前編後編に分けました。
※歴代の合宿メンバーは6、7、14、18章に登場
「おや」
ベッドに入って寝たら、無人のキングス・クロス駅にいた。
意味不明な状況に既視感を感じつつ、無人の駅にただ一人立つ状況へ戸惑う。
前もこんな状況に陥った気がする。
夢を見ているのはわかっているが、どう目覚めればいいのやら。
前回、奇妙な青年に
何はともあれ、ニコラスと数カ月費やした保護が全くの無意味だったようだ。
元教え子がクィディッチの試合観戦へ招待してくれたので、英気を養おうと早めに寝たのが悪かったのか。前日食べたビーフシチューが痛んでいたか。それとも単純に、苦難に愛されているだけか。
とにかく、許されざる呪文を自分にぶっ放せば夢から覚めるはず、と杖を探すが見当たらない。
就寝時にも仕込んでいる予備の杖が消え去り、失望を隠せずに、無力さを最大限表すジェスチャーを虚空へ向けた。
パジャマ姿で少々恥ずかしいが、どうせ誰も見ていまい。
杖なしで許されざる呪文を放つのは、このアルバス・ダンブルドアであろうと難しい。
次案として、硬い物に頭を打ち付けて起床作戦。縮めて、硬い起床作戦を決行すべく辺りを見回すと、良い感じに硬そうなベンチを発見。ウキウキ気分で近づき、指で硬度を確認。合格。
位置、高さ、振りかぶる角度などを適当に算出。
弧を描き、思いっきり仰け反ると、背後に奇妙な青年が立っていた。
「何をしている」
心なしか変な奴を見る目で見下ろす青年に、これ幸いと微笑んだ。
「青年! いいところにいるな。すまないが君の杖でビューン、ヒョイと
「気が触れたのか貴様」
呆れ、冷ややかな目を向ける青年に期待して緑の閃光を待つが、待てど暮らせど呪文が飛んでこない。仕方ないので作戦を継続することとする。
中断した箇所から改めて背を仰け反らせ、正確な軌道を描き、寸分違わず着弾地点へと額を打ち込んだ。
「おい」
重い打撃音と衝突。神経を突き抜ける痛みと揺れに、一瞬だけ視界が黒く染まる。
眼前に星が散り、痛みに顔を顰めた。
「おい!」
頭を押さえつつ背後を一瞥すると、青年が怒り心頭といった面持ちでキッと睨んでいる。
「今は忙しい。後にしてくれ」
「俺様を見ろ、老いぼれ!」
丸眼鏡から覗く緑の目を吊り上げ、唾を飛ばす様子に何故か安心感を覚える。
この何とも言えない実家感に疑問が湧き、顎髭を撫でながら彼に「君、どこかで会ったかな?」と、尋ねてみた。すると青年は、顔を歪ませて無理やり笑む。
「はい、先生。僕です。ハリー、ハリー・ポッター」
「僕を忘れてしまったんですか?」
えぇ……今更その態度は無理がある。
俺様が僕になるのは流石に聞き逃さんよ。
仮面を被る気があるのか?
トムを見てごらん。開き直っているからね、あの子は。
吐き捨てるように名を告げた青年、ハリー(詐称)は、ポリジュース薬を一気飲みした嫌悪感で口元を歪める。
私はというと、呆れを通り越し心配していた。
役を演じるのが下手過ぎないか?
ハリーが純朴なのか、自尊心が天元突破しているのか判断がつかない。両方かもしれん。
その点をつつく衝動を抑え、不思議そうな表情を作り「そのようだ、ハリー」と答える。
勿論、彼は満足げに鼻で笑った。
えぇ……納得するのか。いいのか、それで。
本気か? トムでも多分納得しないぞ? いいの?
そもそもポッター家にハリー君なんて子いないが? 傍系設定?
フリーモント・ポッターに確認するよ?
またもつつく衝動を飲み込み、この、夢を介して接触してきた存在を満足させておく。
いずれ飽きて現実へ叩き返すはずだ。そう期待してハリーと見つめあうこと体感時間一分ほど。
二人で馬鹿みたいに見つめあうだけで何の進展もないまま、変な空気感だけを醸造する。
嘘だろ。
何かあるだろう?
理由もなく夢を繋げたのではなかろうな。
そうならダンブルドア拳骨が君の頭へ降り注ぐぞ。
暫くすると、ようやく再起動したハリーが場を改めるように咳払いをし、こと告いだ。
「先生、あなたに伝えたいことがあって、ここにいるんです」
邪悪な顔つきでニヤリと嘲笑うと、舞台俳優も涙する素晴らしい身振りで指さす。
彼がメフィスト・フェレスを演じていたなら、観客は恐怖すら感じていただろう。
しかしながら、私の第六感がこの
きっとエアリエル、違うな。アーサー王かガラハッド卿あたりが適任な気がする。
アーサー王伝説を演じるなら、ぜひマーリン役を立候補したい。
そんなとりとめのないことを考え込んでいたせいで、危うくハリーの言葉を聞き逃すところだった。
「あなたは、死ぬ」
予想外の言葉を聞き、驚きで目を見開く。
ちょいと……急だな。
困った。
まだ、遺書もしたためていないのに。
焦っても仕方ない。人はいずれ死ぬもの。彼には申し訳ないが、私は別に生へ執着などしていない。
「死」の真似事をする存在へ片眉を上げ「それで?」と、ごく普通に聞き返した。
この言葉に、ハリーは酷く動揺したように震え、後退る。
「死を恐れぬ狂人め」
人の宿命を恐れる姿に哀れみと同情が浮かぶ。
「で、私の死因は? 私はどうやって死ぬ?」
嘘か本当かは取るに足らず、ただ気になってしまった。
私の“死”とはどんなものなのだろう、と。
「死の呪いを受けて死ぬ」
なんとまあ味気ない。
もっと壮大にできなかったのか?
大勢の仲間を庇い受けた呪いで死し、光り輝いて昇天とか。
「なるほど。下手人は?」
「俺様が殺した」
食い気味に自己申告してきたので、危うく吹きかけた。
嘘が過ぎる。
声を震わせて言う言葉でもない。
もっと悪党らしくしろ!
君が善人でないことくらい、寝ていてもわかるのだぞ!
「では聞きたい。何故、殺した?」
欺瞞に惑わされた男のように聞くと、彼は面白いくらいの百面相をした。
困惑、怒り、不安、憎しみ。
「貴様が、邪魔だったからだ」
ハリーは掠れ声で、そう絞り出した。
この全てで最も滑稽なのは、彼の泣きそうな顔だろう。
後悔するならやるな。
己の手でなくとも。
「俺様の手で死ぬはずだった」
妄言に頷いて賛同しておく。
少なくとも正直に話している様子なので。
またもあの奇妙な沈黙に包まれ、眉間を揉む。
沈黙がつらい。普段は沈黙など気にせんが、この得も言われぬ静けさが気まずい。嵐の中心に取り残された気分になる。
極めつけは、情けない顔でこちらを凝視するハリー。
もう限界だ。
私はお暇させてもらう。
硬い起床作戦は失敗に終わった。残るはプランB。
そもそも計画らしい計画もないのだが、んなことどうでもいい。
当たって砕けろ、だ。この場合はわざと砕けるとも言う。
プランBの概要は以下の通り。
・背後のベンチに座る。
・ハリーを隣に座らせる。
・ハリーを怒らせる。
・一発食らう。
・現実へ戻る。
完璧な計画じゃないか。
ハリーを座らせたのは、時間稼ぎと機動力を封じるため。
その間に彼を挑発する言葉を練る。
杖を奪い取る案も出たが、却下した。
洒落た中年が子供にやることじゃない。
緊急事態でもないし。
方向性は決まったので計画を進行させる。
まずはベンチへ座り、ハリーを呼ぶ。
「ハリー、座ってくれ」
自分の隣の座面をぺしぺしと叩いて促す。
彼は長い間立ち尽くし、何度か向きを変え立ち去ろうとするも留まり、やっと変身術教授の隣へ恐る恐る着席を果たした。尻を浮かせたまま。
ベンチが尻を嚙むとでも思っているのかこいつは。
まさかの光景に笑いがこみ上げ、耐えられずに吹き出す。
流石に看過できなかったらしいハリーが杖を突き付け「貴様ァ!」と吠えるが、高慢ちきな奴がベンチに怖気づく様はお笑い種だった。
だが、今はプランBの完遂が最優先。
私の頬へ杖を突き刺す、どっかの誰かさん並みに沸点が低い彼を見逃し、怒りゲージを貯めておく。ここぞという時に噴火してくれんと困る。
若干口角を痙攣させて苦笑いに落とし込むと、口を噤む。
怒りの矛先を見失ったハリーが杖を押し付けるまま時が流れていく。
段々と頬への圧力が高まっているのは気のせいか。
さて、プランBだ。目の前の存在を憤怒させねば。
現時点で相当頭に血が上っていると思われるが、これ以上を目指したい。
一撃で屠る口撃を頭に出力中、頬に刺さる杖へ目が行く。
これ、ゲラートの杖では?
まさか……奪い取ったのか!?
やるな、おい!
「ニワトコの杖か」
何気なく発した言葉にハリーの手が痙攣し、杖を伝わる。
「手に入れるのが大変だったろう?」
口を開けるたびに不愉快なほど杖が押し込まれ、こちらを向く緑色の瞳が醜く歪んだ。
不本意にも彼の地雷を踏み抜いた気がする。
怒りゲージが上昇したのを見るに、ゲラートと何かあった様子。
先駆者からの助言だ。
気にせず前へ進め、ハリー。
あの男と知り合った時点で破滅が約束されているのだから。
杖に関しては、ゲラートがハリーに杖を奪われてトンズラこかれた説を押したいが、大方、ゲラートの杖を夢の中で模倣しているにすぎないのだろう。
羨望か、憎しみか、はたまた憧憬からか。死の秘宝と知った上で振り回しているなら、近しい人物だったに違いない……。
これ以上は思考が逸れるので、また後日に。
よし、続けるぞ。
今の流れに身を任せてみよう。
「史上最強の魔法使いと戦い、勝利した証だ。誇りに思うといい」
彼へ話す毎に自分自身へもダメージが蓄積する。
ハリーが怒髪天を突くか、私の精神が死ぬかのデスマッチ。
既に精神が揺れ動いているが、まだいける。いけるぞ。
「きっと壮絶な戦いだったろうな」
ついにハリーの堪忍袋の緒が切れた瞬間、空間の温度が数度下がり、魔力が急上昇した。
空間を軋ませるほどの力が杖先に集中する。
来たな! やれ!
「
「グワーッ!」
久しぶりに、脳天に電撃が走る衝撃で起床した今日この頃。
頭を床に打ち付けてたんこぶができたが、終わり良ければ総て良し。ゼロ距離
最近は休みなく過ごしていたこともあってわくわくで準備を終え、合宿メンバーと共にウィンダミア・クィディッチ競技場へ出発した。
場所は、湖水地方にあるウィンダミア湖。広大な湖の上に古めかしい水上競技場があり、美景を眺めながらクィディッチを対戦及び観戦できる。
魔法で浮かべられた橋を渡り、人で賑わう会場へ到着すると、試合観戦へ誘ってくれたカンパニュラ・ロボンが満面の笑みで私と生徒達を迎えた。
今年卒業後、プロのクィディッチ・チームへ電撃入団。学校という枷から自由になり、彼女は世界へ解き放たれた。
ロボンが何を成すかは誰にもわからない。来年か再来年辺りにワールドカップへ出ていようと驚かん。
世界制覇したら優勝杯を見せる、と勝手に約束されて若干げんなりするが、喜びで顔を綻ばす。
元生徒が卒業してたった
そんなこんなで、準備のために元合宿メンバーが嵐のように立ち去り、残された私達は試合の開始時間まで別れることにした。
興奮で爆発寸前のグリフィンドール組は、速足でグッズの売店へ向かう。
今年からメンバー入りした一年生のルビウス・ハグリッドが、大きな体を揺らしてベーアと小躍りを披露し、すでに頭痛の種になりそうな二人組を横目に見送る。
静かに盛り上がるレイブンクロー組は、フリットウィックを先頭に指定席へ向かう。
最初に席を確認してから遊びに向かう姿勢が真面目である。が、悲しいかな。マックスが人混みではぐれるが、気付かず置いて行ってしまう。
雑踏に戸惑うハッフルパフ組は、その心遣いでマックスを救い、三人で美味しそうなフィッシュ&チップスを漁りに行った。
レイブンクローが一名紛れ込んでいるので、試合時間に間に合うよう帰還できるだろう。
きっと。
訝しんだ目で辺りを見回すスリザリン組は──。
「先生はどうします? 一緒に見て回りませんか?」
──引率の教師へご機嫌伺いをした。
「んー、先生らしいことをするよ。申し訳ないが、子供同士で遊びに行ってくれ」
追い払われたことに若干不満そうなトムと、全く別の理由で不満そうなレストレンジを散らす。
「試合が始まる前には席へ着くように」と釘を刺し、歩を進める。
透明な湖水を滑る水鳥、眩しい青空、青々とした森が続く丘山。
競技場をぶらつきながら新鮮な空気を肺いっぱいに吸い、不審なものがないか目を光らせた。
会場を見渡せる見晴らしの良い通路を見つけ、柵にもたれながら周囲を見渡す。
防犯対策は思ったよりもしっかりされている。何人か闇祓いらしき人影を発見した。
安心して試合を楽しめそうだ。
頬を指でたたき、席へ行く前にちょっとした軽食でも漁ろうか悩んでいると、隣に誰かが来て柵にもたれるのが視界に入る。
わざわざ中年の隣へ来て落ち着いた野郎に興味が湧き、顔面を向け、急いで前へ向け直した。
見てはいけない何かを見た気がする。
噂の野郎は興味深げにこちらをジロジロ眺め、上品に口元を微笑ませる。
「久しぶりだな、アルバス。元気だったか?」
なんと、隣にゲラートがいる。
まだ慌てる時間じゃない。
ゲラートだし。
ゲラートくらいそこらにいるよな。
えっ。
何故ここに?
・ポリジュース薬
別の誰かに変身できる魔法薬。変わりたい対象の一部を入れて作る。
すっごい不味いし、人以外に変身するのは危険。
・フリーモント・ポッター
ハリー・ポッターの祖父にあたる人物。現ポッター家当主。
元々金持ちだったが魔法薬でぼろ儲けし、更なる金持ちとなった。
・磔の呪文(クルーシオ)
唱える→激痛。許されざる呪文2。
この世のものとは思えない痛みを対象へ与える。
・ウィンダミア・クィディッチ競技場
生やしたクィディッチ競技場。
1800年頃に何者かがウィンダミア湖に建てた古い競技場。一時期取り壊しの話が出たが、地元民の熱い嘆願によりそのままとなる。
特に問題もないので1900年以降も現役で使用中。