トム・リドルのヘビィなアイ   作:空飛ぶほうき君

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お久しぶりです。
トムとダンブルドアの四次元チェスを置いていきます。

この章の結末を三パターン作り、どれにしようか迷っていたのですが、よりダンブルドアの目が死ぬこちらに落ち着きました。


トムからの??度:中+


第17章  大好きなスパイスは、死、支配、それと……?

 前日より疲れて目が覚めた早朝。

 起きたという事実を抹消し、未だ睡眠状態であると自分を納得させて二度寝の免罪符とするか悩みつつ、のそりと起き上がって寝室を横断。ゆっくりと研究室へ繋がる扉を押し開けた。いびきをかいて眠るフォークスを無視し、執務机の椅子にどっかりと座り込む。

 卓上に肘をつき、未だ眠りの中のトム二号が眠る住処を観察しつつ、今朝まで続く疲労の原因へ思いを馳せた。

 

 リドル家殺害事件。

 

 モーフィンの鎮圧後、すぐに闇祓いが到着して狂人は捕まり、あれよあれよという間に裁判で有罪判決を下されてアズカバンへ収監。犯行現場にいた私も共犯を疑われ魔法省へしょっぴかれるも、モーフィンの自供という名の自慢によって嫌疑が晴れる。

 

 被害者はトーマス・リドル、メアリー・リドル、トム・リドル・シニア、執事の四人。偶然通りかかったホグワーツ教員が救出した女性の使用人を除き、リドル邸で暮らす全ての人々が殺害され、唯一生き残った女性は精神を病んで精神病院へ入院。事件の当事者全てが悲惨な結末を迎えた。

 

 モーフィンはリドル家を毛嫌いしていたようだが、家族全員を殺害するほどか? そう訝しみ、秘密裏に本人の様子を確認しに行くも、大切な指輪がなんだのそれだけを気にしていた。指輪なんて見つからなかったと言う新米捜査官への罵倒で忙しそうなモーフィンを置いて帰宅し、その日は爆睡。

 

 陰惨な事件は怨恨による犯行とされ、世間から急速に忘れ去られていく。

 

 両家はメローピー事件前から土地関係で揉めていたようだが、突如一族の恨みを背負ってリドル家を滅しに参るのはおかしい。いくらリドル家憎しとしても、そんな危険を冒すなど狂気の沙汰。特に、父親諸共アズカバンに収監されていた身なら、二度とあのような地獄に戻るものかと慎重に行動するはずだ。

 まぁ、この仮定はモーフィンの頭が正常な場合にのみ適応される。

 

 正常といえば、ゴーント家に正常という概念は存在するのか。

 そもそも正常とは人の価値観に左右される概念であり、皆が皆同じ感覚を持つとは限らない。

 

 つまり、ゴーント家で “アレ”が普通ならば。最年少のゴーント、ミスター・スリザリンの反応はゴーント家基準では正常なのだろう。

 一時的とはいえ叔父の凶行が紙面に大きく載ったため、トムの精神面を心配した私は様子を見に行き、恐るべき場面を目撃することとなる。

 

 彼はただ、笑ったのだ。

 

 花が咲くように。この世全ての幸福が訪れたように。

 

 至上の喜びをもたらしたものは叔父の狂気か、殺された人々か、トムが怨む人々へ降りかかった不幸か。

 

 あの日から授業以外でトムと会っていない。

 人の死にあれほど幸せそうな顔を見せる少年が怖い。

 いや、少し違う。本当に怖いのは。

 

 どんな理由であれ、トムに共感してしまった自分。

 

 震える手を握りしめて恐怖を押し殺し、冷たい机表面へ頬を乗せる。あらゆる考えを頭から追放してようやく心拍数が安定した途端、近くに人の気配を感じ、全身の毛が逆立つ。

 素早く壁の装飾を装った防犯ミラーを確認。映り込んだミネルバに心の底から安堵した。

 

「ノックくらいしてくれ、ミネルバ」

 

 ゆっくり体を起こし、存在しない塵を肩から払い落として闖入者を睨みつける。

 寝不足もなんのその。本日も美しい佇まいの防衛術教授は欠片も悪びれず、完璧に仕上げられた会議報告書を差し出す。

 

「もちろんいたしました。1分ごとに」

「おお……すまない」

 

 やりきれない思いで顔を揉みながら無実の教授へ謝罪し、書類をパラパラと捲った。

 ゲで始まってトで終わる人の狂信者が関与した疑いのある不審死や行方不明者の情報、各地で起こる奇妙な事件、秘密のドキドキダンブルドアチームに参加した人々の近況や生死など。

 

 一番ホットな話題は、真っ昼間のパリ郊外を火の海にしていたハンガリー・ホーンテイルを、ニュートと愉快な仲間達が一丸となって成敗した件だろう。

 残念ながらドラゴンはすでに死しており、骸が操られていることに気付いたニュートは捕獲を断念。断腸の思いで討伐したとのこと。

 

 凄まじい既視感に会議中冷や汗を流したのを覚えている。

 この手口は間違いなく、腕を磨いたラーの人の仕業だ。

 以前はこれほど上手に死体を操れなかった。絶対に。

 

「お休み中失礼しました」

「気にしないでくれ。休日にわざわざありがとう」

「お気になさらず。良い休日を、アルバス」

 

 ミネルバが目を細め『仕事は止めて休め』の睨みで変身術教授を焼き払った後、ヒールを上品に鳴らして退出する。

 なんとなくため息をついてから、前日から着ているしわくちゃのスーツ諸共全身を容赦なく掃除呪文で洗い流し、服の皴を伸ばして髪を整える。口内の石鹸風味のミントが不快だが、仕方ない。乞食は選べんのだ。

 

 

 

 

 

 ほっぽり出したままの手紙やら書類の選別作業、あらゆる手紙の返信を書き殴り、生徒の課題の採点地獄を終え、のんびりと校内を歩く。そのまま外へと足を動かし、ホグワーツを覆う結界に綻びがないか確認を兼ねて敷地内を散策、ある程度満足したら黒い湖へ。

 

 ホグワーツ校内と敷地内の巡回、黒い湖の大イカと遊び、禁じられた森で元素狩りやケンタウルスの友人を訪ねるのも良いか。大イカとは学生時代からの付き合いだ。今でもその長すぎる触腕で魔法の練習に付き合ってくれる温厚篤実なイカでもある。

 いつもの経路をいつも通り沿って進むだけの簡単な作業に足が止まる。

 

 特に理由はないが。

 そう、ないったらない。今一番合いたくない人物などそこにはおらず、巨大な無脊椎動物と凪いだ湖面だけ。

 

 おっと! 腹が! いきなり腹が痛く、あいたたた! こりゃ部屋に戻らねば! 

 さらば、イカの友と存在しない蛇よ! 仲良くやってくれ! 

 

 残念ながら、名も知らぬ神に呪われた幸運値を持つ私は、災いから逃れられなかった。

 

 つま先が動く間もなく大イカに発見され、触腕が楽しそうにこちらへ振られる。

 本人、本イカは『あっ友達だ! こっちへおいでよ!』という純粋な喜びで腕をぶんぶんと回す。こちらの複雑な感情など露知らず、能天気な友へ非常に不適切な身振りを返してしまいそうだった。

 

 無実の友へ怒りをぶつけぬよう、イカは良いイカ、大きければ大きいほど良いイカ、と謎の念仏を唱えつつ処刑場へ向かう。理不尽なほど穏やかな水面へ目を固定し、湖岸近くに停止した。

 真隣にバジリスクがいるのは運命の悪戯か。

 

「トム」

 

 即死の魔眼で私を屍へ変えんとトムの眼が煌めく。

 ちょっと嬉しそうなのは、副校長を始末する絶好の機会だからだろう。

 

「先生」

 

 緊張感漂う無言の間に涼しい顔をして耐える。謎の圧力に負けるなど許さん。

 ニコラスは、言葉を制する者が世界を操ると熱弁していたし、それに、無言が続くのは失礼だろう。

 

「僕、何か悪いことをしましたか?」

 

 しかし、先に主導権を握られて頭が真っ白になる。

 愛想笑いで口の端が痙攣するのが見える以外は至って平凡な姿勢、表情でこちらを窺う少年にどことなく罪悪感を覚えた。トムが言いたいのは、ここ数週間ほど吸魂鬼(ディメンター)を避けるが如く離れていた件に違いない。

 

「いや、何も」

 

 少々素っ気ない返答に明らかにトムが眉を顰める。

 

 どう説明すればいい? 

 君が怖いし、君に感化された私も怖い。

 いつかダークに染まって、スーパー・闇の魔法使いになりそうで怖いと吐き出せと? 

 

 たった十数年生きた少年に不安をぶちまけるほど憔悴していないさ。

 

「でも……」

 

 トムが不安そうに体を揺らしながらゆっくり近づく。

 こういった姿がホラスや隠れファンの心を鷲掴みにしているのだろう、なんて頭の片隅で思案していると、自然体を装った私を遠慮なく観察していたトムが驚いた声で「あっ」と目を見開き、初めて何かを理解したという風に相好を崩す。

 些か目が錯乱し、瞳孔が拡張を確認できるほど明るく輝く虹彩を、哀れな変身術教授へ照射した。 

 

「先生にも怖いものがあるって、以前そう言っていましたね。だから、もしかして」

 

「怖いですか? 僕が、恐ろしいですか?」

 

 その通り。

 プロテゴ・マキシマ! 

 

 来るとわかっていて防御も十分だったのに、貫通したかのような怖気が襲う。

 やはり、バジリスクの魔眼による光線は死の呪いと同じ防御無視攻撃。意味など無かった。

 

 いいさ。

 こちらの負けを認めよう。

 副校長を打倒せしめたことを友達へ自慢するがいい。

 

 しかし、目を見開いてにじり寄る姿は子供が浮かべるには歪で、気の弱い者なら腰を抜かすか無意識に杖を抜くだろう気迫があった。

 

「君がしたのか?」

 

 自分でも訳が分からずに妙な言葉を口走る。

 

 何を言っているんだ。意味不明だぞ。

 まさか、あの事件のことか? トムが知ることも、関わっていたはずもないだろう。

 いきなりすまないな、トム。 

 

「えっ、先生、何を言っているのかわかりません。僕、僕……」

 

 トムは恥ずかしそうに頭を俯かせると、指を弄った。長い指が大きな指輪を撫で、不安そうに指同士を絡ませる姿はまさに、お恥ずかしながら、といった風情。

 

 どこかで見た覚えのある黒い石の指輪が陽光を反射する。

 数週間前に成敗した狂人の指にあった、古い魔法の気配が漂う、死の秘宝の印が刻まれた黒い石。

 

「いいえ」

 

 ゆっくりと上げた顔を彩る、人を惑わす美しい笑みと冷徹な瞳が十分物語っている。

 

 かかってこい。

 答えてやったぞ、さあこい、お前の汚らわしい本性を現せと。

 

 今の私には二つの選択肢がある。

 

 一.獣性をむき出しにしてトムに襲い掛かる。トムは死ぬ。頭がおかしくなったホグワーツ副校長兼変身術教授はアズカバン行き。

 

 二.見なかったことにする。胡麻をすって側近になっておくのも手かもしれない。これ以上被害が拡大しないことを祈りつつ、己が身を盾に魔法界と人間界から注意を反らす。

 

 正直言うと、より大きな善のために党であった自分としては「一」が魅力的だが、如何せん性急で粗野が過ぎる。それに、今暴れている闇の魔法使いさんを野放しにできん。

 それにトムは直接“は”関わっていない。ホグワーツにいたのだから。

 

 全くもって不服であるが、今のところ「二」が最善。

 まだ子供だ。そんな残酷な真似はしてはならない。彼が立派な闇の魔法使いになってから自爆特攻するさ。パーシバルに啖呵を切ったし、今更撤回するのは恥ずかしい。行くところまで、落ちるところまで落ちてやるってね。

 

 世界が破滅したら全部君のせいだ。

 その時が来たら、共に世界から消えような、トム。

 

 おもむろにトムの頭へ手を伸ばし、完璧に整えられた髪を思いっきりかき乱す。

 気味の悪い笑みが崩れ、怒りで顔を赤くした少年が、横暴な教師の手を頭から叩き落そうと腕を振り回した。

 

「おまえ! やめろ、この、老いぼれッ」

 

 すいすいと腕を避け髪の毛を攻撃すると、見事な鳥の巣が誕生し、思わず鼻で笑ってしまう。やっとのことで我が右手から自身を解放したトムは、流れるように袖から杖を引き出し、突きつける。

 

 教師に杖を突き付けるという羊皮紙一巻き、いいや三巻き分の反省文に値する行為を平気で成し遂げる無礼さに、ますます笑いがこみ上げた。

 

 面白いわけではない。

 これは、怒りだ。

 

 上手くいかないことへの、落胆への、年上をおちょくって無事でいられると自惚れた傲慢な少年への。

 

 ──への。

 

「トムよ、トムよ。君が先程聞いていたことだが。うーん、なんだったか……」

 

 ゆっくり歩み寄り、胸に突き刺さる杖の感触を無視して「……おお! 君が怖いか、だったね」と、今まさに思い出したように口を開いた。自分で乱した頭の状態が気に入らず、トムの荒れ果てた髪を丁寧に梳く。

 目を大きく開いて硬直した姿に、すぐさま魔法を放つ気配は無いと判断し、元の完璧な髪形へ戻した頭へ屈み、小さく呟いた。

 

「君が私を恐れるように、私は、君が怖いよ」

 

 うん。すっきり。

 

 子供に当たり散らした後悔。

 己を粉々にしてやりたい怒りと、反吐が出るほどの仄暗い満足感。

 

 さらに血色感を無くし、灰色となった貌を見下ろすと、手慰みに手元の黒髪を撫でつけて輝かせる。たった十三歳の少年へ心の闇をぶつける狂った教師から、トムが恐怖で逃げ出すのを待つ。

 

 すると、トムのあれだけ青白かった頬が急に薔薇色へ染まり、ついにクスクスと笑い出した。

 心底嬉し気な瞳でチラリとこちらを見やると、我が心臓へ突き付けた杖の上へ額を置き、くぐもった笑い声を上げる。

 

 頭のおかしい教師と頭のおかしい生徒。

 なんてお似合いなんだろう。

 

 

 

 脳の片隅で「スーパー・闇の魔法使い」と書かれたクィディッチスコアボードへ、パーシバルが一点を追加するのが見えた気がした。

 

 

 




・闇祓い
闇の魔法使い専門の警察みたいなもの。

・ハンガリー・ホーンテイル
ハンガリーに生息するドラゴン。
数々のドラゴン種の中で最も凶暴で巨大。しかも強烈な火炎放射もしてくる。
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』でハリーがデスマッチしたドラゴン。

・吸魂鬼(ディメンター)
アズカバンの看守。
人から幸福感や感情やらを吸い取り、最終的には魂を奪い去る。
守護霊の呪文が弱点。吸魂鬼に襲われた際はチョコレートを食べると良い。

・盾の呪文(プロテゴ)
盾を生み出す防御呪文。
プロテゴ・マキシマはプロテゴよりも強い上位呪文。
残念ながら死の呪いなど防げないものもある。
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