トム、召使はいても友達いないから…。
あっナギニいるじゃん!
よかったなトム!
※12/26追記※
誤字報告ありがとうございます。
お礼に鼻血ヌルヌル・ヌガーをプレゼント!
おはよう太陽!
新学期の朝。清らかな空気を全身で享受し、朝霧に包まれた禁じられた森を一望する。綿菓子を連想させる雲が晴天に散らばる景色。優雅に空を散歩するセストラル。
そして温かい紅茶。ミルクと砂糖たっぷり。
紅茶といえば。昔、ニコラスと飲み物の解釈で喧嘩になった。
コーヒー派のニコラスと紅茶派の私が、食事中にコーヒーか紅茶かで口論に発展。最終的に住居の一部を吹き飛ばす事態へ。文字通り飛んできたニコラスの妻ペレネレが仲裁後、お互いの飲み物を交換し戦いは終結。カフェ・オ・レは案外美味で、自身の偏狭さを詫びた。
後日、ニコラスの悪戯により、砂糖なしエスプレッソを脳みそへ叩き込まれた私は激怒。
第二次コーヒー紅茶戦争が勃発しかけるが、ミルクと大量の砂糖を投入し事なきを得る。
昔の楽しい思い出を頭の片隅に、牧歌的な光景へうっかり飛び出しかけた欠伸を噛み殺す。気取った仕草で紅茶を飲み干したダンブルドアは、開け放った窓を閉め仕事場へ向かった。
ホグワーツ城中庭近くの1B教室。変身術を学ぶ場は、授業時間前のため人気が無い。授業の準備は前日に終えているわけで。いうなれば、暇なのだ。
机に腰かけて唸る。一年生を初めての変身術の授業で驚かす、これが毎年の楽しみな私は出し物に悩んでいた。
昨年は羽ペンをカモメに、一昨年は窓硝子を蝶に、一昨昨年は椅子をリクガメに、いつか忘れたがランプを不死鳥に変えて飛び回らせたし…。
一限目最初はスリザリンの一年生。無難に蛇で攻めるべきか、奇を衒うか。
うーん。
あっそうそう、スリザリンにトムがいた。
蛇にしよう。
始業時間になり、ぞろぞろとスリザリン生が着席し出す。トムは最前列真ん中の席に怯むことなく直進、私と目線を切らずに席へ。怖いよ君。
「おはよう一年生。よく眠れたかな?点呼を始める」
点呼中、遅刻した生徒がいたのでやんわり注意しつつ終え、待ちに待った授業へ。
「君たちが本日学ぶ変身術は、美しく、されど非常に危険な魔法」
「間違った手順一つが大事故に繋がる。まずは変身術の理論を学び、次に正確な呪文の発音と杖の振り方を習得する」
「さあ、教科書を開いて。面倒な理論を早く終わらせてしまおう」
脇に置いた黒板へ初級変身術の理論を簡単にスラスラと書く。サボったり遊ぶ生徒はおらず、皆真剣に羊皮紙へ写していた。
素直で勤勉、感心感心。
呪文と杖の振り方を杖無しで行わせた後、ついに実践へ。教卓からマッチ箱を手に取って掲げ。
「諸君、注目!変幻自在の芸術の一端に触れたまえ」
少々大仰な語り口で関心を引き、掲げたマッチ箱に杖を向けた。
小刻みに震えるマッチ箱から蛇の大群が噴水さながらに噴出、美しい弧を描いた蛇達は着地と同時に動き出し、生徒へ這いよる。
生徒が悲鳴をあげ逃げ回る、阿鼻叫喚の地獄絵図と化す教室で、唯一正気を保つは私とトムのみ。トムは蛇大好きだからね。これくらい屁でもないね。
地面の蛇から逃れようと椅子に立つ生徒に我関せず、指揮棒のごとく杖を振る。
這いずり回る蛇達は途端、当率のとれた動きで机に這い上りとぐろを巻いて停止。動かない蛇にトムは試しに話しかけていたが、蛇語を喋れない私が作り出す蛇は返事を返せなかった。
最後の締めに指揮を切ると、蛇はただのマッチ棒へ。許容量を超えた出来事に対応できず皆固まっているのを、手を叩いて注意を私に戻す。
「見ての通り、魔法は驚異に満ちている。されど諸君は変身術の深淵を覗いたばかり。無機物を生物に変えるには早い」
「さて、初級変身術10ページ『無機物から無機物へ変化させる』を手本に、マッチを金属の針へ変えてみよう」
静まり返る教室に喉を鳴らす音が響く。私は、びくびくと着席した生徒が授業課題へ挑む風景を眺めていた。
トムを除きドッキリは大成功。顔に微塵も出してないが、心中うはうは。たまらん。
笑いがこみあげてくる。ワハハ!
教室を大きく一周し生徒の進捗と危険がないか目を光らす。何気なく最前列のトムを通り過ぎ、急いで後退。
は?
もう針にかえちゃったの??
いかん、つい精神後退を。
教師生涯驚きの生徒タイムアタックぶっちぎり一位で、マッチを針に変えた男の子を驚いて見下ろす。もちろんおわすは、クソ生意気な面を向けたトム。顔が語る「どうだ、やってやったぞ。案外簡単だ」と。
ほーん。
やるじゃない。
「リドル、針に変えたか。早いな」
純粋に感心する。背筋に冷たいものが走る感覚は久々だ。
これは…すごいことになるぞ。奴の才能は変身術だけではないとビンビン感じる。
「目にも止まらぬ早業お見事!スリザリンに10点!」
パチパチ。同級生の努力を、遥か彼方へ置き去りに走り出す毒蛇の王へ拍手を送る。隣の少女はポカンと口を開けたまま石化し動かない。早速トムの魔眼で石にされた。可哀想に。
誇らし気にキラリと光る針をトムの手から掬い取り、眼前に近づけた。
見れば見るほど鋭い針先に惚れ惚れしちゃうよ。
針先に指を当てると…痛い。変化は完了済み。中途半端だと針先が丸い赤ちゃん針へ変貌する。一般的な魔法使いはマッチ、鉄のマッチ、赤ちゃん針、針の順に頑張って変化させるが、トムはそんなもの知らん!僕は針が欲しい!と、努力という名の過程を全部ぶっ飛ばして針にしたのだ。
それも短時間で。
「素晴らしい。服も楽々縫えるね」
静かに針をトムに返す。残念ながら課題を突破され、授業時間はたっぷりある。しょうがない。
「次はゴブレットに変えてみなさい」
課題を終えたら次の課題があるのは当たり前だね?
机に乗せられる石ころ。トムの余裕を湛えた軽薄な笑みは雪みたいに解けて消えた。君を称えるだけが仕事じゃないので。そういうのはホラスにしてもらいなさい。彼は得意だから。
爽やかな笑みを頭上から振りまき、他の手間取る生徒へ足を進める。
顔を逸らす前に捉えたトムの目は本当に人を殺めかねない迫力があった。きっと彼が本当のバジリスクだったら、私は今頃コロッと死んで、なおかつ塵と化してるやもしれん。おーこわ。近寄らんでおこう。
結局、授業終わりまでにマッチを針に変化させた生徒は、トム以外ゼロ。ぐにゃぐにゃマッチや、摩訶不思議な伸びるマッチが観測できる面白い授業ではあった。どこまでも伸びていくマッチは、流石に耐えきれず大笑いした。
件のぐにゃぐにゃマッチを手慰みに、生徒のいない空間でひと時の孤独。
柔らかマッチを教卓へ落し、レイブンクローの四年生が二時限目で使う籠を研究室から取り出す。籠には数十匹のハツカネズミ。一匹を手に乗せ頭を掻いてやると、気持ちよさそうに目を細めた。黒毛に赤い目がチャーミング。名前はトム二号。
トム一号は先程、鼻息荒く次の授業へ出陣なさった。
トム一号も頭を掻いたら懐くかな?きっと指を食い千切るね。
むしゃむしゃ食うか吐き捨てるに一票。
もうすぐハロウィンが来る楽しみを胸に働く今日この頃。風の便りによると、トムは”聡明で優秀な学生”の称号を手に入れたらしい。昨夜、噂の出所(ホラス)が嬉々として他教授に褒め称えている場面に遭遇。トムの類まれな才をこれでもかと耳に擦り付けて下さった。
ホラス。君は見込みある生徒をコレクションに加えたがるが、やめとけ。彼は優秀な子猫ちゃんではなく驕慢な毒蛇の王だ。魔眼で殺されるぞ。
噂の“聡明で優秀な学生”トムは、石をゴブレットへ変化中。未だぐにゃぐにゃマッチを量産し続ける生産者を手助けついでに、トムの進行状態を見物する。
これなら次回辺りで成し遂げるだろうな。
二つに分裂したマッチを横目に授業終了の鐘の音が響く。足早にマッチを教卓に戻し、昼食を求め我先に出入り口に群がる生徒達。私も渇いた喉を潤そうと自分の研究室へ向かい、足を止めた。
トムが教室に残って石と戦っている。
「リドル、授業は終わりだよ。お昼に行きなさい」
「いいえ先生。もう少しで…」
梃子でも動かぬ様子のトムを目標完遂まで見守ることに決め、空いた椅子を引き腰掛ける。トムは近くへ座った私を不快に一見、ゆっくり確実に石の形を整え、ついに変化させた。
無骨な石のゴブレット。所々荒い箇所が目につくが、れっきとしたゴブレットが目の前に。
やりきったトムは深く息をつき、肩から力を抜く。
「おめでとう!いいゴブレットじゃないか」
「先生の指導のおかげです」
ふわり、柔らかく微笑んで心にもない言葉を吐く少年。この顔にホラスが骨抜きにされたとは。どう見たって牙隠す蛇の顔だぞ。
「トム。トーム。私に仮面を被っても意味ないよ。正体を見せたまえ」
余程トムという名が嫌いなのか、はたまた私に彼の演技が効かない故か、張りぼての仮面が崩れ落ちる。隠しもしない敵意と一匙の怖れ。全身で拒絶を示すトムが現れた。
いつも通り好感度はマイナス。知ってる知ってる。君、初対面でさえそうだったもの。
「そっちの方が良い。素直だ。少なくとも、さっきの君よりね」
「何が望みだ。僕に何を求めてる」
「いんや。なーんも。素直な君の方が好きなだけさ」
悪戯心が沸いて、研究室でいただく予定だった「アレ」を机に現す。金属製のポットと二つのカップ、シュガーポット、ミルクピッチャー。ポットから黒々と輝く液体をカップへ注ぐ。
カップの一つをトムへ、もう一つを鼻下に近づけ芳醇な香りを胸いっぱい吸い込む。
トムは黒い液体に恐れをなしてカップへ触れない。
「君の達成を祝して、乾杯!」
掲げ終えたカップを口元へ運び一口。
ぐ!苦い!
あくまで涼やかに、目元を和らげ再度香りを楽しんで時間稼ぎ。
トムは?飲んでいない。
「冷めてしまうよ。温かなうちが美味しいんだ」
トムへ催促を促す。逡巡した後、意を決して口元へ運ぶトム。私は脳内で勝鬨を上げ、今か今かと息を潜め、待つ。
「あっづ。にがっ」
蚊の鳴くような声で早口に口走った言葉を私は聞き逃さなかった。
引っかかったな!見ろ!トムのあの顔!
「アッハッハッハ!」
腹筋崩壊したダンブルドアは教室に響き渡る声で笑い散らかした。即座にキッと睨みつけたトムはカップを乱暴に叩きつけ、ダンブルドアを糾弾する。
「おまえ! 僕に、毒を…!」
「どくぅ?ククク!毒じゃ、ない、ヒーッ!」
涙を浮かべて散々笑い転げ、気が済むと語りだす。
「これはね、コーヒーだよトム。コーヒー」
「は?」
「待て待て。立ち去るには早い。ほら、こうやって」
腰を浮かしかけたトムを宥め、零れたコーヒーを消し、注ぎ直す。その際、ミルクを同量加えシュガーポットから砂糖を数匙。渦巻く白とブラウン。ソーサーのスプーンで混ぜて。
「タダ―!これぞフランス人が愛するカフェ・オ・レ。甘く、優しい味わい」
トムの味蕾へ大ダメージを与えた姿は失せ、優しい色合いが残る。しかし、やはりと言うべきかトムは動かない。相当悪戯が効いている。眼がギンギンである。
「いやぁ、すまん。つい若者を揶揄いたくなって。いい匂いだろ?友人お気に入りの最高級コーヒー豆を使っていてな。この一杯でガリオン金貨何枚分やら」
「…」
「君が嫌なら仕方ない。美味しいこいつは私がいただくよ」
苛立つ笑顔で告げ、ゆっくりカップに手を伸ばし。素早くカップを奪い去るトム。
「僕のものだ」
「うん。君のものさ」
一杯数ガリオンの価値がトムの琴線に触れたらしく、意地でも飲み切る腹積もりだ。恐る恐るカップを口に傾けゴクリ。もう一度ゴクリ。
顰め面が無表情に置き換わり感情が読みにくい。嫌ってないとは思う。
追加のミルクと砂糖をドバーッと滝の如く自分のコーヒーへ投入するダンブルドア。コーヒーよりミルクと砂糖の比重が大きい何かを嫌悪感満載で見下ろすトム。ある意味平和な風景がそこにあった。
「ありがとう」
知らず知らずのうち、そんな言葉が零れて。
「面白味もないおっさんの悪乗りに付き合ってくれて、ありがとう」
トムは視線をカップに固定したまま固まり、目を彷徨わせ狼狽えていた。突然体を跳ね上げ椅子を派手に倒し走り去っていく。
後に残るは倒れたカップが乗るソーサー、一人残された私。
難しいね。人の心は。
冷えた教室で、寂しく冷めた液体を喉に流し込んだ。
・禁じられた森
ホグワーツ敷地内の広大な森。ケンタウロスやユニコーンなど多様な魔法生物が暮らしている。
・セストラル
骨と皮のコウモリ天馬。死を見た人間にしか姿が見えない。
・ペレネレ
ニコラス・フラメルの妻。夫と同じく600歳を超える高齢。
夫と違い、機敏に動くスーパーウーマン。
・1B教室
変身術の教室。教師用の研究室(寝室付き)が併設されている。
・不死鳥
深紅の体に金の長い尾の鳥。鋭いかぎ爪がある
涙に癒しの力、歌は魔力を持ち、体が衰えると自ら発火し灰の中からヒナとして生まれ直す不死身。
ダンブルドア家の者が窮地に陥ると姿を現す、とかなんとか。
・変身術
対象を変化させる魔法。物から生き物へ変えたり、その逆の変化も可能。
ミスると大事故が起きる。
・ホラス・スラグホーン
魔法薬学教授でスリザリンの寮監。純血。
自身のクラブ「スラグ・クラブ」に招待し、優秀な生徒をコレクションするのが趣味。
ただしパッとしないやつはお呼びでない。
・バジリスク
毒蛇の王。猛毒の牙、即死ビームを放つ目、間接的にでも目を見たら石化。大抵の相手は死ぬ。涙がで、出ますよ。しかもデカい。
サラザール・スリザリンが置いてった蛇もバジリスク。
・トム二号
授業で使うハツカネズミ。黒毛に赤い目。
かわいいね。