トム・リドルのヘビィなアイ   作:空飛ぶほうき君

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サラザール・スリザリンの子孫であり、ペベレルの系譜を引くスーパーサラブレッドトム君。


第0.5章 おいでよダイアゴン横丁

 翌日の午前十時にウール孤児院へ私は再度訪れた。

 正直に言うと、彼があの盗品を持ち主に帰すなんて期待しちゃいなかった。朝から謝罪行脚かとため息しながら部屋に向かう。

 

 室内では空の箱を傍らに、きちんと支度を整えたトムが待ち構えていた。予想外なことに、戦利品達を持ち主に帰している。

 しかも、謝罪をして。

 

 やればできるじゃないか! 

 

 挑戦的な目を向けるトムに朗らかに微笑み、頷く。ミセス・コールへ、事前に外出許可を取っていたので、その後すぐトムと共に買い物の旅に出立した。

 

 

 

 

 

 素晴らしきかな、ダイアゴン横丁! 

 大きく目を見開いて立ちすくむ少年を横に、魔法使い達の賑やかな喧騒を耳に朝の活気ある空気を吸い込む。初めて魔法使いのコミュニティに触れるのだ。

 この光景を目に焼き付けているに違いない。

 

「あの白亜の建造物はグリンゴッツ魔法銀行。あちらはマダム・マルキンの洋装店にフローリシュ・アンド・ブロッツ書店。その角は──―」

 

 道行く先々でガイドに徹しつつ学用品を買い集めていく。鍋に薬瓶に秤やら、雑多な物の数々を”検知不可能拡大呪文”がかかったバックに収納。

 後は制服と杖、本。

 

 硬貨が入った革の巾着を揺する。チャリ、と心もとない音が悲しい。

 ふと、魔法動物ペットショップの陳列窓が目に入った。店内の愛らしい赤ちゃんニーズルが安らかに眠る窓を手で指し、尋ねてみる。

 

「お供は必要かな?」

「必要ありません」

 

 ぶすっとした少年が呟くや否や、首元から一匹の蛇が這い出て私とニーズルに威嚇した。

 おはよう、スリザリンの化身。無垢な子猫を怖がらせるのを止めなさい。まさかとは思うがいつも持ち歩いて……いや、止めよう。藪蛇になる。もう蛇は出てしまっているが。

 

 幾らか遠い目になりかけるのを、やれやれと首を振って強制キャンセルしたダンブルドアは、流れるようにマダム・マルキンの洋装店に一人と一匹を封印した。

 

 採寸に少々時間が掛かるらしいので漏れ鍋で時間をつぶす。

 バーテンのトムにバタービールを注文、世間話を楽しみつつしばしの休息を楽しむ。トムはトムでもこちらは気さくな方のトムだ。今も「サービスです」とおつまみを出している。

 ご厚意に甘え、豚皮のスナックをつまみ、バタービールで流し込む。アルコールに乾杯! 

 

 

 

 

 

 その後、洋装店で採寸が終わった気難しい方のトムを回収し、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店へ向かう。うず高く積まれた書物が聳え立つ書店にて、目的の教材を発掘しに本の遺跡を突き進む。トムはどっかへ消えた。

 アーチを描く本の橋を潜り、飛び立つ本をかわし、ホグワーツの指定教科書を手に取る。魔法生物の基礎知識や生態を記した一冊。

 

『幻の動物とその生息地』ニュート・スキャマンダー著

 

 最近ニュートに会っていないが元気だろうか。面倒に巻き込んでしまった。

 元教え子が執筆した本の表面を撫で、感傷に浸る。

 ため息を一つ。気分を切り替えないと。

 

 残りの教科書のいくつかを中古で揃え、先程から姿をくらませている例の少年を探す。表にはいない。児童書のコーナーにもいない。顎を指で叩き思案する。

 あの少年の気を引く本があるとしたら。踵を返して書店の奥へ。

 

 膨大な書物の影になった本棚の一角、呪いや黒魔術に関する書籍などに囲まれたトムがいた。

 真剣に読み耽っているけどね、そこは君みたいな男の子が読んでいい場所ではない。

 

 近くに積まれた本を確認する。

『甘い復讐』サイラス・アシュクロフト著、『サディスティックな杖』マンネル・ハーパマキ著、『嫌いなあの子を呪いで苦しめよう!』──―。

 

 なんだこれは。闇の魔術関連ばかりだぞ。将来の夢は闇の魔法使いか? 

 

 危うく精神が次の冒険へ進むところだった。トムが読んでいるのはもっと酷いに違いない。絶対見んぞ。確実に死が迎えに来る。本棚にあった悪戯用のジンクスが載ったものを渡そう、そうしよう。頭ごなしに否定せず、より軽い内容にすり替えて猶予を伸ばす。そこがポイント。

 猶予を伸ばしてどうするかは知らん。誰かなんとかしろ。

 

「トム、ここらの本は君には早すぎる。こういうのにしておきなさい」

「先生」

 

 本を閉じ私を見上げるトム。自然とタイトルが目に映る。

 

『ユニコーンの長い角 ~聖なる白百合~』ノーザン・オルグレン著

 

 

 …。

 

 

 …。

 

 

 …官能小説だぞ、それ! 

 

 

「待て待て待て!それはいかん!!」

 

 トムの手から大人用の魔術書を毟り取り、本の海へ放流する。

 誰だ!こんなもん置いといたのは!この区画に来たトムが悪いけども!! 

 

 ノーザン・オルグレンは、伝記という名のサスペンス官能小説を執筆する伝記作家だ。私のお気に入り、『黒薔薇の郷』シリーズの作者でもある。次作を楽しみにしているぞ。

 いや、違う!おのれノーザン・オルグレン。

 

「先生、ユニコーンは処女を好むとあの本にありましたが、ユニコーンが処」

「トム!トム!!教科書は揃えたから、外に行っていなさい!あとこの、なんだ、これも買っておく!」

 

 さっき拾ったジンクスの本とユニコーンに関する童話集を適当に掴み取り、トムを外へ追い立てる。最速で会計を済ませ、これ以上少年が誘惑される前に退散した。

 一秒でも早くあの場から離れる。戦略的撤退さ、これは。

 頼むからもう聞かんでくれ。いいや、トム。口を開いたって無駄だ。答えはノーだよ。

 

 不服そうなトムを急ぎ足でせっつく。魔法で浮かせた本を次々バックに放り込み、オリバンダーの店に滑り込んだ。危なかった。なにが危ないかはよくわからないがとにかく危なかった。

 静かな店内の雰囲気に荒れた神経が静まっていく。

 

 暫くすると、棚奥から梯子に乗った男が騒音と共に姿を現す。トムは猫みたいに跳び上がり、驚いていた。

 店主のギャリック・オリバンダーが痩せた体をカウンターへ傾ける。

 

「いらっしゃいませ」

「こんにちはギャリック。新入生に杖が必要でね」

 

 後ろに下がり、トムを前に押し出す。

 

「お名前は?」

「トム・リドルです」

「フーム。杖腕(つえうで)を伸ばして」

 

 霧のような瞳で見つめるギャリックを同じく見つめる少年に、利き腕のことだと伝え店内の椅子へ座る。これで少し休める。

 

 休めなかった。

 

 店内のあらゆる照明を爆散させ、棚を吹き飛ばし、流れ弾がこちらへ飛んで、やっと杖が決まった。杖のビッグ・ベンを建造した偉大な建築士はというと、そんな些細な出来事などお構いなしに感極まっている。

 髭が焦げた責任を負ってくれ。仏の顔も三度撫ずれば腹立つというよ?

 

「イチイに不死鳥の羽。三十四センチ。頑固」

 

 杖先から飛び散る金銀の火花を眺めるギャリック。急ごしらえのランドマークを解体し、元の箱に戻す手を止めた。

 

「魔法使いが杖を選ぶのでなく、杖が魔法使いを選ぶ。この杖があなたを選んだように。奇妙な縁もあるものだ」

「縁?」

「あなたの杖に入っている不死鳥の尾羽根。その羽を提供したのは…」

 

 含みを持たせる言い方をして目線をこちらに投げてくる。

 なんだね。

 

「尾羽根は私が提供した。ほら、満足か?」

「そうともそうとも」

 

 仰々しく頷くギャリックに杖を突き刺す衝動を堪え、支払いをして店から脱出した。遅れて離脱を果たしたトムと立ち尽くす。

 

 学用品の購入完了。ベストから懐中時計を吊り上げて見る。

 午後一時十五分。

 

 ぐぅ。どこからか腹の音が聞こえた。

 

 涼しい顔をしているが君だとわかっているぞ。お腹が空いているんだろう?ついでに自分自身の腹からもぐぅと鳴る。

 鳴った瞬間明らかにニヤついたトムに、目を細めて抗議するが意味無し。

 

 いいだろう。そのスカした顔を恐怖で歪ませてやる。

 覚悟しておけ。

 

「お互い腹の虫に餌をやらんとな。漏れ鍋へ出陣!」

 

 

 

 

 

 最後の目的地は漏れ鍋。

 到着した我々が優雅にカウンター席に着くと、近づいてきたバーテンの方のトムにさっそく私は耳打ちした。

 

「かぼちゃジュースを二つ。私にシェパーズ・パイ。こっちの坊やに、おもてなしをしてくれ」

 

 ガリオン金貨を多めに握らせて囁く。バーテンのトムは猫背気味の体を更に丸め、わざと気味の悪い笑みを少年に向けると厨房へ消えて行った。流石に気味悪い笑顔が堪えたかトムは緊張を隠せない。罠が無いか目を隅から隅に走らせている。

 

 震えて待つのだ、少年。

 ほぅらきた。

 

 

 ドン! 

 

 

 肉。肉。圧倒的な肉。巨大なステーキに長いソーセージが三本、揚げたポテトの山と付け合わせの温野菜がちんまり。

 漏れ鍋裏メニュー『トムの気紛れスペシャル』が姿を現した。

 

 頑張りたまえ。君の無事を祈っているよ。

 

 トムが肉の暴力に慄くその頃、ダンブルドアは高みの見物と洒落込んでいた。

 

 運ばれてきた温かなパイへ期待を膨らませ、カトラリーへ指を伸ばす前に、追加で皿が置かれる。頼んだ覚えのないプティングと数枚のパンが乗った皿。

 バーテンが屈託のない笑顔を浮かべ、頷く。

 

『サービスです』

 

 幻聴が聞こえる。バーテンのトムの幻聴が聞こえる!開心術を知らずに使って聞こえた声か? 

 まあ何であれ

 

 ありがとう、トム! 

 

 

 

 

 

 茶番はさておき、ランチは楽しいものだった。

 食後の心地良い沈黙の中、欠伸をかみ殺してグラスを啜る。カウンターでとぐろを巻く蛇が相も変わらず睨みつけてきたので睨み返した。

 

「蛇と話せる」

「なんだって?」

 

 机の汚れを探しながらトムが呟いた。唐突なカミングアウトに虚をつかれた私は素っ頓狂な声を上げる。

 

「こんな風に」

 

 掠れ、耳障りなシューシューという音を口から零したトムへ、蛇がシューと返事をする。

『馬鹿なジジイ』『同意する』

 あまりの言い草につい口が滑り、拙いと思った時には後の祭り。

 

「馬鹿なジジイで悪かったね」

 

 面白いくらい目を丸くし愕然とする一人と一匹。大人気ない行動に手を顔に叩きつけたかったが我慢し、心と表情を無にする。

 

「あなたも蛇と話せる? 魔法使いにとって珍しくない?」

「話せない。理解できるだけさ。君みたいなパーセルマウスではないよ」

「パーセルマウス?」

「蛇語を話す者のことをパーセルマウスと呼ぶ。非常に珍しいが、いないわけじゃない」

「…そうですか」

 

 考え込むトムの瞳に揺らめくランプの炎が写り込む。刹那、深紅の光が妖しく輝いた気がして咄嗟に見、暗い黒檀の瞳と視線がぶつかる。

 

「僕の父さんは魔法使いですか?」

「すまない。君のお父さん…ご両親を知らない」

「父さんが魔法使いのはずだ。僕と同じ名前って聞いているから。母さんは違う。だって」

 

 暗い表情で口を噤む少年に胸が痛んだ。

 ミセス・コールの話を思い出す。

 

 

『大晦日の夜にトムは生まれました。当時、私はここでの仕事を始めたばかりの見習いで。当番の見回り中、玄関に誰かいる気がして開けてみると、年若い女の子が大きな腹を抱えて冷たい雪の中座り込んでた』

 

 遠い目をした院長が窓の外を眺め、ため息をつく。

 

『彼女はトムを生んですぐ亡くなりました。「お父さんに似るように」そう願って。彼女の最期の言葉は、生まれた子に父親のトム、そして自身の父親のマールヴォロの名をつけてほしいというもの』

 

『父親はトム・リドルと聞いていたので、トムにも同じ姓を与えました。トム・マールヴォロ・リドル、トム・リドルと』

 

『哀れな子です。父親も、母親の顔さえ知らず、誰も彼を迎えに来なかった』

 

 

 ミセス・コールの話が真実ならパーセルマウスであることも納得だ。

 マールヴォロ・ゴーント。純血の魔法族。

 

 サラザール・スリザリンの子孫。

 

 痛み始めた頭痛に眉間を揉むが収まらず、ダンブルドアはパブの天井を仰ぎ、不幸の星の下に生まれた自分を呪った。

 

「ジンをくれ!瓶丸ごと一本!」

 




・漏れ鍋
ロンドンにある魔法使いご用達のパブ。トムというバーテンが営業している。
魔法使いじゃない一般人には捨てられた店に見える。
店内寒そう(偏見)

・トム(バーテン)
漏れ鍋の店主。怪しい笑顔の優しい男。

・ダイアゴン横丁
魔法使いの街。漏れ鍋の裏にある。
大抵の物はここで手に入る。

・グリンゴッツ魔法銀行
小鬼の銀行。地獄のトロッコグルグルコースターを突破しないと金庫へたどり着けない。
門番にドラゴンもいる。『ハリー・ポッターと賢者の石』でハグリッドがコースターにやられた。

・マダム・マルキンの洋装店
魔法使いの洋装店。
ホグワーツの制服も取り扱ってる。

・フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
魔術書や教科書なんかが売ってる本屋。
本ありスギィ!

・検知不可能拡大呪文
空間を広げる呪文。
この呪文があれば、バックやトランクが広々した空間に。テントにも使える。

・ニーズル
魔法の世界の猫型魔法生物。かわいい。

・スリザリン
ホグワーツの寮の一つ。シンボルが蛇。
シンボルカラーは緑と銀。
他に3つの寮がある。

・バタービール
魔法使いの大半が飲んでるバター風味のビール。
ビールだがアルコールはごくわずかで、子供も飲める。

・『幻の動物とその生息地』ニュート・スキャマンダー著
ニュート・スキャマンダーが執筆した魔法生物についての本。

・ニュート・スキャマンダー
ホグワーツの元学生でハッフルパフ生。色々あって退学した。その後、移動動物園と化す。
アメリカに魔法生物を解き放ったり、ダンブルドアにゲラート止めて!お願いな!されたりしたが、元気に魔法生物をトランクで世話してる。

・『甘い復讐』サイラス・アシュクロフト著、『サディスティックな杖』マンネル・ハーパマキ著、『嫌いなあの子を呪いで苦しめよう!』その他書籍
適当に生やした本1。特に設定なし。

・『ユニコーンの長い角 ~聖なる白百合~』ノーザン・オルグレン著
適当に生やした本2。五人の乙女と一匹のユニコーンが織り成す、血で血を洗うサスペンスファンタジー。角で突いたり(意味深)角で突き破ったり(意味深)する。

・オリバンダーの店
杖の店。イギリス魔法使いの大半がここでお世話になる。
杖積みスギィ!

・ギャリック・オリバンダー
杖職人。移動が面倒なのでスライド梯子で移動する梯子マスター。
杖のことになると早口になりそう(偏見)

・カボチャジュース
オレンジ・ジュースのライバル。

・ガリオン金貨
魔法界の貨幣。他にシックルとクヌートがある。
高い順に、ガリオン(金貨)、シックル(銀貨)、クヌート(銅貨)。

・トムの気紛れスペシャル
生やした。パブの裏メニューが欲しかった。

・パーセルマウス
蛇語(パーセルタング)を話し、理解する者。遺伝する。
魔法界で知られるパーセルマウスの殆どは、サラザール・スリザリンの子孫とされる。

・トム・リドル(父)
魔法使いじゃない、色々あった可哀そうな人。

・マールヴォロ・ゴーント
純血の魔法使い。サラザール・スリザリンの子孫。子供が二人いた。
ブラック家よりやばい近親婚血族。

・サラザール・スリザリン
ホグワーツの創設者の一人。創設者は他三人いる。
色々あって学校を去るが、ペットのクソヤバ蛇先輩を学校に残していった。

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