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錬金術出そう
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錬金術って何だよ…(哲学)
眼前を飛び交う青、黄、赤の花火。クィディッチ・ワールドカップの夜空さながらの、目にも鮮やかな色とりどりのシャワーが吹き荒れる。
「どうして…こんなことに」
悲しいかな。望まずとも戦いが向こうからやってくるダンブルドアには見慣れた光景だった。まさか愛する学園の敷地内が戦場になると夢にも思わなかったが。
妙に美しい光弾群を遠い目で見つめ、変身術教授は現実逃避気味に顎髭を撫で続けた。
『数時間前』
黄昏に燃える禁じられた森。木漏れ日から降り注ぐ光が樹木を黄金へ染め上げる。朝方降った雨で未だ泥濘む足元を気にせず、ダンブルドアは森の奥へ進む。
危険なものほど美しい、と言ったのは誰だったか。日中でさえ薄暗い禁じられた森に夕方踏み入る教師は少ない。生徒は言わずもがな、立ち入り禁止。そんな場所へ元素狩りにやってきていた。
多くの魔法生物が暮らす禁じられた森は魔力で満ち満ちている。木、土、水、石、空気すら微弱な魔力を帯び、錬金術で使う素材採取にピッタリだ。元素狩り上級者の経験上、深部に行けば行くほど高純度の素材と巡り合う。ただし、恩恵を得るには行く手を阻む危険生物や魔法の霧を突破しなければならない。
この霧が厄介で、対策無しに来ると魔法で欺かれた視界に迷い、同じ場所をグルグル回る羽目に陥る。学生時代、霧にやられてケンタウルスの群れと鉢合わせた時は流石に死んだと思った。共にいた学友のエルファイアスが腰を抜かし、少女のような悲鳴をあげたのが懐かしい。
ケンタウルスの居住地を避け、霧を超え、宴会中の吸血鬼の集団に遭遇するも、ただの酔っ払いの集団なので放置。とっぷり日が暮れた闇の中、杖先に光を灯し古い地層が隆起した場所を探索する。崖下で見つけたそれらしい石を何個か集めて中身を確認。
手ごろな黒い石を割る。ない。
大きめのまだらの石。ない。
手のひら大の薄黄色の石。あった!
割れた石を手に取り月明かりにかざすと、
本日のお目当ての一つ、土の元素結晶。
元素結晶は長い年月をかけて四元素が魔力により物質化、石内部で結晶として形成されたもの。魔力が潤沢に満ちた地域で生成されやすく、禁じられた森は土、水の元素結晶が採れる。
元素狩りの結果、崖下で土の元素結晶を三つ、川で水の元素結晶を二つ発見。合計五つ手に入った。あまりにしょっぱい結果だがやむを得ない。
風に揺れる葉の音。遠くでユニコーンが走り去り、狼の遠吠えが鳴り響く。
気付けば月が真上で輝いている。思ったより森に長居をし過ぎた。城へ帰らないと。
道すがら魔法薬の素材を拾いつつ急ぎ足で城へ。息が白く染まり、肌寒い寒風に身を切られながら森を抜ける。
月光に浮かび上がるホグワーツ城を暫くの間眺望し自身の研究室へ戻る途中、天文台の塔が光った。塔が光るという不可思議な現象を調査すべく近づく。
誰かが花火を打ち上げているらしい。消灯時間はすでに過ぎているため、注意しようとさらに接近して気付いた。
両端で飛び交う呪文。
戦い。
気付いてすぐ杖を引き出しひた走る。感情を削ぎ落した表情とは裏腹に、不安に苛まれた脳内で疑問が溢れ出す。
生徒同士のいざこざ? こんな場所で? もっとコソコソやるだろう。まさか……同盟? ついにゲラートがアコライトをけしかけた? 未確認の闇の魔法使いの侵略? ならどうやって敷地内に侵入できた? 生徒は無事か?
あれこれ考えているうちに現場へ到着。攻撃の準備を整え、天文台の塔真下で繰り広げられる戦場に飛び込む。
そこでは。
魔法界最強純血種~聖28一族~決定戦が開かれていた。
「えぇ……」
『現在』
立ちつくす変身術教授に欠片も気付かず戦いに熱中する両者。陣営はグリフィンドール&ハッフルパフ対スリザリン。参加者はもちろん、ウィーズリー、ロングボトム、フォーリー、マルフォイ、ブラック、レストレンジ。件の面子がキーキーギャー叫び、滅多矢鱈に乱射された呪文が飛び散る。
反射され向かってきた呪文を打ち消しダンブルドアは思う。
またか、と。
ウィーズリーとマルフォイは互いに怨恨という名の爆弾を抱えており、度々爆発を起こしていた。ここまで大規模な乱闘は今までなかったが、小規模の戦いは幾度も発生。その度に罰則を科し、寮点を減点しているがこの通り。何度か学校の規則を破ったことで両親に手紙を送ったが特に効果は無かった。
いずれにせよハロウィーンで起きた喧嘩が大爆発の引き金になったのは確実。責任の一端は私に有る。
胃がキリキリ痛み、腹を摩った。ストレスで胃に穴が開きそう。最近、白髪が増えたのを毎朝実感する。ストレス過多なのでは?私は訝しんだ。
「グワーッ!」
ロングボトムがレストレンジに吹き飛ばされ脱落。フォーリーがレストレンジの足を掬い、ブラックと一騎打ちへ。その傍で撃ち合うウィーズリーとマルフォイが相打ちに。四人が地に伏してやっと再起動するダンブルドア。
「何してる! 杖を下げろ馬鹿者!」
戦場に割り込み素早く距離を詰め、フォーリーの杖を手で無理やり下げる。慌てふためくフォーリー。杖を吹き飛ばされたブラック。周りに散らばるウィーズリー、マルフォイ、ロングボトム、レストレンジ。そして純血の内ゲバに巻き込まれた半純血。これはひどい。
なお魔法界で一番強い純血は聖28一族のフォーリー家、アレクサンドラ・フォーリーに決定。
拍手!
「ダンブルドア先生! あの、これは」
「フォーリー。後で言い訳を聞く。ロングボトムに肩を貸してあげなさい。ブラックはレストレンジを」
フォーリーをキッと睨みつけたブラックは杖を拾い、レストレンジへ。フォーリーはロングボトムに。私は二つの爆弾へ。
「ウィーズリー? マルフォイ?」
「この……くそっ」
「ざまあないウィーズヒック! ヒック!」
「元気そうでなにより」
受けた呪文の効果で皮膚が虹色に輝くウィーズリーが地面でもがき、ピンクのシャボン玉を吐き出し続けるマルフォイがしゃっくりをあげて嘲笑う。足元がおぼつかない二人に手を貸し、満身創痍のグループを引き連れ医務室へ。
すぐ医務室にスリザリン寮監とハッフルパフ寮監を召喚。規則破りで寮点を減点、罰則に一ヶ月間の清掃活動を下す。次は親御さんと三者面談の刑に処すと告げ、その日は解散。
数日後、医務室から解放された者達と罰則メンバーが授業終わりに魔法薬学教室へ集合し、清掃活動を開始。最初は魔法薬学で使った予備の鍋と大鍋の清掃。鍋底にこびり付いた魔法薬か何かの残骸を制服に貼り付け、毎晩くたくたで寮へ戻る姿は哀愁が漂う。
鍋掃除が終わると次は温室掃除。床に散らばった培養土を掃き集め、肥料を運ぶ重労働をヒーヒー言いながら清掃活動三週間目を終えた。
杖を一振りで済む雑事も手作業は時間が掛かる。魔法無しの生活はなんと不便か。マグルは如何にして魔法無しの生活を営んでいるのだろう? 非常に興味がある。機会があれば一週間ほどマグルの生活を体験してみるべきか。
1B教室に併設された研究室で清掃活動を監督の傍ら、マグルの化学雑誌を読み耽る。今週を耐えきれば自由放免の罰則チームへ、変身術の授業で使う動物の籠の清掃と世話を任せた。鍋底を削ったり肥料を運んだりすることと比べたら楽な作業だろう。
作業中、面白い事実が判明した。
ブラックはカタツムリが嫌いらしい。
半径100インチ(約2m)以内には決して近づかず、目の前に軟体動物が出現しようものなら、悲鳴を上げて逃走。部屋の隅から動かなくなるほど苦手なようである。他生徒もカタツムリが好きではなく、抵抗無く戯れたのはロングボトムのみ。彼はカタツムリどころか、部屋中の動物に臆さず愛情持って触れ合える精神の持ち主であった。
魔法界で最も動物好きな魔法使い選手権に参加できるぞ。よかったなロングボトム。純血部門チャンピオンは、ニュートン・アルテミス・フィド・スキャマンダー。数十年は王座を防衛し続けている覇者だ。頑張れよ。
ブラックは五年生までにはカタツムリに慣れようね。先生との約束だ。じゃないと消失呪文の授業が受けられんぞブラック。
不意に雑誌のページを捲る指先に当たるふんわりした感触が。カサカサ音を立てる誌面を不思議に思い、捲ったばかりのページを摘まみ上げ現れる、艶めいた黒毛に丸い大きな赤目のトム二号。腹が減ったのかしきりに指先へ纏わりつく。
執務机の引き出しからドライフルーツが入った袋を取り出し、中身を漁ってトム二号が大好きなりんごの欠片をやると、すぐさま指先から奪い貪り食った。小さな口元を小刻みに動かして食む様は得も言われぬ愛らしさがある。
トムといえば。この頃、沢山の友人を引き連れ楽しそうに過ごしているらしい。
情報源はいつもの『ホラス・ホグワーツ・ニュース』から。ホラスは「眉目秀麗、成績優秀、謙虚で親切。学年を超えた交友関係を持ち、教師の評判も上々。ホグワーツきっての素晴らしい生徒だ!少し早いが、我がクラブに招待しようと思う。だが今はホグワーツに慣れている最中。二年生に上がってからが良いか…どう思うアルバス?」など聞いてもいない話を、怒涛の如く脳みそに叩きつけて下さった。
丁度急いでいたのを邪魔されたイラつきも相まって、眉間に青筋が立つのを感じるも、極めて穏やかな表情と声を保つよう注意し「君が良いと思うことをするのが一番さ」と適当な言葉を掛けてやると、大喜びでスキップしながら去った。心の内で、去れ!エバネスコ!と無心で唱えたのがきっと効いたのだろう。
まあそんなのはどうでもいい、トムだよ。友達ができたのか。やっと子供らしい振る舞いをしたな!私が以前見かけた学友の集まりというか、教祖とその愉快な仲間達というか、飼い主と従順な犬達というか、そんな集まりから脱したのだね。安心した!これで何の憂いも無く眠れるよ。よかったなぁ。
「君も一号を見習え。一匹は寂しいだろう」
こちらの言い分を無視し、頭を掻かれてうっとりのトム二号。ネズミだから人間の言葉がわからない…と一概に言えない。こいつは特に賢い個体で、簡単な単語ならすでに理解してるやもしれん。残念ながらその賢さが故、群れに馴染めなかった。
ハツカネズミの世界も人間世界と同じ中々生きづらい世界の様子。はみ出し者同士仲良くしようじゃないか。いつか私達を受け入れてくれる優しい世界が来るさ。きっと。期待していないがね。
「クリスマスにはちと早いが、プレゼントをあげよう」
机の隅から白とエメラルドグリーンのシックな色合いの小さなセーターを摘まみ上げる。
魔法は一切使わず、毛糸に編み棒、己の手と執念で仕上げた一品。暇な時間を見つけては取り組んできた甲斐があった。
早速、小さな黒毛のハツカネズミに着せて…わあっ可愛らしい!
どこか眉間に皺を寄せた気がするトム二号は暫し固まった後、ウナギじみた動きで体をうねらせ、器用にセーターを脱ぎ捨て逃走。住処に籠城。私は哀情。
打ち捨てられたセーターを拾い、トム二号の住処近くに置いておく。せめて布団にしてくれ。
執務机にある小型の籠へ引きこもった彼はそっとしておき、今度はもっと大きなセーターを取り出す。これはトム一号用。色は二号と同じだが、銀の雪の結晶や金のスニッチ、小さな蛇の刺繍がアクセントのクリスマスセーター。隅にT・Rの刺繍付き。
見ろ!店で並んだとて見劣りしまい!均一で細かな編み目、温かく柔らかで頑丈。
素晴らしい…自分の才能が末恐ろしいよ…。教師を退職する時が来たら編み物をして過ごすのも一興か。錬金術を研究しながら編み物をして過ごす。錬金術を研究しながら編み物を…?あっそうだ。編み物にエンチャントを施そう。錬金術要素が入って完璧だ。ニコラスも喜ぶな。
奇怪な者を見る目で見つめる罰則メンバーに気付かず、自作セーターを前に心を震わせるダンブルドア。部屋の空気を一切気にすることなく動物の世話を続けるロングボトム。自身の腕を這うカタツムリに気付き無言で悲鳴を上げるブラック。
ホグワーツ城の片隅で起きる珍事を他所に、夜は更けていく。
聖誕祭当日、スリザリン寮の談話室に飾られたクリスマス・ツリーの下に、ダンブルドアお手製セーターを見つけたトム(一号)の衝撃は計り知れないものだった。
意図を測りかねたトムが一日中ダンブルドアを怪訝に見つめ続け、その視線に貫かれつつ、内心「趣味に合わなかったかな」としょんぼりするダンブルドアがいた。
・エルファイアス・ドージ
ダンブルドアのホグワーツ在学中からの友達。ダンブルドア行く所にドージ在りな腰巾着君。
卒業後、一緒に世界旅行を計画していたが叶わず。
・ケンタウルス
禁じられた森に住む下半身が馬、上半身が人間の生物。基本的に人とは関わらない。
群れで生活する。
・ユニコーン
禁じられた森に住む額に角が生えた馬。成体の毛色は白色、幼体は金色。
ユニコーンの血液を飲むと、死にかけた命でさえ蘇るが呪われる。魔法使いより魔女が好き。
・吸血鬼
血液を糧に生きる人型生物。姿形は人間そのもの。
蒼白い肌に赤い目、耳が少々尖っている独自設定有り。
・クィディッチ
箒に乗って遊ぶ魔法界のスポーツ。
・クィディッチ・ワールドカップ
クィディッチの世界大会。日本もいるよ。
・元素狩り
元素結晶を採取すること。
錬金術要素を導入したかったが基礎概念がチンプンカンプンなので、元素を物質化という強行作戦に出た結果生まれた謎の狩り。
土の元素は冷たく渇いた大地(森や林)、水の元素は冷たい水の中(川や海)、風の元素は熱い水の中(源泉)、火の元素は熱く乾いた大地(砂漠や火山地帯)から採れる。
・元素結晶
長い年月をかけて四元素が魔力により物質化、石内部で結晶として形成されたもの。
元素結晶は魔力が潤沢に満ちた地域で生成されやすい。独自設定。
・天文台の塔
天文学の教室がある高い塔。
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』でダンブルドアが「セブルス…頼む」した。
・天文学
惑星の名前や星座、星の動きを学ぶ科目。望遠鏡は各自持参。
・アコライト
ゲラート・グリンデルバルドの思想を狂信する信者、魔法使いのこと。
グリンデルバルトの軍隊(同盟とも言う)を構成するガンギマリ狂信者の皆さん。
・『ホラス・ホグワーツ・ニュース』
魔法薬学教授がホグワーツで最も注目を集める生徒を教えてくれる。対象は教師。
情報提供料は時間と忍耐。いるいらないに関わらず、情報を押し付けるのが難点。
・エバネスコ
対象を消す呪文。ゴミやいらない物を消したい時に使う。
※人に使う呪文ではない※