トム・リドルのヘビィなアイ   作:空飛ぶほうき君

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トムとダンブルドアの共通点な~んだ?

※2024/1/10追記※

誤字報告ありがとうございます。
謎のマ――リン障害発生中。お礼に蛙チョコ(ホワイト)をどうぞ!


第5章  後悔先に立たず。しかし、考えても仕方ないので気楽にいこう

「ナサリーは、お屋敷が寂しく感じるのです」

 

 野鳥がさえずる山間部は春爛漫の絶景。青々と生い茂る若葉が遥か遠くの群峰を彩り燃やし、鹿の親子が柔らかな新芽に舌鼓を打つ。

 そんな春を迎えた山のふもとにぽつんと建つ、手入れの行き届いた菜園付きの家。

 普段、ハウスキーパーに管理を任せきりの寂しい場所だが、久しぶりに家主が帰宅していた。

 

「学校には沢山の生徒様がいらっしゃいます。あの騒がしさを分けてもらえたら、ここはもっと素敵な場所になるでしょう?ダンブルドア先生」

 

 菜園の植物に水を撒く屋敷しもべ妖精の緑の目が向く。土いじりをしていた手を止め、答える。

 

「生徒を家に招待しろと?我が家が更地になってしまうし、私に子供の面倒は無理だ」

「先生は子供達に魔法をお教えしていますね。難しくありませんよ。ナサリーがお手伝いします!」

「学校で教えるのと家で面倒を見るのは訳が違う」

「ナサリーは子守りが得意です。ご安心ください」

 

 大きくため息をつき、手を叩いて汚れを落とす。ナサリーはパラパラ落ちる土を目で追ってから、再度巨大な目を向けにんまり笑う。

 

 数年前。主人を亡くした失意の中、ホグズミードで路上生活を送る屋敷しもべ妖精のナサリーと出会った。急に家を譲渡され、困り果てた私がバタービールを浴びるほど飲んだ帰り道、橋の下で泣く彼女と遭遇。話を聞き即座に雇用する。

 彼女の仕事は家の管理と菜園の維持、家周りの保護。給料はホグワーツの屋敷しもべ妖精に支払われる額より少し多め。妥当な値段を目指し交渉するも、ホグワーツの彼らよろしく金を受け取らず、結局この値段に落ち着いた。

 

「ホグワーツに勤めればいい。世話できる子供が山ほど見つかるさ」

「ナサリーはダンブルドア先生にお仕えしたいのです。子供のお世話もできたら幸せですけれど」

 

 厄介にも、世話焼きで子守が大好きな妖精らしく子供に関する話題で困らせる。面倒に思う反面、彼女がこんな風にねだるようになって感動している。

 雇った直後の彼女は決して自身の考えを口にせず、命令を待ち、怯えるだけだった。

 

「考えておく」

「以前もそうおっしゃっていました。ナサリーは待ちくたびれています」

 

 頬を膨らませ、腰に手を当てて遺憾の意を示す。思い悩む私をねめつけ早く色よい返事を寄越せと口をへの字に曲げている。どちらが雇い主なんだか。くそっ私の家は遊び場じゃないのだぞ!

 

 何故子供だ。ニコラスでは駄目か。エルファイアスは?駄目?そっか。

 

 さて。ハウスキーパーを満足させ、家の崩壊を防ぎ、私の平穏を守る術を考えよう。

 決して冒険家気取りの腕白破壊魔は入れさせん。我が家が崩壊する。強いて言えば、静かで学問に興味があり、探求心が強く、野心を燃やし、成績上位の品行方正な生徒…。トムかな?トムじゃん。ただし闇の魔法使い予備軍。悲しいなぁ。

 この際、夏季休暇限定で特別授業を開くか。期間は数日、いや短い。できれば夏季休暇丸々使った合宿に。人数は十人集まればいい。

 きっとトムも来る。

 

 ここ最近彼は苛立っている。苛立つというより焦り、恐れ?誰も気付いていないが私はお見通しさ。推測するに、夏季休暇が近づき、孤児院へ戻る時が迫りつつあるからだ。トムの孤児院への嫌悪は最初に会った時から明白で、他の孤児がトムへ向ける負の感情も酷い。敵に囲まれた二ヶ月は辛かろう。

 合宿が開かれると聞けば絶対飛びつく。

 

 よし。合宿だ。

 夏季休暇限定特別合宿を開こう。

 

 内容は変身術、魔法薬学、闇の魔術に対する防衛術などの学術研究。特別講師も呼ぶか。錬金術の実験や山間に自生する薬草の採取、魔法生物を観察するフィールドワーク。畑の世話と料理の学習、ちょっとした野営要素も少々。

 合宿場所は我が家の敷地内。宿泊所を適当に作っておこう。後は参加人数を絞り、条件を加えて…。

 

「ダンブルドア先生、何をお考えで?ナサリーめにお教えくださいな」

 

 ナサリーがいたのをすっかり失念していた。無意識に緩んだ頬を引き締め、至極真面目な顔つきで向き直る。

 

「朗報だ。子供達が来るかもしれんぞ」

「まぁ!素晴らしい!」

「合宿を開こうと思う。期間は二ヶ月、人数は十名程の予定」

「二ヶ月も!?ナサリーは幸せです…」

「対応できそうか?おい?ナサリー?」

「ナサリーは幸せです…」

 

 夢見る眼で祈るように手を組み合わせ、全身で幸福を発する屋敷しもべ妖精。

「毎日生徒をホグワーツから連れて来い」など言わず本当に良かった。二ヶ月の合宿でナサリーも暫く満足だな。満足しろ。

 突発的に合宿を発案したが、自分で自分を追い詰めた気がする。二ヶ月はあまりに長すぎじゃないか。せめて二日でいいのでは?だが、短いと学習期間が──―。

 

 自分の世界へ旅立ったナサリーを置き、手を水で洗い清潔なタオルで拭く。合宿をするしないにかかわらず校長へ相談せねば。許可を出すかは知らぬ。

 

 菜園の中央に位置するガゼボへ歩みを進める。懐へ入れていた手紙の束をテーブルに投げ捨て、勢いよく椅子へ着席。とにかく、これをどうにかしないと始まらない。既に破られた封を開き、大きなMの紋章が押された手紙を広げた。

 魔法省 魔法法執行部。ご丁寧に魔法大臣の手紙付き。

 

「またか。協力こそすれ、傘下に入らないと…」

 

 ぶつぶつ文句を呟くのは仕方ない。通算十一度繰り返された内容に辟易して眉間を揉む。

 嵐の前の静けさを醸し出す現在の情勢は、魔法大臣にとって不安の種。戦力増強が狙いか、もしくは枷か。申し訳ないが魔法省の闘犬になる気はさらさらない。さらば。

 ポイと手紙を投げ、未開封の手紙へ手を伸ばす。魔法大臣の署名。溢れ出す災厄の気配がプンプン漂う。一介の教師へ魔法大臣が手紙を出すな。鉛のように重い手を懸命に動かし、手紙の内容を確認。思った通りろくでもない内容に頭を抱える。

 

 すぐさま見知った署名の封を破り捨て内容も確認せず手紙に杖を向けた。杖先から迸る銀の光が手紙の紋章へ接触、紋章が光の渦を巻く。少しずつ光が収束し姿を現す繊細な装飾の銀製手鏡。

 手鏡をひったくり腹の底から叫ぶ。

 

「ニコラス────ッ!!!」

 

 鏡面が揺らぎ暫く待つと、肩で息を切らす偉大な錬金術師、ニコラス・フラメルが姿を映す。

 

「アルバス!大声で叫ぶな!聞こえておる。二階の寝室まで君の声が届いたぞ。頼むから六百歳越えの心臓を怖がらせんでくれ」

「終わりだ。世界は終わりだ、ニコラス」

「その言葉は第一次世界大戦の時も聞いた」

「戦争が始まる。知っているか」

「無論。フランス魔法省、ノン・マジークの知り合いも多いゆえ」

 

 思慮深く目を細めた錬金術師へ、顔を覆い、抑えきれない呟きを零す。

 

「何か、何かグリンデルバルドを止める良い手があるはず」

「残念だが現在私達にできることはない。臥して待つのみ」

「私のせいだ」

「グリンデルバルドは自らの意思で血濡れの道を切り開いたのだ。自分を責めるな、アルバス」

 

 ニコラスの言葉が空気を切り裂き心に突き刺さる。

 

「戦うと心に決めたのに。情けない。ずっとだ」

「一体全体どうした。言ってみなさい」

 

 何年経ってもめそめそ喚く自分に憎悪が沸く。暖かく濡れた頬を荒っぽく拭い、手鏡の持ち手を強く握りすぎて白くなった指を凝視する。

 

「怖い。怖くて仕方ない。彼と会うのが怖い。今度こそ命の取り合いになることも。アリアナの死の真実も」

 

 うじうじみっともない。

 だからゲラートを救えず、アリアナは死に、アバーフォースは憎み、世界は滅茶苦茶。

 お前が怪物で、妹を軽んじ、悪魔の囁きに耳を傾けたせいでな。

 

 

『より大きな善のために』

 

 

 お前の思い描いた世界は美しいか?アルバス・ダンブルドア。

 

 

「戦いの影響は人間界だけでなく、魔法界へも壊滅的な被害を与える。止めなければ。確かドイツに」

「急いては事を仕損じる。今の君がグリンデルバルトと向き合うのは無理だ。誰も彼も救うなどできん。今は引け」

「沢山の人が死ぬ」

「休めアルバス。ショコラ・ショーを飲んで寝ろ」

 

 再度鏡面が揺らぎニコラスが姿を消す。握りしめた手鏡が千の光の破片に砕け散った。椅子に倒れた衝撃で頭が上を向き、ガラスの屋根を通して空を呆然と見る。

 

「ダンブルドア先生」

 

 全てが億劫で脳が働かない。呼ばれているぞ。答えろ。ほら。

 後悔ばかりの無能。

 

「お飲み物ですよ。ニコラス様が仰っていたショコラ・ショー、ホット・チョコレートです」

 

 鼻先に突き付けられたチョコレートの芳香が鼻孔をくすぐる。カカオの芳しい香りに混ざるブランデーとシナモン、浮かぶマシュマロ。

 ぼんやりカップを手に取り、口に傾け飲み込む。ホット・チョコレートがじんわり体の芯を温め、震えるほど体が冷え切っているのに気付く。

 

「盗み聞きはよくないな」

「盗み聞きではございません!聞こえてしまったのです」

 

 嘘つけ地獄耳。生垣に隠れて耳をそばだてたのは確実だ。叫んだ私が悪いのは重々承知、その上で納得いかん。けれど彼女のお陰で頭のモヤが晴れた。

 

「飲み物をありがとう。落ち着いた」

「それはよかった」

 

 春うららの天気に目を細め、植木鉢に咲き誇る白薔薇を目の端に入れる。居心地の悪い空気が沈黙を満たす。

 視線を地面に向けて落ち着かずに手を弄るナサリーが口を開いた。

 

「ナサリーはダンブルドア先生の痛みを取り除けない、役立たずな屋敷しもべ妖精です。ですが、もしかしたら、痛みを和らげる方法を知っているかも」

 

 緊張に巨大な耳を揺らし、恐れず目を合わせる。

 

「痛みはなくなりません。ずっとそこに在るままです。でも、小さくできます。楽しいこと、幸せなことが小さくします。痛みに囚われてはいけません。時にはつらいことを忘れる必要があるのです」

「君の実体験かね?」

 

 止める間もなく酷い言葉がポロリとまろびでる。ナサリーは悲しい笑顔で「ええ。先生に幸せを沢山分けていただいたので、ナサリーの痛みは小さくなりました」と言った。

 

 心底心配させ、おまけに言葉で傷つけた自分を変わらず思いやる心に身が焼かれる。

 やめてくれ。私は君が心を砕く価値無い者だ。

 

「もうっ!しけた顔はおやめください!こっちまで暗くなります!こっちに来て!」

「ちょちょっおい」

 

 ぐいぐい腕を引っ張り椅子から無理やり立たせ、そのまま先程途中で放り出した畑の一角へ連れてこられた。未だ手にしたままのカップを魔法で消し、手の平に苗を突っ込まれる。

 

「土いじりです。こういう時こそ土いじりです!土と過ごすのです」

「気が乗らない」

「穴に苗を!土で塞ぐ!はい、早く!」

 

 急かされ柔らかい土に手を伸ばす。穴に苗を入れて土を寄せ、別の穴に次の苗を入れ、時間が過ぎ去る。ささくれ立った精神が沈静化していく。

 全く、深く考え過ぎなのかもしれない。どうしようもないことだってある。私は万能でも無敵でもない。全てを救うのはマーリンだって無理だ。

 

 土塗れの手を止め、再び空を仰ぎ見る。青を染める薄曇りの灰色。鳥の群れが灰の中を飛んで往く。見下ろせば、そよそよ風に揺れる小さな緑の葉。隣の屋敷しもべ妖精がジョウロで苗に水をやっている。

 

 自然と肩の力が抜けた。

 意図せず力んでいたせいで体中が痛い。強張った体をねじり、腕を回し、屈伸してほぐす。汚れた手で膝を握ったばかりにズボンが汚れ、くっきり残る手の跡。

 

 無理なものは無理。気楽に構えよう。適当だっていいのさ。

 

 久しぶりに清々しい気持ちがする。こんな風に感じるのはいつぶりだか。体が雲みたいに軽く感じて、つい笑みがこぼれてしまう。

 

「少しはお気持ちが晴れましたか?」

「晴れるどころか吹っ切れたかもしれん。ありがとう、ナサリー」

 

 馬鹿みたいに笑うダンブルドアへ、大きな笑顔を返し嬉しげに体を揺らすナサリー。陰鬱な雰囲気が吹き飛び、灰色の雲間から差し込む太陽の光。

 

「そうだ!生徒様が泊まれる場所を用意しないと。井戸近くの古い納屋を改築するのはどうでしょう。ああっ食料の買い込みも」

「校長が許可を出すかわからん。まだ決まった訳じゃ…ナサリー!?早まるな!」

 

 意気揚々と納屋に突進した屋敷しもべ妖精と、彼女を止めるべく走り出す変身術教授。

 暖かな日差しが菜園を照らし出す。キラキラ輝く水滴が滑り落ち、葉が揺れた。

 




・アバーフォース
ダンブルドアの弟。山羊好き。
兄の顔面をタコ殴りにするくらい兄が嫌い。

・ナサリー
ダンブルドアが所有する家を管理、維持する屋敷しもべ妖精。生やしたモブ。これからも出る。
以前の主人を亡くし、路上生活を送っていたところを拾われた。

・屋敷しもべ妖精(ハウス・エルフ)
お金持ちや特定の魔法使い・魔女に仕える。大きな目と耳を持ち、甲高い声に細い体でみすぼらしい恰好。
忠誠心が高く、仕えるのが生きがい。杖無しで独自の魔法を使う。衣服を与えられることは解雇を意味する。
エルフ…?たまげたなぁ…。

・魔法省
魔法使いの政府。法律や外交他、マグル(非魔法族)から魔法を隠し、魔法使いの社会を守る機関。イギリスやフランスなど多くの国に設置されている。アメリカは魔法省でなく、アメリカ合衆国魔法議会(MACUSA)。
残念ながら、官僚の腐敗が横行している。

・魔法法執行部
イギリス魔法省最大の部。神秘部以外の全ての部を支配する。

・魔法大臣
イギリス魔法省の大臣。首相のようなもの。
現魔法大臣はヘクター・フォーリー。

・ノン・マジーク
マグルのフランス版。非魔法族。
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