トム・リドルのヘビィなアイ   作:空飛ぶほうき君

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トム成分薄め。


第1章  ハラハラ入学式

 ついに来た九月一日。

 元気いっぱい夢いっぱいの子供の群れが雪崩れ込む日だ。

 

 ダンブルドアがいるのはキングス・クロス駅。九と四分の三番線がある壁の近くに寄り掛かり、近くの新聞販売店で購入したマグルの新聞をめくる。

 

『激化する国家社会主義(ナチズム) 睨み合う列強諸国』『新たなる境地、その名も優生学?』『無料プレゼントはこちら』『カーミラ・アーヴィングの最新ファッション「血」の紅いドレス!』

 

 無料プレゼント?なにが貰えるのだろう…おー、牛革財布か強力吸引掃除機が貰えるとな。抽選十名。

 他は情勢不安関連の記事ばかり。流れ星に願ったら消えてくれるかな? いや、消えずに増える気がする。十中八九、裏でゲラートが噛んでいる気がしてならないが、どうか気のせいであってくれ。

 

 最近事件が起きると必ずゲラートがいるから、多分ゲラートだろうな~。

 きっとゲラートだろうな~。

 

 

 

 成層圏までぶっ飛ばすぞ。

 

 

 

 堪えきれずに溢れ出すため息を零し、新聞を仕舞う。都合よく、見知った姿が近寄るのを目の端で捉え、声をかけた。

 

「ごきげんよう、トム」

 

 孤児院の職員を引き連れて、将来の闇の魔法使い・第二のゲラート予備軍様が不遜に見下す。

 丸みを帯び始めた頬と薄っすら色づくピンクの頬。大きなトランクに振り回されながらも、目の前に立つ姿は以前より健康そうで。予想通り、あれから頻繫にダイアゴン横丁へ赴いていたらしい。

 

 バーテンのトムが「ご注文通り昼食を振舞って。えぇ、お残しもせずえらい子ですね」と嬉しそうに語り散らかした。手持ちが少ない中、頼んでもいない料理を出されてさぞかし恐ろしかったろう。

 

 だが心配ない。私の金だからね。奢られる恐怖を味わえ。

 

 ガリオン金貨で殴る、これが正義。金庫が金貨で溢れている故できる娯楽さ。ワハハ! 

 マグルの金庫も所有する私に死角なし。

 

「お見送りお疲れ様です。これを院長先生にお渡しいただけますか?心ばかりですが、お役立てください」

 

 トムの見送りに来た若い女性に封筒を渡す。中身は服や日用品、食料を買い込むのに困らない額の小切手。驚いた様子で女性は封筒を受け取とり、深々と頭を下げた。

 

 くるしゅうないおもてをあげい! 

 いや本当に頭を上げていただきたい。周りの視線が痛いのです。

 

「どうか頭を上げて下さい。院長先生によろしくお願いいたします」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 

 離れる度ペコペコお辞儀を繰り返し、職員の女性は去って行った。真面目な職員なので着服しないはず。院長のミセス・コールは酒漬けだが、子供を優先する善人なので心配ない。

 

 心配すべきは、私とトムの周りだけ人ごみにぽっかり穴が開いた今の状況。子供を連れてきた女性に『心ばかりの』封筒を渡し、子供といる中年は控えめに見て犯罪臭がする。

 しかし、欠片だって悪いことはしちゃいない。

 

 堂々と背筋を伸ばし、こちらを見てヒソヒソ噂話をする輩をメンチビームで焼き尽くす。

 

 勝ったな。

 

「ホグワーツ新入生、保護者の皆さんお集まりください」

 

 指を二度三度鳴らし呼びかける。先程のメンチビームに焼かれた数名と、彷徨っていた五グループの家族が集まった。いずれもマグルの家庭で、九と四分の三番線をあてどなく探し回っていたせいか、早くもクタクタになっている。

 

 私は、魔法界の事情に疎い新入生とご家族を案内するためここにいたのだ。断じて、不審者になるためじゃない。

 

「あの、スミスです。ダンブルドア先生ですよね?切符に九と四分の三番線とあるけれど、どこにも」

「落ち着いてくださいスミスさん。大丈夫ですよ。目的地はそこです」

 

 時間が迫り、焦りで早口に捲し立てるスミス家の家長に、9番線と10番線の間、改札口の柵を指さす。スミスさんは柵を見て私の顔を見て、また柵を見て怪訝な顔で私を見た。

 他のご家庭も同じような表情を浮かべて『なにを言っているんだ』顔がそう語る。

 

「は?馬鹿にしないでいただきたい。そんなものどこに」

「まあまあ。どうぞ、私に続いて」

 

 憤慨するスミスさんを宥め、手を後ろに組んで柵を悠々とすり抜ける。眼前に広がるプラットフォームと壮大な紅色の蒸気機関車。

 

 ホグワーツ特急。

 

 すり抜けてすぐぶつからないよう横に退く。トムがそう待たず通り抜け、共に他の家族を待つ。

 通りすがる生徒に手を振りつつ時計を確認。

 

 一分

 二分

 三分

 ・

 ・

 ・

 十分

 

 他は?遅すぎやしないか? 

 

 心配になった私は、先に汽車へ乗り込むようトムに伝え、柵を超えて戻ると、案の定口を開け放心状態の新入生ご家族一行がいた。非魔法族の反応は大抵がこんなもんである。

 放心する人々を順に追い立て、全てのグループを通り抜けさせる。通り抜けた先で突っ立っていた家族に衝突する事故が多発したが、それ以外は概ね順調。

 

 出発時間が迫る中、未だ感動の別れを家族と続ける新入生を汽車へ連れ去り、新入生を空いている適当なコンパートメントにぶち込む。子供の波をかき分け教員用車両へ。

 誰もいない席を見つけ、腹に手を組み、目を閉じて祈った。

 

 今年は平穏でありますように。今年は平穏でありますように。今年は──―

 

 内なる精神に籠るダンブルドアを尻目に、列車は走り出す。

 

 

 

 

 

「ダンブルドア先生!車内販売です。いかがですか?」

 

 座席で過ぎ去り行く景色をぼんやり眺めていると、車内販売のマダムに声をかけられた。毎年常連の顔だ。車内販売といったら彼女、という印象が定着している。

 

「こんにちはマダム。蛙チョコレート白茶一つずつに、歯みがき糸楊枝型ミント菓子、ココナッツ・キャンディを一箱もらおうか」

 

 代金を支払い、商品を受け取る。

 

「毎度ありがとうございます。頑張って下さいね」

 

 マダムはにこやかな笑みで手を小さく振り、扉を閉めて次のコンパートメントへ去った。

 

 隣の席にお菓子を配置。懐から『日刊予言者新聞』を取り出し、お気に入りの変身術コーナーを覗く。暫し読み耽けっていると。

 

 コンコンコン

 

 ドアを控えめに叩く音の発生源に二人の生徒がいる。すでに学生服に着替え済みの上級生と、新入生だろう顔色の悪い女の子。

 グリフィンドールの上級生ブラッド・ヘインズが、少しだけドアを開けて、申し訳なさそうに要件を述べる。

 

「先生。この子、気分が悪いみたいで…」

 

 記念すべき収容者一人目おめでとう!お祝いにお菓子をどうぞ! 

 グリフィンドールはす~ぐ面倒を私に投げつける。寮監、つらいなぁ。

 

 

 

 ついに訪れた次なる試練、ダンブルドアのコンパートメント診療所が始まった。

 

 

 

「大丈夫かい?私の近くでよければ休んでいきなさい。君、わざわざありがとうね」

「いえいえ。監督生ですから」

 

 キラリと胸元のバッチと歯をきらめかせ、颯爽と去る上級生へクソ爆弾を爆撃する衝動を飲み込む。彼は監督生らしく行動したまで。

 

 でも、私は変身術教授で、癒者(ヒーラー)じゃないぞ。

 

 何はともあれ顔が真っ白の女の子を空いた席へ誘導。丸めた私のスーツを枕に、毛布を掛けて暖かく。一切淀みない処理が診療所の歴史を物語る。

 

 つらいね。

 

「気持ち悪い? 頭が痛い?」

「頭いたい」

「おぉう頭痛か。なら、これだな」

 

 ミントのお菓子を拾い上げ、包装を解く。

 

「ミントのお菓子だよ。ミントは頭痛を和らげる効果がある。食べられる?」

「うん」

「噛まずに舐めてね」

 

 ミントのお菓子を枕元に置いて席に戻る。流れる静寂。少女がたまにお菓子をつまむ音。

 今度は本を読もうと懐に手を伸ばし──―ドアのガラスにまたも人が。

 

「はい?」

「ダンブルドア先生」

 

 誰かに肩を貸しているようだったので自分がドアを開ける。肩を貸すハッフルパフの四年生セシル・マクマホン、鼻を抑えてグッタリ寄り掛かるハッフルパフの二年生ノア・セルウィン。

 

 ハッフルパフが何故ここに? 

 

「ごめんなさい。上級生同士の喧嘩にセルウィンが巻き込まれて」

「喧嘩は続いてる?」

「ビーリー先生が仲裁を。あの人達はまだ怒られてるんじゃないかな…っです!」

「そりゃよかった。で、何故私に?」

「ビーリー先生がダンブルドア先生の所で休ませてやれ、て」

 

 ヘルベルト―ッ!!!! 

 

「そう、か!彼の具合を看ておく」

「よろしくお願いします」

 

 まさか教師が刺客を送り込んでくるとは思うまい。盲点だった。やはり自分以外は敵か。

 

 ハッフルパフ生の治療を開始するため廊下側の席に座らせる。鼻は折れていない。

 ティッシュを持たせ止血。鼻から溢れた血を拭い、最後に魔法で冷やしたハンカチを額から鼻辺りに押し当て、冷やす。ハンカチも持たせやっと席に戻った。

 新入生の頭痛を増やさないよう、部屋の空気を新鮮な空気に換えておく。

 

 外はすっかり暮れ、泥む空が広がる。

 

「君、制服に着替えなさい。もうすぐ学校に着くよ」

 

 血色が良くなった新入生をミントの菓子を手土産に帰す。もう一人は着く間近に回復。ココナッツ・キャンディを握らせ、同じく返す。

 

 

 ──―ミッションコンプリート──―

 

 

 

 

 

 

 

 以降、特に問題なく汽車を降り、馬車に乗ってホグワーツ城へ到着。一年生を湖から引き連れて大広間へ突入するのだが…。

 

「へっくしっ」

 

 毎年恒例、湖に一年生落下事件が発生。今年はなんとなんと、3名。引き上げに失敗し、仲良く濡れ鼠の仲間入りだとか。救出者(?)は大イカ。

 魔法で三人の体を乾す最中トムはゴミを見るような目で見ていた。

 

 ようやく大広間に突入し一年生を寮テーブルの先端まで運ぶ。魔法で映し出された夜空と浮かぶ蝋燭の幻想的な光景に目を見開く一年生を、四足のスツールに乗せられた、ボロボロのとんがり帽子の周りに集める。

 

「私はきれいじゃないけれど。人はみかけによらぬもの。私をしのぐ賢い帽子。あるなら私は身を引こう」

 

 帽子の破れ目が口のように動き適正による各寮の組み分けを歌い出す。

 毎年聞いているくせに、ひどく懐かしい感覚に陥った。ずっと昔、彼ら彼女らと同じ一年生だった頃。

 

 

 アリアナがマグルに襲われ、復讐に走った父がアズカバンへ投獄されたあの頃。

 

 

 ハッ、と今に意識を戻す。すでに歌は終わり私を待っていた。帽子を掴み告げる。

 

「名前を呼ばれたものは前へ。椅子へ座り、組み分けを受けなさい」

 

「アバナンシー・ミランダ!」

 

 最前列、汽車診療所で世話した少女が、足と手をガクガク震わせ近づく。

 

「大丈夫。帽子をのせるだけだから」

 

 顔面蒼白の倒れそうな少女に組み分け帽子をのせて一分。帽子がぶるぶると震え、叫ぶ。

 

「グリフィンドール!」

 

 グリフィンドール生が歓声で沸き、一年生を歓迎する。彼女は笑顔でガクガクしながらテーブルへ向かう前、私に微笑んでくれた。

 

 

 

 一人二人三人四人、ABC順に名前を呼んで組み分けて。また呼んで組み分けて。

 いよいよトムの番。

 

「リドル・マールヴォロ・トム!」

 

 マールヴォロの名にスリザリンの一部がざわつくが無視。座ったトムへ帽子を下す。

 

 …。

 

 組み分け帽子が珍しく決めかねている。帽子が触れた瞬間、スリザリン!だと期待したのに。

 

 …。

 

 まさか組み分け困難者?トム、君ってやつは。属性過多が過ぎる。孤児にパーセルマウスにゴーント家疑惑に闇の魔法使い候補とかどうなっているのかな? これ以上どんな属性を付与するというのか。

 

 …。

 

 生徒が動揺し始めたから早く決めて帽子。

 

「スリザリン!」

 

 スリザリンテーブルで歓声が上がる。万来の拍手が溢れる大広間を、トムは大勢の前でも物怖じせず大股で歩き去り、空いた席に着いた。

 

 スリザリンかレイブンクローか迷った組み分け帽子と語り合っていたに違いない。アレは組み分けに迷うと、本人の意思に選択を託す癖がある。

 私の時のように。

 

 

『才能に溢れ、どの寮でも偉大になれる可能性がある』

 

『勇気も知恵も狡猾さも優しさも秘めている。貪欲に知識を求める欲望さえ。フン、さすれば後は君次第』

 

『君はホグワーツで何を成したい?』

 

 

 はて、とんと思い出せん。私はなんて答えたのだろう。

 




・九と四分の三番線
魔法で隠された、九番線と十番線の間にあるプラットフォーム。
ホグワーツ行きの汽車がある。

・マグル
非魔法族、魔法使いじゃない人のこと。

・スミス家
生やしたモブ1。両親がマグル、娘が魔女。

・歯みがき糸楊枝型ミント菓子
ミントのお菓子。

・ココナッツ・キャンディ
ココナッツ・アイスとも言う。
削りココナッツをコンデンスミルクと砂糖で押し固めたカロリー爆弾。甘~い!

・車内販売のマダム
いつから働いているかわからないが、いつもいる車内販売のおばちゃん。
坊ちゃん何かいかが?

・日刊予言者新聞
イギリス魔法使いご愛読の新聞。デマが蔓延ってる。
写真が動くし、なんなら速報も入る。

・クソ爆弾
その名の通り。

・ブラッド・ヘインズ
生やしたモブ2。グリフィンドールの五年生で監督生。
白い歯とバッジを煌めかせることに命を懸けてる。劣化ロックハート。半純血。

・ミランダ・アバナンシー
生やしたモブ3。グリフィンドールの一年生に組み分けされた。
人のいない農村で育ったため人ごみが駄目。ついでに人も苦手。マグル生まれ。

・セシル・マクマホン
生やしたモブ4。ハッフルパフの四年生。
蛙好き。マグル生まれ。

・ノア・セルウィン
生やしたモブ5。ハッフルパフの二年生。
上級生の喧嘩に巻き込まれ、顔面パンチをもらう。純血。

・ヘルベルト・ビーリー
ハッフルパフの寮監にした。本家で寮監だったか不明。薬草学教授。
面倒事はとりあえずダンブルドアに投げとけば何とかなると思ってる。

・毎年恒例、湖に一年生落下事件
一年生はホグワーツ城を眺めながら湖を渡るため、たまに落ちる生徒がいる。
他学年の生徒は馬車で先に入城するので大丈夫。

・グリフィンドール
ホグワーツの寮の一つ。シンボルはライオン。
シンボルカラーは深紅と金。

・ハッフルパフ
ホグワーツの寮の一つ。シンボルはアナグマ。
シンボルカラーは黄と黒。

・レイブンクロー
ホグワーツの寮の一つ。シンボルはワシ。
シンボルカラーは青とブロンズ。

・組み分け帽子
ホグワーツ創設者の性格をインストールしたスーパー帽子。喋って歌える。
新入生の心を覗いて組み分けする。

・組み分け困難者
組み分けにめっちゃ時間掛かる人。あまりいない。

・アリアナ
ダンブルドアの妹。故人。

・アズカバン
魔法使いの監獄。場所は海のど真ん中。
吸魂鬼とかいう死神くんが看守の、思い出パクパクテーマパーク。
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