透明人間が空気を切り裂く鋭い音にビクつくのを気にせず、溝へ沿って割った綺麗な四角形を口に放る。濃厚な味わいと広がる深い苦み。これぞカカオ。

 今のところ体調の変化はなし。予想通りただのチョコレートでよかった。

 

 それから食べたり読み耽ったりしていたが、透明人間は一向に立ち去る気配がない。

 日が沈んですでに数十分。大広間で豪華な食事が始まっている時間だ。このままでは謎のストーカー共々、美味しいローストビーフを食い逸れてしまう。

 

 痺れを切らして雑誌を閉じ、生徒がいるだろう方向へ顔を向けて「夕食の時間だよ。そろそろ行きなさい」と声を掛けた。ついでに立ち退き料としてチョコレートの大きな欠片も進呈する。

 暫く動きがなくこの全てが自分の想像かと思ったが、指に挟んだチョコの欠片が毟り取られ、衣擦れが遠のく。

 

 やはり背後に誰か潜んでいた。

 妙に乱暴な徴収を見るに怒らせてしまったのだろうか。

 未だ半開きの研究室の扉をぼんやり眺め、思考を巡らしていると腹が鳴った。

 

 コーヒーテーブルに雑誌とチョコレートを置いて腹を摩る。

 

 

 

 さぁ、ご飯だ。いっぱい食べるぞ! 

 




・アシュレー・ノット
生やしたトムの取り巻き1。スリザリンの二年生。
十三歳にしてスリザリンのマドンナの座を確立した魔性の女。
純血。

・レヴィ・セルウィン
生やしたトムの取り巻き2。スリザリンの二年生。
ノア・セルウィンの弟。兄と違い、正反対の配色と顔つき。性格も悪い。
純血。

・ベンジャミン・ペオル
生やしたトムの取り巻き3。スリザリンの二年生。
長い前髪で目を隠している少年。女癖が悪く、常に恋人が二人以上いる。
半純血。

・ゾンコ
子供達の聖地、ゾンコの「いたずら専門店」。
悪戯関連の商品が大量に揃ったとんでもない店。

・目くらまし術
周囲に溶け込むカメレオンの術。

・透明薬
飲むと姿が周囲に溶け込む魔法薬。

・『変身術入門』
ホグワーツ一年生~二年生の指定教科書。変身術の授業で使う。

・『変身現代』
変身術の学術雑誌。
ダンブルドアご愛読。ダンブルドアの論文が載ったことがある。
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